医療専門職の就職活動:内定取り消しの是非


 医療専門職の養成校では,だいたい最終学年で就職活動をはじめます。最終学年時も,臨床実習や国家試験に向けた勉強など,一般の大学と比べると少し慌ただしいのが現状です。そのため,就職活動の期間が短くなりがちで,学生は焦りを感じることになります。

ある学生の話し

 最近,複数の病院の採用試験を受けて,内定がでた病院から一番条件の良い病院を選ぶ予定だと言っている学生の話しを耳にしました。私が就職活動をしたのは10年近く以前ですが,その時,養成校の教員から「内定を取り消すようなことはしないように」ときつく言われていたことを覚えています。しかし,一般企業への就職活動では複数の企業を受けて一番良いところを選ぶといったことが普通だと聞いたこともあります。そのため,そういった風潮が医療業界にも伝わったのかな,時代が変わったのかなと思っていました。

 しかし,先日,とんでもない学生と出会いました。驚くことに,内定取り消し期間が終わったにも関わらず,別な (おそらくその学生の第一希望であった) 病院の内定を受けてそちらに就職することを考えているのです。その学生の話しによると,そのように考えているのは自分だけではなく同期の学生にたくさんいるとのことでした。

 このような行動をとろうとする学生は,おそらく,自分がとる行動のメリット・デメリットをよく考えていないのかなと思います。内定取り消し期間外の取り消しは問題外として,複数の病院の内定を受ける,つまりいくつかの病院の内定を取り消すことのメリット・デメリットを少し考えてみましょう。

複数の病院の内定を受ける (第一希望以外の内定を取り消す) メリット

 この行動の最大のメリットは,採用試験の期間がまばらな病院を複数受けることができて,自分の希望している病院へ就職できる確率が上がることです。先に述べたように,医療専門職の養成校において,就職活動期間は限られています。さらに,臨床実習や国家試験など他の重要なイベントとも重なり,不安が尽きません。そのため,この行動をとることで早めに就職活動の不安を無くし,国家試験に集中することができます。また,複数の病院を受けることで,就職活動のスキルも上がり,採用されやすくなることもメリットかもしれません。

複数の病院の内定を受ける (第一希望以外の内定を取り消す) デメリット

 次はデメリットを考えてみましょう。内定を取り消すと,その病院からの内定を取り消した本人とその養成校の評価が下がります。これは当たり前といえば当たり前です。他の候補者を落として,その学生のために採用枠を確保したのに,突然こないと言われれば釈然としない気持ちになります。私が昔,養成校の教員に内定取り消しはするなときつく言われたのにはこういう理由があったのです。養成校の名前に傷がつけば,この先,卒業を控えている後輩たちに悪影響を与えます。臨床実習も多くは養成校の教員が病院に頭を下げて確保しているものです。最悪,実習を受けてもらえなくなる恐れもあるのです。

 また,就職してからの人間関係にも悪影響を及ぼすかもしれません。例えば,ある地域の病院で内定を取り消して,同じ地域内の別の病院に採用されたとしましょう。病院間の交流会や勉強会などで内定を取り消した病院の職員と顔をあわせることがあるかもしれません。また,専門職の協会は,地域毎に支部を結成していることがほとんどです。こうした協会組織の支部会で内定を取り消した病院の同じ職種の方々と一緒に仕事をする機会もあるかもしれません。このような場合,やはり最初の印象が悪いので,評価を覆すのは大変です。

まとめ

 こうして,メリットとデメリットを考えて,見比べてみると,私にはデメリットの影響の方が多いような気がします。どちらを選択するにせよ,就職活動は社会人としての第一歩です。今後の自分のあり方,立ち位置,様々なことを考えた上で,自己責任で行動して欲しいと思います。

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