Berg balance scale (BBS,ベルグバランススケール) は,患者さんのバランス能力を評価するための指標です。Functional balance scale (FBS,ファンクショナルバランススケール) と呼ばれることもあります。以下にその目的,方法および特性(信頼性や妥当性など)について説明します。
評価の目的と対象
BBSはもともと高齢者のバランス能力を評価する指標として作られました。現在では,高齢者だけではなく,脳卒中患者に対してもBBSが用いられています。
評価の方法
評価の項目と手順
BBSは14項目で構成されています。14項目の詳細について以下に示します。
- 立ち上がり(椅子坐位からの立ち上がり)
指示:
手を用いずに立って下さい
評価内容:
4 立ち上がり可能
3 手を用いれば一人で立ち上がり可能
2 数回試した後,手を用いて立ち上がり可能できない
1 立ったり,平衡をとるために最小限の介助が必要
0 立ち上がりに中等度ないし高度な介助が必要
- 立位保持
指示:
つかまらずに 2 分間立ったままでいて下さい
評価内容:
4 安全に2分間立位保持可能
3 監視下で2分間立位保持可能
2 30秒間立位保持可能
1 30秒間立位保持に数回の試行が必要
0 介助なしには30秒間立っていられない
※ 2分間安全に立位保持できれば坐位保持の項目は満点とし,「4.坐り(立位から坐位へ)」の項目にすすみます
- 坐位保持(両足を床につけ、もたれずに坐る)
指示:
腕を組んで2分間坐って下さい
評価内容:
4 安全確実に2分間坐位をとることが可能
3 監視下で2分間坐位をとることが可能
2 30 秒間坐位をとることが可能
1 10 秒間坐位をとることが可能
0 介助なしでは10秒間坐位をとることが不可能
- 坐り(立位から坐位へ)
指示:
どうぞお坐り下さい
評価内容:
4 ほとんど手を使用せずに安全に坐ることが可能
3 両手でしゃがみ動作を制御する
2 両下腿背側を椅子に押しつけてしゃがみ動作を制御する
1 坐れるがしゃがみ動作の制御ができない
0 介助しないとしゃがみ動作ができない
- トランスファー
指示1:
車椅子からベッドに移り,また車椅子へ戻って下さい
指示2:
まず肘掛を使用して移って下さい.次に肘掛を使用しないで移って下さい
評価内容:
4 ほとんど手を使用せずに安全にトランスファーが可能
3 手を十分に用いれば安全にトランスファーが可能
2 言葉での誘導もしくは監視があればトランスファーが可能
1 トランスファーに介助者 1 名が必要
0 2 名の介助者もしくは安全面での監視が必要
- 立位保持(閉眼での立位保持)
指示:
目を閉じて 10 秒間立っていて下さい
評価内容:
4 安全に10秒間閉眼立位可能
3 監視のもとで10秒間閉眼立位可能
2 3秒間は立位保持可能
1 閉眼で3秒間立位保持できないが,ぐらつかないで立っていられる
0 転倒しないよう介助が必要
- 立位保持(両足を一緒に揃えた立位保持)
指示:
足を揃えて、何もつかまらずに立っていて下さい
評価内容:
4 一人で足を揃えることができ,1分間安全に立位可能
3 一人で足を揃えることができ,1分間監視
2 一人で足を揃えることはできるが,30秒立位は不可能
1 開脚立位をとるために介助が必要であるが,足を揃えて15秒立位可能
0 開脚立位をとるために介助が必要で,15秒立位保持不可
※以下の項目は,立位保持中に実施します
- 両手前方(上肢を前方へ伸ばす範囲)
指示:
両手を90°上げて下さい.指を伸ばした状態でできるだけ前方に手を伸ばして下さい
評価内容:
4 確実に25㎝以上前方へリーチ可能
3 12.5㎝以上安全に前方へリーチ可能
2 5㎝以上安全に前方へリーチ可能
1 監視があれば前方へリーチ可能
0 転倒しないように介助が必要
※測定者は被験者が90°に上肢を上げたときに指先の先端に定規を当てる. 前方に伸ばしている間,定規に指先が触れないようにする. 最も前方に傾いた位置で指先が届いた距離を記録する.
- 拾い上げ(床から物を拾う)
指示:
足の前にある靴(あるいはスリッパ)を拾い上げて下さい
評価内容:
4 安全かつ簡単に靴(あるいはスリッパ)を拾い上げることが可能
3 監視があれば靴(あるいはスリッパ)を拾い上げることが可能
2 独力で平衡を保ったまま2.5~5㎝のところに置いたスリッパまでリーチできるが,拾い上げることはできない
1 検査中監視が必要であり,拾い上げることもできない
0 転倒しないように介助が必要で,検査ができない
- 振り返り(左右の肩越しに後ろを振り向く)
指示:
左肩越しに後ろを振り向いて下さい.それができたら今度は右肩越しに後ろを振り向いて下さい.
評価内容:
4 上手に体重移動しながら,両方向から振り向ける
3 一方向からのみ振り向きができる.もう一方向では体重移動が少ない
2 横を向けるだけだが,バランスは保てる
1 振り向く動作中に監視が必要
0 転倒しないように介助が必要
- 360°方向転換(1回転)
指示:
円周上を完全に1周回って下さい.いったん止まり,その後反対方向に1周回って下さい
評価内容:
4 4秒以内に両方向安全に1周回ることが可能
3 4秒以内に一方向のみ安全に1周回ることが可能
2 ゆっくりとなら1周回ることが可能
1 間近での監視が必要か,言葉での手がかりが必要
0 1周するのに介助が必要
- 踏み台昇降
指示:
足台の上に交互に足をのせて下さい.各足が4回ずつ足台にのるまで続けて下さい
評価内容:
4 支持なしで安全にかつ20秒以内に8回足のせが可能
3 支持なしで20秒以上必要であるが,完全に8回足のせが可能
2 監視下であるが,介助不要で,完全に4回足のせが可能
1 最小限の介助で,完全に2回以上の足のせが可能
0 転倒しないよう介助が必要.または試行不可能
- タンデム立位(片足を前に出した立位保持)
指示:
一方の足をもう片方の足のすぐ前にまっすぐ置いて下さい.もしできないと感じたならば,前になっている足の踵を,後ろになっている足のつま先から十分に離れたところに置いてみて下さい(課題を実地で説明)
評価内容:
4 単独で継ぎ足を取ることができ,30秒保持可能
3 単独で足を別の足の前に置くことができ,30秒保持可能
2 単独で足をわずかにずらし,30秒保持可能
1 検査姿勢をとるために介助を要するが,15秒保持可能
0 足を出すとき,または立っているときにバランスを崩してしまう
- 片足立位
指示:
どこにもつかまらず,できるだけ長く片足で立っていて下さい
評価内容:
4 単独で片足を上げ,10秒以上保持可能
3 単独で片足を上げ,5~10秒保持可能
2 単独で片足を上げ,3秒もしくはそれ以上保持可能
1 片足を上げることはできるが,片足立ちを3秒保持することができない
0 試行不可能,もしくは転倒予防に介助が必要
評価の得点
BBSの14項目いずれも0〜4点の5段階評価です。最大スコアは56点です。一般的には0-20点でバランス障害あり,21-40点で許容範囲のバランス能力,41-56点で良好なバランス能力と考えることができます。
評価の特徴や方法(評価指標一覧)
評価で使用する物品や環境
BBSには定規,ストップウォッチ,椅子,足台,スリッパが必要です。評価項目の中には患者さんがその場で360度回転するものもあるため,多少ふらついても壁や障害物に当たらないように充分なスペースが必要です。
評価にかかる時間
約10分から15分かかると言われています。
評価の特性
床・天井効果
機能レベルの高い脳卒中患者で床効果が認められています (Mao et al., Stroke 2002)。
信頼性
(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)
確認されています(Flansbjer et al., PM R 2012)。
(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)
脳卒中患者で確認されています (Stevenson, Aust J Physiother. 2001) 。
(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)
脳卒中患者で確認されています (Berg et al., Scand J Rehabil Med. 1995)。
(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)
高齢者と脳卒中患者で確認されています (Berg et al., Scand J Rehabil Med. 1995)。
妥当性
(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)
Barthel IndexやFegl-Meyerのサブスケールとの相関が認められています (Berg et al., Arch Phys Med Rehabil. 1992)。また,FIMとの相関も認められています (Juneja et al., Am J Phys Med Rehabil. 1998)。
(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)
渉猟した限り確認されていません。
(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)
渉猟した限り確認されていません。
(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)
渉猟した限り確認されていません。
まとめ
BBSはバランス能力の評価指標として高齢者や脳卒中患者さんに対して用いられます。最近では,施設内での転倒とBBS点数とが関連することが報告されています。BBS得点が46点以上で病棟内自立判定基準,36点以上で病棟内見守り判定基準だとする報告もありますが,カットオフ値は「対象」や「環境」に左右されることを忘れないで下さい。ご自分が所属する施設で転倒防止などのためにカットオフ値を活用したい場合は,ご自分の施設の対象と環境で独自に調査することを勧めます。
評価の特徴や方法(評価指標一覧)