脳卒中患者の栄養状態と機能的アウトカムについて


今回紹介する文献
The effect of protein and calorie intake on prealbumin, complications, length of stay, and function in the acute rehabilitation inpatient with stroke.
( Pellicane AJ et al., NeuroRehabilitation. 2013;33(3):367-76.


 脳卒中患者の栄養状態が機能的なアウトカムに影響を及ぼすかを調べた後方視的研究を紹介します。脳卒中後の栄養不良の頻度は7.8%から26.3%の範囲であると言われ,栄養失調を生じると,合併症の数,滞在日数,機能的アウトカムおよび死亡率に影響を与えます。一方で栄養不良は予防可能で可逆的な問題であり,栄養介入によって脳卒中リハビリテーションの効果や栄養失調の改善を増強することが報告されています。この研究は炎症がアウトカム指標へ与える影響を考慮しながら,急性期リハビリテーション入院中の脳卒中患者においてタンパク質やカロリーの摂取量がプレアルブミン,合併症,入院期間,および機能に与える影響を明らかにすることを目的に行われました。

栄養状態の指標は炎症によって左右される

 栄養士たちは,栄養補給を受けている間の栄養状態の標準化された評価指標としてプレアルブミン(トランスサイレチン)を提唱しています。その急速な代謝回転(半減期2-3日,アルブミンは14-18日)に加え評価が簡単であることから,プレアルブミンは栄養学的なモニタリングに対する選びぬかれた内臓タンパク質であると言えます。プレアルブミンは炎症の急性期に産生が抑制されるタンパク質であり,産生が増加するタンパク質(主にCRP)と関連しています。

急性期脳卒中患者を55名を対象

 55名の脳卒中患者を前向きに追跡しました。末期の肝臓や腎疾患の診断を受けたもの,経管栄養を受けているもの,食欲を刺激する薬剤を使用しているもの,栄養補助食品を使用しているもの,認知障害(MMSE < 20)やコミュニケーション障害(失語症,英語を話せない)の患者は除外されました。55名中2名が経管開始により脱落,4名が食欲に影響する薬剤の使用により除外されました(残り49名)。追加で139名をスクリーニングしたが,除外基準に当てはまり研究に含めなかったそうです。

入院中のデータを後方視的に調査

 各患者から人口統計データ(年齢,人種,性別),入院時体重(kg),および脳卒中タイプ(虚血性,出血性,または出血性梗塞)が収集され,入院48時間,および退院48時間以内にプレアルブミンおよびCRPの値が調べられました。

 入院中の患者の,合併症,入院期間,および機能的自立度(FIM)のデータが取得された。院内の管理栄養士によって一日あたりのタンパク質(g)およびカロリー(kcal)摂取量を,1週間に1回調べられた。また,体重あたりのタンパク質やカロリー摂取量に基づいて患者を分類された。FIM評価を行うセラピストは研究に患者が参加していることを意識していなかったそうです。

  一元配置ANOVAを用いて,異なる脳卒中タイプの間の体重によって,一日あたりの平均タンパク質およびカロリー摂取量が比較されました。対応のあるt検定は,入退院時のプレアルブミンとCRPを比較するために用いられました(各アウトカム指標の予測値を一般化線形モデルを用いて算出しているが,その妥当性に疑問あるため抄録では割愛)。

プレアルブミン値が低い患者は全体の22.4%

 患者属性はtable2を参照して下さい。全てのサンプルの平均タンパク質の摂取量は57.6 ± 16.2g/d (0.7の±0.3g/kg/d),平均カロリー摂取量は1452.2 ± 435.8kcal/d (17.2の±8.3kcal/kg/d) でした。一元配置分散分析では,体重タンパク質とカロリー摂取量において脳卒中タイプによる有意差を認めませんでした (p > 0.20)。
 
 入院患者の77.6%ではプレアルブミンレベルは通常の値(>18mg/dL)でしたが,残り22.4%では低値でした。また,退院時,患者の94.9%でプレアルブミンは通常の値でしたが,5.1%では低値でした。入退院時にプレアルブミンが低値であった全ての患者は,CRPの値も高い結果でした (>0.8 mg/dL)。入退院時の平均プレアルブミンは,全ての症例で有意な差が認められました(22.3 ± 6.2 mg/dL vs. 24.6 mg/dL, p = 0.007)。

 入退院時でCRP値の有意な差はありませんでした。タンパク質を0.8 g/kg/d以上摂取した患者と,それ未満の摂取だった患者で入退院時のCRP値に有意な差はありませんでした。同様に,カロリーを20 kcal/kg/d以上摂取した患者と,それ未満の摂取だった患者に入退院時のCRP値に有意な差はありませんでした。プレアルブミン値が高い患者と低い患者の間で,合併症の数,入院期間,FIM効率に有意な差は認めませんでした。


研究の限界

  •  本研究は単一の病院で行ったため,他病院で一般化できない可能性がある。 
  • 一般化線形モデルの予測因子の数に対してサンプルサイズが小さかったことで,モデル化するために過剰適合を導いた可能性がある。
  • 体重だけ入院時に評価した。
  • 脳卒中タイプが栄養失調に影響を及ぼすとする報告や及ぼさないとする報告があるが,本研究では全ての脳卒中タイプが含まれていて別々に解析していない。
  • 認知障害患者を除外したが,不正確な摂取量の提示があった可能性がある。

食事を摂ることで低栄養は改善する

 今回の研究では入院患者の22.4%が低プレアルブミン血症でしたが,そのほぼ全てが食事をとることで改善しました。また,入院から退院までに平均プレアルブミン値は有意に増加し,この値は炎症の変化によって影響を受けませんでした。一方で,合併症数や入院期間の増加は,炎症の有無により影響を受けました。最後に機能的アウトカム指標は,栄養マーカー,タンパク質摂取量,カロリー摂取量の影響を受けませんでした。

コメント

 脳卒中を発症して入院される患者さんの中には低栄養状態の方も多くいるようです。しかしながら,今回の結果をみる限りでは入院後に適切に栄養を摂取していれば,最終的な機能的アウトカムは変わらないと言えそうです。入院時の栄養状態を確認して,なおかつ「現状で」適切な量の食事を摂取できているかが,運動療法(リハビリテーション)介入のキーポイントになりそうですね。

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