Functional Reach Test (FRT)


 Functional Reach Test (FRT,ファンクショナルリーチテスト) は,評価対象者の安定性(あるいはバランス)を評価する指標です。とても簡便な評価方法で,多くの臨床現場で用いられてきました。以下にその目的,方法および特性(信頼性や妥当性など)について説明します。

評価の目的と対象

 FRTでは,立位で前方でリーチできる最大距離を測ることで,患者さんの安定性を評価します。これまで,地域高齢者,脳卒中患者,パーキンソン病患者,脊髄損傷患者,前庭障害患者などに用いられてきました。

評価の方法

評価の手順

  1. 患者は足を閉じて(ただし両足が触れない程度),壁を横にして立ちます
  2. 壁側の上肢を肩関節90度屈曲位,手は軽く握り拳を作ります
  3. 評価者は患者の第3中手骨頭を目安に開始位置を定めます
  4. 評価者は「足を前に出すことなく,できるだけ前方にリーチして下さい」と患者に指示します
  5. 評価者は患者が最大限にリーチした状態で,第3中手骨頭の位置を記録します
  6. 評価者は開始位置と終了位置の差を図ります
  7. 三回テストを行い,最後の二回の平均値を求めます
参考文献:Weiner, D. K., et al. J Am Geriatr Soc 1992.

図 Functional Reach Testの測定方法

使用する物品と環境

  • 物差し(距離を測定するため)
  • テープ(壁に目印を付けるため)
  • 平坦な壁に面した環境

評価にかかる時間

 5分程度で評価が終了するといわれています。

評価の特性

床・天井効果

 渉猟した限り確認されていません。

カットオフ値

(1) 地域高齢者

 7インチ(17.78cm)未満の高齢者は,介助なしに近所を離れることができず,移動能力やほとんどの日常生活動作能力に制限がある (Weiner et al., J Am Geriatr Soc 1992)。

(2) 虚弱高齢者

 18.5cm未満の高齢者は,転倒リスクが高い (感度75%,特異度67%,Thomas et al., Arch Phys Med Rehabil. 2005)。

(3) 脳卒中片麻痺患者

 15cm未満で転倒リスクが高い (Acar & Karats, Gait Posture 2010)。

(4) パーキンソン病患者

 31.75cm未満で転倒リスクが高い (感度86%,特異度52%,Dibble & Lange, J Neurol Phys There 2006)。

信頼性

(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 地域高齢者で優れた再試験信頼性が確認されています (Weiner et al., J Am Geriatr Soc 1992 ; Duncan et al., J Gerontol 1990 )。また,パーキンソン病患者でも優れた再試験信頼性が確認されています (Schenkman et al., Phys Ther 1997 ; Smithson et al., Phys Ther 1998)。

(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 健常成人 (Bennie et al., Journal of Physical Therapy Science 2003),虚弱高齢者 (Thomas et al., Arch Phys Med Rehabil. 2005),亜急性期脳卒中患者 (Outermans et al., Clin Rehabil 2010),パーキンソン病患者 (Lim et al., Parkinsonism Relat Distord. 2005),前庭障害患者 (Mann et al., J Vestib Res. 1996)で検者間信頼性が確認されています。

(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 健常成人 (Bennie et al., Journal of Physical Therapy Science 2003),虚弱高齢者 (Thomas et al., Arch Phys Med Rehabil. 2005),パーキンソン病患者 (Lim et al., Parkinsonism Relat Distord. 2005) で検者内信頼性が確認されています。

(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)

 渉猟した限り確認されていません。

妥当性

(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)

 健常成人でBBSと適切な相関があることが確認されています (Bennie et al., Journal of Physical Therapy Science 2003)。地域高齢者で歩行速度,タンデムウォーク,移動能力,片脚立位,ライフスペース,IADLと適切な相関があることが確認されています (Weiner et al., J Am Geriatr Soc. 1992)。

(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)

 パーキンソン病患者では,これまで転倒経験がある群と転倒経験がない群で,FRTの距離が有意に異なっていることが多数の報告で確認されています (Dibble & Lange, J Neurol Phys Ther. 2006 ; Smithson et al., Phys Ther. 1998 ; Kerr et al., Neurology 2010)。

(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)

 渉猟した限り確認されていません。

(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)

 亜急性期脳卒中患者で確認されています (Outermans et al., Clin Rehabil. 2010)。

まとめ

 Functional Reach Test (FRT,ファンクショナルリーチテスト) は,立位で前方でリーチできる最大距離を測定して,患者さんの安定性(バランス)を評価します。この評価方法は必要な物品も少なく,簡便で使いやすいものです。信頼性,妥当性の検討は,健常成人や高齢者を対象としたものが多く,様々な疾患に適しているかは不明です。FRTは立位で測るため,重度の機能障害を持たれた方には用いにくいのかもしれません。

 この問題を修正したModified Functional Reach Test (MFRT) が開発されています。この評価は,座位で測定するため立位困難な重度機能障害を持たれた患者さんにも適用しやすくなっています。MFRTについては今後この記事に追記するか,あるいは別の記事で紹介したいと思います。

評価の特徴や方法(評価指標一覧)