
今回紹介する文献
妊娠中のヨガ(マタニティ・ヨガ)の有効性に関する文献的考察(システマティック・レビュー)
(川西 康之ら, 日本公衛誌. 2015 5月 62巻;5号:221-230. )
(川西 康之ら, 日本公衛誌. 2015 5月 62巻;5号:221-230. )
妊婦のヨガは,日本でマタニティ・ヨガ(あるいはマタニティ・ヨーガ)と呼ばれています。国内の観察研究によって,マタニティ・ヨガを実践することで,リラックス効果や自己効力感を変化させることが知られています。また,国外では対照群を置いたランダム化比較試験(RCT)も行われており,マタニティ・ヨガの様々な有効性が確かめられています。このレビューは,マタニティ・ヨガを介入群としたRCTを集め,マタニティ・ヨガの効果を明らかにすることを目的に行われました。
PubMedで関連論文を検索
文献はPubMedを用いて検索されました。採択基準は,研究デザインがRCT,対象者が妊娠中の女性,介入内容がヨガの実践であるものとされました。
調査対象によって結果はまちまち
54編中10編の論文が採択されました(同一研究で3編を著している報告があり,全8研究)。採択文献の内,健常妊婦を対象としたものが4研究,うつ状態の妊婦を対象としたものが2研究,ハイリスク妊婦を対象としたものが1研究,腰痛の妊婦を対象としたものが1研究でした。以下に各対象のマタニティ・ヨガの効果をまとめます。
健常の妊婦を対象とした4研究
- 分娩時の疼痛,分娩時の快適さ,分娩第一期および分娩合計時間が対照群に比べ介入群で有意に改善
- 妊娠中のストレスが対照群に比べ介入群で有意に改善
- 不安,抑うつ,妊娠関連ストレス(便秘や胸やけ,パートナーとの性交に対する姿勢,婚姻関係,母親になることへの姿勢など)が対照群に比べ介入群で有意に改善
- QOL(生活の質)と対人関係尺度の一部が対照群に比べ介入群で有意に改善
うつ状態の妊婦を対象とした2研究
- 抑うつ,不安,怒り,背部痛,足の痛みが対照群に比べ介入群で有意に改善
- 抑うつ,不安,怒り,背部痛,足の痛みが有意に介入前に比べ改善したが,対照群も同様に改善した。両群の差は検討されていない。
ハイリスク妊婦を対象とした1研究
- 妊娠高血圧症候群,子癇前症,妊娠糖尿病,子宮内胎児発育遅延,Small for Gestational Age,Low Apgar スコアを認める割合が対照群に比べ介入群で有意に少なく,主観的なストレスも減少した
腰痛の妊婦を対象とした1研究
- 腰部,骨盤の自覚的な痛みの程度が対照群に比べ介入群で有意に減少した
マタニティ・ヨガは腰痛を軽減する
このレビューは,マタニティ・ヨガが少なくとも妊婦の腰痛を軽減する可能性を示しました。著者らは他にも精神症状(ストレス,不安,抑うつなど),分娩時疼痛,周産期的予後も改善する可能性があるが,さらなる検証が必要だと述べています。
コメント
ラマーズ法のように,呼吸によって妊娠中の痛みが軽減することが知られています。今回のレビューで集められた8研究中6研究では,介入にヨガの呼吸法や瞑想を取り入れているようです。ヨガは姿勢調節と呼吸法とを複合したアプローチであるため,何が腰痛に効果を示しているのかはこのレビューからは推測できません。今後,もう少しRCTが増えてきた時にアプローチに絞ってレビューしてみるのも面白いかもしれません。
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