痛みを受容する侵害受容器


 熱いやかんに間違えてふれたとき,あるいは尖ったものを踏んだときなど,誰しも強烈な痛みを感じた経験があると思います。こういう時に私たちは,身体の各部位にある侵害受容器 nociceptor で刺激を受容し,いくつかの神経を介して痛みの情報を脳へと伝えることで痛みを感じています。この記事では,痛み情報の経路のうち最初に痛み刺激を受容する侵害受容器について,その概要や皮膚,関節,筋および内蔵に分けて所在や特徴について説明します。

侵害受容器の特徴とその神経線維

 侵害受容器は感覚点の一つである痛点に存在し,一次求心性神経の自由神経終末です。自由神経終末は,他の感覚受容器と異なり特別な構造を持たないと考えられています。また,他の感覚受容器と異なり,刺激に対して順応しない(しにくい)ことが特徴です。

 侵害受容器をもつ神経線維には以下の2つの種類があります。

Aδ 線維

(1) 有髄
(2) 直径 1-5 µm,伝導速度 3-30 m/s
(3) 最初にくる鋭い痛み(first pain)を引き起こす

C 線維

(1) 無髄
(2) 直径 1 µm,伝導速度2 m/s)
(3) 後からくる鈍い痛み(second pain)を引き起こす

侵害受容器は基本的に4種類

 侵害受容器はどのような刺激や環境で反応するかによって,基本的に以下の4種類にわけることができます。

Mechanical nociceptors

(1) 高強度の機械的な圧迫によって活動
(2) 線維の終末に存在
(3) 伝導速度 5-30 m/s

Thermal nociceptors

(1) 45 ℃(115 ℉)以上で活動
(2) 5℃(41 ℉)以下で活動
(3) Aδ 線維の終末に存在
(4) 伝導速度 5-30 m/s

Polymodal nociceptors

(1) 高強度機械的刺激,化学的刺激,熱冷刺激で活動
(2) C 線維の終末に存在
(3) 伝導速度は < 1 m/s

Silent nociceptors

(1) 特別な状況下(炎症など)で活動

 侵害受容器はこの4種類を基本として,身体の部位毎に存在しています。しかし,身体各部位によって,発見されている侵害受容器の構成は異なるようです。次の項から身体の部位別にどのような侵害受容器がみつかっているのまとめます。

皮膚の侵害受容器 Nociceptors of the skin

 皮膚の侵害受容器には2つの受容器が確認されています。

Mechanical nociceptors

(1) 強度な機械的刺激のみに反応
(2) 点状の圧迫に対し遅順応性の放電を示す
(3) 自発放電はしない
(4) 主にAδ線維の終末に存在(AαやAβにもわずかに存在)
(5) C 線維については不明な点が多い
(6) 皮膚全面に密に分布しており,弁別性に富んでいる
(7) 皮膚Aδ 線維を刺激するとpricking pain(刺すような痛み)が誘発される(Konietzny et al., 1981)

Polymodal nociceptors

(1) 強い機械的刺激,侵害性熱刺激,化学的刺激,強い冷刺激に反応
(2) 主にC線維の終末に存在
(3) 皮膚のC線維の90%が侵害性であるとの報告がある (Bessou and Perl, 1969).
(4) 皮膚C線維を刺激するとburning(灼熱痛)か dull pain(鈍い痛み)が誘発される (Ochoa and Torebjork, 1989)

筋の侵害受容器 Nociceptors of the muscle

 筋や関節の神経に対しては Lloyd の分類(1943)が用いられます。Lloydの分類のグループ III が Aδ ,グループ IV が C 線維に相当しますので文献等でこの分類が出てきた時に混乱しないように注意して下さい。

(1) 自由神経終末の多くは結合組織,骨格筋内の細動脈壁に存在
(2) Mechanical 型とPolymodal 型(Stacey, 1969)
(3) 内因性疼痛物質(ブラジキニンなど)で活性化
(4) 高強度の機械的刺激によっても活性化
(5) 筋神経の侵害受容器を刺激すると aching pain(うずく痛み)が誘発される(Torebjork et al., 1984)

TRPチャンネルと侵害受容器
 侵害受容器は神経終末に特別な構造を持たないとされてきました,しかし最近では,神経終末において,TRP(Transient Receptor Potential)チャネルの活性化による陽イオン流入が脱分極から電位作動性 Na+チャネルの活性化を引きおこし活動電位が起こると考えられています。TRP チャンネルは温度感受性のチャンネルですが,42度以上と15 度以下の温度は痛みを引きおこすことから,その温度域で活性化するチャネルは痛み受容体としても捉えることができるという考え方のようです。人体の中で最も古く,最も重要で,最も謎に包まれた侵害受容器ですが,少しずつその謎が明らかになってきているようです。

関節の侵害受容器 Nociceptors of the joint

 侵害受容器は,関節包,靱帯,骨,骨膜,関節の脂肪体や血管周囲に存在し,関節軟骨にはないようです。受容器は,3つに分類されます。

(1) 侵害性圧刺激や過度な関節運動に反応する高閾値なもの
(2) 正常な関節ではどんな機械的刺激にも反応を示さないもの
(3) 強い圧刺激に反応し,関節運動には反応を示さないもの

 正常な関節では (1) のみ反応するが,炎症が生じると全ての受容器が反応します。

内蔵の侵害受容器 Nociceptors of the viscera

 内臓は他の器官と違って機械的な刺激よりは炎症性の反応によって侵害受容器が活性化するという特徴があります。

(1) 侵害受容器は,心臓,消化管,生殖器官などの内臓組織や血管壁に存在
(2) 消化管・尿路・胆嚢などの炎症,拡張,虚血,腸間膜の牽引で反応
(3) Silent nociceptors がある.
(4) 内臓組織の炎症は中枢性感作を誘発し,関連痛の増強をもたらす
(5) 内臓神経を低強度で刺激すると fullness(膨満感)と nausea(嘔吐感)を感じて,高強度で刺激すると pain(痛み)を感じる(reviewed in Ness and Gebhart, 1990)

まとめ

 侵害受容器は他の感覚受容器の中でも原始的なものです。従って,身体各所に数多く存在します。身体各部位で発見されている侵害受容器にはばらつきがあります。しかし,特異性があるのかというと,受容器の存在を確かめる研究の難しさから,全てを統合して解釈するだけの成果が得られていないだけであると私は考えています。ただ,リハビリテーションに関わるものとしては,身体の各組織や器官で痛みの感じやすいところと感じにくいところがあるんだということは理解したいところです。

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