症例対照研究(ケースコントロール研究)


 症例対照研究 case control study とは臨床研究方法の一つです。英語読みでケースコントロール研究と呼ばれることもあります。既に起こったことを事後的に過去に遡って調査するため,後向き研究 retrospective study とも呼ばれます。どの分類においても総じてエビデンスレベルは低く位置づけられており,これによってすなわち患者さんへ適用できるというわけではありません。以下にその特徴として方法,用いる統計指標,利点と問題点についてまとめました。

方法

 最初に,すでに疾病にかかった人を症例 case として選び出します。次に,この症例と性別や年齢などの要因が似た人を対照 control として選びます (対照の特性を症例とそろえることをマッチング matching といいます。個人マッチング individual matching と頻度マッチング frequency matching とがあります)。対照は,症例と同じ地域に住む健康な住民から選ばれる場合 (住民対照) と,症例と同じ病院に入院している患者から選ばれる場合(病院対照)があります。症例と対照の双方に対して,疾病の原因と考えられる要因(例えば食生活や運動量など)を過去にさかのぼって調査して,両者で比較します。

指標

 症例対照研究(ケースコントロール研究)では,仮説要因と疾病の関連性をあらわす指標として,オッズ比 odds ratio が使われます。オッズ比は,無作為割付臨床試験やコホート研究で使われる相対危険度の近似値に相当します。例えば,喫煙者の非喫煙者に対する肺がん罹患のオッズ比が4であれば,喫煙者は非喫煙者と比べて4倍肺がんに罹りやすいことを意味します(オッズ比についての説明は「オッズ比」を参照下さい)。

利点と問題点

利点

 症例対照研究(ケースコントロール研究)は,すでに疾病に罹患した者を対象にするため,ランダム化比較試験やコホート研究よりも,手間や労力が少なくてすみます。

問題点 (欠点)

 仮説要因を過去にさかのぼって調査するため,例えば肺がん患者が過去の喫煙量を実際以上に過大に思い出して申告するなどして,仮説要因と疾病との関連を過大評価したり,反対に過小評価したりする危険性があります(思い出しバイアス)。また,住民対照を選択する際に,一般住民の中でも特に調査に協力的で生活習慣も健康的な者を偏って選んだり,病院対照を選択する際に一般の住民より生活習慣の不健康な者を選んだりして,仮説要因と疾病との関連を正しく評価できない危険性があります(選択バイアス)。そのため,これらのバイアスを十分に考慮して結果を解釈する必要があります。

まとめ

 症例対照研究(ケースコントロール研究)は様々なバイアスが入りやすく,結果の解釈が難しいため,どうしてもエビデンスレベルが低くなります。しかし,バイアスに気を配り,丁寧に調査されたものは,疾病にかかった因子 (原因) をある程度しぼることができて,ランダム化比較試験などエビデンスレベルの高い次の調査につながります。

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