入院したときの寝返りと歩行の点数などで退院先を見積もると、自宅に退院した人では99%が当たりました。脳卒中で入院して理学療法を受ける人たちが、寝返りや歩行などの課題を行い、採点されました。そのうち寝返りと歩行の点数に、年齢と、脳卒中の前に住んでいた所を合わせて、一人ひとりの退院先が見積もられました。一方、高齢者の施設に移った人では、見積もりが当たった人は3人に1人でした[1]。
退院先を見積もったこの点数は、脳卒中のあとの基本動作の回復を、どこまで測れているのでしょうか。使われた尺度は、Motor Assessment Scale(モーター・アセスメント・スケール)です。寝返りから歩行までの基本動作と、上肢と手の運動を、項目ごとに0〜6点で採点します[2]。
この記事の要約(押すと開閉します)
- 定義:寝返り、起き上がり、座位のバランス、立ち上がり、歩行の5つの基本動作と、上肢と手の3項目を、それぞれ0〜6の7段階で採点する尺度。合計は48点で、筋緊張の項目は別に採点する。作った研究者たちはMASと略したが、Modified Ashworth Scaleも同じ略になる
- 生まれた経緯:1985年に、短く簡単に行える運動の評価として発表された。その後、手の2項目の段階を並べ直した版や、ビデオ通話で行う版が作られた
- 測り方:課題ごとに患者に動作をしてもらい、段階の基準で採点する。歩行の項目は、3m以上を自立して歩ければ3点以上になる
- 退院時の予測:オーストラリアの566人では、入院時の歩行と寝返りの項目などで、自宅に退院した人の99%を正しく予測できたが、施設に移った人は33.3%だった。区切りの点数を示した研究は、筆者が調べた範囲では2件だった。重い認知の障害やせん妄のある人などを除いたデンマークの37人では、病棟に移ってすぐの合計が24点以上の人が、自宅に退院しやすかった。立ち上がりの項目の区切りは、予測したものも対象も違う2つの研究で2点と4点に分かれた
- 点数の変化の判断:作った研究者たちは、5人の患者のビデオを20人が採点した検者間の相関が平均0.95、回復が落ち着いた14人を4週あけて測った再検査の相関が平均0.98と報告した。対面で行う原典の版の、変化の目安の値は、筆者が調べた範囲では見つからなかった
- 限界:190人の研究では、退院時に立ち上がりの項目で44%が満点だった。61人の研究では、上肢と手の項目は入院中の変化をとらえにくかった。手の2項目では、段階の順序に食い違いが見つかっている。32人の研究では、回復の初期や重い人で、Fugl-Meyer Assessmentのほうが回復の段階を見分けやすいことが示唆された
- ほかの評価との使い分け:筆者が5つの尺度の項目を並べると、移乗まで含むのはRivermead Motor Assessmentだけで、Trunk Control Testは寝返りと起き上がり、座位だけだった
- 確かめられていないこと:筆者が2026年10月にPubMedと評価法のデータベースで調べた範囲では、次の点が確かめられていない。原典の版の変化の目安。合計24点の区切りが別の集団にも当てはまるか。慢性期の寝返りなどの変化のとらえ方。合計点を1点の差がどこでも同じ大きさの点数として扱えるか。5つの尺度を同じ患者で比べたときに、どれが変化や見通しをよく表すか
Motor Assessment Scaleとは
Motor Assessment Scaleは、脳卒中のあとの運動の機能を、8つの項目で採点する尺度です[2]。項目は、寝返り、起き上がり、座位のバランス、立ち上がり、歩行の5つの基本動作と、上肢と手の3つです。上肢と手の3項目は、上肢の機能、手の動き、手の巧みな動作です[3]。各項目は0〜6の7段階で採点し、8項目の合計は48点です[4]。
このほかに、筋緊張の項目が1つあります[2]。評価法のデータベースによると、この項目は、評価のあいだの観察から、麻痺した側の筋緊張を見積もるものです[3]。
作った研究者たちは、Motor Assessment ScaleをMASと略しました[2]。痙縮を測るModified Ashworth Scale(MAS)(モディファイド・アシュワース・スケール)も、同じ略になります。両方を使った論文で、Modified Ashworth ScaleだけをMASと略した例もあります[5]。論文を読むときは、どちらの尺度の略かを確かめる必要があります。
この記事の本文では、Motor Assessment ScaleをMASと書きます。評価法のデータベースによると、MASの所要時間は、作った研究者たちが約15分とし、ほかの研究では15〜60分と報告されています[3]。道具は、ストップウォッチ、カップ、ボール、櫛、スプーン、ペンなどです[4]。
Barthel Index(BI)(バーセル・インデックス)は、日常生活動作を測る尺度です。Functional Independence Measure(FIM)(ファンクショナル・インディペンデンス・メジャー)も同じです。どちらの項目にも、寝返りはありません。寝返りや起き上がりを細かくみるには、MASのような基本動作の評価が別に要る、と筆者は考えます。
測りたいものを測れているかを、妥当性といいます。Fugl-Meyer Assessment(FMA)(フューグル・マイヤー・アセスメント)は、1975年に発表された評価です。脳卒中のあとの運動の機能、バランス、感覚などを測ります[6]。発症から平均64.5日の32人を2日続けて測ると、MASとFMAの合計点の相関係数は0.96でした[7]。
相関係数は、一方が大きいほどもう一方も大きい、または小さいという関係の強さを、−1から1までの値で表します。0に近いほど、関係が弱いことを示します。この研究では、Spearman(スピアマン)の順位相関係数を使いました。片麻痺の30人の研究でも、合計点の相関は0.88でした[8]。
2つの検査の対応する項目どうしの相関は、0.65〜0.93でした。ところが、座位のバランスだけは−0.10でした[7]。研究者たちは、FMAの座位のバランスの検査がバランスを測るのに妥当ではなく、MASとの相関が低い原因だろうと述べています[7]。
相関が強くても、点数の水準がそろうとは限りません。対応する項目の点数を満点に対する割合で比べると、上肢でも下肢でも、とくに障害の重い人で、FMAのほうが高い回復の水準を示しました[7]。
Motor Assessment Scaleが生まれるまで
MASは、1985年に、Carr(カー)とShepherd(シェパード)らが、短く簡単に行える運動の評価として発表した尺度です[2]。論文は、8つの運動の領域と筋緊張の1項目を、0〜6点で採点する形を示しました[2]。MASは、課題に取り組む動作を実際に行ってもらい、その出来を採点する尺度だと説明されています[9]。
測るたびに、また測る人が変わっても、同じような点数が出るかを、信頼性といいます。同じ論文で、検者のあいだの信頼性と、日をあけて測り直したときの信頼性を、相関係数で調べています[2]。図1に、MASの主な研究を示します。

図1 Motor Assessment Scaleの主な研究。矢印の左はそのとき問題になったこと、右はそれに答えた方法。緑は、いまの原典の版、灰色は、原典を確かめたり作り直したりした研究
2005年、Sabari(サバリ)らは、上肢と手の3項目の段階が、正しい難しさの順に並んでいるかを問題にしました[10]。脳卒中の患者100人で調べると、上肢の機能の項目の順序は支持されました。一方、手の動きと手の巧みな動作の2項目では、段階の順序に食い違いが見つかりました。研究者たちは、上肢と手の項目の基準を変えることを提案しました[10]。
2014年、Sabariらは、手の2項目を作り直しました。米国とカナダの8施設の332人のデータで、手の動きは10個、手の巧みな動作は8個の動作を、難しさの順に並べ直しました。点数は、ほかの項目と同じ0〜6点に換算する方法を示しています[11]。
さらに、ブラジルの研究者たちは、MASをビデオ通話で行うための手引きを作り、Tele-MAS(テレ・マス)と呼びました[12]。脳卒中の41人では、対面のMASとの相関が0.97でした。検者のあいだの信頼性を表す級内相関係数(ICC)は、0.92でした[12]。
いまのMASの8項目と0〜6点の採点は、1985年の原典から来ています[2]。手の項目の新しい段階と、ビデオ通話の版は、原典をもとに作られた別の版です[11, 12]。
Motor Assessment Scaleの測り方
MASでは、8つの課題を患者に行ってもらい、それぞれ0〜6点で採点します[2]。評価法のデータベースによると、各課題を3回行い、最もよい出来を記録します[3]。各項目の段階は、やさしい動作から難しい動作へ順に並ぶように作られています[11]。項目を表1に示します。
| 項目 | 見る動作と採点 |
|---|---|
| 1 寝返り | あ |
| 2 起き上がり | あ |
| 3 座位の | 座った |
| 4 立ち上がり | 座った |
| 5 歩行 | 歩く。 |
| 6 上肢の | 腕を |
| 7 手の | 手を |
| 8 手の | 道具を |
| 筋緊張(麻痺側) | 評価の |
表1 Motor Assessment Scaleの項目。1〜8の合計は0〜48点。各段階の採点の基準の文言は載せていない(文献2–4、13をもとに作成)
歩行の項目は、3m以上を自立して歩ければ3点以上になります[13]。回復の見通しを調べた研究では、歩けるようになったかを歩行の項目で判定し、3点以上を自立して歩ける状態としています[14]。座位から歩行までの3項目を合わせて使った研究もあります[15]。
筋緊張の項目は、4点が正常を表します。4点より高ければ筋緊張が高い状態、低ければ筋緊張が低い状態です。この項目は、合計点に含めません[4]。
Motor Assessment Scaleによる退院時の予測
入院時のMASの点数は、退院先や退院時の状態の予測に使われていますが、区切りの点数を示した研究は、筆者が調べた範囲では2件だけです[1, 16, 17]。筆者は2026年10月に、PubMed(パブメド)と評価法のデータベースで調べました。
オーストラリアの15施設で、入院して理学療法を受けた566人を、前向きに調べた研究があります[1]。予測には、脳卒中の前の住まい、MASの歩行と寝返りの項目、年齢の4つを使いました。全体で正しく予測できた割合は87.3%で、自宅に退院した人では99%、高齢者の施設に移った人では33.3%でした[1]。
ある出来事が起こる割合と起こらない割合の比を、オッズといいます。歩行の項目が1点高いごとに、自宅に退院するオッズは1.66倍になりました。この1.66倍は、オッズ比と呼ばれる値です[1]。
回復の見通しや状態を分ける区切りの点数を、カットオフ値といいます。感度は、その状態の人のうち、区切りで正しく見分けられた人の割合です。特異度は、その状態でない人のうち、正しく見分けられた人の割合です。くわしくは、感度と特異度で説明しています。
デンマークでは、脳卒中のリハビリテーション病棟で前向きコホート研究が行われました[16]。病棟に紹介された88人のうち、重い認知の障害やせん妄のある人などを除いた37人が対象です。MASは、病棟に移って平日3日以内に測りました。デンマークの37人では、MASの合計が24点以上の人は、23点以下の人より、自宅に退院しやすいという結果でした[16]。
ハザード比は、ある時点でその出来事の起こりやすさを、2つの群で比べた値です。24点以上の人を23点以下の人と比べると、自宅への退院のハザード比は17.64でした。95%信頼区間は2.23〜139.57と広く、著者たちも人数の少なさを限界に挙げています。24点を区切りにしたときの感度は91.7%、特異度は68.0%でした[16]。
同じ研究では、自宅に退院するかを分ける区切りは、立ち上がりの項目で2点、手の巧みな動作の項目で1点でした。寝返りから歩行までの5項目の小計では、15.5点でした[16]。立ち上がりの2点は、見守りがあれば立ち上がれる段階です。
韓国で、入院してリハビリテーションを受けた289人の記録を、あとから調べた研究もあります[17]。退院時にBarthel Indexの修正版が75点以上になるかを分ける条件を、決定木という方法で探しました。決定木は、条件を1つずつ使って、人を2つの群に順に分けていく方法です。
入院時の立ち上がりの項目が4点以上か未満かで、最初に分かれました。4点以上の人は、さらにBerg Balance Scale (BBS)(バーグ・バランス・スケール)が32点以上か未満かで分かれました。75点以上になった人の70.9%は、この両方を満たしていました。著者たちは、別の集団での検証をしていないことを限界に挙げています[17]。
MASは、退院先のほかに、歩く速さの予測にも使われています。リハビリテーションに入院した120人を調べた研究があります。入院時の歩く速さと、起き上がりの項目が、退院時の歩く速さを予測しました。退院時の歩く速さの人による違いのうち、36%をこの2つで説明できました[18]。
筆者は、本文で引いた区切りを、合計点、小計、項目の目盛りに並べました(図2)。区切りを示した2件は、デンマークと韓国の研究です。立ち上がりの項目では、デンマークの研究で2点、韓国の研究で4点が示されました。ただし、2つの研究は、予測したものも対象も違います。デンマークの研究は37人で自宅への退院を、韓国の研究は289人の記録で退院時のBarthel Indexの修正版の75点以上を分けました。

図2 Motor Assessment Scaleの区切りの地図。本文で引いた区切りを、筆者が合計点(0〜48点)、寝返りから歩行までの5項目の小計(0〜30点)、項目(0〜6点)の目盛りに並べたもの。デンマークの研究は、重い認知の障害やせん妄のある人などを除いた37人を前向きに調べ、リハビリテーション病棟に移ってすぐの点数で、自宅への退院を分けた区切り。韓国の研究は、入院してリハビリテーションを受けた289人の記録を後ろ向きに調べ、入院時の点数で、Berg Balance Scaleの32点以上とともに、退院時のBarthel Indexの修正版の75点以上を分ける条件として示された区切り
Motor Assessment Scaleの点数の変化の目安
対面で行う原典のMASについて、点数の変化の目安となる値は、筆者が調べた範囲では見つかりませんでした。測定の誤差を超えたといえる最小の変化を、最小可検変化(MDC)といいます。患者にとって意味のある変化の最小の大きさは、臨床的に意味のある最小差(MCID)と呼ばれます。
原典を作った研究者たちは、2つの信頼性を報告しています。MASで評価される5人の患者をビデオに撮り、20人の検者が採点しました。基準の採点との相関は、平均0.95でした[2]。また、回復が落ち着いた14人を、4週あけて2回測りました。2回の相関は、平均0.98でした[2]。
原典の2つの値は相関係数なので、測った点数そのものが一致しているかまでは表しません[2]。片麻痺の30人の研究でも、筋緊張を除く項目と合計点で、検者間の信頼性の係数は高いものでした[8]。
MASをもとにした別の版では、MDCが報告されています。ビデオ通話のTele-MASでは、MDCは8%でした。ただし抄録には、何に対する割合かは書かれていません[12]。スウェーデンの修正版では、慢性期の41人を、同じ検者が3週あけて2回測りました。合計点が1人で2点以上変われば、測定の誤差を超えるとされました[19]。
この修正版は、いくつかの部分に分かれた別の版です[19]。その値を原典の合計点にあてはめてよいかは、筆者が調べた範囲では確かめられていません。
入院中の変化をとらえる力は、項目によって違います。入院してリハビリテーションを受け、入院時と退院時のデータがそろった61人の研究があります。歩行の項目では、変化の効果量が大きく、機能の低い人の変化もとらえました[20]。効果量は、変化の大きさを、点数のばらつきに対する比で表した値です。ほかの項目は役に立ちにくく、上肢と手の項目では、44.3〜63.9%の人の点数が変わりませんでした[20]。
急性期とリハビリテーションの病床が一体になった脳卒中の病棟で、190人を調べた研究もあります。座位、立ち上がり、歩行の3項目を合わせた点数が、変化をよくとらえました。立ち上がりの項目だけでも、変化の効果量は1.27と大きいものでした[15]。
多くの人が満点に集まり、それ以上の違いを表せない性質を、天井効果といいます。多くの人が最低点に集まる性質は、床効果です。この研究は、20%を超える人が満点か最低点に集まることを、天井効果か床効果とみなしました。3項目を合わせた点数には、どちらもありませんでした[15]。
Motor Assessment Scaleの限界
MASの限界の1つは、項目によっては、退院のころに多くの人が満点に集まることです。先の190人の研究では、退院時に、立ち上がりの項目で44%、座位の項目で34%の人が満点でした[15]。項目ごとの段階の使われ方にもかたよりがあり、上か下の段階に人が集まる項目や、真ん中の段階に集まる項目がありました[21]。
手の2項目では、段階の順序に食い違いが見つかっています[10]。手の動きと手の巧みな動作では、難しさの順に並んでいるはずの段階が、患者のデータではそのとおりになりませんでした。2014年の新しい段階は、この問題に答えたものです[11]。
回復の初期や重い人では、FMAのほうが回復の段階をよく見分ける可能性が、32人の研究で示唆されています[7]。MASでは、FMAに比べて、点数の低い区間に入る人の割合が大きかったからです[7]。
筋緊張の項目にも課題があります。評価法のデータベースは、筋緊張の項目は評価が難しいという批判があり、研究ではこの項目を省くことが多いと書いています[3]。
項目どうしが同じものを測っている程度を、内的整合性といいます。評価法のデータベースには、MASの内的整合性を調べた研究は載っていません[3]。筆者が2026年10月にPubMedで調べた範囲でも、8項目全体の内的整合性を調べた研究は見つかりませんでした。
Motor Assessment Scaleとほかの評価との使い分け
基本動作を項目に含む尺度は、MASのほかにもあり、含む動作の範囲が違います。Rivermead Motor Assessment(リバーミード・モーター・アセスメント、RMA)は、3つの部分からなります。起き上がりや歩行など全身を使う粗大な動作、寝返りを含む下肢と体幹、上肢です[22, 23]。
Trunk Control Test(トランク・コントロール・テスト、TCT)は、左右への寝返り、起き上がり、座位の保持の4項目の尺度です[24]。Postural Assessment Scale for Stroke Patients(ポスチュラル・アセスメント・スケール・フォー・ストローク・ペイシェンツ、PASS)は、姿勢を保つ力と変える力を測る尺度です[25]。
Stroke Rehabilitation Assessment of Movement(ストローク・リハビリテーション・アセスメント・オブ・ムーブメント、STREAM)は、四肢の運動と基本動作を測る尺度です[26]。5つの尺度の項目と採点を、表2に示します。
| 尺度 | 項目と採点 |
|---|---|
| Motor Assessment Scale[2] | 5つの |
| Rivermead Motor Assessment[27] | 粗大な |
| Trunk Control Test[24] | 麻痺した |
| Postural Assessment Scale for Stroke Patients[25] | 姿勢を |
| Stroke Rehabilitation Assessment of Movement[26] | 上肢10、 |
表2 基本動作を項目に含む5つの尺度(各文献と評価用紙をもとに作成)
筆者は、5つの尺度の項目を、基本動作ごとに並べました。5つの尺度のうち、移乗と走行の項目はRMAだけにありました(図3)。階段の項目は、RMAとSTREAMにありました。TCTは、寝返りと起き上がり、座位の保持だけを測ります。

図3 基本動作を項目に含む5つの尺度で、どの動作に独立した項目があるかを、筆者が並べたもの。項目の一覧は、MASは評価法のデータベース[3]、RMAとSTREAMは評価用紙[23, 29]、TCTは原典[24]、PASSは論文[28]による。丸は独立した項目があること、横線はないことを表す。ほかの項目の一部として含まれる動作は、丸にしていない。MASはMotor Assessment Scale、RMAはRivermead Motor Assessment、TCTはTrunk Control Test、PASSはPostural Assessment Scale for Stroke Patients、STREAMはStroke Rehabilitation Assessment of Movement
システマティックレビューは、決まった方法で研究を集めてまとめる研究です。粗大な運動の機能の尺度についても、システマティックレビューがあります。そのレビューでは、19の論文のうち4つがMASを調べていました[30]。著者たちは、FMAとSTREAMの短縮版が、臨床で使うのに最も適しているだろうとしました。一方、脳卒中の粗大な運動の機能の測り方について、はっきりした合意はないと述べています[30]。
MASとRMAは、治療の効果を比べる試験の主な評価に、並べて使われたこともあります[31]。
Motor Assessment Scaleで確かめられていないこと
筆者が調べた範囲では、原典のMASの変化の目安や、区切りの点数などに、まだ確かめられていない点があります。筆者は2026年10月に、PubMedと評価法のデータベースで調べました。筆者が整理すると、次の問いが残っています。
- 対面で行う原典のMASで、最小可検変化と臨床的に意味のある最小差はいくつか。ビデオ通話の版とスウェーデンの修正版には、最小可検変化の値があります[12, 19]。筆者が調べた範囲では、原典の版の値は見つかりませんでした。別の版の値を原典の版にあてはめてよいかも、確かめられていません。
- 合計24点という区切りは、ほかの国や施設の患者にも当てはまるか。この区切りは、リハビリテーション病棟に移ってすぐの点数で求めた、37人の研究のものです。信頼区間が広く、著者たちも人数の少なさが結果の一般化に影響しうるとしています[16]。筆者が調べた範囲では、この区切りを別の集団で確かめた研究は見つかりませんでした。
- 発症から時間がたった慢性期に、寝返りや起き上がりの項目は、変化をとらえられるか。入院中の61人の研究では、歩行以外の項目は、変化をとらえるのに役立ちにくいとされました[20]。190人の研究は、寝返りと起き上がりの項目を測っていません[15]。スウェーデンの修正版では、慢性期の41人で、ベッドの上での動作の部分に天井効果がみられました。合計点には天井効果はありませんでした[19]。
- MASの項目の点数を足した合計点を、1点の差がどこでも同じ大きさの点数として扱ってよいか。137人を調べた研究者たちは、1項目を除いて、1つの能力を測っているようだとしました。一方で、段階の並びは最適ではないと結論しています[21]。下肢の3項目の合計を調べた研究者たちも、順序で表す項目の点数を足すことの妥当性を、さらに調べる必要があるとしています[15]。
- 同じ患者で、MAS、RMA、TCT、PASS、STREAMの基本動作の項目を比べると、どれが変化や見通しをよく表すか。筆者が調べた範囲では、5つを直接比べた研究は見つかりませんでした。システマティックレビューの著者たちも、粗大な運動の機能の測り方に、はっきりした合意はないとしています[30]。
まとめ
MASの合計点は、先に作られていたFMAと強く相関しました。座位の項目だけ関係がみられなかったときには、比べた相手のFMAの座位の検査が疑われました。その後、患者のデータで段階の並びを確かめると、手の2項目に食い違いが見つかり、並べ直した版が作られました。
入院中の変化は、歩行の項目や、座位から歩行までの3項目の合計でよくとらえられたと報告されています。一方、190人の研究では、退院時に立ち上がりや座位の項目で満点の人が多くなりました。入院時の歩行と寝返りの項目は、自宅への退院の予測に使われていますが、施設に移る人は予測しにくいという報告があります。原典の版で1人の変化を判断する目安の値は、筆者が2026年10月に調べた範囲では見つかりませんでした。
さらに学びたい人へ:おすすめの本
- J.H.カー、R.B.シェパード 著、潮見泰蔵、斎藤昭彦 訳『脳卒中の運動療法―エビデンスに基づく機能回復トレーニング』(医学書院):Motor Assessment Scaleを作ったCarrとShepherdによる、脳卒中のあとの運動の機能回復のトレーニングを、研究の根拠にもとづいて解説した本の翻訳です(2004年刊行、247ページ)。
- 道免和久 編『脳卒中機能評価・予後予測マニュアル』(医学書院):リハビリテーションのゴールや入院期間を決めるための予後予測を目的に、まず必要な機能評価の方法を解説し、従来から最新までの予後予測の方法を幅広く取り上げた本です。代表的な症例で、臨床での使い方も紹介しています(2013年刊行、288ページ)。
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