PICOによる臨床疑問の定式化


 「PICOによる臨床疑問の定式化」はEBM実践の最初のステップです。ここでは,まず臨床疑問とは何かを説明して,われわれが臨床疑問を持ちにくい理由を考えてみます。次にPICOの概要やPICOによる臨床疑問の定式化の役割などについて説明します。

臨床疑問(クリニカル・クエスチョン)とは

 臨床的疑問とはわれわれが患者さんを診療するにあたって臨床で感じた疑問です。診療をしているとどんなアプローチが患者さんに有効なんだろうと思ったことはありませんか。あるいは,どんな評価をすれば患者さんの運動機能を把握できるんだろうと考えたことはありませんか。それら全ての疑問が臨床的疑問です。

 例えば,私は,脳卒中片麻痺の患者さんに対して下肢装具を着用させて歩かせた方がいいのか,それとも運動麻痺の回復を狙ってベッド上で筋力増強トレーニングに励んだ方がいいのか,患者さんの長期的なADL向上に対してどちらが効果的なんだろうか,といった疑問を今も持ち続けています。

リハビリ専門職は臨床疑問を持ちにくい

 理学療法士や作業療法士などリハビリ専門職は,臨床疑問を持ちにくいとされています。理由は,複数のアプローチを同時に行なって,それら複合的なアプローチの総合的な効果を把握しているからです。簡単にいうとAというアプローチとBというアプローチのどちらが効果的なんだろうと考える前に,AとBを両方やってしまっているからです。

 このやり方,考え方で診療している限り,臨床的な疑問はぼやけて不明瞭になってしまいます。臨床的疑問が定まっていないと,より良い診療を定量的に考えることができなくなり,これ以上のリハビリテーションの発展は難しくなります。

PICOで臨床疑問を定式化

 PICOとは,どんな患者(Patient)に,どんな介入(Intervention)があると,何と比較(Comparison)して,どんな結果(Outcome)になるのかという4つの要素に分けて定式化するフォーマットです。下に表を作ったので参考にして下さい。

PICO 説明
Patient (患者) どんな患者に 脳卒中片麻痺患者に
Intervention (介入) どんな介入をすると 短下肢装具を使用すると
Comparison (比較対照) 何と比較して 筋力増強群と比べて
Outcome (結果) どんな結果になるか ADLが向上した

 臨床的疑問をぼやけさせないためにも,普段からPICOで疑問を定式化する癖をつけておくことが大切です。PICOに当てはめて考えることで,何と何を比較したいのかが明確になり,複合的なアプローチを得意とするわれわれリハビリ専門職も臨床的な疑問を持ちやすくなります。

PICOは研究実践にも大切

 PICOはEBM実践のためのフォーマットですが,そのまま研究実践にも使うことができます。臨床疑問をPICOで定式化したら,その答えを文献検索により探します。一方で,EBMを実践できるほどリハビリテーションのエビデンスは蓄積されていません(詳しくは「臨床研究の必要性」を参照して下さい」)。そのため,答えは研究によって明らかにしなければならない場合もあるのです。

まとめ

 われわれリハビリ専門職が日々感じる臨床的な疑問は,患者さんにとっての財産です。臨床的な疑問を根拠を持って解決することによって,より良いリハビリテーションを患者さんに提供できるようになります。まず,われわれがPICOで臨床疑問を定式化できるようになる必要があります。臨床疑問の定式化ができるようになったら,その答えを検索したり,自ら研究によって明らかにしたりする(詳しくは「研究テーマの決め方」を参照)必要があります。

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