パーキンソン病患者に対する歩行練習の効果


 パーキンソン病になると上手く歩けなくなり,転倒リスクや生活の自立度が下がります。このような歩行障害に対する治療としては薬剤調整が第一選択肢ですが,リハビリテーションが適応となることもあります。ここでは,パーキンソン病の歩行障害と,歩行練習が果たす役割について説明します。

パーキンソン病患者の歩行障害

 パーキンソン病患者は運動が緩慢になり,歩行開始が困難(すくみ足)になります。また,歩幅が短く,ひきずるように歩きます(小刻み歩行)。歩行姿勢は屈曲姿勢(膝関節,股関節,体幹が軽度屈曲位)で,腕の振りも減少します。

 同年齢の健常者と比べると歩行率が多く,重複歩距離が短くなることが報告されています (Morris et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 1994)。また,重複歩距離の減少は前進よりも後ろ歩きの方が重度で (Hackney & Earhart, Mov Disord 2008),方向転換時にも影響を与えます (Huxham et al., Mov Disord 2008)。

 パーキンソン病患者にみられるこれらの歩行障害は,疾病の進行とともに重症化して,転倒が増加したり,日常生活動作の自立度に影響を与えます。特に重複歩距離の減少は,方向転換時などの転倒リスクに大きく関与していると考えられます。

歩行練習の果たす役割

 パーキンソン病患者に対する歩行練習の主な目的は「重複歩距離の増加」となります。重複歩距離の増加によって歩行速度を上げて,方向転換時の不安定性を取り除くことが転倒リスクを減少させるために大切になります。

 複合的なリハビリテーションプログラムが重複歩距離を増加させることが分かっています。キューイング戦略を用いた6週間の平地歩行練習と筋力増強練習,関節可動域練習,バランス練習を組み合わせたプログラムで,歩行速度と重複歩距離が増加することが報告されています (Ellis et al., Arch Phys Med Rehabil 2005)。同様に3週間のプログラムでも同じ結果が得られています (Nieuwboer et al., J Neurol Neurosurg Psychiatry 2007)。

 一方で,重複歩距離を増加させるための最適なプログラムについてはまだよく分かっていません。実際,パーキンソン病患者の歩行障害は,複雑な歩行条件下で著しく悪化します。したがって,二重課題,後ろ歩き,狭い環境での方向転換,あるいは障害物の回避などの条件を組み合わせて歩行練習を行う必要がありそうです。


トレッドミルトレーニングの有効性

 最近,パーキンソン病患者に対してトレッドミルトレーニングを行うことで歩行障害が一部改善することが示されてきています。トレッドミル歩行は,強制的に律動的な歩行を行わせるため,パーキンソン病患者の歩行リズムを改善させる可能性を秘めています。

 トレッドミルトレーニングは即時的に歩行障害を改善することが分かっています。軽度から中等度のパーキンソン病患者に対して,一度だけトレッドミルトレーニングを行わせたところ,歩行速度と重複歩距離が改善したと報告されています (Pohl et al., Arch Phys Med Rehabil 2003)。この効果は重度患者でも検討されていて (Bello et al., Mov Disord 2008),重症度にかかわらずトレッドミルトレーニングが歩行改善に有効である可能性を示しています。

 実際,いくつかのランダム化比較試験によって長期間のトレッドミルトレーニングによる歩行障害の改善効果が確かめられてます。4週間から12週間の介入によって,対照群に比べて,介入群では歩行速度や歩行距離が増大することが報告されています (Miyai et al., Arch Phys Med Rehabil 2000; Protas et al., NeuroRehabilitaion 2005; Cakit et al., Clin Rehabil 2007; Canning et al., Mov Disord 2008)。

 トレッドミルトレーニングを安全に行うためにはそれ相応の設備が必要で,多くの研究ではハーネスを着用して安全性を保ち,必要に応じて免荷もしているようです。パーキンソン病患者のほとんどは自宅で生活されているため,ホームプログラムとしてトレッドミルトレーニングを実施するためには環境面で高いハードルがありそうです。

まとめ

 パーキンソン病になると典型的な歩行障害が出現します。これによって転倒リスクが高まったり,生活の自立度が下がったりします。歩行障害で主な問題となるのは重複歩距離の減少です。そのため歩行練習は重複歩距離の増加を目的に行います。最近ではトレッドミル歩行練習が注目されていて,その効果も徐々に明らかになってきました。パーキンソン病患者の歩行障害は,歩行環境に大きく左右されるため,環境に応じたアプローチが必要になると考えられます。