失語症の定義,分類,特徴


 失語症は急性期〜慢性期にかけて一般的にみられる脳卒中後の症状の一つです。失語症があると生活に不可欠なコミュニケーション能力が障害されるので,患者さんの QOL を著しく低下させます。ここでは,失語症の定義,分類および特徴についてまとめます。

失語症の定義

 米国の Agency for Healthcare Policy and Research (AHCPR) による脳卒中リハビリテーション臨床実践ガイドラインでは,失語症を "the loss of ability to communicate orally, through signs, or in writing, or the inability to understand such communications; the loss of language usage ability." と定義しています。つまり,「失語症とは口頭,身振り,筆記による意思の伝達や理解 (つまりコミュニケーション能力) が損失している状態」をいいます。

 失語症は,ブローカ野やウェルニッケ野と呼ばれる脳領域,すなわち言語野の障害により生じます。つまり,失語症とは大脳半球の言語領域の損傷によって引き起こされる言語使用能力の障害であり,言語領域以外の脳損傷に由来するコミュニケーション障害 (認知症や脳外傷など) は含まれないことになります。

失語症の分類

 失語症には様々な分類がなされています。現在,一般的な分類は病巣や症状から,運動性失語,感覚性失語,混合性失語,その他の失語に分けるものです。以下に失語症の分類と概要をまとめます。

失語症の分類


Ⅰ.運動性失語:聴理解より言語表出が障害される
ブローカ失語
 病巣:ブローカ野 + 中心前回下部
 基本概念:非流暢な発話,復唱障害,自発話に比べ良好な聴理解
 頻発症状:発語失行,失文法

超皮質性運動性失語
 病巣:ブローカ野を孤立させるような病巣
 基本概念:非流暢な発話,良好な復唱,自発話に比べ良好な聴理解
 頻発症状:無言症,発話開始の遅れ,保続,声量低下

Ⅱ.感覚性失語:言語表出より聴理解が障害される
ウェルニッケ失語
 病巣:ウェルニッケ野を含む病巣
 基本概念:流暢な発話,復唱障害,聴理解障害
 頻発症状:音韻性錯語,語性錯語,ジャーゴン,錯文法

超皮質性感覚性失語
 病巣:ウェルニッケ野を孤立させるような病巣
 基本概念:流暢な発話,良好な復唱,聴理解障害
 頻発症状:語性錯語,空虚な会話,読解障害,書字障害

Ⅲ.混合性失語:言語表出も超理解も障害される
全失語
 病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を含む広範な病巣
 基本概念:非流暢な発話,復唱障害,重篤な理解障害
 頻発症状:発語失行,残語,再帰性発話

混合型超皮質性失語
 病巣:ブローカ野とウェルニッケ野を孤立させるような病巣
 基本概念:非流暢な発話,良好な復唱,重篤な聴理解障害
 頻発症状:反響言語,補完現象

Ⅳ.その他の失語
伝導失語
 病巣:ブローカ野とウェルニッケ野の連絡を断つような病巣(弓状束など)
 基本概念:流暢な発話,顕著な復唱障害,良好な聴理解
 頻発症状:音韻性錯語,自己修正による接近行為,音韻性錯読,錯書

失名詞失語(健忘失語)
 病巣:多様だがブローカ野単独の病巣で起こることもある
 基本概念:流暢な発話,良好な復唱,良好な聴理解
 頻発症状:迂言

ブローカ野やウェルニッケ野が直接障害されても,それらへ至る神経ネットワークが関節的に遮断されることでも失語が生じることに注意が必要です。

失語症の特徴

 失語症は左大脳半球の損傷によって生じることが一般的です。言語機能をつかさどる領域が左大脳半球にある人が圧倒的に多いからです。右利き人の 99% は左大脳半球に言語領域があるといわれています (Delaney and Potter, Physical Medicine and Rehabilitation 1993) 。一方で左利きの人は,70%が左大脳半球に,15%が右大脳半球に,残りの15%では両側に言語領域があるそうです (O’Brien and Pallet, Total care of the stroke patient 1978) 。つまり,ほとんどの人 (全人口の9割以上) で言語領域は左半球にあるといえます。

 脳卒中急性期患者の 21〜38%に失語症様の症状がみられ (Berthier, Drugs Aging 2005) ,最近の報告では脳卒中患者の35 %が入院施設からの退院時点で失語症状が残存すると推定されています (Dickey et al., Arch Phys Med Rehabil 2010) 。全体の3割程度の患者さんに失語症がみられるようです。また,こういった急性期の失語症では全失語が最も一般的であり,失語症患者全体の25〜32%にみられるようです。

失語症と死亡率

 失語症が死亡率と関係するという報告が数多くあります。Laska ら (J Intern Med 2001) は急性期において非失語症患者の死亡率が 3% であるのに対し,失語症患者は 11% であったと報告してます。比較的に新しい研究でも,入院中の失語症患者と非失語症患者で死亡率が有意に異なったことが報告されています (Bersano et al., Int J Stroke 2009) 。

 失語症患者の多くは,言語野を含む多領域が障害されていることが多く,単純に重度の脳卒中だから死亡率が高くなるとも考えられます。しかし,Guyomard ら (J Am Geriatr Soc 2009) は入院の失語症者の年齢,性別,発症前の Rankin スコア,能力低下をきたした脳卒中既往,脳卒中タイプで調整してもなお,失語症群で死亡リスクが高いことを報告しています。つまり,失語症そのものが死亡率を高める要因となるようです。

まとめ

 失語症は,脳言語領域 (ブローカ野やウェルニッケ野) が直接的,あるいは間接的に障害されることによって生じます。言語領域が主に左半球に存在することから,左半球の梗塞や出血に伴って生じることが多いようです。コミュニケーション能力が全般的に障害されますが,病巣によって障害される能力や残存する能力が異なります。

 急性期では他の失語に比べて全失語の割合が多いようです。非失語症の方に比べて死亡リスクが高いことに注意が必要です。リハビリテーション介入の効果については,効果ありとするものと,効果なしとするもので拮抗しているようです。これについては機会があればまとめたいと思います。