研究計画書の書き方


こんにちはCharcot(@StudyCH)です。

研究初心者にとって研究計画書を書くという作業が最初の難関かもしれません。漠然とこういうことが知りたいとか、この方法でやれば良いんだとか、頭の中で考えていることをなかなか文章にできないものです。

そこで今回は「研究をはじめたての方」に向けて研究計画書の書き方のイメージをつかんでいただくために、その項目や内容について簡潔に説明します。また、書き方のポイントについてもまとめますので参考にしてていただければ幸いです。

研究計画書を書く目的

研究計画書とは「その研究に取り組もうと考えた動機(研究背景)」、「その研究で何を明らかにしたいのか(研究目的)」、「その研究の具体的な対象や取り組み方(研究方法)」を分かりやすく書面にまとめたものです。研究計画書の作成は、研究者が自身の研究に対する深い理解を示し、研究の方向性を定めるために不可欠です。

研究計画書を事前に丁寧に書いておくことで、研究を進める上でやらなければならないことが明確になりますし、データが集まり論文を執筆する際にも研究背景(序論)や方法については苦労せずに書き進めることができるようになります。この文書は、研究のアイデアを体系的に整理し、研究の枠組みを構築する役割を果たします。以下に、研究計画書を書く目的を詳細に説明します。

1.研究の意義と必要性の明確化

研究計画書では、研究の背景に基づき、研究が取り組むべき問題の重要性と、その問題に対する新たなアプローチの必要性を明確にします。研究が社会的、学術的、あるいは実践的な意義を持つ理由を論理的に展開することで、研究の価値を強調します。

上記の研究背景、目的、方法を分かりやすく整理して俯瞰的に眺めることで、研究計画に矛盾がないか、そもそも取り組む必要はあるのか、など自身の立てた研究計画のブラッシュアップを図ります。

2.研究目標の具体化

研究計画書は、研究の最終的な目標を具体的に定めるためのものです。これには、研究の仮説の設定、研究問題の特定、そして研究結果が期待される影響についての記述が含まれます。目標が明確であればあるほど、研究の方向性がはっきりし、研究過程が効率的に進行します。

3.研究方法の合理性の検証

研究計画書においては、選択した研究方法の妥当性と合理性を検証します。研究の手法が適切である理由、データ収集と分析の方法、そしてそれらがどのように研究目標の達成に寄与するかを詳述することで、研究の信頼性を高めます。

4.研究の実現可能性の評価

研究計画書は、提案された研究が実際に実施可能であるかどうかを評価するためにも使用されます。これには、研究のスケジュール、予算、資源、人員などの実現可能性に関する詳細な分析が含まれます。研究の実現可能性を事前に評価することで、研究の成功率を高めることができます。

5.コミュニケーションとフィードバックの促進

研究計画書は、指導教員、同僚、資金提供者などの関係者とのコミュニケーションツールとしても機能します。計画書を共有することで、研究のアイデアに対するフィードバックを受け、研究計画をさらに洗練させる機会を得ることができます。

研究計画書は大学院生であれば教授に、臨床で働いている方であれば上司にどのような研究を行いたいかについて説明する際に必要になります。

また、研究(調査・実験)を始める前に倫理的に適当かについて倫理審査を受けることになりますが、その際には必ず倫理審査書類とともに添付しなければなりません。

つまり、自分以外の読み手がいることを念頭において、「分かりやすく」、「簡潔に」研究計画を記載する必要があるということです。

6.研究の進行管理

研究計画書は、研究の進捗を追跡し、計画に沿って研究が進行しているかを確認するための基準となります。計画書に基づいて研究の各段階を評価することで、研究の目標に向けて効果的に進むための調整を行うことが可能です。


研究計画書を書くことは、研究プロジェクトの成功に向けた最初のステップです。この文書を通じて、研究者は自らの研究を深く反映し、その意義を他者に伝えることができます。また、計画書は、研究の質を保証し、研究成果の社会への貢献を最大化するための基盤を築きます。

研究計画書の構成

研究計画書はどうやって書けばいいのか、研究初心者は必ず悩みます。所属する施設で規定の用紙があれば、その内容に沿って書けば良いのですが、規定がない場合も多くあります。実は研究計画書に決められたフォーマットはありません。

研究計画書は、研究の提案から実施に至るまでのロードマップとして機能します。そのため、研究計画書の構成は、研究の目的と方法を明確に伝えるために、体系的かつ論理的に構築される必要があります。

研究のテーマ(標題)

テーマの紹介:何について研究するのか? 

研究の背景

(1) 研究の動機
そのテーマにどのような興味や関心があるのか?
その問題はなぜ・どのような点で重要なのか?
(2) これまでの研究の概要
研究テーマに関する先行研究はどのようになっているのか?
先行研究にはどのような問題点があるか?

研究の目的

何を問題にして、何を明らかにしようとしているのか?
この研究を通じて何が明らかにできるのか?

研究の方法

どのような方法で研究するのか?
その研究方法がなぜ優れているのか?
その方法で問題が解決できるのか?
どのくらいの期間がかかるのか?

引用文献/参考文献

かならず引用/参考文献の一覧を提示します


皆さんが良く読む論文でいうところの、はじめに(序論)から方法までをしっかりと丁寧に書くイメージです。以下に、研究計画書の各セクションについて、より詳細な内容を追記し、構成を充実させるための提案をします。

研究のテーマ(標題)

導入部では、研究のテーマを紹介し、研究の背景となる問題意識を設定します。ここでは、研究が取り組む問題の現状と、その問題が持つ社会的、学術的な意義を簡潔に述べます。また、研究の目的を簡潔に予告し、読者の興味を引くように工夫します。

研究計画書を書く段階である程度の研究テーマは決まっていると思います。研究の題名はそれだけで、その研究がどういうものかを具体的に表すものでなければなりません。研究テーマを書く際には、以下のポイントに注意して、明確かつ簡潔に、しかし十分な情報を含むように記述することが重要です。下に具体的な例を挙げて説明します。

●悪い書き方

脳卒中患者に対する課題特異型トレーニングの有用性

●少し足りない書き方

急性期脳卒中患者に対する課題特異型トレーニングがADL能力へ及ぼす影響

●良い書き方

急性期脳卒中患者に対する2週間の課題特異型トレーニングが退院時ADL能力へ及ぼす影響

上から順に説明が具体的になっていることが分かると思います。基本的に題名をみた人が想像力を発揮しなければならないものはNGです。題名だけで、誰を対象に何を調べた研究なのかが分かるように心がけて下さい。

研究の背景

  • そのテーマにどのような興味や関心があるのか?
  • その問題はなぜ・どのような点で重要なのか?
  • 研究テーマに関する先行研究はどのようになっているのか?
  • 先行研究にはどのような問題点があるか?

研究の背景では、自分の疑問や考えを先行研究で裏付けながら文章化していきます。極端に言ってしまえば、自分の描いた物語を理論で武装していく過程です。

ここでは、研究テーマに至るまでの経緯と、関連する先行研究のレビューを行います。このセクションでは、研究テーマの重要性を裏付けるためのデータや統計、先行研究の成果と限界を詳細に記述し、研究が解決しようとする具体的な問題点を明らかにします。先行研究との差別化を図り、研究の新規性や必要性を強調します。

研究背景は、研究テーマの重要性を根拠づけ、研究がどのような学術的または実践的な問題に対処しようとしているのかを明らかにするセクションです。研究背景を書く際には、以下の要素を詳細に、かつ論理的に展開することが求められます。

●問題の提示

研究背景の最初には研究をはじめるに至った動機を書きます。つまり、臨床研究であれば臨床疑問を持つに至った背景を書きます。また、その疑問を解決することで、患者さんや医療従事者にとってどのような利益をもたらすのかを説明します。研究が取り組む問題を具体的に提示し、その問題がなぜ重要なのかを説明します。問題の現状や、それがもたらす影響についてのデータ、統計、事例を用いて、問題の緊急性や重要性を裏付けます。

●先行研究のレビュー

研究を進める上で大切なことは、今からやる研究がこれまでの一連の研究成果のなかのどこに位置するのかを明確にすることです。つまり、関連する先行研究を探して、読んで、自分の知りたいことのどこまでが明らかになっているのかを説明しなければなりません。先行研究を網羅的に調べてまとめている内に、自分の知りたいことの中で、先行研究だけでは説明しきれないことが明確になってきます。

また、調べた先行研究の中には、方法が誤っていたり、対象者が少なかったりと、知りたいことを明らかにするためにはクリアしなければならいない問題点もみえてくるはずです。そういった先行研究の穴をしっかりと説明して、次の新規制や必要性のある研究目的につなげましょう。

●理論的枠組み

研究テーマに関連する理論やモデルを紹介し、研究の理論的基盤を構築します。研究問題をどのような理論的視点からアプローチするのかを説明し、研究の分析フレームワークを提供します。

●研究の意義

研究が学術界にどのような貢献をするのか、または実践的な問題解決にどのように役立つのかを示します。研究によって期待される成果や影響を予測し、研究の価値を強調します。

●研究の目的への橋渡し

研究背景は、研究目的セクションへの移行をスムーズにするための橋渡しとして機能します。研究背景で提示された問題意識や研究ギャップを踏まえ、研究目的がどのようにこれらに対処するかを導入します。

作成例:

不適切な研究背景:
「糖尿病は世界中で問題となっており、多くの患者がいます。」

改善された研究背景:
「糖尿病は、世界保健機関(WHO)によると、2021年時点で全世界で4億2200万人の患者がいると推定されており、2030年には5億5000万人に達すると予測されています。特に、2型糖尿病は生活習慣の変化に伴い増加傾向にあり、日本国内でも成人の約7.2%がこの疾患に罹患していると報告されています。これに対し、新たな治療法の開発が急務とされていますが、現行の治療法においても、患者の生活の質(QOL)への影響や長期的な疾患管理の効果については、まだ十分に解明されていません。

C研究(2019年)では、新しい経口血糖降下薬が短期間での血糖コントロールには有効であることが示されましたが、これらの治療法が患者のQOLや長期的な合併症のリスクにどのような影響を与えるかについては、明らかになっていません。さらに、D研究(2020年)によると、治療遵守率の低さが長期的な治療成果に悪影響を及ぼすことが指摘されていますが、これを改善するための具体的な介入方法に関する研究は不足しています。

本研究では、これらの課題に対応するため、新しい経口血糖降下薬の導入が2型糖尿病患者のQOLおよび長期的な合併症発生率に与える影響を、実際の臨床データを用いて評価します。また、患者の治療遵守率を向上させるための介入方法を開発し、その効果を検証することで、糖尿病治療の新たな方向性を提案します。この研究は、糖尿病の効果的な管理戦略の策定に寄与し、患者の健康増進に貢献することが期待されます。」

この改善された研究背景は、糖尿病の現状とその社会的影響を具体的なデータで示し、先行研究の成果と限界を概説しています。また、研究の意義と必要性を強調し、研究目的への橋渡しを効果的に行っています。


研究の目的と仮説

  • 何を問題にして、何を明らかにしようとしているのか?
  • この研究を通じて何が明らかにできるのか?
研究目的は、研究背景から導き出されるべきです。明確な研究目的は、何を解決しようとしているのか、どのような価値を提供するのかを示すべきです。研究目的は、研究の方向性を示すと同時に、その重要性を強調する役割を持ちます。

研究の目的は、研究計画書において研究の意図を明確に示す核心的な部分です。このセクションでは、研究が解決しようとしている具体的な問題や質問に対する答えを見つけるための研究の主な目標を定義します。

研究の目的を記述する際には、以下の要素を明確にし、具体的かつ測定可能な言葉を用いることが重要です。

●問題解決の意図

研究が取り組む問題や課題を解決するための具体的な意図を述べます。これは、研究がどのような疑問に答えるか、またはどのような仮説を検証するかを明確にすることを意味します。

●研究の範囲

研究目的は、研究の範囲を限定することで、研究の焦点を絞ります。研究が対象とする人口統計、地理的範囲、時間枠、または特定の条件など、研究の範囲を具体的に定義します。

●成果の期待

研究を通じて得られることが期待される成果や、それによってどのような貢献が可能になるかを述べます。これには、新しい知見の発見、理論の検証、政策提言、実践への応用などが含まれます。

●測定可能性

研究の目的は、可能な限り測定可能であるべきです。つまり、研究の結果がどのように評価されるか、どのような基準で成功が測定されるかを示す必要があります。

●実現可能性

研究の目的は実現可能であることを示す必要があります。利用可能なリソース、時間、技術などを考慮した上で、研究が実際に達成可能な目標であることを確認します。


研究の目的は、上で述べた研究の背景にそって記載します。つまり、研究の動機はあれそれこういうことで、先行研究を調べてみたが答えが見つからない(あるいは先行研究のやり方に問題がある)から、こういう目的で研究をしますと明言するのです。

例えば、急性期脳卒中患者に対する2週間の課題特異型トレーニングが退院時のADL能力に影響するか知りたかったが、同じような先行研究は見つからなかったとします。

その場合は「本研究の目的は、急性期脳卒中患者に対する2週間の課題特異型トレーニングが退院時のADL能力に影響するかについて、ADL能力の指標としてFIMを用いて明らかにする」などと記載します。

研究は何かを明らかにするためのものです。「〇〇を検討することを目的にした」などと研究すること自体を目的にするような表現は避けましょう。

研究の方法

  • どのような方法で研究するのか?
  • その研究方法がなぜ優れているのか?
  • その方法で問題が解決できるのか?
  • どのくらいの期間がかかるのか?
研究方法のセクションは、研究計画書の中核をなす部分です。研究デザイン、対象とするサンプル、データ収集方法、分析手法など、研究を実施するための具体的な手順を詳細に記述します。

このセクションでは、研究方法の選択が研究目的に適している理由と、それがどのように研究仮説の検証に寄与するかを説明します。また、研究の倫理的配慮についても触れることが重要です。

研究方法の記載が研究計画書の肝といっても過言ではありません。臨床研究の研究方法では、以下の点を必ず記載するようにしてください。

●研究デザイン

研究の基本的な設計を説明します。これは、観察研究、実験研究、縦断研究、横断研究、ケーススタディ、ランダム化比較試験(RCT)など、研究のタイプを指します。研究デザインの選択が、研究目的に適している理由を説明します。

●参加者の選定

研究に参加する対象者の選定基準と除外基準を明確にします。サンプリング方法(例:ランダムサンプリング、層別サンプリング)と参加者の数、性別、年齢、診断基準など、対象者の特性を詳細に記述します。

●データ収集方法

使用するデータ収集ツール(例:アンケート、インタビュー、生理学的測定)とその手順、データ収集のタイミング、場所などを説明します。データ収集方法が研究目的にどのように適合しているかを述べます。

●データ分析手法

収集したデータをどのように分析するかを説明します。統計的手法、定性的分析手法、またはその組み合わせを明示し、それらが研究仮説を検証するためにどのように使用されるかを記述します。

●倫理的配慮

研究の倫理的側面について言及し、参加者の同意の取り方、プライバシーの保護、データの取り扱いなど、倫理的な基準をどのように満たすかを説明します。

●研究の制約と対処法

予想される研究の制約や限界を認識し、これらにどのように対処するかを述べます。これには、研究デザインの限界、潜在的なバイアス、データ収集や分析の際の困難などが含まれます。


これらの項目は一つでも抜けていると曖昧な計画になってしまいます。これでもかと丁寧に説明する気持ちで記載しましょう。

研究方法を書く上でとても大切なことは、その研究が実現可能かをよく考えることです(これを研究の実現可能性といいます)。

研究対象者の人数は実際に計画期間内に集めることができるのか、あるいはそもそも実験に必要な装置等は研究実施施設にあるものなのか、など実際に実施できる範囲で研究方法を考える必要があります。

引用文献/参考文献

  • かならず引用/参考文献の一覧を提示します

研究計画書の最後には、研究背景で使用した引用文献を正確に記載します。これにより、研究の信頼性を高め、学術的な厳密さを保つことができます。

背景で先行研究を引用した場合、必ず研究計画書の最後の項に引用文献を記載しましょう。引用文献は、著者名、論文名、誌名、巻数、号数あるいは通巻、出版年月日、該当ページの順で記載します。

また、一般的には引用文献をアルファベッド順に並べて下さい(姓年式、ハーバード法)。その他にも雑誌文献と図書では書き方が異なったり、海外文献と国内文献で若干記載の仕方が違う場合もあります。

引用文献の記載方法については「引用文献の書き方」を参照して下さい。

まとめ

研究計画書に記載が必要な研究テーマ、研究背景、研究目的および研究方法、それぞれの項目について概要と簡単な書き方、書くためのポイントについて説明しました。研究計画書を作成するイメージはつかめたでしょうか。

あれこれ考えるよりも、まずは書き始めることをおすすめします。まとめていく過程で、知識として足りないことや、そもそも意味のある研究なのかが明瞭になっていくはずです。

正しく研究計画を立ててしまえば、余程のイレギュラーがない限り研究計画にそって研究を進めて行けば良いわけですから今後の進行が楽になります。

それでは皆さんの研究成果を楽しみにしております。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best

研究の進め方(関連記事一覧)