骨格筋の収縮と弛緩


 われわれは動作を主な対象としてアプローチします。そして動作の源流はやはり筋収縮です。今回は,骨格筋の筋線維がどのように収縮するかについて,その構造やメカニズムを中心に学習しましょう。

骨格筋線維の構造

 まずは骨格筋線維の微細構造を理解することからはじめます。骨格筋線維は多核細胞で,人体ではかなり大きな細胞です。骨格筋線維が束になったものを骨格筋と呼びます。骨格筋線維の内部には筋原線維が集まっています。筋原線維は,太いフィラメントと細いフィラメントがが交互に配列しています。フィラメントの構造についてはアクチンフィラメント系による細胞運動(筋収縮)を参照して下さい。

 太いフィラメントの部分はA帯と呼ばれ,光を通しにくいので暗く見えます。一方で細いフィラメントはI帯と呼ばれ,明るく見えます。I帯の中央にはZ帯があり,隣り合うZ帯の間を筋節といいます(図1)。筋原線維はこの筋節が複数つながったもので,筋節が筋収縮の基本単位となります。骨格筋線維の細胞膜は細胞の内側に入り込む形状の横行小管(T管)があります。このT管に隣接して筋小胞体があり,内部に大量のカルシウムイオンを蓄えています。

 また,骨格筋線維内にはアクチンやミオシンの他にトロポニン,トロポミオシン,タイチン(コネクチン)などいくつかのタンパク質があり,それぞれ筋の収縮や弛緩に重要な役割を担っています。


T管と筋小胞体の活動

 われわれが何か動作をしようと考えた時,錐体路を介して脊髄運動神経細胞へ活動電位が伝わり,そこから運動神経線維を介して筋に情報が伝わります。神経筋接合部を介して筋膜上に活動電位が生じると,その電位はT管内に伝わります。そうするとT管にある電位依存性カルシウムイオンチャネルが開きます。イオンチャネルとはイオンの通り道のようなもので状況に応じて閉じたり開いたりします。

 一方でT管のチャネルに向かい合うように筋小胞体にも別のカルシウムイオンチャネルがあります。T管のチャネルが開くと,筋小胞体のチャネルも開きます。その結果として筋小胞体内腔のカルシウムイオンが細胞質に放出されます。

筋収縮に関わるタンパク質

 細胞質内へ放出されたカルシウムイオンは,トロポニンに結合します。このトロポニンはT,I,Cの3つのサブユニットからなり,それぞれ異なった役割を持ちます。トロポニンTはトロポミオシンと結合して,トロポニンIはアクチンと結合することでアクチンとミオシンの相互作用を妨げます。

 カルシウムイオンと結合するのはトロポニンCで,結合によってトロポニンIの結合作用を抑制して,さらにトロポニンの構造変化を引き起こしてトロポミオシンを移動させます。トロポミオシンは通常アクチンフィラメントにくっついていて,アクチンとミオシンの結合を邪魔しています。カルシウムイオンと結合したトロポニンによってトロポミオシンが移動させられることによってミオシン頭部とアクチンが結合できるようになります。

骨格筋線維の収縮

 これまでの話しをまとめます。骨格筋線維が興奮してから収縮するまでの過程を興奮-収縮連関といいます。興奮とは神経学用語で活動電位が発生することを指します。

 まず,体性運動神経からの活動電位が神経筋接合部を介して骨格筋筋線維の筋膜上に活動電位を起こします。この活動電位が,横行小管(T管)を通って細胞内部に伝わると,T管に隣接した筋小胞体からカルシウムイオンが細胞質に放出されます。

 カルシウムイオンが細い筋フィラメント上にあるトロポニンに結合するとトロポミオシンが移動して,細いフィラメントに構造変化が起きます。その結果,ミオシンの頭部がアクチンと結合できるようになります。アクチンとミオシンの分子間相互作用により,細いフィラメントと太いフィラメントが互いに滑りあい,筋線維は収縮します。


骨格筋線維の弛緩

 収縮した筋は弛緩に向かいます。ここで重要な役割を担うのはタイチン(コネクチン)です。タイチンはバネのような構造でZ帯と太いフィラメントの中央を結んでいます(図1)。このバネの性質は,筋の弛緩時に作用して,収縮によって短縮した筋線維の長さを戻します。

 筋収縮後に細胞質のカルシウムイオンは筋小胞体内に再び取り込まれます。再取り込みにはカルシウムイオンポンプが関与します。細胞質カルシウムイオン濃度が低下してトロポニンからカルシウムイオンが外れると,アクチンとミオシンの相互作用が止まり,タイチンの作用も合わさり筋線維は弛緩するのです。

コメント

 電位からイオンへ情報が伝搬して,最後に動くのはとても小さなフィラメントではありますが,集積することで大きな力を生み出します。生理学は難解ですが動作へのアプローチを対象としている以上,筋骨格系の生理学的な知識はしっかりと身につけておきたいところです。この手の知識は細かく量が多く,一見すると臨床にはつながらないように感じます。しかし,筋線維と同じようにこういった一見すると小さな知識の積み重ねが,われわれに大きな力を与えるのかもしれません。

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