流行りのニューロリハビリテーション。その基盤となっているのが神経科学研究での成果です。最近では中枢神経疾患のリハビリテーションを担う上で,神経科学を学ぶことが当たり前になってきました。そこでこの記事では,神経科学を正しく学ぶのにお勧めの書籍を紹介します。
標準生理学
「標準生理学」は,一般的な生理学だけでなく,神経科学の知見を盛りだくさんに詰め込んだ一冊となっています。この書籍は,標準医学シリーズから出されており,各項を担当しているのはその専門家である国内研究者です。したがって,神経系を担当した項目は,神経生理学を専門にしている方々が執筆しているため,専門性が高く,かつ明瞭簡潔に神経科学についてまとめてあります。改訂頻度が比較的早く,最新の知見を網羅していることも魅力の一つです。2014年が最新版です。
カンデル神経科学
もし,神経科学をしっかりと学びたいのであれば,「カンデル神経科学」をおすすめします。この書籍は,神経科学の第一人者エリック・カンデル(2000年ノーベル医学生理学賞受賞者)が中心となって著した Principles of Neural Science を日本の神経科学者たち約100人で翻訳したものです。かなり分厚い書籍で,全1647ページ,厚さ5センチほどにもなります。しかし,内容は神経科学のバイブルと呼ぶにふさわしく,神経生理学の基礎から,感覚系,運動系に至るまで詳細に分かりやすくまとまっています。余裕がある方は原版である「Principles of Neural Science 5th edition」を読んでみてください。
運動神経生理学講義
運動に特化して神経科学を学びたいのであれば「運動神経生理学講義」をおすすめします。この書籍には運動に関連した神経生理学が詳しく著されています。少し古い書籍ですが,運運動先行性随伴性反応(姿勢調節)などの運動-神経反応などを学ぶことができます。もともと海外の書籍で,日本語訳が少しおかしいのが残念ですが,読んでみて損がない一冊だと思います。
臨床神経生理学
最後に紹介するのは「臨床神経生理学」です。この書籍は,神経科学のなかでも筋電図や脳波を用いた神経生理学,電気生理学に詳しい書籍です。人を対象に神経系について調べたい場合,解剖したり,実際に細胞を破壊したりすることが困難なため非侵襲的な(危害を加えないような)手法を用いることになります。こういった文献を読む際に良く分からない用語や手法が出てきた時にはこの書籍の出番です。手元に一冊あると便利だと思います。
まとめ
今回は「神経科学」の勉強に適した書籍を紹介しました。残念ながらどの書籍も初学者には難解かもしれません。しかし,大切なことは誤った情報を得ることなく勉強できることです。紹介させていただいた書籍はどれも信頼性に足るものであると思います。最近,ニューロリハビリの流れから,リハビリテーションのための神経科学・脳科学をうたった書籍が多くでていますが,私個人としてはあまりおすすめしません。まずは一線で活躍する神経科学者たちが著した書籍から学び,(比較的)正しい知識を得ることをおすすめします。