脳卒中患者の基本動作評価指標

 脳卒中患者に用いる評価指標はたくさんあります。なかでもSIASやNIH Stroke Scale (NIHSS) などの総合機能評価,Functional Independence Measure (FIM) やBarthel Index (BI) などに代表されるようなADL能力評価指標が一般的に使用されています。一方で理学療法士が対象とするような基本動作についてどのような評価指標があるかご存知でしょうか。今回は脳卒中患者の基本動作能力評価が含まれる2つの評価指標について概要,信頼性および妥当性についてお話します。

Moter Assessment Scale (MAS)

概要

 MASは,寝返り,起き上がり,座位保持,起立,歩行の5つの基本動作に加え,3つの上肢機能を加えた,計8項目からなります。各項目は6段階に分けられていて,患者の動作回復にそった内容になっています。検査時間は慣れてくると10〜15分程度ですが,いくつか細かな用具が必要になります。

信頼性

 慢性期脳卒中患者において再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)が確認されています。また,慢性期と急性期脳卒中患者において検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)が得られています。現状では検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果に得られるかどうか)や内的整合性は確認されていないようです。

妥当性

 内容的妥当性(評価したいことを評価できているか)についてはCarrとShepherdら (1985) の長年の経験と計測に基づいて作成されているため問題ないそうです。座位保持を除く基本動作4項目についてはFMAの各項目と関連(相関)しています(基準関連妥当性と呼びます)。MASの座位保持とFMA座位項目との関連が低い背景には,MASが動的な座位保持能力を評価しているのに対してFMAは静的な座位保持能力を評価している点が挙げられています。

コメント

 MASについてまとめたものを表にしましたので参照下さい(Table1)。MASは基本動作を全て含んでおり,歩行項目には段差(階段)昇降の評価もあります。評価時間も15分程度と短く,勘弁に行えることがメリットです。項目別に妥当性を検討しているので,項目を絞って評価することも可能です。MASは何度か改定されてますので,利便性も向上しています。床・天井効果がみとめられますが,天井に達したころには基本動作はほぼ自立されているでしょう。歩行については別の評価指標が充実しているのでMASにこだわる必要はないと思います。ただし,臨床で用いていると6段階の順序には再考の必要な点も見受けられます。

Table1

対象
脳卒中患者
項目数
8
項目内容
Rolling,Lie to sit,Balanced sitting,Sit to stand,Walking,Upper arm function,Hand movements,Advanced hand activities
検査時間
15分程度
必要な道具 ストップウォッチ,ジェリービーンズ8個,ポリスチレンカップ,ラバー (ゴム) ボール,椅子,櫛,スプーン,ペン,ティーカップ2個,水,線描画用紙,円筒状のビン,テーブル
日本語化 Roling,Lie to set,Balanced sitting,Sit to stand,Walkingの5項目のみ標準理学療法評価学で日本語化されている(学術雑誌では渉猟した限りない).
カットオフ値
なし
床/天井効果
あり:発症後3日〜6.4年 (Sabari et al., 2005) or 4日〜193日 (Miller et al., 2010)
臨床的有意性
測定の標準誤差:確立されていない
最小可変検変化量:確立されていない
臨床的に意義のある最小変化量:確立されていない
信頼性
再試験信頼性:慢性期脳卒中患者で良好な再試験信頼性あり (Carr et al, 1985)
検者内信頼性:慢性期と急性期脳卒中患者で良好な検者内信頼性あり(Carr et al, 1985)
検者間信頼性:確立されていない
内的整合性:確立されていない
妥当性
表面的妥当性:確立されていない
内容的妥当性:Carr とShepherdら (1985) の長年の経験と計測に基づいて作成
基準関連妥当性:急性期脳卒中患者でFugl-Meyer (FMA)と関連する (Malouin et al, 1994)
 ・FMA total scoresと良く関連する (r = 0.96, not including general tonus items)
 ・ MAS 項目と類似するFMA 項目で良好に関連 (r = 0.65 to 0.93)
 ・座位バランスはMASとFMAで関連しない (r = -0.10)
構成概念妥当性:急性期脳卒中患者で検討あり (Tyson & DeSouza, 2004)

Rivermead Motor Assessment (RMA)

概要

 RMAは粗大機能,下肢と体幹,上肢の3セクションからなり,それぞれに機能障害と能力障害の評価が含まれます。各セクションはさらに粗大機能10項目,下肢体幹13項目,上肢15項目に分かれます。これらの項目は0か1の2段階で評価します。基本動作については粗大運動や下肢と体幹セクションに座位保持や起居動作,移乗動作,歩行に加えて走行まで含まれています。評価時間はだいたい45分程度で,この評価指標でもいくつかの用具が必要です。

信頼性

 急性期脳卒中患者において再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)が,粗大機能と下肢と体幹セクションのみ検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果に得られるかどうか)が確認されています。内部整合性も得られていますが,一方で検者内信頼性については明らかではありません。

妥当性

 内容的妥当性(評価したいことを評価できているか)についてはGuttman尺度で確認されています。また,基準関連妥当性についてはBI得点と関連(相関)しています。発症後6時点で週粗大機能に含まれる歩行項目の得点が低いと,18ヶ月後に歩行が獲得できないことも予測できるそうです。さらに構成概念妥当性についてもいくつかの研究で確認されています。

コメント

 FMAについてまとめたものを表にしましたので参照下さい(Table2)。MASと同様に基本動作を全て含んでおり,歩行項目には走行も含まれています。しかし,評価時間が45分程度と長いため実用的ではないかもしれません。評価尺度も2段階評価で回復段階を反映するには不十分な印象です。実際,RMAに対して批判的な文献も多くあり,使用には注意が必要です。

Table2

対象
脳卒中患者
項目数
粗大機能:10,下肢と体幹:13,上肢:15
項目内容
項目数が多いので外部URLを参照(Rivermead Motor Assessment)
検査時間
45分程度
必要な道具 20センチメートルの高さのブロック,鉛筆,バレーボール,テニスボール,紙切れ,フォークとナイフ,プレートと容器(容器としてパテのボックスを使用),豆袋,コー​​ド,パテ,クロノメーター,ノンスリップマット
日本語化 されていない
カットオフ値
なし
床/天井効果
天井効果あり:ただし外傷性脳損傷患者を対象にしたもの (Williams et al., 2006)
臨床的有意性
測定の標準誤差:確立されていない
最小可変検変化量:確立されていない
臨床的に意義のある最小変化量:確立されていない
信頼性
再試験信頼性:急性期脳卒中患者において再試験信頼性あり (Lincoln and Leadbitter,1979)
検者内信頼性:確立されていない
検者間信頼性:粗大機能,下肢と体幹セクションにおいてのみあり (Lincoln and Leadbitter,1979)
内的整合性:確立されている(Kurtais et al., 2009)
妥当性
表面的妥当性:確立されていない
内容的妥当性:Guttman尺度で確認されている (Lincoln & Leadbitter, 1979)
基準関連妥当性:Barthel Inedxのスコアと良好に相関する (Endres et al, 1990)
 ・発症初期 (r = 0.84) ,1ヶ月後 (r = 0.78),1年間後 (r = 0.63)
構成概念妥当性:いくつかの研究で検討あり (Collin & Wade, 1990; Soyuer & Soyuer, 2005; Sackley & Lincoln,1990; Kurtais et al., 2009)

まとめ

 私は寝返りや起き上がりなどの基本的な動作はFIMやBIにも含まれていないため個別に評価する必要があると考えています。今回ご紹介したMASとRMAいずれも基本動作項目を全て含んでいます。一方で,MAS,FMAいずれもまだまだ信頼性や妥当性に乏しく,日本語化も充分すすんでいません。今後の発展に注目です。MAS,FMAのユーザーガイドのPDFを貼り付けておきますのでもし勉強される方はご自由にどうぞ。

Motor assessment scale PDF
Rivermead Motor Assessment PDF

評価の特徴や方法(評価指標一覧)