てこの原理:その種類と人体への具体的な作用例


日常生活における多くの動作は、単純ながらも効率的なてこの原理に基づいています。この原理は、力の作用と方向を最適化し、労力を軽減することにより、様々な作業を容易にします。特に、人体はこの原理の生きた例と言えます。骨と骨を結ぶ関節を支点とし、筋肉の付着部を力点、身体の各部位の重心を荷重点と見なすと、骨格はまさにてこの役割を果たし、筋肉の動きを効率化しています。この生物力学的な観点から、人体の動きを分析することは、運動効率の向上やリハビリテーションの分野での理解を深めるために不可欠です。てこには3つの種類があり、それぞれの概要と、人体での作用例を下にまとめました。

第1のてこ


第1のてこの特徴は、支点が力点と荷重点の間に位置することにあります。この配置により、「安定性」が高まります。たとえば、はさみやシーソーはこの原理を活用しており、均等な力の配分によって安定した操作が可能になります。人体においても、この原理は重要です。例えば、頸部の前後屈運動や片足立位時の骨盤の動きは、第1のてこの原理に基づいています。これらの動作では、筋肉の付着部(力点)、関節(支点)、および重心(荷重点)が組み合わさることで、体のバランスを保ちながら効率的に力を発揮しています。

人体での作用例

(1) 頸部前後屈

[支点]  環椎後頭関節    
[力点]  後頭骨の筋付着部
[荷重点] 頭部の重心から延長した部分

(2) 片足立位時の骨盤に対する中殿筋の作用

[支点]  股関節
[力点]  大腿骨の大転子の筋付着部 
[荷重点] 骨盤(片足を挙上した側)

(3) Push upにおける肘伸展運動の上腕三頭筋の作用

[支点]  肘関節
[力点]  肘頭の筋付着部
[荷重点] 前腕

(4) 上腕三頭筋の肘伸展

[支点]  肘関節   
[力点]  肘頭の筋付着部
[荷重点] 前腕

第2のてこ


第2のてこの特徴は、支点と力点の間に荷重点が位置することであり、この配置は「力の有利性」をもたらします。例えば、一輪車の手押し車や大きな岩を動かす際の棒のような道具では、この原理が効率的な力の応用を可能にします。しかし、人体におけるこの種のてこの例は比較的少ないです。代表的な例としては、下顎骨の開口運動やつま先立ち時の足の状態などが挙げられます。これらの動作では、力点と支点の間に荷重点が来ることで、より少ない力で大きな動作を行うことが可能になります。

人体での作用例

(1) 下顎骨の開口運動

[支点]  顎関節
[力点]  下顎骨下面舌骨付着部
[荷重点] 咀嚼筋付着部

(2) つま先立ち時の足の状態

[支点]  中足指節関節部
[力点]  アキレス腱付着部
[荷重点] 足関節前方の身体重心線の通過点

(3) 腕橈骨筋の肘屈曲

[支点]  肘関節
[力点]  橈骨茎状突起の筋付着部
[荷重点] 前腕の重心線

第3のてこ


第3のてこの特徴は、力点が支点と荷重点の間に位置することにあります。この配置は「運動の速さ」に有利な効果を生み出す一方で、「力の大きさ」に関しては不利となります (詳しくは「てこの力学的有意性」を参照して下さい)。。この原理は、人体の様々な動作において観察されます。例えば、上腕二頭筋の肘屈曲や三角筋による肩の外転運動などがこれに該当します。これらの動作では、筋肉の短い収縮で大きな運動範囲を実現することができますが、それは同時に大きな力を発揮することが困難となることを意味します。力点が支点と荷重点の間にあるてこです。

人体での作用例

(1) 上腕二頭筋の肘屈曲

[支点]  肘関節
[力点]  上腕二頭筋付着部
[荷重点] 前腕の重心線

(2) 基本的立位姿勢で上肢全体を前方挙上するときの三角筋の作用

[支点]  肩関節(肩甲上腕関節) 
[力点]  上腕中央外側(三角筋粗面)の付着部
[荷重点] 上肢の重心線

(3) 三角筋による肩外転

[支点]  肩関節(肩甲上腕関節)
[力点]  上腕中央外側(三角筋粗面)の付着部
[荷重点] 上肢の重心線

(4) 側臥位での中殿筋外転

[支点]  股関節
[力点]  大腿骨の大転子の筋付着部
[荷重点] 下肢の重心線

(5) 大腿四頭筋による膝伸展

[支点]  膝関節
[力点]  脛骨粗面の筋付着部
[荷重点] 下腿の重心線

まとめ

てこの原理には、その構造によって異なる3つの主要な形式があり、それぞれに特有の利点と限界が存在します。これらの原理は、人体の動きにおいても効果的に活用されており、骨と筋肉の相互作用における力の最適化に寄与しています。ただし、選択されるてこのタイプによって、運動の効率性や力の発揮における有利さと不利さが異なります。これらの理解を深めることは、運動の効率化やリハビリテーションの戦略において重要な意味を持ちます。

てこが人体でどのように作用しているかを考えることで,効果的なリハビリテーション介入に活用できると思います。てこの力学的有利性については「てこの力学的有利性」を参考にして下さい。

それでは皆さまの学習の充実を願って。
Charcot(@StudyCH)でした。All the best。

参考図書

基礎運動学
オーチスのキネシオロジー
プロメテウス解剖学アトラス

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