骨格筋の収縮と弛緩:なぜゆるむのにATPが要るのか

骨格筋の収縮と弛緩:なぜゆるむのにATPが要るのか

筋は、ゆるむためにもエネルギーを使います。調べられたほとんどの筋で、長さを変えずに力を出す等尺性収縮に使うエネルギー全体の30〜40%は、カルシウムイオン(Ca²⁺)を出し入れするためのものでした(Barclayら 2007)。その中には、筋をゆるませるために、Ca²⁺をためている筋小胞体へATPを使ってCa²⁺をくみ戻す仕事が含まれます。

法医学の講義で「死後しばらくすると、全身の筋が硬くなる。これが死後硬直だ」と聞いた学生なら、疑問に思うかもしれません。筋が力を出すにはATPが要ると、生理学で習ったばかりです。エネルギーがなくなれば、筋は力を失ってぐったりするはずではないでしょうか。なぜ逆に、硬く固まるのでしょうか。

骨格筋の収縮と弛緩の要点

  • 構造:筋線維の中の筋原線維は、サルコメア(筋節)が連なったもの。太いフィラメント(ミオシン)と細いフィラメント(アクチン)が交互に並ぶ
  • 滑り説:縮むときフィラメント自体の長さは変わらず、互いに滑り込む(1954年に2組の研究者が同時に報告)。出せる力は、フィラメントの重なりの大きさで決まる
  • 興奮収縮連関:活動電位がT管に伝わると、電位センサー(DHPR)とつながった筋小胞体のチャネル(RyR1)が開き、Ca²⁺が放出される。骨格筋では、細胞外からのCa²⁺の流入は要らない
  • 調節:Ca²⁺がトロポニンに結合するとトロポミオシンがずれ、ミオシンがアクチンに結合できるようになる。トロポニンを発見したのは江橋節郎
  • 弛緩にATPが要る理由:①ミオシンをアクチンから離すのにATPの結合が要る。②筋小胞体のカルシウムポンプ(SERCA)がATPを使ってCa²⁺を回収する。ATPがなくなると、死後硬直が起こる
  • タイチン(コネクチン):Z線とM線をつなぐ、知られている中で最大のタンパク質。伸ばされた筋の受動的な張力を生む
  • 臨床:悪性高熱症(RyR1の変異があると、麻酔薬などをきっかけにCa²⁺の放出が止まらなくなる)、Brody病(SERCA1の変異で弛緩が遅れる)

筋線維の中の2種類のフィラメント

死後の筋が硬く固まる理由は、筋が縮むしくみの中にあります。骨格筋は、筋線維と呼ばれる細長い細胞の束です。筋線維は、多くの核をもつ大きな細胞で(くわしくは「筋線維の種類」)、その内部には筋原線維がぎっしり詰まっています。筋原線維を顕微鏡で見ると、暗い帯と明るい帯が規則正しく繰り返す横じまが見えます。この繰り返しの1単位、つまりZ線から次のZ線までがサルコメアで、筋節とも呼ばれます。筋が縮む最小の単位です(図1)。

サルコメアの中には、ミオシンでできた太いフィラメントと、アクチンでできた細いフィラメントが、交互に重なるように並んでいます。太いフィラメントのある範囲が暗く見えるA帯で、細いフィラメントだけの範囲が明るく見えるI帯です。細いフィラメントはZ線から両側へ伸び、太いフィラメントはサルコメアの中央(M線)を中心に並びます。A帯の中央で細いフィラメントが届いていない範囲をH帯といいます。このほか、細いフィラメントにはトロポミオシンとトロポニンが、Z線とM線のあいだには、コネクチンとも呼ばれるタイチンがあります(表1。フィラメントの分子のつくりは「アクチンフィラメント系による細胞運動(筋収縮)」)。

タンパク質主な働き
ミオシン太いフィラメントをつくる。頭部がアクチンに結合して引き、ATPを分解する
アクチン細いフィラメントの土台。ミオシンが結合する場所をもつ
トロポミオシンアクチンに沿う細長い分子。ゆるんでいるときはミオシンの結合場所をふさぐ
トロポニン
(C・I・T)
CはCa²⁺と結合する。Iはアクチンに結合して収縮を抑える。Tはトロポミオシンに結合して複合体を固定する
タイチン別名コネクチン。Z線からM線まで伸びる巨大な分子。伸ばされると張力を生む

表1 サルコメアの主なタンパク質(MarstonとZamora 2020、MyhreとPilgrim 2014をもとに作成)

フィラメントは縮まず、滑り込む

筋が縮むとき、サルコメアの中では何が起きているのでしょうか。1950年代の初めまでは、ミオシンはサルコメア全体を貫いて通っていて、フィラメントそのものが折りたたまれるように縮むという考えが広く信じられていました(Squire 2016)。

この考えを覆すきっかけになったのが、1954年5月22日発行の『Nature』に並んで載った2本の論文です。ケンブリッジ大学のAndrew Huxleyは、Niedergerkeとともに、自分で組み立てた干渉顕微鏡で生きたカエルの1本の筋線維を観察しました(HuxleyとNiedergerke 1954)。一方、Hugh HuxleyはJean Hansonとともに、筋から取り出した筋原線維を位相差顕微鏡で観察しました(HuxleyとHanson 1954)。どちらも、染めていない透明な標本の中の濃淡を、光の性質を利用して見分けられる顕微鏡です。2組の結論は同じでした。サルコメアの長さが変わっても、A帯の幅はほとんど変わらず、長さの変化はほとんどI帯で起きていたのです。偶然にも、2人のHuxleyは血縁関係のない別人でした(Squire 2016)。

サルコメアの模式図。ゆるんでいるときと縮んだときを比べると、太いフィラメントの長さであるA帯の幅は変わらず、細いフィラメントだけの範囲であるI帯と、A帯の中央で細いフィラメントが届いていないH帯が狭くなる

図1 縮むときのサルコメアの変化(模式図)。ゆるんでいるときと縮んだときを比べると、A帯の幅、つまり太いフィラメントの長さは変わらず、I帯とH帯が狭くなる。1954年の2本の論文をもとに作成。タイチンはI帯の部分だけを描き、長さの比率は実際とは異なる

A帯の幅、つまり太いフィラメントの長さが変わらないのなら、フィラメント自体は縮んでいません。細いフィラメントが太いフィラメントのあいだへ滑り込むことで、サルコメアが短くなるのです。これを滑り説、または滑走説といいます。HuxleyとHansonは、この論文の中ですでに、ATPがアクチンをミオシンから引き離し、ミオシンによって分解されるのではないかと推測していました(Squire 2016)。筋がゆるむのにATPが要る理由は、この推測の中にすでに含まれていました。

滑り説が正しければ、筋が出せる力は、太いフィラメントと細いフィラメントの重なり、つまり結合できる架け橋(クロスブリッジ)の数で決まるはずです。Gordon、Huxley、Julian(1966)は、カエルの1本の筋線維で、サルコメアの長さを変えながら、等尺性収縮、つまり筋の長さを変えずに出す力を測りました。力が最大になったのは、サルコメアの長さが2.05〜2.2 µmのときでした。それより長くすると力は直線的に下がり、重なりがなくなる3.65 µm以上では力は0になると予測されました(Squire 2016)。短くしても力は下がり、1.67 µmより短くなると急に下がりました(図2)。重なりが小さすぎても、細いフィラメントどうしが重なり合い、さらに太いフィラメントがZ線に突き当たるほど縮みすぎても、力は小さくなるのです。筋の長さや縮む速さと力の関係は、「筋の収縮様式」でも紹介しています。

サルコメアの長さと等尺性収縮の力の関係のグラフ。力は2.05〜2.2 µmで最大になり、それより長いと直線的に下がって3.65 µm以上で0になる。短い側では1.67 µmより短いと急に下がる。上に、短すぎる、ちょうどよい、長すぎるときのフィラメントの重なりの模式図がある

図2 サルコメアの長さと力の関係(Gordonら 1966をもとに作成)。カエルの1本の筋線維で、サルコメアの長さを変えて測った等尺性収縮の力。最大の範囲と1.67 µm、3.65 µmの値はGordonら(1966)による。短い側の破線は形を模式的に描いたもの。上の模式図は、短すぎる、ちょうどよい、長すぎるときのフィラメントの重なり

電気の信号を、カルシウムの合図へ

では、縮み始める合図は何でしょうか。その手がかりは、思わぬところから見つかりました。1883年、ロンドンのRingerは、摘出したカエルの心臓を食塩水に入れて、拍動を保つ条件を調べていました。食塩水を水道水でつくっていたときには心臓は打ち続けましたが、蒸留水でつくり直すと、拍動はしだいに弱まり、20分ほどで止まってしまいました。ロンドンの水道水は硬水で、カルシウムを含んでいたのです(Ringer 1883、Carafoli 2002)。心臓が拍動を続けるにはカルシウムが必要だったのです。

骨格筋については、1947年にHeilbrunnとWiercinskiが、筋線維にカルシウムを注入すると収縮が起こることを示しました。Rallによれば、これがカルシウムが収縮の引き金になることの最初の説得力のある証拠でした。ところが、この研究はほとんど注目されませんでした(HeilbrunnとWiercinski 1947、Rall 2019)。

筋線維の電気的な興奮が収縮に結びつくまでの流れを興奮収縮連関と呼び、骨格筋では現在、次のように分かっています(図3)。運動神経からの信号で筋線維の細胞膜に活動電位が生じると、それは細胞膜が筋線維の内側へ入り込んだ管、T管に沿って、筋線維の奥まで伝わります。T管は横行小管とも呼ばれます。T管の膜には、ジヒドロピリジン受容体(DHPR)と呼ばれるタンパク質があり、膜の電位の変化を感じ取ります。そのすぐ向かいには、筋線維の中に張りめぐらされた袋状の膜で、カルシウムイオン(Ca²⁺)をためている筋小胞体があり、その放出チャネルであるリアノジン受容体1型(RyR1)が並んでいます。DHPRが電位の変化を感じ取ると、つながったRyR1が開いて、Ca²⁺が細胞質へ放出されます。

骨格筋の興奮収縮連関の模式図。運動神経の信号で筋線維に生じた活動電位がT管に伝わり、T管の膜にある電位センサーDHPRが電位の変化を感じ取ると、向かい合う筋小胞体のRyR1が開いてCa²⁺が放出される。Ca²⁺はトロポニンに結合し、トロポミオシンがずれて架け橋ができる。SERCAがATPを使ってCa²⁺を筋小胞体へ戻すと、筋はゆるむ

図3 骨格筋の興奮収縮連関(模式図)。1〜4で縮み、5でゆるむ。DHPRはジヒドロピリジン受容体、RyR1はリアノジン受容体1型。骨格筋では、細胞外からのCa²⁺の流入がなくても収縮が起こる。心筋では、細胞外から入るCa²⁺がRyR2を開く

ここに、骨格筋と心筋の大きな違いがあります。骨格筋では、細胞外からCa²⁺が流れ込まなくても、この流れが起こります。DHPRはそれ自体がCa²⁺チャネルでもありますが、骨格筋ではそこを通るCa²⁺の流入は必要なく、主に電位のセンサーとして働きます。そしてRyR1と機械的につながっていると考えられています(Franzini-Armstrong 2018、Hernández-OchoaとSchneider 2018)。1973年、SchneiderとChandlerは、筋の細胞膜の中で電荷が動く「電荷移動」が興奮収縮連関の最初の段階であり、それが筋小胞体と機械的につながって働くという仮説を出しました(SchneiderとChandler 1973、Franzini-Armstrong 2018)。1987年にはRíosとBrumが、この電荷を動かしている分子がDHPRだと提案し(RíosとBrum 1987)、翌1988年にはTanabeと沼正作らが、DHPRの主要な部分が欠けた筋形成不全マウスの培養筋細胞にDHPRの遺伝子(cDNA)を注入すると、興奮収縮連関が回復することを示しました(Tanabeら 1988)。これに対して心筋では、細胞外から流れ込んだCa²⁺が筋小胞体のチャネル(RyR2)を開き、より多くのCa²⁺を放出させます。これをCa²⁺誘発Ca²⁺放出と呼びます(Ríos 2018)。心筋の収縮は、細胞外から流れ込むCa²⁺なしには始まりません。Ringerの心臓が細胞外のカルシウムを必要としたのは、このためです(くわしくは「心筋の収縮と弛緩」)。

江橋節郎と「カルシウム説」

放出されたCa²⁺は、どのようにして収縮を始めさせ、どのようにして弛緩させるのでしょうか。1950年代の初め、東京大学の大学院生だった江橋節郎は、筋から取り出したタンパク質でつくった模型が、ATPを加えると縮むのに、ATPを使い果たしてもゆるまないという、死後硬直とよく似た現象に目を留め、筋がゆるむしくみを調べ始めていました。当時、筋をすりつぶした液の中には、筋の模型をゆるませる「弛緩因子」があることが知られていました(Marsh 1951)。江橋もこの因子を独自に見つけていました。一般には、弛緩因子の正体はATPをつくり直す酵素だと考えられていましたが、江橋は、その本体が、マグネシウムの存在下でATPを分解する酵素の働き、つまりMgATPアーゼの活性をもつ小さな膜の粒子であることを示しました(Endo 2011)。この粒子は、のちに筋小胞体だと分かります。

江橋はLipmannとともに、この粒子がATPを使ってカルシウムイオンを最大1,400倍にまで濃縮することを確かめました。ATPがある限りカルシウムは粒子に取り込まれたままで、ATPが減ると放出されました(EbashiとLipmann 1962)。弛緩因子は、Ca²⁺を収縮の装置から取り除くことで、筋をゆるませていたのです(Endo 2008)。江橋は1961年に、カルシウムイオンが筋の収縮と弛緩を切り替えるという「カルシウム説」を提唱しました。しかし当時の生化学者の多くは、無機イオンのような単純なものが、筋の収縮という重要なしくみを制御しているとは受け入れようとせず、カルシウム説は不人気でした(Rall 2022)。

江橋はさらに、精製したアクチンとミオシンだけでは、収縮がCa²⁺によって調節されないことに気づきます。調節にはトロポミオシンと、新しく見つかったタンパク質が必要でした。江橋は1963年に新しい因子の存在を報告し(Ebashi 1963)、1965年から1966年にかけて、これをトロポニンと名づけて報告しました(EbashiとKodama 1965、1966)。トロポニンはCa²⁺を受け取るタンパク質で、Ca²⁺が結合したときの変化が、トロポミオシンを介してアクチンに伝わり、アクチンとミオシンの結合を調節します(Endo 2011)。

トロポニンは3つの部分からなります(表1)。Ca²⁺を感じ取るのがトロポニンCで、Ca²⁺の濃度が低いときには、トロポニンIがアクチンに結合して、トロポミオシンをミオシンの結合場所をふさぐ位置に固定しています。トロポニンTは、この複合体を細いフィラメントにつなぎとめています(MarstonとZamora 2020)。Ca²⁺がトロポニンCに結合するとこの抑えが外れ、トロポミオシンがずれて、ミオシンの頭部がアクチンに結合できるようになります(Lehman 2016)。

ミオシンを離すのに、ATPが要る

ミオシンの頭部がアクチンに結合してからの動きは、架け橋(クロスブリッジ)サイクルとして説明されます。LymnとTaylor(1971)は、アクチンとミオシンがATPを分解する反応を段階ごとに調べ、次のような順序を示しました(図4)。

まず、ATPを持たないミオシンの頭部は、アクチンに強く結合しています。これを硬直結合と呼びます。ここにATPが結合すると、ミオシンはアクチンから離れます。離れたミオシンはATPをADPとリン酸に分解し、そのエネルギーで頭部を起こして、次の首振りに備えます。頭部が再びアクチンに結合してリン酸を放すと、頭部が首を振ってアクチンを引きます。この首振りをパワーストロークと呼びます。ただし、リン酸を放すのと首振りのどちらが先かについては、今も議論があります。最後にADPを放すと、頭部はアクチンに強く結合した最初の状態に戻ります(Månssonら 2015)。つまり、ATPがないとき、ミオシンはアクチンに強く結合したまま離れられません。

架け橋サイクルの模式図。A:ATPを持たないミオシンの頭部はアクチンに強く結合している(ATPがないとここで止まる)。B:ATPが結合すると頭部が離れる。C:ATPをADPとリン酸に分解して頭部が起き上がる。D:アクチンに結合してリン酸を放し、首振りでアクチンを引いてからADPを放してAに戻る

図4 架け橋サイクルとATP(LymnとTaylor 1971をもとに作成した模式図)。1回のサイクルごとにATPを1分子使う。リン酸の放出と首振りの順序には議論がある。大きさや角度は実際と異なる

ゆるむためのATP:死後硬直の正体

ここまでで、ATPがなくなった筋がぐったりせずに硬くなる理由に答えられます。筋がゆるむためには、ATPが2つの場所で必要です。1つ目は、ミオシンの頭部をアクチンから離すことです。ATPが結合しなければ、架け橋は外れません。2つ目は、細胞質のCa²⁺を筋小胞体へ戻すことです。筋小胞体の膜にあるカルシウムポンプ(SERCA)は、ATPのエネルギーを使って、Ca²⁺を濃度の低い細胞質から濃度の高い筋小胞体の中へくみ上げます。Ca²⁺がトロポニンから外れると、トロポミオシンが元の位置に戻り、架け橋ができなくなります(図3)。この出し入れのための費用は小さくありません。Ca²⁺を出し入れするのに使うエネルギーは、調べられたほとんどの筋で、等尺性収縮全体の30〜40%を占めていました(Barclayら 2007)。

死後にATPが尽きると、この2つがどちらも止まります。ATPが減ってカルシウムポンプが働かなくなるとCa²⁺を筋小胞体へ戻せなくなり、哺乳類ではこれが死後硬直の引き金になると考えられています(Galimovら 2018)。そしてATPが尽きると、アクチンに結合したミオシンは離れられなくなります。筋は縮み続けるというより、架け橋で固定されて硬くなるのです。これが死後硬直です。江橋が目を留めた「ATPを使い果たすとゆるまない」模型も、同じ理由で説明できます。ATPは、縮むためだけでなく、ゆるむためにも欠かせないのです(Perry 2008)。

ゆるんだ筋を支えるタイチン(コネクチン)

弛緩した筋の性質には、もう一つのタンパク質が関わっています。東京慈恵会医科大学の名取礼二は、カエルの筋線維から細胞膜を取り除いた「スキンドファイバー」をつくりました。この筋線維は、ふつうの筋線維の弾性の限界を超えて伸ばしても元に戻る性質を示し、名取はここから、筋線維の中に弾性をもつ成分があると予測しました(Endo 2011)。その成分を1976年に取り出して「コネクチン」と名づけたのが丸山工作で(Maruyama 1976)、1979年にはWangらが、のちに同じものだと分かる巨大なタンパク質を「タイチン」と名づけて報告しました(Wangら 1979)。

タイチンは、知られている中で最大のタンパク質で、Z線からM線まで、サルコメアの半分にわたって伸びています(MyhreとPilgrim 2014)。分子量は約300万で、I帯にある部分、とくにプロリン、グルタミン酸、バリン、リシンという4種類のアミノ酸に富むPEVK領域が伸ばされることが、受動的な張力、つまり筋が収縮していなくても伸ばされることで生じる張力の主な源です(Maruyama 1997)。心筋細胞では、サルコメアが短く縮んだときに元へ押し戻す力も生むことが示されており、心筋のタイチンは、伸びにも縮みにも抵抗する両方向のばねとして働くと考えられています(Helmesら 1996)。ただし、筋は自分の力で伸びることはできないので、縮んだ骨格筋が元の長さに戻るのは、主に拮抗筋の収縮や重力などの外からの力によるものです。

ATPは、どこから補われるのか

筋の中にたくわえられたATPは多くなく、使った分はすぐに補われなければなりません。最も早く働くのが、クレアチンリン酸です。クレアチンキナーゼという酵素が、クレアチンリン酸のリン酸をADPに渡してATPをつくり直します。筋の細胞質には最大で約30 mMのクレアチンリン酸があり、すぐに使えるエネルギーの緩衝として働きます(Wallimannら 2011)。さらに、筋にたくわえたグリコーゲンやブドウ糖を分解してATPをつくる解糖系と、ミトコンドリアで酸素を使ってATPをつくる酸化的リン酸化が、ATPを補います。解糖系は酸素が十分にあるときにも働き、ミトコンドリアでの酸化の前段階にもなっています。酸素の有無で単純に切り替わるのではなく、両者は同時に働き、運動の強さによって割合が変わります。

ATPが筋収縮の直接のエネルギー源だと分かるまでには、長い回り道がありました。乳酸の生成やクレアチンリン酸の分解が収縮の直接のエネルギー源だと考えられた時期もありましたが、どちらも正解ではありませんでした。ただし、その研究の過程でATPそのものが発見されました(Rall 2023)。

カルシウムの出し入れが壊れると

Ca²⁺の出し入れが壊れると、何が起こるのでしょうか。1960年、オーストラリアのDenboroughとLovellは、ハロタンによる全身麻酔の後に、若い男性が危うく命を落としかけた例を報告しました。この男性の家族では、全身麻酔に関連する死亡が10人も起きていました(DenboroughとLovell 1960)。麻酔中の高熱そのものは1900年から報告されていましたが、この報告は、悪性高熱症が遺伝する病気だと認識される最初の大きな手がかりになりました(Lawalら 2020)。

悪性高熱症は、セボフルランなどの揮発性吸入麻酔薬や、筋弛緩薬のスキサメトニウム(サクシニルコリン)をきっかけに起こります。多くはRyR1の遺伝子の変異によるもので、筋小胞体からのCa²⁺の放出が止まらなくなります。SERCAがCa²⁺を戻そうとしても追いつかず、エネルギーがむだに消費されて、筋の硬直、代謝の亢進、体温の上昇が起こります。RyR1に結合してCa²⁺の放出を抑えるダントロレンの導入(1979年)や、病気への理解が進んだことにより、かつて80%とされた死亡率は、2006年には5%未満に下がりました(Rosenbergら 2015)。

逆に、Ca²⁺を戻すポンプが働かない病気もあります。速筋線維の筋小胞体のカルシウムポンプSERCA1をつくる遺伝子(ATP2A1)の変異で起こるBrody病では、運動によって筋の弛緩が遅れ、こわばりや筋のつりが起こります(Odermattら 1996)。40人を調べた研究では、約半数で、筋電図に電気的な活動が現れないまま筋がこわばる、サイレントな拘縮と呼ばれる状態がみられました(Molenaarら 2020)。神経からの信号がないのに筋がゆるまないのは、Ca²⁺が細胞質に残っているためと考えられます。ゆるむためにSERCAが欠かせないことを、この病気は示しています。

まとめ

骨格筋は、太いフィラメントと細いフィラメントが互いに滑り込むことで縮みます。運動神経の信号で筋線維に生じた活動電位はT管を通って筋線維の奥へ伝わり、電位センサーのDHPRとつながったRyR1が開いて、筋小胞体からCa²⁺が放出されます。Ca²⁺がトロポニンに結合するとトロポミオシンがずれ、ミオシンがアクチンに結合して首を振ります。筋がゆるむには、ATPが結合してミオシンをアクチンから離し、SERCAがATPを使ってCa²⁺を筋小胞体へ戻す必要があります。ATPが尽きた死後に筋が硬くなるのは、この2つが止まるからです。江橋節郎が目を留めた「ゆるまない模型」は、弛緩が、エネルギーの切れた受け身の状態ではなく、ATPを使って保たれている状態だということを示していたのです。

そのゆるまない模型は、筋から取り出したタンパク質でつくったものでした。取り出したタンパク質なら、ATPやカルシウムを加えたり除いたりして、ゆるむための条件を一つずつ確かめられます。そうした実験から、筋小胞体の粒子がATPを使ってカルシウムイオンを最大1,400倍にまで濃縮することが確かめられ(EbashiとLipmann 1962)、LymnとTaylor(1971)が段階ごとに調べた反応からは、ATPが結合しなければミオシンがアクチンから離れないことが示されました。法医学の講義で聞いた死後硬直も、筋から取り出したタンパク質の反応によって説明できるようになったのです。

ほかの筋の生理学は「平滑筋の収縮と弛緩」や「解剖生理学(関連記事一覧)」で紹介しています。

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