2万人の登録を目標としていた臨床試験が、1万人を超えた時点で患者さんの登録を打ち切りました。この試験は、頭部外傷の患者さんに長年使われてきたステロイドの効果を検証するものでした。それまでの臨床試験を統合した結果では、ステロイドによって死亡がわずかに減る可能性が示されていました。盲検を解いた途中の結果を、データモニタリング委員会が運営委員会に伝え、運営委員会が登録の中止を決めました。ステロイド群では、プラセボ群に比べて死亡がむしろ多くなっていました[1]。
ステロイドは、腫瘍や手術による脳浮腫に投与すると速やかに改善したという報告をきっかけに、重症の頭部外傷にも使われるようになりました[2]。理論上は有効と考えられ、長年使われてきた治療でも、多数の患者さんで比較するまでは、害があることがわかりませんでした。では、いつも行っている治療は、本当に患者さんの役に立っているのでしょうか。
この記事の要約(押すと開閉します)
- 定義:2008年の倫理指針では、人を対象に、病気の予防・診断・治療の方法の改善、病気の原因と病態の理解、患者の生活の質の向上を目的として行う医学系研究。介入を伴う研究のほか、診療記録などを用いる観察研究も含む
- 用語の違い:臨床研究法の臨床研究は、医薬品や医療機器などを人に用いて、その有効性または安全性を明らかにする研究を指す。国の承認を得るための臨床試験は治験と呼ぶ
- 生まれた経緯:1835年にLouisが、肺炎の患者の記録を数えて瀉血の効果を比べ、役立つ範囲は狭いとした。1972年にCochraneが、治療の効果を確かめるうえでのランダム化比較試験の重要性を説いた。1993年には、その名をとった系統的レビューの組織が作られた。1980年代の終わりには、多くの治療の効果を確かめるには、それまでの想定よりずっと多くの患者が必要だとわかってきた
- 必要な理由:理論や経験で選ばれた治療が、検証すると有効でなかったり、害があったりすることがある。ある医学雑誌に10年間に掲載された研究を調べると、既存の医療を検証した研究の4割が、その医療を否定していた
- 答えの出ていない疑問:Cochraneの系統的レビューで、プラセボや無治療と比較された介入のうち、質の高いエビデンスで有効性が確認されていたものは5.6%だった
- 日本の状況:共著論文を著者の所属機関の数で分けて数えると、2021〜2023年の平均で、日本の自然科学の論文数は世界5位。被引用数が上位10%に入る論文数では13位。日本の論文に占める臨床医学の割合は大きく伸びた。千葉県の理学療法士の調査では、研究活動に関わる人は約1割だった
- 臨床家が関わる意味:臨床研究は、患者さんを診る臨床家が参加しなければ進まない。研究に関わる臨床家や医療機関では診療の質がよい傾向が報告されているが、研究への関与が原因とまではいえない
- 関わり方:多施設で行う試験への参加、記録の残し方、症例報告、自ら計画する研究、大学などとの共同研究
- 課題:理学療法士などの医療職では、時間の不足、研究技能の不足、ほかの業務の優先が障壁となっている。研究時間の確保や外部との共同などの支援が試みられている
臨床研究とは
臨床研究とは、人を対象に、病気の予防・診断・治療の方法の改善、病気の原因と病態の理解、患者の生活の質の向上を目的として行う医学系研究です。この定義は、厚生労働省がかつて定めた「臨床研究に関する倫理指針」によるものです[3]。
2008年の指針が定義した臨床研究には、研究のために介入を行う研究と、介入を行わずに診療記録などを用いる研究の両方が含まれていました。この指針は、通常の診療を超える医療行為を研究のために行うことを、介入と呼んでいました。通常の診療と同じ行為でも、対象者を2つ以上の群に分けて比較することなどは、介入に含めていました。通常の診療の記録や、診療で採取した検体を用いる研究は、観察研究と呼ばれていました[3]。
疫学研究は、集団を対象に、病気の原因などを明らかにする研究です。2008年には、疫学研究は臨床研究の指針ではなく、別の指針の対象でした[3]。観察研究や介入研究などの分け方は、研究デザインの分類の記事で説明しています。
現在の日本の倫理指針は、臨床研究の代わりに、人を対象とする生命科学・医学系研究という用語を使っています。指針はこれを、人の健康の保持増進、傷病からの回復、生活の質の向上に役立つ知識を得るための活動と定めています。その手段として、病気の原因や病態の理解、予防・診断・治療の方法の改善と、その有効性の検証を挙げています。人の試料や情報を用いる遺伝子の研究も含まれます[4]。
介入の定義の書き方も、2008年の指針から変わりました。現在の指針では、研究目的で、人の健康に関するさまざまな事象に影響を与える要因の有無や程度を制御する行為を、介入と呼びます[4]。通常の診療を超える医療行為を研究目的で行うことも、介入に含まれます。研究の種類によってどの規則に従うかは、研究の倫理指針の記事で説明しています。
臨床研究という用語は、法律などでは、より狭い意味で使われることもあります。臨床研究法でいう臨床研究は、医薬品や医療機器などを人に用いて、その有効性または安全性を明らかにする研究です[5]。人を対象として行う試験は、一般に臨床試験と呼ばれます。そのうち、薬の候補を用いて、国の承認を得るための成績を集める臨床試験を、治験と呼びます[6]。
論文や資料に出てくる臨床研究がどの意味かは、文脈によって異なります。用語の違いを表1にまとめます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 広い意味の | 2008年の倫理指針の用語。人を対象に、病気の予防・診断・治療の方法の改善、病気の原因と病態の理解、患者の生活の質の向上を目的として行う医学系研究。介入を伴う研究と、診療記録などを用いる観察研究を含む |
| 人を対象とする | 現在の倫理指針の用語。病気の原因や病態の理解、予防・診断・治療の方法の改善と有効性の検証を通して、健康の保持増進や傷病からの回復に役立つ知識を得る活動。遺伝子の研究も含む |
| 臨床研究法の | 医薬品や医療機器などを人に用いて、その有効性または安全性を明らかにする研究 |
| 臨床試験 | 人を対象として行う試験の一般的な呼び名 |
| 治験 | 薬の候補を用いて、国の承認を得るための成績を集める臨床試験 |
| 観察研究 | 研究者が介入を行わず、もともとある要因と結果をそのまま調べる研究。2008年の指針では、通常の診療の記録や検体を用いる研究を指した |
表1 臨床研究に関わる用語(文献3–6をもとに作成)
臨床研究に対して、特別な応用を直接には考慮せず、体や病気の仕組みを明らかにする研究を、基礎研究と呼びます。基礎研究との違いと、基礎研究の成果が臨床に届くまでの段階は、基礎研究の必要性の記事で扱っています。
臨床研究が生まれるまで
臨床研究で治療の効果を確かめる考え方は、時代ごとに生じた別々の問題に答えながら積み重なってきました。この節では、患者さんの記録を数えて比べる方法、医療の効果を試験で確かめる考え方、大規模な試験の3つの段階をたどります[7–9]。図1に、主な出来事を年の順に示します。

図1 臨床研究が生まれるまでの主な出来事。矢印の左はそのとき問題になったこと、右はそれに答えた方法。緑は、いまの臨床研究で治療の効果を確かめる方法のもとになった段階
19世紀の初めのパリでは、発熱する病気はすべて臓器の炎症によるという説が、医師たちに支持されていました。この説にもとづいて、炎症のある臓器の上の皮膚にヒルを付け、血液を吸わせる治療が行われていました。1833年の1年間に、フランスは医療用のヒルを4,200万匹輸入しています[7]。
フランスの医師Pierre Louis(ピエール・ルイ)は、発熱する病気をすべて炎症とみる説を疑っていました。Louisは1835年の本で、血液を抜き取る瀉血について、肺炎の患者さん77人の記録を調べました。病気の1〜4日目に瀉血を受けた群と、5〜9日目に受けた群に分け、死亡や病気の期間を比べました。そして、瀉血が役立つ範囲は狭いと結論しました[7]。
Louisは、比べる群のあいだでほかの条件が等しいかを問い、多くの患者さんの記録を数えて比べる「数量的方法」を広めました[7]。Louisの研究を調べたMorabia(モラビア)は、この研究が、疫学の2つの原則である、群の比較と集団での考え方にもとづいていたとしています[7]。
Louisよりあとに、参加者を無作為に群に割り付けて比較するランダム化比較試験が整えられました。その経緯は、1948年に英国の医学研究協議会が報告した肺結核の試験とともに、ランダム化比較試験の記事で説明しています[10]。
英国の医学研究者Archie Cochrane(アーチー・コクラン)は、医療の効果がわからないことを問題にしました。Cochraneは「医療で行われていることのどれが役立ち、どれが役立たず、害さえありうるかを知らずに、合理的な医療制度をもてるか」と問いかけました。Cochraneの組織の頁で、英国の研究者Iain Chalmers(イアン・チャーマーズ)がこの問いを紹介しています[8]。
Cochraneは1972年の著書で、治療の効果を確かめるうえで、ランダム化比較試験が欠かせないことを説きました[11]。EBMの定義や成立の背景の記事では、Cochraneの1972年の著書から根拠にもとづく医療に至る流れを説明しています。
1993年には英国でCochrane共同計画(現在のCochrane)が作られ、試験の系統的レビューの作成を進めました[8]。系統的レビューはシステマティックレビューとも呼ばれ、同じ問いの研究を、事前に決めた方法で集めて統合する研究です。
1970年代の英国では、医学研究協議会の委員会が、白血病やがんの試験を進めていました。英国の医学統計学者Richard Peto(リチャード・ピート)は、それらの試験の方法に懸念をもっていました。とくに、参加者数がまったく足りず、確かな答えを出せないと考えていました[9]。
Petoは1984年、共同研究者のSalim Yusuf(サリム・ユスフ)、Rory Collins(ローリー・コリンズ)と論文を書きました。論文では、大規模で単純なランダム化比較試験が必要な理由を論じています[12]。
1988年には、417病院で、急性心筋梗塞が疑われる17,187人を対象に治療を比べた試験が報告されました[13]。Petoは、1980年代の終わりには、多くの治療の効果を確かめるのに必要な患者数が、それまでの想定よりずっと多いとわかってきた、と振り返っています[9]。
次の節で述べる、理論や経験で選ばれた治療を多数の患者さんの結果で確かめる考え方は、Louisの数量的方法にも見られます[7]。同じ節では、Cochraneの系統的レビューを用いた研究も取り上げます。Cochraneの系統的レビューは、Archie Cochraneの考え方を受けて作られるようになりました[8]。
臨床家が関わる意味の節で述べる、多数の患者さんで治療を比べる試験は、少人数の試験では確かな答えが出ないという問題に答えるものです[9]。
臨床研究が必要な理由
理論や経験で選ばれた治療が、患者さんのためになっているとは限らないため、臨床研究が必要です。頭部外傷に対するステロイドは、その一例です。米国の外傷センターに電話で尋ねた調査では、64%の施設が、重症頭部外傷の患者さんの半数を超える例にステロイドを使っていると回答していました[14]。
頭部外傷に対するステロイドについて、1996年3月までに入手できたランダム化比較試験を集めた系統的レビューがあります。死亡への影響を報告した試験は13件で、結果のデータがある試験の参加者は合計2,073人でした。統合した結果では、死亡がわずかに減る可能性が示されました。ただし、中程度の効果も、中程度の害も否定できませんでした[1, 15]。レビューの著者らは、大規模で単純な試験を行う価値があると結論しました[15]。
頭部外傷のステロイドを確かめる大規模な試験として、CRASH(クラッシュ)と呼ばれる試験が行われました。49か国の239病院が参加しました[16]。受傷から8時間以内の成人10,008人を、ステロイドの一種を48時間点滴する群と、プラセボを点滴する群に、無作為に割り付けました[1]。
CRASHの対象は、意識障害の程度を15点満点で表すグラスゴー・コーマ・スケールが14点以下の患者さんでした。登録の目標は2万人でしたが、中間の結果をもとに、10,008人で登録を中止しました[1]。
試験の結果、受傷から2週間以内の死亡は、ステロイド群で21.1%、プラセボ群で17.9%でした[1]。6か月の時点でも、ステロイド群の死亡が多くなっていました。転帰が判明した9,673人では、死亡はステロイド群で25.7%、プラセボ群で22.3%でした[17](図2)。研究者たちは、頭部外傷の治療としてステロイドを日常的に使うべきではないと結論しています。2週間以内の死亡が増えた理由は、わかっていません[1]。

図2 頭部外傷にステロイドを用いた試験での死亡の割合。*6か月は、転帰が判明した9,673人での割合(文献1、17をもとに作成)
頭部外傷のステロイドだけではありません。広く行われている医療が、検証の結果、劣るとみなされていた治療より優れていないとわかった例は、珍しくありません。New England Journal of Medicine(ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン)は、米国の医学雑誌です。影響力の大きいこの雑誌に2001〜2010年に掲載された研究を調べた報告があります[18, 19]。
New England Journal of Medicineの2001〜2010年の論文のうち、既存の医療を検証した研究は、363本ありました。そのうち146本、40.2%は、その医療が、劣るとみなされていた治療と比べて優れていないという結果でした。その医療の有効性を再確認した研究は、138本、38.0%でした。残りの79本、21.8%は、結論が出ませんでした[18](図3)。

図3 New England Journal of Medicineに2001〜2010年に掲載された、既存の医療を検証した研究の結果(文献18をもとに作成)
一方で、答えの出ていない疑問も多く残っています。2008〜2021年に発表されたCochraneの系統的レビューから、3分の1あまりを無作為に抽出して調べた研究があります。抽出したレビューで、プラセボや無治療と比較された介入1,567のうち、質の高いエビデンスで有効性が確認されていたものは87(5.6%)でした。害を調べていた介入は、577、36.8%でした[20]。
有効性が確認された介入が少ないことは、残りの介入に効果がないという意味ではありません。効果の有無を、質の高いエビデンスで判断できる段階にまだない、という意味です。エビデンスの確かさの評価方法は、エビデンス・グレーディングの記事で説明しています。
研究の結果に照らして医療を選ぶ方法を、根拠にもとづく医療、EBMといいます。EBMは、研究の結果を、医療者の経験や患者さんの価値観とあわせて用いる方法です。その定義はEBMの定義や成立の背景の記事で説明しています。
研究の結果がない疑問には、使える根拠がありません。臨床研究は、EBMで用いる根拠をつくる研究でもあります。研究で答えが出ても、診療に届くまでには隔たりがあり、その実態はEBMを実践する意味や効果の記事で扱っています。
日本の臨床研究の状況
共著論文を著者の所属機関の数で分けて数えると、日本の自然科学の論文数は世界で5番目に多く、その中で臨床医学の論文の割合は大きく伸びています[21, 22]。たとえば、日本の2つの大学と米国の1つの大学の共著論文であれば、日本に3分の2本、米国に3分の1本と数えます。
文部科学省の科学技術・学術政策研究所によると、所属機関の数で分ける数え方で、2021〜2023年の平均の日本の論文数は世界5位でした。被引用数が上位10%に入る論文の数では、13位でした。論文に関わった国をそれぞれ1本と数えると、論文数は7位でした[21]。
日本の論文に占める臨床医学の割合は、1981年から2023年までに17.3ポイント増えました。被引用数が上位10%に入る論文のうち日本の論文が占める割合を分野ごとに比べると、物理学が最も高く、次が臨床医学でした[22]。これらの数値からは、臨床医学が日本の研究の中で弱い分野だとはいえません。
ただし、科学技術・学術政策研究所の資料からは、臨床医学の分野だけで日本が世界で何位かは確認できませんでした。また、論文数や被引用数は、研究の量や注目度の目安です。臨床の疑問に答えているかどうかまでは、わかりません。
リハビリテーションの職種については、理学療法士を対象とした調査があります。2014年に、千葉県理学療法士会の会員から無作為に抽出した1,000人に、郵送調査が行われました。回答した396人のうち、集計に用いた384人では、根拠にもとづく実践が重要だと答えた人は83.3%でした[23]。根拠にもとづく実践とは、研究の根拠を臨床の判断に用いる実践のことです。
一方で、千葉県の調査で、臨床の疑問に答える論文が十分にあると答えた人は、13.2%でした。研究活動に関わっている人は約1割で、一部だけ関わる人を含めても約3割でした[23]。回答率は4割ほどで、1つの県での調査です。
臨床研究に臨床家が関わる意味
臨床研究は、患者さんを診ている臨床家が参加しなければ進みません。EBMの手順は、患者さんを前にして生じた疑問を、答えられる形にすることから始まります。その手順はEBMの実践方法の記事にあります。その疑問に答える研究がなければ、臨床家は答えを使えません。CRASHのように、搬送された多数の患者さんで治療を比較する試験は、患者さんを担当する臨床家が加わって初めて実施できます。
研究に関わる臨床家や医療機関の診療を調べた研究をまとめた報告があります。33本の研究のうち28本が、研究への関与と、診療の質のよさとの関連を示していました。その多くは、推奨された治療が行われているなど、診療の過程のよさでした。患者さんの転帰のよさを示したものは、7本でした[24]。
ただし、研究に参加する病院には、患者数が多い、評価の高い研修制度がある、意欲が高く教育を受けた職員がいる、などのほかの特徴があるかもしれません。著者たちも、こうした違いによる交絡の可能性を指摘しています[24]。研究への関与が原因だとまではいえません。
千葉県の理学療法士の調査でも、研究活動に関わる人は、関わらない人より、診療ガイドラインを使っていると答える傾向がありました[23]。診療ガイドラインは、研究にもとづいて診療の推奨をまとめた文書です。この調査も、ある時点で調べた横断研究です。研究に関わったからガイドラインを使うようになったのか、もともと関心の高い人が研究に関わっているのかは、区別できません。
臨床研究への関わり方
臨床研究への関わり方は、自ら研究を計画して実施することだけではありません。多施設で行う試験への参加や、評価の記録の残し方も、関わり方の1つです。まれな経過を症例報告にまとめることや、大学や研究者との共同研究もあります(表2)。どの関わり方でも、研究として行うときは、倫理指針などの規則に従います。診療記録をあとから研究に用いる場合も同じです。
| 関わり方 | 内容 |
|---|---|
| 試験に参加する | 多施設で行う試験で、適格な患者さんに参加を依頼したり、決められた方法で評価や介入を行ったりする |
| 記録を残す | 評価の方法と時期をそろえて記録しておくと、記録をさかのぼって調べる後ろ向きコホート研究などに使える |
| 症例を報告する | まれな経過や新しい工夫を、1人または数人の詳しい記録として報告する。書き方は症例報告の記事にある |
| 研究を計画する | 臨床の疑問を研究の問いにし、研究計画書を作成して倫理審査を受ける。倫理審査とは、倫理審査委員会が、研究計画を倫理的及び科学的な観点から審議すること |
| 共同で研究する | 大学や研究者と組み、研究デザインや統計の助言と支援を受ける |
表2 臨床家の臨床研究への関わり方
自ら研究を行うときは、まず、臨床の疑問を、答えを出せる研究の問いにします。その手順は研究テーマの決め方の記事で説明しています。計画は研究計画書にまとめ、倫理審査を受けます。研究計画書に記載する事項は、研究計画書の書き方の記事にあります。
臨床研究を進めるうえでの課題
理学療法士などの医療職では、時間の不足、研究技能の不足、ほかの業務の優先が、研究に取り組むうえでの主な障壁となっています。これは、15の研究をまとめた系統的レビューの結果です。研究に取り組む動機としては、技能の向上、仕事の満足、職業上の昇進が挙げられていました[25]。
研究技能は、養成校の教育とも関わります。千葉県の理学療法士の調査では、養成校で根拠にもとづく実践の基礎を学んだと答えた人は10.4%でした。職場の理学療法士の人数による違いもありました。3〜5人や6〜10人と答えた人では、15人を超えると答えた人と比べて、職場で根拠にもとづく実践が推奨されていると答えた人が少ない傾向がありました[23]。
研究の障壁を減らすために、研究への支援も試みられています。オーストラリアの公的医療機関では、6つの職種の臨床家16人に、診療から離れて研究に使える時間を最大4週間与えました。研究の専門職が助言も行い、11本の論文が投稿されました[26]。比較する群のない前後比較のため、取り組みの効果の大きさはわかりません。先の系統的レビューは、外部の組織との共同や、研究を主導する役職の設置を、取り組みの例に挙げています[25]。
研究については、数よりも質を問う指摘があります。英国の統計学者Altman(アルトマン)は1994年に、より少ない研究、よりよい研究、そして正しい理由で行われる研究が必要だと書きました[27]。
まとめ
臨床研究は、人を対象に、病気の予防・診断・治療の方法の改善、病気の理解、患者さんの生活の質の向上を目的とする研究です。法律などでは、医薬品や医療機器などの有効性または安全性を明らかにする研究や、承認のための治験のように、狭い意味でも使われます。
頭部外傷に対するステロイドのように理論と経験にもとづいて長年使われてきた治療でも、多数の患者さんで比較すると害がわかることがあります。ある医学雑誌に10年間に掲載された研究を調べると、既存の医療を検証した研究の4割が、その医療を否定していました。質の高いエビデンスで有効性が確認された介入はまだ少なく、答えの出ていない疑問が多く残っています。臨床研究の結果は、EBMで医療を選ぶときの根拠になります。
日本では、臨床医学の論文の割合が伸びました。一方で、千葉県の理学療法士の調査では、研究活動に関わる人は約1割でした。臨床家の関わり方は、試験への参加、記録、症例報告、共同研究など、さまざまです。
多くの病院の臨床家が加わる大規模な試験は、少人数の試験では確かな答えが出ないという、1970年代から指摘されてきた問題に答えるものです。頭部外傷のステロイドの答えも、239病院の臨床家が、搬送された患者さんの協力を得て出したものでした。
さらに学びたい人へ:おすすめの本
- 塩澤伸一郎『臨床から一歩ふみ出す 医療系学生・若手医療職のための はじめての臨床研究入門』(金芳堂):医療系の学生と若手の医療職に向けて、研究テーマの見つけ方、倫理面の手続き、サンプルサイズの決め方、データの扱い、学会発表と論文投稿までを、順を追って説明した入門書です。臨床研究に取り組む意味を考える節もあります(2026年刊行、100ページ)。
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