運動療法は変形性関節症の保存療法において一般的に行われています。また,世界的にみても,疾患の重症度,年齢,合併症,痛みの重症度,あるいは能力障害に関わらず,海外の臨床ガイドラインで推奨されています (Conaghan et al., BMJ 2008, Hochberg et al., Arthritis Care & Research 2012, Zhang et al., Osteoarthritis & Cartilage 2008)。ここでは変形性股関節症患者に対する運動療法に実際どのような効果があるのかまとめます。
運動療法で痛みが軽減するか?
痛みは変形性股関節症患者の主な症状の一つです(この疾患の症状については「変形性股関節症の特徴とリスクファクター」を参照して下さい)。痛みそのものも問題ですが,これによって動作,日常生活活動,ひいては QOL の低下が引き起こされます。はたして運動療法はこのような痛みの軽減に寄与するのでしょうか。この疑問を解決するために以下に2つの系統的レビューの結果を紹介します。
Fransenらによる系統的文献レビュー
変形性股関節症患者に対する運動療法の効果について,2009年に Fransen らによって5つの臨床試験 (陸上での運動の効果をみたもの) を集めたコクランレビューが行われました。レビューの結果,運動による痛みの改善効果はわずかであり,自己申告による身体機能の改善はみられませんでした (Fransen et al., Cochrane Database of Systematic Reviews 2009)。著者らは,臨床試験の数やサンプルサイズが小さいためにこのような結果になったと考えており,今後はサンプルサイズが大きく,変形性股関節症患者のために開発された運動プログラムを用いて研究する必要があると結論しています。
Hernandez-Molinaらによる系統的文献レビュー
ほぼ同時期に行われた2008年のメタアナリシス研究では,運動が変形性股関節症患者の痛みの軽減に中等度に関与することを示しています (Hernandez-Molina et al., Arthritis Care and Research 2008)。Fransen らによるレビューが陸上運動に限局したものに対して,このレビューには水中運動のプログラムも含まれています。さらに,このレビューでは,理学療法士の個別指導をプログラムとしている研究を採択しており,著者らは筋力増強訓練や,専門職による個別指導が重要であると述べています。
痛みの減少効果はあるか
2つのレビューを総括すると,今のところ運動療法が痛みに与える影響はごくわずかであるといっていいようです。ただし,リハビリ専門職による個別対応があった場合,痛みの減少効果が高まる可能性があります。今回の2つのレビューでは集められた研究の質が低かった可能性もあります。もう少し大規模な研究が行われるまで結論づけるのを控えた方が良いかもしれません。
運動療法が身体機能へ及ぼす影響
変形性股関節症になると痛みに加えて身体機能が低下します。身体機能の低下は日常生活動作能力を低下させる原因となります。したがって,日常生活動作能力を向上させるためには身体機能を向上させる必要がありそうです。そこで運動療法が身体機能を向上させるのかについていくつか研究結果を紹介します。
Fransenらの系統的文献レビュー
先ほどの Fransen らのレビューでは,運動は身体機能を改善させないとのことでした。しかし,彼らのレビューで集められた文献は,身体機能を自己申告によって調査したものです。自己申告のみでは身体機能に及ぼしている影響を客観的に捉えきれていないのではないかという考え方もあります。さらに集められた研究の質も低く,規模も小さなものなので,この研究で運動療法が身体機能に影響しないとするのは無理があります。
最近のランダム化比較試験(RCT)
Fransenらのシステマティックレビュー以降に,いくつかの質の高い大規模なRCTが行われています。例えば,通常の治療と比べ運動療法で身体パフォーマンスが改善したこと (Abbott et al., Osteoarthritis & Cartilage 2013) や,患者教育と運動療法の併用で身体機能が改善する一方で95%信頼区間が広く効果量については不明であるとの報告 (Fernandes et al., Osteoarthritis & Cartilage 2010) ,さらに,8週間の運動療法により,自己申告による機能,股関節可動域,患者さんの知覚が改善した (French et al., Physical Medicine & Rehabilitation 2013) との報告があります。
身体機能に影響するか
最近のRCTの結果をみる限り,運動療法によって変形性股関節症患者の身体機能が改善する可能性があるようです。これらの報告は比較的に大規模に行われており,その結果は信頼できると考えられます。一方で,これらの研究結果からは,身体機能向上にどの程度効果があるか,身体機能向上が日常生活動作能力の向上につながっているかについて,はっきりと分かりませんでした。
まとめ
今のところ,運動療法は痛みの軽減よりは,身体機能を改善させる効果があるようです。しかし,はっきりと顕著に効果があるというエビデンスは確立されていません。様々な文献を探してみましたが,どうやら最近は複合的な介入 (例えば運動療法や徒手療法,運動療法と患者教育など) に焦点を当てている研究が多いように思いました。今後,質の高い多角的な研究を積み重ねることで,運動療法の効果が明確になっていくことを期待したいところです。