高齢者への下肢の筋トレは高強度であるべきか?


今回紹介する文献
Systematic review of high-intensity progressive resistance strength training of the lower limb compared with other intensities of strength training in older adults.
(Raymond et al., Arch Phys Med Rehabil. 2013 Aug;94(8):1458-72.)

 今回は,健常高齢者に対してどのくらいの強度で下肢の筋力トレーニングを行うのが好ましいのかについて示唆を与えてくれるシステマティック・レビューを紹介します。

21件のランダム化比較試験が対象

 網羅的な文献検索の結果,21 件のランダム化比較試験がみつかりました (全て 65 歳以上の高齢者を対象とした試験で,サンプルサイズは 18〜84 名と小規模) 。

強度よりも訓練量が大切

 21研究についてメタアナリシスを行ったところ,高強度の漸増的筋力トレーニングが,中・低強度のそれより下肢筋力を改善させることが分かったようです (強度の定義については下の Box を参照してください) 。ただし,強度にかかわらず,トレーニング量 (回数 × %1RM) が同程度であれば,筋力,機能的パフォーマンス,能力障害はそれぞれ同じくらい改善するようです。

Box. レビュー中の強度の定義

最大強度:1 RM の 90% 以上
 高強度:1 RM の 70〜89%
 中強度:1 RM の 50〜69%
 低強度:1 RM の 50% 未満

 また,漸増的筋力トレーニングが気分に与える影響は,研究によって一致していなかったそうです。さらに,トレーニング強度と有害事象の間に関連はみられなかったそうですが,残念なことに有害事象について記載された報告が少なく,十分な証拠にはならないようです。著者らは,高強度の漸増的筋力トレーニングが,それ以下の強度と比較して下肢筋力を向上させるが,機能的パフォーマンスの改善に差はないのかもしれず,それよりは訓練量が重要な要因ではないかと述べています。

コメント

 このテーマは昔から議論がつきませんね。一時期,低強度の筋力トレでは筋力増強が起こらないから,高強度をやるべきだとか,高強度では心血管系のリスクがあるから低強度で行うべきだとか...さまざまな意見が飛び交っていたのを覚えています。その議論の例にもれず,この著者が言いたいことは,「高強度の筋トレは低強度のそれと比べて臨床的に意味のある機能パフォーマンス (歩行速度など) について差が認められないのだから,トレーニング強度よりも訓練量に着目して,安全に実施できるトレーニングを用いることが望ましいだろう」ということです。

 確かにとも思いますが,このレビューで扱われた研究の対象は健常な高齢者です。つまり,筋力,歩行能力ともにある程度保たれているということです。筋力増強が起きても,パフォーマンスの改善は頭打ちなのかもしれませんよね。われわれが担当する患者/利用者さんの中には,時には高強度のトレーニングで筋力増強を図る必要のある方もいるかと思います。機能や能力の改善とリスクを天秤にかけつつ,担当している方の状況にあったトレーニング方法を考える必要があると思います。

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