伸張反射:伸ばされた筋が縮むしくみ

伸張反射:伸ばされた筋が縮むしくみ

膝のすぐ下をハンマーで軽くたたくと、脚がぴょんと跳ね上がります。この現象が医学の論文に初めて登場したのは、1875年1月のことでした。ドイツの神経学者エルプとヴェストファールが、同じ医学雑誌の同じ号に、それぞれこの現象を報告したのです。ところが、二人の見立ては分かれました。エルプは神経を介して起こる反射だと考え、ヴェストファールは筋そのものに起こる局所の現象だと考えました。のちに正しいとわかったのは、エルプの見立てです。たたいてから脚が跳ね上がるまでの一瞬に、体の中で何が起こっているのか。筋の中のセンサーから順にたどっていきます。

伸張反射の要点

  • 何が起こるか:筋が急に引き伸ばされると、その筋自身が反射的に収縮する
  • 経路:筋紡錘 → Ia群線維 → 脊髄でα運動ニューロンに直接つながる(単シナプス)→ 同じ筋が収縮する
  • 拮抗筋:同時に、抑制性介在ニューロンを介して拮抗筋の活動が抑えられる(相反抑制)
  • 代表例:膝蓋腱反射、アキレス腱反射などの腱反射
  • 臨床:脳や脊髄の障害(上位運動ニューロン障害)では亢進し、脊髄の前角細胞や神経根、末梢神経の障害(下位運動ニューロン障害)では減弱・消失する

引き金は「筋が伸びたこと」:筋紡錘というセンサー

ハンマーがたたいているのは膝の下の腱ですが、反射の引き金は腱そのものではありません。たたかれた腱が一瞬引っぱられると、腱につながる大腿四頭筋がわずかに引き伸ばされます。この「筋が伸びた」という変化をとらえるのが、筋の中にある筋紡錘という受容器です。

筋紡錘は、結合組織の被膜に包まれた紡錘形の小さな器官で、中に錘内筋線維と呼ばれる細い筋線維が数本入っています。力を出す普通の筋線維(錘外筋線維)と並んで配置されているため、筋全体が伸びれば筋紡錘も伸び、筋が縮めば筋紡錘もゆるみます。錘内筋線維には、中央部に核が集まってふくらんだ核袋線維と、核が一列に並ぶ核鎖線維の2種類があります。どちらも中央部は収縮する仕組みをほとんど持たず、縮むことができるのは両端だけです。

錘外筋線維と並ぶ被膜の中に核袋線維と核鎖線維があり、中央部にIa群線維の一次終末がらせん状に巻きつき、そのわきにII群線維の二次終末がつき、両端にγ運動ニューロンが分布する筋紡錘の構造を示した図

図1 筋紡錘のつくり(模式図)。力を出す筋線維(錘外筋線維)と並んでいて、中央部に感覚神経の終末が巻きついている

この中央部に、感覚神経の終末が巻きついています。筋が引き伸ばされると中央部も引き伸ばされ、終末が変形してイオンチャネルが開き、感覚神経が発火します。すべての錘内筋線維の中央部にらせん状に巻きつくIa群線維の終末(一次終末)は、伸びの大きさと伸びる速さの両方に反応し、とくに急な伸びによく反応します。そのわきにつくII群線維の終末(二次終末)は、主に伸びの大きさ、つまり筋の長さを伝えます。膝をたたいたときのような一瞬の伸びをとらえて反射を起こすのは、主にIa群線維です。

筋紡錘は、両生類から哺乳類まで、四肢をもつ脊椎動物の多くの骨格筋にあります。ヒトの筋で数を比べると、筋の大きさの影響を除いても、頭の位置にかかわる首の筋を含む体幹の筋に特に多く、肩甲帯の筋では少ないことが報告されています。

信号は脊髄で折り返す:単シナプスの近道

筋紡錘からのIa群線維は太い有髄線維で、伝導速度は毎秒70〜120mと、神経線維のなかでも速い部類に入ります。脊髄に入ったIa群線維は、伸ばされた筋そのものを動かすα運動ニューロンに直接つながっています。間にシナプスが1つしかない単シナプス反射なので、情報の受け渡しにかかる時間が短く、伸ばされた大腿四頭筋はすぐに縮んで脚が跳ね上がります。ヴェストファールの目には筋だけで起こっているように見えた反応も、実際には信号が脊髄まで往復して起こっていたのです。

膝の下をたたくと大腿四頭筋の筋紡錘が伸びを感じ、Ia群線維で脊髄に伝わり、α運動ニューロンを介して大腿四頭筋が縮む一方、抑制性介在ニューロンを介してハムストリングスの活動が抑えられる経路を示した図

図2 膝蓋腱反射で見る伸張反射の経路。たたくと大腿四頭筋が一瞬伸び、筋紡錘がその伸びをIa群線維で脊髄へ伝える。Ia群線維はα運動ニューロンに直接つながって大腿四頭筋を縮め、同時に抑制性介在ニューロンを介してハムストリングスをゆるめる(相反抑制)

縮む筋の反対側では、筋がゆるむ:相反抑制

Ia群線維は、脊髄の中で抑制性介在ニューロンにも枝を出しています。この介在ニューロンは、反対の動きをする筋(拮抗筋)のα運動ニューロンの活動を抑えます。膝蓋腱反射でいえば、膝を伸ばす大腿四頭筋が縮むと同時に、膝を曲げるハムストリングスの活動が抑えられます。拮抗筋が同時に縮んで動きを妨げないようにする仕組みで、相反抑制と呼ばれます。

筋には、筋紡錘とは別に、腱の張力を感じるゴルジ腱器官というセンサーもあります。こちらは同じ筋の活動を抑える方向に働き、しかも歩いているときにはその働きが逆向きになるという、意外な性質を持っています。詳しくは「ゴルジ腱器官とIb抑制」で紹介しています。

縮んでいる最中も感度を保つ:γ運動ニューロン

ここで一つ問題が生じます。筋が自分の力で縮むと、並んでいる筋紡錘もゆるみ、錘内筋線維の中央部がたるんで、Ia群線維の発火が止まってしまいます。これでは、筋が縮んでいる最中に長さの変化を感じ取れません。

この問題を解決しているのが、γ運動ニューロンです。γ運動ニューロンは錘内筋線維の両端を縮ませ、中央部をふたたび引き伸ばして発火を保ちます。随意運動ではα運動ニューロンとγ運動ニューロンが同時に働くので(α-γ連関)、筋が縮んでいる最中も筋紡錘は感度を失いません。感覚の受容器のなかで、このように自分の感度を自分で調節できるのは筋紡錘だけです。

筋が引き伸ばされるとIa群線維の発火が増え、α運動ニューロンだけで筋が縮むと筋紡錘の中央部がゆるんで発火が止まり、αとγが同時に働くと両端が縮んで中央部が張り、発火が続くことを示した図

図3 筋が伸びたとき・縮んだときの筋紡錘(模式図)。γ運動ニューロンが両端を縮めると、筋が縮んでいる最中も伸びを感じ取れる(右の縦線1本が活動電位1回)

この専用の調節役は、どの動物にもあるわけではありません。両生類や爬虫類の筋紡錘では、錘外筋線維を動かす運動神経の枝が、錘内筋線維も一緒に縮めています。筋紡錘の感度を専用の運動神経で調節しているのは、哺乳類と鳥類だけです。2つのグループはそれぞれ別の道筋でこのしくみを手に入れたと考えられ、どちらも体温を一定に保つ恒温動物であることが関係したのではないかと論じられています。

γ運動ニューロンには、伸びる速さへの感度を高めるもの(動的γ運動ニューロン)と、長さへの感度を高めるもの(静的γ運動ニューロン)があります。この仕組みは「運動神経細胞とα-γ連関」で詳しく解説しています。

コーヒーを注がれても、カップが下がらないのはなぜか

伸張反射は、検査で膝をたたくときのためだけにあるわけではありません。

たとえば、手に持ったカップにコーヒーを注いでもらう場面を考えてみます。カップが重くなると肘がわずかに伸ばされ、肘を曲げる上腕二頭筋が引き伸ばされます。すると筋紡錘がこの伸びをとらえ、伸張反射によって上腕二頭筋の収縮が強まり、カップの高さを保つのを助けます。意識して力を入れ直すより早く、筋の長さを保つ方向に働くのが伸張反射の特徴です。

立っているときも、体はわずかに前後に揺れています。体が前に傾くと、ふくらはぎの下腿三頭筋が引き伸ばされ、伸張反射が筋の収縮を強めます。ただし、姿勢の保持には伸張反射のほかに、目や耳の奥(前庭)からの情報や、脳を経由するより遅い反応も関わっています。伸張反射だけで姿勢を保っているわけではありません。

医師がいまも膝をたたく理由

実は、膝をたたくと脚が跳ねることは、エルプとヴェストファールの報告以前から一般の人にも知られていたようです。エルプ自身、新しい現象に注目を促すつもりはないと書いています。彼が気づいたのは、この現象が病気の診断に役立つことでした。1885年までには、膝をたたく検査はヨーロッパでも、大西洋を越えたアメリカでも行われるようになり、神経の診察に欠かせない手技になっていきます。筋を引き伸ばすと同じ筋が反射的に収縮するしくみを、イギリスのシェリントンらが伸張反射(myotatic reflex)として報告したのは、1924年のことです。

腱をたたく検査は、筋を一瞬だけ引き伸ばして伸張反射を起こさせる方法です。反射が起こるかどうかで、反射の経路と、それを上から調整する脳や脊髄の状態を推し量ることができます。主な腱反射と、反射に関わる主な髄節は次のとおりです。

腱反射主な髄節
上腕二頭筋反射C5・C6
腕橈骨筋反射C6
上腕三頭筋反射C7
膝蓋腱反射L4
アキレス腱反射S1

脳卒中や脊髄損傷のように、脳や脊髄の上位の経路(上位運動ニューロン)が障害されると、脊髄の反射回路を抑える働きが弱まり、腱反射は亢進します。反対に、脊髄の前角細胞や神経根、末梢神経(下位運動ニューロン)が障害されると、反射の経路そのものが途切れるため、腱反射は減弱または消失します。運動の指令を伝える経路は「運動の下行性伝導路」で解説しています。

反射が出にくいときは、イェンドラシック手技という増強法を使います。下肢の腱をたたくときは、患者さんに両手を組んで左右に強く引っ張ってもらいます。上肢の腱をたたくときは、両脚を閉じて左右に押し合ってもらいます。

速く伸ばすほど強くなる:痙縮とストレッチ

筋紡錘のIa群線維は、伸びの大きさだけでなく、伸びる速さにも反応します。そのため、筋を速く伸ばすほど伸張反射は強く起こります。上位運動ニューロンの障害で伸張反射が過剰に起こりやすくなった状態が痙縮で、筋を速く伸ばすほど抵抗が強くなる(速度依存性)のが特徴です。

たとえば、脳卒中のあと、肘を曲げる筋に痙縮が残った患者さんの肘を伸ばすとします。すばやく伸ばすと途中で強い抵抗を感じて止まりますが、同じ患者さんでもゆっくり伸ばすと抵抗は小さく、より大きく伸ばせます。痙縮のある筋をストレッチするときに、反動をつけず、ゆっくり一定の力で伸ばすのはこのためです。

痙縮の程度の評価には「Modified Ashworth Scale」が使われます。痙縮の治療の一つは「脳卒中患者に対するボツリヌス治療とリハビリテーション」で紹介しています。

まとめ

1875年にエルプが反射と見立てた膝の跳ね上がりは、筋紡錘が筋の伸びをとらえ、Ia群線維からα運動ニューロンへ直接伝えることで起こる伸張反射でした。同時に拮抗筋はゆるみ、γ運動ニューロンが筋紡錘の感度を保っています。この反射は、カップの高さを保つような日常の動作を支え、腱をたたく検査では神経の状態を映し出し、痙縮のある筋では伸ばす速さに応じて強く現れます。痛みの刺激で起こる反射は「屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割」で紹介しています。

さらに学びたい人へ:おすすめの本と道具

  • 『生理学 第3版(カラーイラストで学ぶ 集中講義)』(メジカルビュー社):イラストを多く使い、生理学の要点を学生向けに平易にまとめた教科書です。まず全体像をつかみたい人に向いています。
  • 『標準生理学 第10版』(医学書院):40年にわたって版を重ねてきた、日本語で書かれた生理学の教科書です。記述が詳しく、反射の仕組みを根本から調べたいときに頼れます。
  • 『カンデル神経科学 第2版』(メディカル・サイエンス・インターナショナル):神経科学の世界的な教科書の邦訳(原著第6版)です。脊髄の反射回路から運動の制御まで、神経科学を詳しく学べます。
  • 松吉医科器械 打腱器(バビンスキー型)伸縮型 CK-507:柄の長さを170〜380mmに伸び縮みできるバビンスキー型の打腱器です。縮めると持ち運びやすく、ヘッドは外さずに縦・横の向きを変えられます(一般医療機器、本体は真鍮、180g)。

参考文献

  1. Louis ED. Erb and Westphal: simultaneous discovery of the deep tendon reflexes. Semin Neurol. 2002;22(4):385-390. doi:10.1055/s-2002-36760
  2. Bhattacharyya KB. Deep tendon reflex: the background story of a simple technique. Neurol India. 2017;65(2):245-249. doi:10.4103/neuroindia.NI_1177_16
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  4. Banks RW. An allometric analysis of the number of muscle spindles in mammalian skeletal muscles. J Anat. 2006;208(6):753-768. doi:10.1111/j.1469-7580.2006.00558.x
  5. Liddell EGT, Sherrington C. Reflexes in response to stretch (myotatic reflexes). Proc R Soc Lond B. 1924;96:212-242.
  6. Lance JW. Symposium synopsis. In: Feldman RG, Young RR, Koella WP, eds. Spasticity: Disordered Motor Control. Chicago: Year Book Medical Publishers; 1980:485-494.
  7. Newman G. 反射の評価. MSDマニュアル プロフェッショナル版(2023年8月改訂).

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