関節可動域運動の目的と種類:動かせば拘縮は防げるのか

関節可動域運動の目的と種類:動かせば拘縮は防げるのか

軟骨を貫く穴をあけた若いウサギの膝を機械で休みなく動かし続けると、3週間後には52%の穴が本来の軟骨と同じ硝子軟骨でふさがっていました。膝を固定した群では8%でした(Salterら 1980)。ところが、人工膝関節置換術を受けた1,445人のデータをまとめたHarveyら(2014)のCochraneレビューでは、同じように機械で関節を動かし続ける持続的他動運動が、手術後しばらくの時点で自分で膝を曲げられる角度を広げたのは、2°だけでした。

脳卒中で入院した患者さんの麻痺した肩を、毎朝10回ずつ、ゆっくり外へ回している場面を考えてみます。肩が固まらないようにと続けてきた運動ですが、1か月後に測ってみると、外へ回る角度は少しずつ減っていました。この10回は、肩に何をしていたのでしょうか。

このように関節を動かして、動く範囲を保ったり広げたりするリハビリテーションの方法を、関節可動域運動(range of motion exercise、ROM運動)と呼びます。臨床では、関節可動域練習や関節可動域訓練とも呼ばれます。

関節可動域運動の要点

  • 目的:関節の動く範囲を保つこと(予防)と、広げること(改善)
  • 他動・自動介助・自動:誰の力で関節を動かすかによる分け方。他動運動なら筋力がなくても動かせるが、関節が他動で動く範囲を超えて動かせるわけではない
  • ストレッチで角度が増える理由:1回のストレッチや3〜8週間のストレッチの研究では、筋が長くなったり柔らかくなったりしたのではなく、伸ばされる感覚に耐えられるようになった(伸張耐性が上がった)ためと考えられている
  • 人での効果:7か月未満のストレッチでも、膝の人工関節の手術後の持続的他動運動(CPM)でも、動く範囲は臨床的に意味のある大きさまで広がらなかった
  • 関節モビライゼーション:滑らせる方向を決める凹凸の法則は、肩では当てはまらない可能性を示す結果が出ている(根拠はまだ限られる)

目的は「保つ」ことと「広げる」こと

関節の動く範囲が狭くなる原因には、筋が短くなる、関節包が硬くなる、痛みで筋が緊張する、といったものがあります(くわしくは「関節可動域制限の定義と原因:止めているのは筋か、関節か」)。関節可動域運動の目的は、まだ制限が起きていない関節で動く範囲を保つこと(予防)と、すでに狭くなった範囲を広げること(改善)に分けられます。ギプス固定中や手術後、麻痺でベッド上の生活が続くときには予防が、固まってしまった関節には改善が目的になります。

ただし、目的を立てることと、その目的が達成されることは別の問題です。あとで見るように、人を対象にした研究では、予防でも改善でも、期待されていたほどの効果は確かめられていません。まず方法の種類を整理しておきます。

誰が動かすか:他動・自動介助・自動

関節可動域運動は、関節を動かす力が誰から来るかで3つに分けられます(図1)。

他動運動では、療法士や機器が関節を動かし、患者さん自身の筋はできるだけ力を抜いています。麻痺や強い筋力低下があっても、手術後に筋を収縮させてはいけない時期でも行えるのが利点です。ただし、他動運動で動かせるのは、関節が他動で動く範囲(他動可動域)までです。その範囲を超えて広げようとすると、動きの端で組織を引き伸ばすことになり、これはストレッチにあたります。

自動運動では、患者さんが自分の筋の力で関節を動かします。筋の収縮が加わるので、動く範囲を保つことに加えて、筋を使う練習にもなります。ふつうは、自分の力で動かせる範囲(自動可動域)は、他動可動域より小さいか、同じです。自動介助運動は、患者さんが筋を収縮させながら、足りない力を療法士や器具が補う方法で、筋力が弱くて自分だけでは動かしきれないときに使います。

分け方は「誰が運動を行うか」ではなく、「その関節を動かしている力がどこから来るか」で考えると混乱しません。たとえば片麻痺の患者さんが、麻痺していない側の手で麻痺した腕を持ち上げる運動は、本人が行う運動です。それでも、麻痺した側の筋が働いていなければ、その肩にとっては他動運動です。

肘を曲げる運動を例に、他動運動では療法士の手が前腕を動かし本人の筋は収縮しない、自動介助運動では本人の上腕二頭筋が収縮しながら療法士の手が足りない力を補う、自動運動では本人の筋の力だけで動かすことを示した図

図1 関節を動かす力による3つの分け方(肘の屈曲の例、模式図)

働きかける組織で分けることもできます。筋と腱を伸ばすストレッチ、関節包や靱帯に働きかけて関節面の滑りを引き出す関節モビライゼーション、そして機械で関節を動かし続ける持続的他動運動(continuous passive motion、CPM)です。CPMは、ある整形外科医が考え出し、動物実験で確かめた方法です。

1970年、Salterの「動かし続ける」という発想

カナダの整形外科医Robert B. Salterは、1970年に、関節を機械で休みなく動かし続けるCPMという考えにたどり着きました(Salter 1989)。軟骨には血管がなく、栄養は関節液から受け取ります。関節を動かすことで、傷ついた軟骨の治り方は変わるのか。Salterらはこれを動物で確かめました。

1980年に報告された実験で、Salterらは120羽の若いウサギの膝に、軟骨を貫いて軟骨下骨まで達する穴を480か所あけ、膝を固定する群、間欠的に自分で動かす群(間欠的な自動運動)、機械で動かし続ける群(CPM)に分けました。3週間後、穴が本来の軟骨と同じ硝子軟骨でふさがっていた割合は、固定群で8%、間欠的に動かした群で9%だったのに対し、CPM群では52%でした。成熟したウサギでも、3%、5%、44%と同じ傾向でした(Salterら 1980)。Salterは1978年に技術者と協力して人に使うCPMの装置を開発し、CPMは手術後のリハビリテーションに広まっていきました(Salter 1989)。

ウサギの膝軟骨にあけた穴が3週間後に硝子軟骨でふさがっていた割合。若いウサギでは固定8%、間欠的に自分で動かした群9%、持続的他動運動52%。成熟したウサギでは3%、5%、44%

図2 ウサギの膝軟骨の穴が3週間後に硝子軟骨でふさがっていた割合(Salterら 1980をもとに作成)

人の膝では2°だった

では、人の手術後にCPMを使うと、膝はよく曲がるようになるのでしょうか。Harveyら(2014)のCochraneレビューは、人工膝関節置換術を受けた人を対象にした24のランダム化比較試験、1,445人のデータをまとめました。手術後しばらくの時点で、CPMを使わなかった群の自動での膝の屈曲角度は平均78°で、CPMはこれを2°(95%信頼区間0〜5°)広げただけでした。それより後の時点でも、根拠の質は下がるものの、効果は同じように小さいものでした。CPMを使うと麻酔下での授動術が必要になる人が減る可能性も示されましたが、その根拠の質はとても低いものでした。著者らは、CPMは自動での膝の屈曲角度、痛み、機能、生活の質に臨床的に意味のある効果をもたらさず、決まりきった使い方をする理由にはならないと結論しています。

ウサギの実験と人の研究とでは、問われていたことが違います。ウサギで調べたのは軟骨の穴の治り方で、人の研究で調べたのは膝の曲がる角度でした。動物で見えた「動かすことの効果」が、人では別の結果の指標にそのまま現れるとは限りません。

ストレッチで角度が増えるのは、筋が伸びたからか

ストレッチをすると、その場で関節がよく動くようになります。この変化は、筋そのものが伸びやすくなったことを意味するのでしょうか。

Magnussonら(1996)は、健康な7人に3週間、ハムストリングスのストレッチを続けてもらい、膝を伸ばしたときに筋が生む抵抗(他動的なトルク)を、トレーニングの前後で測りました。同じ角度まで伸ばしたときの硬さ、吸収されるエネルギー、抵抗の大きさは、トレーニングの前後で変わりませんでした。一方で、痛みが出るところまで伸ばしてもらうと、動く範囲は広がっていました。著者らは、トレーニングで動く範囲が広がったのは、筋の機械的な性質が変わったからではなく、伸ばされることに耐えられるようになったため(伸張耐性の向上)だと結論しています(図3)。WepplerとMagnusson(2010)も研究をまとめ、1回のストレッチの直後や3〜8週間のストレッチで見られる変化は、感覚の変化によることを多くの研究が示している、とまとめています。8週間より長いストレッチで組織が変わるかどうかは、まだ調べられていないとしています。

膝を伸ばす角度と、ハムストリングスが生む抵抗の関係を示す曲線。トレーニングの前後で曲線は同じで、トレーニング後は同じ曲線の上をより大きな角度と抵抗まで我慢できるようになったことを示した模式図

図3 ストレッチで動く範囲が広がるしくみ(Magnussonら 1996をもとにした模式図):抵抗の曲線は変わらず、止める位置だけが先へ進む

ストレッチで筋がゆるむ理由として、ゴルジ腱器官によるIb抑制が挙げられることがあります。しかし、この説明を支える実験の結果は乏しいことが分かっています(「ゴルジ腱器官とIb抑制:「筋を守る安全装置」は本当か」)。

拘縮のある人や、拘縮が起こりそうな人ではどうでしょうか。Harveyら(2017)のCochraneレビューは、拘縮の治療や予防のためのストレッチを調べた49研究、2,135人のデータを統合しました。調べられたストレッチの時間は1日5分から24時間(中央値420分)、期間は2日から7か月(中央値35日)でした。神経疾患のある人では、最後のストレッチから1週以内の効果が平均2°(95%信頼区間0〜3°)で、神経疾患のない人でも効果はごく小さいものでした。著者らは、7か月未満のストレッチは、神経疾患の有無にかかわらず、関節の動く範囲に臨床的に意味のある効果をもたらさないという、質の高いエビデンスがあると結論しています。7か月より長いストレッチは調べられていません(数値のくわしい読み方は「関節可動域制限の定義と原因」で紹介しています)。

脳卒中の肩で確かめられたこと

脳卒中で麻痺した肩を毎朝動かす場面に近い状況を調べた小さな試験が、いくつか報告されています(表1)。Adaら(2005)は、発症から20日以内の脳卒中の人に、麻痺した肩をできるだけ外へ回した位置と、90°前に上げた位置に、それぞれ1日30分、週5日、4週間保つ練習を加えました。外旋位に保った方向では制限ができる程度が小さくなりましたが、屈曲位に保った方向では制限を防げませんでした。de Jongら(2006)の試験でも、1回30分、1日2回、週5日、5週間、肢位を保つ練習を加えると、肩の外転の制限の進み方が遅くなりました(−5.3°対−23°)が、ほかの方向には差がありませんでした。一方、TurtonとBritton(2005)は、手首と肩をそれぞれ1回30分、1日2回、伸張する肢位に保つ方法を最長12週まで試しました。4〜8週に実施できたのは、処方された56回のうち31〜37回で、群のあいだに差はなく、発症後8週までに、どちらの群でも手首の伸展と肩の外旋が平均約30°失われていました。

研究加えた方法と結果
Adaら
2005年
31人
肩を外旋位と屈曲90°の位置に、それぞれ1日30分、4週間保った。
→外旋の制限が小さくなった。屈曲では差がなかった
de Jongら
2006年
17人
麻痺した腕を拘縮予防の肢位に、30分を1日2回、5週間保った。
→外転の制限の進み方が遅くなった。ほかの方向は差がなかった
TurtonとBritton
2005年
25人
手首と肩を伸張する肢位に、それぞれ30分を1日2回、最長12週保った(実施できたのは処方の約6割)。
→差がなかった。どちらの群も約30°失った

表1 脳卒中後の腕の拘縮を防ぐ方法を調べた小規模なランダム化比較試験

どれも数十人の試験で、結果もそろっていません。肢位の保持でも、効果が出た試験と出なかった試験があります。それでも、どの試験も1日に30分から1時間以上の時間をかけていました。麻痺した肩を外へ回す「毎朝10回」は、これらの試験やCochraneレビューで調べられた量よりはるかに少ない量です。マウスの筋を短い位置に固定した実験では、2日に1回15分の伸張は筋の結合組織の変化を防いだものの、筋線維が短くなるのは防げませんでした。1日30分の伸張では、サルコメアの減少も防げました(Williams 1988、Williams 1990)。Cochraneレビューで調べられたほどの量でも臨床的に意味のある効果がなかったことを考えると、1日数分の運動で拘縮を防げると期待するのは難しいでしょう。

関節モビライゼーション:凹凸の法則は肩で当てはまるか

関節モビライゼーションは、関節の面どうしの小さな滑りを療法士が引き出す手技です。滑らせる方向は、凹凸の法則(Kaltenbornの法則)に従って決める、と教えられてきました。凸の面が凹の面の上を動くときには、凸の面は骨の動きと反対の方向に滑る、という法則です。肩では、凸の上腕骨頭が凹の関節窩の上を動くので、外旋が制限されているときには、骨頭を前に滑らせる手技が選ばれることになります。

ところが、献体の肩を使ったHarrymanらの研究では、肩を前に上げると骨頭は前へ、後ろへ引くと後ろへ動き、前への動きは反対向きの力を加えても止められませんでした。さらに、関節包の後ろの部分を手術で縮めると、前に上げたときの骨頭の前への動きが大きくなりました(Harrymanら 1990)。骨頭の滑る向きを決めているのは、関節面の形だけではなく、関節包のどこが張っているかでもある、と読める結果です。

Johnsonら(2007)は、外旋が制限された凍結肩(癒着性関節包炎)の20人を、骨頭を前に滑らせる群と後ろに滑らせる群に分け、超音波療法などと組み合わせた6回の治療を行いました。外旋の角度は、前に滑らせた群で平均3.0°しか広がらなかったのに対し、後ろに滑らせた群では平均31.3°広がりました(図4)。凹凸の法則から予想される向きとは反対の結果です。肩についての研究をまとめたBrandtら(2007)も、根拠は弱く限られているとしながら、肩に凹凸の法則を当てはめるやり方は見直す必要があるかもしれないと結論しています。

凍結肩の20人を対象にした試験で、上腕骨頭を前に滑らせた群は外旋の角度が平均3.0度、後ろに滑らせた群は平均31.3度広がったことを示した棒グラフ。凹凸の法則からは前に滑らせる向きが選ばれる

図4 外旋の制限に対して骨頭を滑らせる向きと、6回の治療後の外旋角度の改善(Johnsonら 2007をもとに作成)

では、何のために動かすのか

ここまでの結果から、関節可動域運動に期待できることを、目的ごとに分けて考えることができます。

その場で動く範囲を広げることは、ストレッチで実際に起こります。ただし、その多くは伸ばされる感覚に耐えられるようになった結果と考えられています。着替えや移乗の前に関節を動かしておくのは、この一時的な変化を利用する使い方と考えられますが、その効果は確かめられていません。また、角度が増えても、組織が変わったと解釈することはできません。

動く範囲を長く広げたり、拘縮を防いだりする効果は、人の研究では、7か月未満のストレッチやCPMで臨床的に意味のある大きさに届いていません。効果が見られた小さな試験でも、肢位を1日30〜60分保っていました。短い運動を何となく続けるより、どの関節を、どの方向に、どれだけの時間動かすのかを決め、角度を測って効果を確かめることが大切です(測り方は「上肢の関節可動域測定(評価)」「下肢の関節可動域測定(評価)」)。

関節モビライゼーションの方向も、法則から決めるより、どの組織が張っているかを確かめ、治療の前後で角度を測りながら選ぶほうが、いまの研究結果と合っています。

まとめ

関節可動域運動は、関節を動かす力によって他動・自動介助・自動に、働きかける組織によってストレッチ、関節モビライゼーション、CPMに分けられます。Salterのウサギの実験は「動かし続けること」の効果を示し、CPMを広めるきっかけになりました。しかし人の研究では、人工膝関節の手術後のCPMも、7か月未満のストレッチも、関節の動く範囲を臨床的に意味のある大きさまでは広げませんでした。ストレッチ直後に角度が増えるのは主に伸張耐性の変化で、肩のモビライゼーションでは凹凸の法則と反対の向きのほうが効果的だった試験もあります。動かせば固まらない、とは言い切れません。何のために、どれだけの量を動かすのかを決め、角度を測って確かめることが、関節可動域運動を意味のあるものにします。

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参考文献

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