リハビリテーション専門職の方であれば,一度はなにかしらの講習会や研修会に参加したことがあるのではないでしょうか。こうした講習会や研修会には,各職能団体が主催するものと,別の団体 (特定の手技や手法を推奨するような組織) が主催するものがあります。この記事では,後者の団体,特定の手技や手法を推奨する組織がどのようなビジネスモデルで運営されているか,彼らの市場 (つまり顧客) と顧客が得るものについて話しをしたいと思います。
顧客は誰か?
特定の手技や手法の普及を押し進めている団体 (以後,手技団体とします) はどこから収益をあげているのでしょうか。その多くは,その手技団体が主催する講習会や研修会に参加した医療従事者から受け取る参加費,医療従事者が購入するテキストなどの教材の売り上げです。言い換えれば,彼らのビジネスの対象は我々医療従事者ということです。
日本には国民皆保健制度があり,患者さんの医療費の大半は医療保険からまかなわれています。つまり,我々の医療従事者の所得の多くは,医療保険から支払われることになります。この事実を鑑みてよく考えてみると,手技団体は我々医療従事者が医療保険から得た収入を間接的に得ているということになります。
顧客はなにを得るか?
ここで議論となるのはわれわれリハビリ専門職が手技団体の講習会に参加することでどんな利益があるかということです。講習会参加者側に利益があればそれに見合った報酬を払うのは当然のことです。それでは講習会への参加によってどんな利益があるのか考えてみましょう。
患者さんの利益につながる(ってほしい)
彼らの講習会に参加することで,彼らが推奨する手技や手法を学ぶことができます。その手技や手法が患者さんの治療に効果的ならば,専門職としてこれ以上嬉しい事はありません。多少の出費をこらえて患者さんのために参加することも大切でしょう。
しかし,残念なことに多くの手技や手法 (例えば,骨関節疾患を対象とするものであれば一部の徒手療法,中枢神経疾患を対象とするものであれば神経促通手技など) は,従来型の運動療法や物理療法と比べて有意な改善効果がないことが分かっています。
リハビリ専門職の利益につながる(ってほしい)
仮に患者さんの治療につながらないとしても,彼らの推奨する手技や手法を習得すれば我々の所得が増加するのであれば,それも一つのメリットかもしれません (こういった考え方が医療従事者としてのモラルに反するかどうかの議論もあるかと思いますが,今回は置いておきます) 。
残念な事実ですが,時間やお金をかけて彼らの手技や手法を習得しても我々の所得には何の変化もありません。厚生労働省も効果のない手技や手法に医療費を割くわけがありません。
残念な事実ですが,時間やお金をかけて彼らの手技や手法を習得しても我々の所得には何の変化もありません。厚生労働省も効果のない手技や手法に医療費を割くわけがありません。
意味のある投資を考えよう
われわれリハビリ専門職の所得はけして多いとはいえません。同じ出費をするなら,自分の利益,ひいては患者さんの利益になる出費をして下さい。職能団体 (各専門職の協会) が主催している講習会は,その職種が推奨している内容です。参加費用も安いですし,そちらに積極的に参加されることをお勧めします。
特定の手技や手法を批判しているわけではありません。仮に,その手技手法に患者さんを治療する効果があり,それが証明されているものであれば,積極的に参加するべきだと思いますし,その客観的な治療効果を背景に医療費を割いてもらえるように訴えていくべきだとも思います。
ただ,今現在,それに見合う手技や手法は少ないように思います。彼らの手技がちゃんと基礎医学から構成されているか,彼らが提示した治療効果を示す研究内容が妥当な手順を経て行われたものなのか,今一度,批判的にとらえてみて下さい。意味のある投資をして下さい。
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