Mini-Mental State Examination (MMSE)


 Mini-Mental State Examination (MMSE) は,認知機能を評価するための机上評価指標です。以下にその目的,方法および特性(信頼性や妥当性など)について説明します。

評価の目的と対象

 MMSEは,主に高齢者(特定の疾患を問わず)に対して,認知機能障害を定量化するための指標です。もともと認知症の診断を下すためのツールとして開発されました。現在では認知症の可能性をスクリーニングするためにも用いられています。

評価の方法

評価の項目

 MMSEは7つの認知機能に関係する11つの質問で構成されています。7つの認知機能とは,時間の見当識,場所の見当識,3つの言葉の即時想起,注意と計算能力,3つの言葉の遅延再生(短期記憶),言語的能力,図形的能力です。

評価の手順

(1) 検査の準備

 検査の前に,検査用紙,被験者・検査者用筆記具(鉛筆・消しゴム),時計または鍵,白紙(A5程度)を準備します。

(2) 検査を始める

 「頭の健康診断をしましょう」や「簡単なクイズのようなものをしましょう」と言って,場の雰囲気を和らげます。検査やテストという言葉は被験者に不安感を抱かせますので使わないようにしてください。初めに検査日,被験者名,検査者名を検査用紙に記入し,それ以外の項目は検査前または検査後に記入します。

(3) 検査①:時間の見当識

質問内容:
「今日は何日ですか」
「今年は何年ですか」
「今の季節は何ですか」
「今日は何曜日ですか」
「今月は何月ですか」
  • 最初の質問で,被験者の回答に複数の項目が含まれていてもかまいません。
  • 「今年は何年ですか」の回答は,西暦・年号のどちらでも正答です。
  • 「今の季節は何ですか」で,季節の切りかわりの時期の場合はどちらでも正答です。また「初冬」や「梅雨」 なども正答です。

(4) 検査②:場所の見当識

質問内容:
「ここは都道府県でいうと何ですか」
「ここは何市(町・村・区など)ですか」
「ここはどこですか」正答は建物・施設の名前のみ
「ここは何階ですか」
「ここは何地方ですか」
  • 最初の質問で,被験者の回答に複数の項目が含まれていてもかまいません。
  • 被験者自身が何階にいるのかを明らかに知らない場合は「ここは何階ですか」の質問を「いつもいらっしゃるところは何階ですか」とかえてください。
  • 平屋の場合は「1階」が正答です。
  • 地方については,その地方の一般的な呼び名であれば正答です。

(5) 検査③:3つの言葉の即時想起

質問内容:
「今から私がいう言葉を覚えてくり返し言ってください」
「『さくら,ねこ,電車.』はいどうぞ」
「今の言葉は,後で聞くので覚えておいてください」
  • 検査者は3つの言葉を1秒に1つずつ言います。その後,被験者にくり返して言っていただき,この時点でいくつ言えたかで得点を与えます。正答は1つ1点で,計3点満点です。
  • 1回目だけで得点をつけます。順番が違っても正答とします。
  • 全てを言えなかった場合,3つとも言えるようになるまでくり返します(ただし,6回まで)。

(6) 検査④:注意と計算能力

質問内容:
「100から順番に7をくり返しひいてください」
(正答例) 93 86 79 72 65
  • 5回くり返し7を引かせ,正答1つにつき1点で合計5点満点です。
  • 質問の意味が理解できていない場合,または質問のくり返しを求められた場合,「100から順番に7 をくり返しひいてください」とくり返し言います。
  • 答えが止まってしまった場合は「それから」と言って促します。
  • 答えが全くでない,また不穏・体調不良等でこの課題の継続が困難な場合は,無理をせず途中で中止します。
  • 途中で誤答になっても,次の回答が「その誤答からひく7」になっていれば正答です。
  • 変法として「フジノヤマ」の逆唱もあります。

(7) 検査⑤:3つの言葉の遅延再生

質問内容:
「さっき私がいった3つの言葉は何でしたか」
 検査③で提示した言葉を復唱させます。
  • 正答1つにつき1点とします。
  • 言葉の順番が違っても正解とします。

(8) 検査⑥:物品呼称

質問内容:
時計(又は鍵)を見せながら「これは何ですか?」
鉛筆を見せながら「これは何ですか?」
  • 正答1つにつき1点。合計2点満点。

(9) 検査⑦:文の復唱

質問内容:
「今から私がいう文を覚えてくり返し言ってくだ さい.」
「みんなで力を合わせて綱を引きます」
  • 指示文は,文節で区切らず,ゆっくり,はっきりと一気に読みます。
  • 正しく復唱できた場合に1点とし,1回のみで評価します。

(10) 検査⑧:口頭指示

質問内容:
紙を机の上に置いた状態で教示を始めます。
「今から私がいう通りにしてください」
「右手にこの紙を持ってください」
「それを半分に折りたたんでください」
「そして私にください」
  • A5(A4の半分)程度の紙を使います。
  • 教示は一度に行い,一作業ずつ教示・確認してはいけません。
  • 質問はゆっくり,はっきり言います。
  • 片麻痺の方については,机の上で作業してもらいます。
  • 完成したら,検査者に手渡ししていただくようにしてください。
  • 右片麻痺の方の場合は,「右手」を「左手」に言い換えてください。

(11) 検査⑨:口頭指示

質問内容:
目を閉じて下さいと書いてある紙をみせながら。
「この文を読んで、この通りにしてください」
  • 教示文を指さしながら質問文を読み上げます。
  • 被験者が実際に目を閉じれば1点となります。

(12) 検査⑩:自発書字

質問内容:
「この部分に何か文章を書いてください」
「どんな文章でもかまいません」
検査者が例文を与えてはいけません。
  • 身体的な障害で書く作業のできない方は口述で筆記し,検査シートに「口述筆記 」と明記します。
  • 検査用紙を折り,検査⑨の問題が見えないようにして下さい。
  • 質問の意味を理解していない,質問をくり返すよう問われた場合,もう一度質問をくり返し,ヒントは出さない。
  • 主語がなくても述語が存在し,意味がある文を書いた場合は正答です。文法・文字・読点の誤りは無視します。

(13) 検査⑪:図形模写

質問内容:
図形を被験者にみせながら
「この図形を正確にそのまま書き写してください」
  • 正答条件は角が10個あり,2つの五角形が交差していること。 手の震えで線が波打つなどは無視する。
  • 2つの図形が,五角形でなかったり離れてい たりする場合は不正解。
  • 身体的な障害で書く作業のできない方の場合は省略し理由を明記します。

(14) 検査の注意点

 検査は被験者の体調の良い時に行います。被験者からの質問には答えないようにします。10秒たっても返答のない場合は次の検査に進みます。身体条件(運動麻痺や失語など)によって検査できない項目は省略します。その旨を検査用紙に記載して下さい。

評価の得点

 計30点満点で,点数が高いほうが認知機能が高いと判断できます。一般的には0〜17点で重度認知機能低下,18〜23点で軽度認知機能低下,24〜30点で認知機能低下なしといわれています (Tombaugh & McIntyre, 1992)。

評価にかかる時間

 10分以内に評価できます。

評価の特性

床・天井効果

 若い人には天井効果が,重度障害の人には床効果があることが報告されています (Folstein et al., 1998) 。また,脳卒中患者で天井効果があることが分かっています(Toglia et al., 2011)。

信頼性

(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 系統的文献レビューでは不良から良好まで幅広い結果となっています (Tombaugh & McIntyre, 1992)。

(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者で確認されています (Molloy and Standish, 1997)。

(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 確認されていません。

(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)

 系統的レビューによって優秀な内部整合性が確認されています (Tombaugh & McIntyre, 1992)。

妥当性

(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)

 FIMとの相関は不良です (Ozdemir et al, 2001)。

(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)

 いくつかの研究で調べられていますが,あまり良好ではありません。

(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)

 パーキンソン病患者で確認されています (Kandiah et al., 2009)。

(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)

 パーキンソン病患者で確認されています (Lessig et al., 2012)。

まとめ

 Mini-Mental State Examination (MMSE) は,認知機能を定量的に評価するための机上テストです。このテストで認知機能を評価して,認知症の診断や日常生活動作能力に認知機能低下が影響しているかを総合的に判断します。残念ながら信頼性や妥当性の検討は充分ではなく,不良とする報告もあります。様々な能力がこの評価結果に影響するため,結果の解釈は慎重に行う必要があります。

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