膝蓋大腿疼痛症候群 PFPS の特徴と治療法


 膝蓋大腿疼痛症候群 Patellofemoral pain syndrome, PFPS は,変形性膝関節症にならんでセラピストが対応することの多い膝の疾患です(変形性膝関節症に併発することもあります)。また,手術の適用になることが少ないため,いかにして保存療法を行うかが大切になる疾患の一つでもあります。ここではPFPSの特徴と治療法についてまとめます。

PFPSの特徴

 PFPS は,若年〜青年期の若者でスポーツを積極的に行っている人が発症しやすいとされています (Roush et al., Int J Sports Phys Ther. 2012; Biber and Gregory, Pediatr Ann. 2010; Myer et al., Clin Biomech. 2010; Barber Foss et al., J Athl Train. 2012) 。特に,ランナー膝とよばれるくらい,マラソンなどの長距離ランナーに多くみられます。また,男性に比べると女性に多く,その有病率は 8〜40% の間だといわれています (Roush et al., Int J Sports Phys Ther. 2012; Boling et al., Scand J Med Sci Sports. 2010) 。

 膝蓋骨周囲の痛みが主な症状で,多くの場合,階段の昇り降り,ランニング,スクワット,長時間の座位など,膝蓋大腿関節にストレスがかかる動作を行うと誘発されます。病因は不明な点が多いのですが,近位筋や遠位筋の筋力低下や筋活動の不均衡,オーバーユース,軟部組織のタイトネス,アライメント不良,Qアングルの増加,足部バイオメカニクスの不良などが原因だと考えられています (e.g. Bolgla et al., Int J Sports Phys Ther. 2011) 。

PFPS の治療法

 PFPS 治療の第一選択は保存療法だといわれています。過去に手術が適用されてきたこともありますが,最近の研究では保存療法と比べて,有意な効果を示していないようです (Kettunen et al., BMC Med. 2007, Br J Sports Med. 2012) 。PFPS に対して一般的に行われている保存療法を下にまとめました。

PFPS の一般的な保存療法

  • 運動療法
  • 膝蓋骨テーピング
  • 足部の装具
  • 徒手療法
  • 物理療法
  • バイオフィードバック

 この中でも,近位や遠位の筋に対する多様な運動療法に短期的な痛みの改善効果があることが分かっています (Collins et al., Sports Med. 2012)。残念ながら,他の保存療法についてはその有用性があいまいで,さらなる研究が必要とされています。

運動療法における最近の動向

 PFPS に対して唯一エビデンスがある運動療法ですが,どのような方法が効果的なのでしょうか。少し前から膝の安定性を高める (大腿四頭筋の筋力や内側広筋の機能を改善) ような一般的な運動療法によって,多くの患者さんの痛みが軽減することが知られています (Bolgla et al., Int J Sports Phys Ther. 2011; Collins et al., Sports Med. 2012; Heintjes Edith et al., Cochrane Database Syst Rev. 2003) 。

 しかし,こういった一般的な運動療法で全ての患者さんの痛みを軽減できないため,最近では股関節周囲の筋力 (筋機能) に注目が集まっています (Peters and Tyson, Int J Sports Phys Ther. 2013) 。これは,股関節筋群の弱化が動的な運動時に膝蓋大腿関節のストレスにつながるので,そこに焦点をあてて運動療法を試みようとする流れです。つまり,膝関節にのみに焦点をあてるのではなく,近位や遠位の関節機能にも着目し,複合的な介入をしていくべきだということです。当たり前といえば当たり前ですが,こういったことを再認識することは大切だと思います。

まとめ

 PFPS は,膝蓋大腿関節への慢性的なストレスによって生じると考えられていて,男性よりも女性に多く,特に長距離を走るスポーツをやっている方に多い疾患です。治療法としては保存療法が第一選択であり,中でも運動療法がとりわけ重要です。最近では膝関節周囲だけではなく,股関節まで複合的にアプローチすることが大切だと考えられています。最近では様々な系統的文献レビューが行われており,着実にエビデンスが蓄積されています。一方で中には質の低い研究も多いため,しっかりと吟味した上で活用する必要があります。