
今回紹介する文献
Intracerebral pain processing in a Yoga Master who claims not to feel pain during meditation
(Kakigi et al., 2005, European Journal of Pain, 9: 581)
(Kakigi et al., 2005, European Journal of Pain, 9: 581)
瞑想で痛みを軽減できることを示した基礎研究を紹介します。この研究は,人が痛みを克服できることを(正確には克服できる人がいることを)実験的に証明したものです。
海外のヨガマスターが対象
海外から呼び寄せたヨガマスターに対して,瞑想中にレーザー刺激を皮膚に与え,脳磁図とfMRIで脳活動を計測しました。レーザー刺激は主にAδ線維を刺激して,通常の人であればチクリとした鋭い痛みを惹起させます。
瞑想中は痛みを全く感じない
結果は,痛みを全く感じずに,痛みに関連する脳領域(視床,第二体性感覚野,島皮質,帯状皮質など)も活動しませんでした。そのかわりに,前頭葉や中脳の活動が著しかったそうです。特に中脳は,下行性疼痛抑制系(主に脊髄後角の求心性ニューロンに対して抑制をかける,つまり痛み情報の入力そのものを遮断する系)に関わる主要な神経核群が存在するところです。著者らは,この系の活性化により痛みを感じなかったのだろうと考えています。
コメント
彼らの仮説が正しいとして,興味深いのは下行性疼痛抑制系が痛みを「全く」感じなくなるくらいに強力な系だということ,その系を自らの意思で最大限働かせることができる能力を人は持っているということです。この系を外部刺激で活性化できる手法 (例えばTENS) はいくつかありますが,ヨガマスターの瞑想ほどの抑制効果を得られるものは今のところないですよね。
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