批判的吟味に用いるチェックリスト


 EBMを実践する上で,文献データベースから必要な文献をみつけたら,その文献の内容について批判的吟味を行う必要があります。文献の探し方については「医療従事者が臨床でエビデンス (文献) を探す方法」を参照ください。ただ,批判的に吟味しろと言われても,研究には様々なデザイン,分野,対象があって,一個人が文献を評価することは簡単ではありません。

研究の質を確かめるチェックリストがあります

 専門家による批判的吟味が済んでいる2次文献データベースを使用するということも一つの解決策ですが,集めた文献を批判的に評価する,あるいは研究者自身が研究の質を上げるために,研究の質を確かめるチェックリストが開発されています (下BOX参照) 。

  1. システマテック・レビュー(介入研究)
    ・QUOROM声明

  2. ランダム化比較試験(RCT)
    ・改訂版CONSORT声明
    ・Cluster randomized trials
    ・Noninferiority and equivalence randomized trials
    ・Harms in randomized trials
    ・CLEAR NPT
    ・PEDroスケール
    ・PEDroスケール改変板
    ・コクラン・レビューとPEDroスケールの改変板
    ・STRICTA

  3. 非ランダム化比較試験
    ・TREND声明

  4. システマテック・レビュー(観察研究)
    ・MOOSEチェックリスト

  5. 観察研究(コホート研究,症例対照研究,横断研究など)
    ・STROBE声明

 これらのチェックリストは研究デザイン毎に作られています。それぞれのデザインで必要なサンプル数,生じるバイアス,あるいは統計検定の質などについて確認することができます。以下にそれぞれのチェックリストについて説明します。

システマテック・レビュー(介入研究)のチェックリスト

QUOROM声明

 ランダム化比較試験に用いられるチェックリストです。出版バイアスやメタアナリシスの方法,感度分析などの設問項目を含む,18項目で構成されています。

ランダム化比較試験のチェックリスト

改訂版COMSORT声明

 改訂版COMSORT声明は,広くコンセンサスが得られているランダム化比較試験の基本となるチェックリストです。22項目で構成されています。

Cluster randomized trials

 特定コミュニティーや病院,施設などを単位とするランダム化比較試験で用いられるチェックリストです。改訂版CONSORT声明の拡張板として22項目で構成されています。

Noninferiority and equivalence randomized trials

 非劣勢・同等性試験 (実薬どうしを比較して,一方がもう一方に劣らないことを調べる試験) に対して用いられるチェックリストです。改訂版CONSORT声明の改変板で22項目で構成されています。

Harms in randomized trials

 有害事象を明記することで総合的にある介入の効果を評価することを目的としたランダム化比較試験のチェックリストです。改訂版CONSORT声明の改変板で22項目で構成されています。

CLEAR NPT

 薬理学以外の研究を対象としたチェックリストです。薬理学以外の研究では,盲検化が困難な場合もあり,さらに介入者の技術や経験が結果に影響を及ぼす可能性もあります。このチェックリストはそうした点を踏まえた項目になっていて,10項目と下位5項目で構成されています。

PEDroスケール

 理学療法研究を集めたPEDroデータベースで用いられているチェックリストです。内的妥当性10項目,外的妥当性1項目で構成されています。

PEDroスケール改変板

 温泉療法の研究に用いられるチェックリストです。PEDroスケールに加えて,3項目が加えられています。

コクラン・レビューとPEDroスケールの改変板

 コクラン・レビューで用いられている10項目 (転倒予防・筋力増強運動) とPEDroスケールの9項目 (生活・運動指導) に加えて,独自に2項目 (有害事象の有無,サンプル数) ,計15項目からなるチェックリストです。

STRICTA

 鍼治療に対するランダム化比較試験のチェックリストです。6項目と下位20項目で構成されています。臨床経験や刺鍼の詳細など独自の項目が多くあります。

非ランダム化比較試験のチェックリスト

TREND声明

 非ランダム化比較試験に用いるチェックリストです。改訂版CONSORT声明と同様の形式で22項目から構成されています。

システマテック・レビュー(観察研究)のチェックリスト

MOOSEチェックリスト

 観察研究のシステマティック・レビューに用いられるチェックリストです。検索担当者の適格性や入手可能な研究を収集する努力,英論文以外の文献の取り扱いについてなど,計35項目で構成されています。

観察研究のチェックリスト

STROBE声明

 観察研究に用いられるチェックリストで,コホート研究,症例対照研究,横断研究別に作成されています。CONSORT声明の形式同様に22項目で構成されています。

まとめ

 臨床で最も有用な文献は,システマテック・レビューなどの2次研究を除けばランダム化比較試験となります。ランダム化比較試験のチェックリストは,改訂版CONSORT声明が広くコンセンサスが得られていて,多くの学術雑誌で支持されているようです。ただ,分野によっては研究の特異性 (盲検化が難しい,あるいは技術・経験に左右されるなど) が存在することもあります。その分野に適したチェックリストを用いることが重要だと思います。

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