研究結果の統合的解釈


 臨床(あるいは疫学)研究は,さまざまな要因によって影響を受けます。研究結果に影響を及ぼしている様々な要因をふまえて結果を正しく解釈することを研究結果の統合的解釈 alternative explanations といいます。研究を行なったり,利用したりする上で必ず必要となる知識ですので,ここでは研究結果に影響を与える要因や解釈の仕方を学びましょう。

研究結果に影響を与える因子

 研究結果には,偶然 chance,バイアス bias,交絡 confounding,因果性 causality という四つの要因が影響を与えます。以下に4要因の概要を説明します。

偶然 chance

 測定値のランダムな変動によって,曝露要因と疾病の関連についての観察が影響を受けること。例えば,同じ患者で同じ条件で同じ介入ができたとします。しかし,全ての介入で必ず同じ結果になるとは限らない。偶然によって結果に変動が起きたということです。

バイアス bias

 曝露要因と疾病との実際の関連を過大評価したり過小評価したりして,誤った研究結果を導いてしまう現象。例えば,研究の対象者を選ぶさいに無意識だが意図的に自分の好む結果がでるように選んでしまったり(選択バイアス),過去の生活週間について対象者に質問紙で調査した時に,対象者が自分の好む形で過去の出来事を思い出してしまったりすることです(思い出しバイアス)。バイアスについては「研究結果に影響を与えるバイアス」を参照して下さい。

交絡 confounding

 曝露要因と疾病の実際の関連性が,第三の要因の影響によって過大評価ないし過小評価されてしまう現象。例えば,退院時の転帰先と歩行能力の関連性を調べようとする場合, 調べようとする要因(歩行能力)以外の要因(家庭環境など)が転帰先に影響を与えている可能性もあります。この「家庭環境など」を交絡因子と呼びます。

因果性 causality

 曝露要因と疾病との因果関係。これを明らかにすることが研究の目的となります。例えば,「ボバースコンセプトで介入すると脳卒中患者は必ず歩行自立する」というのが因果性です(実際にはありえません)。どのような研究でも,この因果性を完全に明らかにすることは困難です。研究とはできるだけ因果性を高める努力をするものという解釈で良いかと思います。

統合的解釈の仕方

 特定の研究の結果を解釈する際には,因果性以外の三つの要因がどの程度影響を与えているかを吟味する必要があります。それには要因の詳細を知っていなくてはなりません。また,臨床研究を行う際には,因果性以外の要因の存在をあらかじめ見込んだ上で,その影響をできるだけ制御できるように調査を設計し,データを分析することが必要になります。

 ただし,たとえどれほど優れた研究であっても,偶然,バイアス,交絡の三つの要因が全く入り込む余地のない完全な研究は存在しません。実証科学では,理論の正しさ (因果性) を議論の余地なく証明することは不可能なのです (一方で非実証科学である数学は完全な証明が可能です)。

まとめ

 研究を始める前にまずは4つの要因を理解して下さい。バイアスや交絡は事前の研究計画や統計手法である程度取り除くことが可能です。また,偶然に関しても充分な症例数を集めることでその発生確率を減らすことができます。

 これらの知識は研究だけではなく臨床にも活かせるものです。患者さんの変化が自分のアプローチに由来しているのか(因果性),それとも改善したと思い込んでるだけなのか(バイアス),あるいは病棟生活で何か別な活動をしているのか(交絡),よく考えて診療されることをおすすめします。

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