関節可動域運動(Range of motion exercise, ROM exercise) は,関節可動域制限の発生を予防したり,または改善したりするためのリハビリテーションアプローチの一つです。実際の臨床現場では,関節可動域訓練や関節可動域練習などと呼ばれることもあります。この記事では,関節可動域運動の目的やその種類について詳しく説明します。
関節可動域運動の目的
関節可動域運動の目的は,大きく関節可動域制限の「予防」と「改善」に分けることができます。以下にその詳細をまとめます。
関節可動域制限の予防
関節可動域制限は主に不動によって生じると考えられています。例えば,脳卒中急性期でベッド上安静が強いられる場合や,整形外科疾患の術後やギブス(シーネ)固定中である場合には,不動によって関節可動域制限(拘縮)が発生する危険性が高まります。その際,リハビリ介入として関節可動域運動を行うことで,関節可動域制限の発生を防ぐことができます。
関節可動域制限の改善
不動あるいは何らかの発生要因で関節可動域制限が生じてしまった後に,関節可動域を拡大することを目的に関節可動域運動を行うことがあります。可動域を拡大することによって,関節可動域制限により行えなかった動作を獲得することが主な目的です。関節可動域制限の原因によっては,関節可動域を拡大することが困難な場合もあります。
関節可動域運動の種類
関節可動域運動はいくつかの切り口で分類することができます。例えば,運動を起こす主体(誰が関節可動域運動を起こすか)によってや,関節可動域運動を行う対象部位(筋,関節包など)で分けることができます。
運動を行う主体に応じた分類
(1) 他動的関節可動域運動
他動的関節可動域運動は,医療従事者が他動的(徒手的)に関節を動かす方法です。他動的関節可動域運動では,関節可動域制限の因子によっては患者さんが本来そなえている関節可動域以上の運動を起こすことが可能です。そのため,関節可動域制限の改善に適した運動であるといえます。
(2) 自動的関節可動域運動
自動的関節可動域運動は,患者さん自身が自分の筋力を用いて随意的に関節を動かす方法です。この運動では,患者さんが本来そなえている関節可動域を越えることはありえません。そのため,関節可動域制限の改善よりは,関節可動域制限の予防に適しています。外科領域の手術後に拘縮予防を目的とした自主練習としてよく用いられます。
(3) 自動介助関節可動域運動
自動介助関節可動域運動は,患者さんが随意的に関節を動かす際に介助を加える方法です。この運動は,患者さんが自分の力で関節を動かせない際に用いられます。例えば,片麻痺の患者さんが非麻痺則の上肢で麻痺側の上肢を動かす場合がこの運動に相当します。この運動もまた,関節可動域制限の改善より,予防に向いている運動です。この運動には副次的効果として筋力増強効果もあります。
対象部位による分類
(1) 筋伸張法(ストレッチング)
筋伸張法は,最も一般的な関節可動域運動です。この方法はでは,伸張性の低下した筋群に対して,筋を伸張させることで関節可動域制限の改善を図ります。この運動には,Ib抑制によって筋緊張を低下させる効果があります。そのため,筋緊張が原因の関節可動域制限の場合は著効することがあります。
(2) 関節モビライゼーション
関節モビライゼーションは,関節窩に対する関節頭の動きに焦点を当てた手技です。この運動には,関節の副運動を改善する効果があります。関節窩に対する関節頭の動きには,凹凸の法則が当てはまるとされてきました。一方で,関節によっては凹凸の法則が当てはまらないとする研究成果もあるため,手技の施行には注意が必要です。
まとめ
関節可動域運動の目的には,関節可動域制限の改善や予防があります。また,関節可動域運動は,運動を起こす主体や対象とする部位で分類することができます。関節可動域運動はリハビリテーションにおける最も一般的なアプローチです。われわれはとりあえず関節可動域運動を行うのではなく,その目的と目的達成に必要な方法を明確に判断した上で,個々の患者さんへ用いなくてはなりません。
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