変形性股関節症の診断や評価法


 変形性股関節症 hip osteoarthritis, hip OA に対する適切な治療を考えるためには,やはり妥当で信頼のおける評価を行わなくてはなりません。そういった評価法は,日々の臨床で患者さんの経過や治療効果を判定する指標として用いられるだけではなく,そのまま変形性股関節症の研究に用いられます。そこでこの記事では,主に海外のガイドラインを参考に,変形性股関節症の診断や評価についてまとめます。

変形性股関節症の診断

 診断は医師の領域なので少しだけ,簡単に説明します。基本的に明確な診断基準はないようですが,病歴と身体所見を組み合わせて診断することや,X 線や MRI 画像を用いて診断することがあるようです。臨床基準として米国リウマチ学会 (Altman et al., Arthritis & Rheumatism 1991) のものが有名なようです。

 画像による診断では,関節腔の狭小化,限界骨棘,軟骨下硬化症,および骨嚢胞を含む所見を確認します(下図参照)。画像検査のなかでも,X 線画像は中等度から重度の変形性股関節症の診断に向いています。一方で,MRI 画像は初期の構造変化(例えば軟骨下骨の焦点性軟骨欠損と骨髄障害)を見つけることに向いており,その点ではX 線画像より役に立つようです。

図 変形性股関節症の病態
社団法人日本整形外科学会パンフレットから引用

変形性股関節症の評価法

 リハビリ専門職は,変形性股関節症によって生じる患者さんの主観 (痛みなど) ,股関節機能や能力の低下を妥当で信頼できる指標を用いて評価する必要があります。アメリカ理学療法士協会による臨床実践ガイドラインでは,Western Ontario and McMaster Universities (WOMAC) Osteoarthritis Index,Lower Extremity Functional Scale,Harris Hip Score のような機能を評価する指標を用いることを推奨しています (Cibulka et al., Journal of Orthopaedics and Sports Physical Therapy 2009)。

 また,ごく最近では,Osteoarthritis Research Society International (OARSI) が,股関節と膝関節の変形性関節症のための基本セットを用いることを推奨しています (Dobson et al., Osteoarthritis & Cartilage 2013)。このセットには,30-second chair stand test,40 m fast-paced walk test,a stair climb test に加えて,Timed Up and Go test や6分間歩行試験が含まれています。これらの指標の一部 (例えばWOMACなど) は,日本で妥当性や信頼性があまり確認されておらず,今後の検討が必要な評価法です。

 ところで,日本にこういう評価セットを示すガイドラインがないか探してみたのですが,今のところ紹介できるようなものは見つかりませんでした。評価セットではありませんが,日本でよく用いられている評価指標は,日本整形外科学会股関節機能判定基準 (JOA hip score) です。これは上述の Harris Hip Score に相当します。JOA hip score にしろ,Harris Hip Score にしろ,その点数配分をみると「痛み」が重要視されているようです。以下にいくつかの評価指標について簡単にまとめたので参考にしてください。

Harris hip score

 世界で最も用いられている評価指標。疼痛 (44点) ,跛行 (11点) ,歩行支持 (11点) ,歩行距離 (11点) ,座位 (5点) ,公共交通機関の利用 (1点) ,階段昇降 (4点) ,靴・靴下履き (4点) ,変形 (4点) ,可動域 (5点) で構成。つまり,巨視的にみると疼痛が44点,歩行能力が33点,日常生活動作が14点,変形が4点,可動域が5点の点数配分になっている。

日本整形外科学会股関節機能判定基準 (JOA hip score)

 日本で一般に用いられている評価指標。疼痛 (40点) ,可動域 (20点 ) ,歩行能力 (20点 ) ,日常生活動作 (20点 ) の4項目から構成されており,片側罹患,両側罹患,多関節罹患などのカテゴリーに分類されている。

Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC)

 疾患特異的な (変形性膝関節症および股関節症のための) 健康関連 QOL 尺度。この尺度では,患者自身が健康関連 QOL を自己評価する。質の高い尺度だが,日本語版はなく,日本での妥当性・信頼性も不明。

The Lower Extremity Functional Scale (LEFS)

 一側,あるいは両側の下肢障害を持つ患者の下肢機能を評価する指標。信頼性や妥当性が確認されている質の高い評価指標。

様々なパフォオーマンステスト

 30-second chair stand test ,40 m fast-paced walk test ,a stair climb test ,Timed Up and Go test や6分間歩行テストなどはどれも,身体パフォーマンスを評価する指標です。30秒間に何回立ち座りができるか,40 m 歩くのにどのくらい時間がかかるのかなどを客観的に評価します。

 上記の評価指標が痛みを重要視しているように,変形性股関節症の患者さんに痛みはつきものです。この痛みは,特定の股関節の動きや長時間立っている,あるいは座っているなど,同じ関節位置で過ごした後に生じやすいといわれています。このような痛みの程度は,visual analogue scale (VAS) か numeric rating scale (NAS) を用いて評価します。

 また,股関節可動域の減少や大腿筋群 (特に股関節外転筋と四頭筋) の弱化も hip OA の一般的な症状です(Arokoski et al., Archives of Physical Medicine & Rehabilitation 2004; Loureiro et al., Arthritis Care & Research 2013)。こういった機能低下も,できるだけ信用できる指標で数値化して評価することが重要です。

まとめ

 変形性股関節症の診断は,病歴,身体所見,X 線や MRI による画像所見を用いてなされるようです。一方,評価についてはいくつか (海外の) ガイドラインで推奨されている評価セットがあります。それらの評価セットには,機能を評価する指標や身体パフォーマンスを重視するものなどがあります。どのような評価にせよ,妥当で,信頼のできる評価指標を用いることが重要です。