脳卒中患者は死よりも悪い健康状態だと感じている


今回紹介する文献
Very Low Quality of Life After Acute Stroke Data From the Efficacy of Nitric Oxide in Stroke Trial
(Sprigg et al., Stroke. 2013 ; 44 : 3458-62

 急性期脳卒中患者を対象に,発症後90日目健康関連QOLをEuroQOLという指標を用いて評価した横断研究を紹介します。健康関連QOL(Health-related quality of life,HRQOL)は,一般健常者と比べて脳卒中を発症された方で減少します。一部の報告ではHRQOLが死よりも悪いとみなされることもあるそうです。脳卒中を発症された方で,このような死よりも悪い健康状態に相当するHRQOLスコアを示した方々の特性はこれまで検討されていません。そこで,この研究では非常に低いHRQOLスコアの患者を対象として死よりも悪い健康状態に関連する特性が調査されました。


急性期脳卒中患者のデータを調査

 ENOS international Efficacy of Nitric Oxide in Stroke 試験(2001年7月から2012年3月まで期間で進行中)に登録された急性期脳卒中患者からデータを得たそうです。ENOSは国際的な他施設間のランダム化比較試験で,急性期脳卒中患者(48時間以内)への経皮的なニトログリセリン群と対照群とを比較した試験です(治療期間は7日間)。主な取り込み基準は,虚血性脳卒中,脳内出血,収縮期血圧 >140 mmHg,運動障害,発症前modified Rankin Scale (mRS) < 3.プライマリーアウトカムは,90日目のmRSの変化でした。すべての情報は,臨床試験の一部として前向きに収集されました。

健康関連QOLの評価は電話インタビューにより実施

 HRQOLは,EuroQol(EQ-5DとVASからなる)を用いて,発症90日目に電話インタビューによって評価されました。EQ-5Dは,全ての健康状態の一部として移動性,セルフケア,通常の活動,痛みや不快感,不安や抑うつに対する回答者の見解を調べることができます。得られたスコアは5桁の数値で表され,イギリストレードオフアルゴリズムを使用して健康効用スコア(HUS)に変換されました。HUSの0は死を表し,0未満は死よりも悪い健康状態を表現すると判断できるそうです。患者によってEuroQolのVASで,0(最悪の想像の健康状態)から100(最高の想像の健康状態)までのスケールがマークされました。患者が質問に完全に答えられなかった場合,介護者が代わりに答えたそうです。

 機能的アウトカムは,依存度(mRS,ENOS一次アウトカム),能力障害(Barthel index, BI),気分(Zung depression scale),認知(modified telephone mini-mental state examination),性格(家庭/公共機関)として,90日目に電話インタビューによって評価されました。完全に評価を完了できなかった患者は解析から除外されました。サブグループ間の差は,カテゴリー(順不同)変数にはχ2検定を,連続変数にはt検定を用いて調べられました。各EQ-5D項目については,未調整と調整順序ロジスティック回帰を用いてサブグループの違いが調べられました。棄却域はp > 0.05とされました。

死よりも悪い健康状態だと感じている人もいる

 この研究によって健康関連QOLを死よりも悪いと判断したか患者が全体の12.5%もいることが分かり,このような患者は,脳卒中後患者では一般的であることがわかりました。また,このような患者では機能的なアウトカム(mRSやBarthel Index)が不良で,mRSが5点の患者のほとんどが死よりも悪い状態であると判断したようです。さらに,彼らはEuroQOL項目の内,移動性やセルフケアの項目で極端に低い点数を示しており,一方で痛みや不安感などの項目はそれほど低い点数を示さなかったそうです。著者らはまとめの中で,死亡率を下げるための治療介入が,重介助患者を生み出し,その結果として死よりも悪い健康状態を生み出している可能性があると述べています。

 HUSが0未満(死よりも悪いと考えた)患者は… 

  • より高齢で,女性で,深刻な脳卒中で,total anterior circulation stroke syndrome(TACS)で,心房細動であることが多い.
  • 高血圧,心筋梗塞および脳卒中機能障害(mRS >0)の既往歴を持つものが多い.
  • 情報の大部分は,代理回答者から得られた(72.8%).
  • 脳卒中の深刻度は最も高い.
  • アジア(4.8%)や北アフリカ(8.2%)に比較してイギリス諸島(13.9%)やヨーロッパ(15.3%)で高い割合(Table1).
  • 優位半球脳卒中は代理回答者によるものが多かったが,HUS0未満はいなかった.
  • 機能的アウトカム(mRS,BI)が不良で,気分が落ち込んでおり,未だ施設か病院にいることが多い.
  • 患者本人が解答するより代理回答者が解答した例では,有意に不良なアウトカムであった.
  • 一名を除き,mRS=5の患者が全て含まれる.
  • 患者の大部分は,通常の活動(95%),移動性(81%),セルフケア(83%)においてEQ-5Dで極端な問題(3点)を報告.対照的に,痛み/不快感(29%)と不安/抑うつ(24%)では極端な問題は一般的ではなかった.

研究の限界

  • QOLスコアは多国籍,多地域から集められた(QOLスコアは国によって変化する). 
  • 多国籍データだが,大部分がイギリスから集められたデータ(63.8%)であったため,HUSをイギリスのアルゴリズムを用いて計算した.  
  • 急性期脳卒中患者を集めたランダム化比較試験からデータを流用(選択バイアスの可能性)  
  • 死よりも悪い生活の質は存在しないとされることもあり,これを定量化しようとする試みには議論の余地がある.

コメント

 まず,死よりも悪いと考えている患者さんがいること,ついでそういった患者さんが痛みや不快感などの主観的な項目ではなく,移動やセルフケアといった実際の活動制限をQOLの重要な判断基準においていることに私は衝撃をうけました。もちろん,この研究にも様々な制限があるため結果に対して議論の余地はありそうです。しかしながら,日々の臨床で,患者さんの機能,能力,疼痛に目を向けることの多いセラピストですが,それらのうち何が患者さんのQOLを高めるのか,そういった視点も大切だと思いました。

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