認知症とリハビリテーション


Charcot(@StudyCH)です。

認知症は、「脳の病気や障害など様々な原因により、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態」です(厚生労働省HP)。

本邦では高齢者の数が増え続けており、認知症は最も身近にある病気のひとつです。認知症にはたくさんの種類があって、出現しやすい症状も異なります。

昨今ではリハビリテーションによる予防や改善の試みもなされています。この記事では、認知症の特徴、評価法、リハビリテーションについてまとめます。



認知症の種類

認知症と呼ばれる疾患は数多くありますが、アルツハイマー病、脳血管障害性認知症 (血管性認知症) 、レビー小体型認知症がその大部分を占めます。

その中でもアルツハイマー病の割合が近年増加しており、島根県海士町での調査では認知症患者の63%をアルツハイマー病が占めていました (Wada-Isoe K et al. Neuroepidemiology 2009; 32: 101-106) 。この調査に限らず、その他の報告でもアルツハイマー病が半数を占めるという報告が多くなされています。

その他の認知症として、前頭側頭葉変性症 (ピック病など) 、梅毒やAIDSなどの感染症、甲状腺機能低下症、ウェルニッケ脳症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などがあります。

そのうち甲状腺機能低下症、ウェルニッケ脳症、慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症などは、適切な治療を施せば症状が改善しやすい認知症といえます。これらの疾患をアルツハイマー病などの認知症と間違えない、見逃さないことが重要だと考えられています。

これらの認知症の中でも,アルツハイマー病と脳血管性認知症は合わせて全体の8割を占める代表的な疾患です。そこで、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の特徴を表にまとめました。

アルツハイマー型認知症と脳血管型認知症の特徴

アルツハイマー型認知症
脳血管型認知症
認知症の自覚ない初期にはある
進行の様式ゆっくり進行寛解・増悪を繰り返す
階段上に進む
持病持病との関係は少ない高血圧・糖尿病など
認知症の性質全般的認知症
(全般的に能力が低下する)
まだら認知症
(部分的に能力が低下)
神経症状初期には少ない手足の麻痺,感覚障害などを伴う
精神状態落ち着きが無い
深刻味がない
精神状態が不安定
人格・人柄変るある程度保たれる


こうして表にしてみるとよく分かりますが、アルツハイマー型認知症と脳血管型認知症は同じ認知症でも症状が大きく異なります。患者さんご自身の行動や、ご家族へあたえる影響も異なりますので注意が必要です。

認知症の中核症状と周辺症状

認知症には、直接認知症の病因に由来する (つまり,脳の神経細胞が壊れることによって起こる) 中核症状と、患者さんのまわりの環境との関わりのなかで問題となってくる周辺症状とがあります (下BOX参照) 。

中核症状

  • 記憶障害
  • 見当識障害(時間,場所,人など)
  • 実行機能障害(料理など)
  • 失語・失行・失認

周辺症状(=認知症の行動・心理症状:BPSD)

  • 観察によってわかる行動症状
− 暴言、暴力、徘徊、性的逸脱行為、興奮、睡眠障害、せん妄
  • 陳述によってわかる心理症状
− 不安、焦燥、うつ状態、幻覚、妄想、拒絶
中核症状よりも周辺症状の方が介護者にとって負担となることが多いようです。

認知症の評価方法

認知症の簡便な評価法として 〈改訂版〉 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)とMini Mental State Examination(MMSE)があります。

HDS−Rは日本で広く用いられている評価方法で、30点満点で20点以下は認知症疑いとなります。一方で、MMSEは世界的標準の評価方法で、こちらも30点満点で23点以下が認知症疑いになります。

MMSEのほうには図形描写があり、HDS-Rよりも検査がやや手間がかかります。

リハビリテーションの改善効果

2003年にClareらによって初期のアルツハイマー病や脳血管性認知症の患者さんに対する認知トレーニングおよび認知リハビリテーション介入が認知機能向上をさせるかどうかを検討した系統的文献レビューが行われました (Clare et al., Cochrane Database Syst Rev. 2003) 。

レビューによると残念ながら認知トレーニングや認知リハビリテーションに認知機能向上効果があるといえないという結果でした。このレビューは、同じ研究グループによって2011年にアップデートされたのですが、そこでも残念ながら効果の有意性は認められませんでした (Bahar-Fuchs et al., Cochrane Database Syst Rev. 2011) 。

一方で、認知症に対する運動療法についてはその有効性が示されてきています。例えば、Bakerらは軽度認知機能障害 mild cognitive impairment, MCI の対象者に対して、高強度の運動を1日45~60分,週4日,6ヶ月間実施すると認知機能の改善すると報告しています (Baker LD et al., Arch Neurol. 2010) 。

MCIに対しては中強度の運動についても同様の報告があります (van Uffelen et al., Br J Sports Med. 2008) 。また、後期段階のアルツハイマー病の患者さんに6ヶ月間の運動プログラムを行うと、歩行能力 (6分間歩行テスト) とADL (Barthel Index) の向上に加えて、認知機能 (MMSE) の低下が抑制されたという報告があります (Venturelli M et al., Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2011) 。

これらの報告は長期的な運動介入が認知症患者さんの運動機能だけではなく、認知機能にも影響を与えることを示しています。

リハビリテーションの予防効果

認知症の予防的介入については効果がある可能性があります。例えば、知的活動の頻度が高いほど認知症の発症率が低いこと (Wilson RS et al., JAMA. 2002) や、頻繁に余暇活動 (読書,楽器,ダンスなど) に参加することに認知症の予防効果があること (Verghese J et al., New Engl J Med. 2003) が分かっています。

また、平均22歳時の言語性能力が平均58年後 (80歳時) のアルツハイマー病の病理変化と関連しているという報告 (Snowdon et al., JAMA. 1996) や、独居者の認知症発症率が家族と同居している老人よりも8倍高いという報告 (Fratiglioni et al., Lancet. 2000) もあり、若年時からの刺激的で豊かな環境が認知症の予防につながることが分かっています。

いくつかの研究によると、週に3回以上の運動をしている群で認知症の発症率が低いといわれています (Laurin D et al., Arch Neurol. 2001; Larson EB et al., Ann Intern Med. 2006) 。

運動の内容は、長時間の継続が可能な有酸素運動 (ウォーキング、水泳、エアロビクスなど) で、その強度は心拍数+10%程度を目安に30分間運動を継続すると良いといわれています。このような報告は、長期間にわたる定期的な運動が認知機能の低下を予防することを示唆しています。

まとめ

認知症は、患者さん本人やその方のコミュニティー (家族、地域) に多大な影響を与える疾患の一つです。実際、周辺症状の影響からリハビリテーションによる運動能力改善を望まないご家族もいます。

一方で周辺症状は適切な対応を行い、環境を整えてあげることで減少することもあります。私は認知症を理解して、ご家族に正しく伝えることがセラピストの一つの役割であると考えています。

認知症に対する運動療法については少しずつその効果が示されてきているようです。

認知トレーニングや認知リハビリテーションに関しても、全く効果がないかというと、経験上そうではないような気がします。これらの介入効果については、研究デザインやアウトカムを今一度見直す必要があるようです。

それでは皆さまの学習がよりいっそう充実することを願って。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best。