
この記事では,肩甲上腕関節を構成している組織のうち筋以外のものについて,その機能と役割についてまとめたいと思います。筋の役割については「回旋筋腱板の機能と役割」を参照して下さい。
上腕骨頭と関節窩(サイズの合わない関節面)
上腕骨頭の表面積に比べて,関節窩の表面積は1/2以下しかないことが知られています。関節面の大きさが違うため,骨による制限をあまり受けずに肩甲上腕関節を動かすことができます(つまり,可動域が広い)。一方で,安定性という側面からみると,肩甲上腕関節は,骨による安定性を得られない,とても不安定な関節だということになります。
関節唇(小さい器を大きくして関節面を保護する組織)
関節窩の周囲を線維組織と線維軟骨からなる関節唇が取り囲んでいます。この関節唇は,関節窩の深さを約2倍にして,関節面の接触面積を増やし,関節窩にかかる応力 (物体が隣接した部分にかかる作用や反作用) を減らしています。しかし,関節唇そのものが,肩甲上腕関節の運動を制限する,あるいは支持するように働くわけではありません。
関節包(肩甲上腕関節を覆う支持組織)
関節包は肩甲上腕関節を覆うように取り囲む結合組織です。関節包は,上腕骨の解剖頸の遠位と関節窩の近位,あるいは関節唇に付着します。関節面の下方では関節包が余った状態で折り畳まれており,肩甲上腕関節の屈曲や外転の際に展開されて,伸長します。関節包は肩甲上腕関節にわずかに安定性を与えていますが,後に説明する各靭帯によってさらに補強されています。
腱板疎部の損傷
上関節上腕靭帯と烏口上腕靭帯,上腕二頭筋長頭腱は,棘上筋腱と肩甲下筋腱の間に位置しています。この三つの靭帯や腱からなるスペースを腱板疎部 rotator interval と呼びます。
腱板疎部は外旋時に緊張し,内旋時には弛緩します。また,この部分は関節内圧を緩衝するために弾力性をもっています。この部分を損傷すると,関節内圧が高まるような肢位(屈曲と外旋の複合運動)をとると痛みが生じます。また,炎症が治まったとしても,スペース内にある烏口上腕靭帯の拘縮によって,外旋制限が起きることも考えられます。
多くの場合,関節包のストレッチなど,関節構成体に直接アプローチして改善を狙うようですが,保存療法で改善がみられない場合は手術が適用になる場合もあります。
3つの関節上腕靭帯と烏口上腕靭帯(関節包を補強する支持組織)
関節包は上部,中部,下部の関節上腕靭帯によって前面を,烏口上腕靭帯によって上面を補強されています。以下に各靭帯の付着と走行をまとめます。
上関節上腕靭帯:
関節上部と烏口突起基部から上腕骨頸部上面に向かって走行
中関節上腕靭帯:
関節唇下方の前面から上関節上腕靭帯へ広範囲に付着して,肩甲上腕関節の前方を横断するように広がる
下関節上腕靭帯:
上腕骨頭の下面,内側面と関節唇の前・後方,中間部分に付着する
烏口上腕靭帯:
烏口突起基部の外側と上腕骨の大結節に付着していて,棘上筋の腱膜と一体化する
これらの靭帯は,関節窩における上腕骨頭の動きを制限して,肩甲上腕関節を支持しています。例えば,3つの関節上腕靭帯は,肩甲上腕関節を大きく外旋したときに,上腕骨頭が (関節窩内で) 前方に変位してくるのを防ぎます。また,烏口上腕靭帯は,上腕骨頭の後方滑りを制限します。
関節内圧の重要性
肩甲上腕関節に限らず関節包を持つ関節は,関節内圧によってある程度関節を支持しています。屍体を用いた研究ではありますが,腱板疎部(上部Boxを参照)に穴をあけると肩甲上腕関節の下方安定性が減少することが報告されています。
関節包靭帯複合体 capsuloligamentous complex
上で説明した関節包とそれを取り巻く靭帯を合わせて関節包靭帯複合体といいます。肩甲上腕関節の安定性は筋を除けば,この複合体によって保たれているといっても過言ではありません。関節包靭帯複合体によって,上腕骨頭の過剰な運動を制限する因子として,主に肩甲上腕関節の最終可動域で作用します。また複合体の作用によって,上腕骨頭の滑り運動が円滑に行われます。
しかし,関節包靭帯複合体は主に最終可動域で働くため,全可動域の中間域での肩関節の安定性に関与することができません。さらに,外部からの負荷が与えられたときにも関節を支持することは困難だと言われています。結局のところ,肩甲上腕関節の動的安定性は,主に回旋筋腱板によって保たれることになるのです。
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