ホメオスタシス: 恒常性と健康


こんにちはCharcot(@StudyCH)です。

人の健康と病気を理解する上で、ホメオスタシス homeostasis(恒常性あるいは定常性ともいわれる)を理解することが重要です。

ホメオスタシスとは生物の体内の環境を一定に保とうとする性質のことで、われわれが日常で生活する中で常に作用しています。

例えば、気温や湿度が高くなった際に汗をかいて体温を下げる、食後に血糖値を一定に保つためのホルモンが放出される、などが生体に働くホメオスタシスの一例と言えます。

この記事ではホメオスタシスについてその概念や調整系について説明して、さらに健康や病気との関係について述べたいと思います。

生体の外部環境と内部環境

われわれのからだを構成している細胞の中で、外界の空気や水と直接接触しているのは皮膚や粘膜の細胞だけで、ほかの細胞は皮膚や粘膜で遮断された細胞外液と呼ばれる液体の中で生活しています。

からだの外の環境を外部環境と呼ぶのに対し、この細胞外液で隔てられた環境は、からだを構成するほとんどの細胞の生活環境となっているところから、「内部環境」と呼ばれます。

この内部環境という概念は、19世紀のフランスの生理学者クロード・ベルナールによって初めて提唱されたと言われています。

ホメオスタシス:内部環境を保つこと

クロード・ベルナールは「生命現象はいろいろな姿で現れるが、結局は、内部環境を一定に保つという唯一の目的しか持っていない」と言いました。

細胞は環境の変化にきわめて敏感なので、すべての細胞が正常な機能を営むためには、内部環境の条件、すなわち、浸透圧、pH、電解質組成、ガス組成 (酸素と二酸化炭素) 、温度などが常に最適の状態に保たれなくてはいけません。

われわれのからだを構成する細胞や器官が、内部環境の恒常性維持という l つの目的に向かってはたらくためには、個々の細胞や器官のはたらきを協調させ統御する機構が必要になります。これらの統御は神経系、内分泌系によって行われています。

ウォルター・キャノン (1929) はベルナールの考え方を神経と内分泌に関する多くの実験を通して発展させ、生体内の各器官の相互連絡および統御機構のはたらきにより、生体の内部環境が一定に保たれていることを「ホメオスタシス」と呼びました。

ホメオスタシスによる動的平衡

ホメオスタシスの定義は、変化する環境の中で、生体の生理的平衡 (浸透圧、pH、電解質組成、ガス組成、温度など) が保たれている状態を言います。

これは別な言い方をすると、生体では「動的平衡」が成り立っているということになります。

動的平衡とは、例えを挙げると細胞膜を挟んだそれぞれのイオンは平衡状態ではなしそれぞれの方向にイオンが移動していますが、このイオンの動きの収支決算である静止膜電位は安定している、といったようなことをいいます。

ホメオスタシスを維持するシステム

ホメオスタシスを維持するためには、自律神経系、内分泌系の2つのシステムが協調して、各細胞や器官のはたらきを統御する必要があります。

自律神経系は、交感神経系と副交感神経系とがあり、それぞれは拮抗する関係にあるため、それらの緊張を調整しながら、体温、心拍や呼吸を調整して内部環境の維持に務めます。

内分泌系は、ホルモン(化学物質)をつくって分泌することにより体の様々な機能の調節や制御を行う腺や器官の集まりで、体液に乗ってからだを循環するため、自律神経系より長い期間の内部環境の調整に関与します。

もう一つ外部環境から内部環境への侵入者を排除する仕組みに「免疫系」があります。唾液や咳などの異物の侵入を防ぐ機構や、マクロファージや好中球、B細胞、T細胞などの免疫細胞の働きも免疫系に該当します。

これら複数の系が協働して内部環境の維持に働いています。

病気になるということ

われわれが個体として生命を維持していくためには、このホメオスタシスを保つことが必要です。しかし、感染であったり、免疫異常などの原因により、体内のホメオスタシスが著しく乱されることがあります。このような状態を病気になるといいます。

ホメオスタシスの乱れが生体の自動調節機構(これをホメオスタシス機構といいます)の能力の範囲内にあれば病気から回復できますが、自動調節機構の能力の範囲を超越して体内のホメオスタシスが乱れた場合、あるいはその能力に破綻をきたした場合には死に至ることになります。

ホメオスタシスの維持を助ける

われわれ医療従事者は、「患者さんが治癒する」ということは、患者さん自身のホメオスタシス機構が内部環境を保てるように働いた、つまり、患者さん自らが病気を治すのだということを意識する必要があります。

手術、投薬、食事療法や運動療法は、その手助けをするにすぎないと考えています。手助けをする際には、その介入が他の内部環境の平衡状態を崩す結果とならないか、よく考える必要があるのではないでしょうか。

それでは皆さまの健康を願って。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best。

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