Dynamic Gait Index(DGI)


 Dynamic Gait Index (DGI,ダイナミックゲイトインデックス) は,動的な歩行能力を評価する指標です。以下にその目的,方法および特性(信頼性や妥当性など)について説明します。

評価の目的と対象

 Dynamic Gait Index (DGI) は外部環境の変化に対応して安定した歩行ができるかを評価します。ただ歩行するだけでなく,歩行速度を変えたり,歩きながら頭部を動かしたりする課題を行わせます。DGIは歩行能力に加え,バランス能力や転倒リスクを評価するために開発され,これまで高齢者,脳卒中,脳損傷,パーキンソン病,多発性硬化症,前庭機能障害の患者さんを対象に用いられてきました。一人で歩行可能なことが適用条件で,歩行に介助が必要な人は対象外になります。

評価の方法

評価の項目と手順

 Dynamic Gait Indexは以下の8つの課題で構成されています。

  1. 平地歩行(6.1mの平地歩行)
  2. 歩行速度を変える(通常(1.5m)→速く(1.5m)→ゆっくり(1.5m)
  3. 頭部を横に向けて歩く(右を見る→左を見る→正面)
  4. 頭部を上下させて歩く(上を見る→下を見る→正面)
  5. 歩行と軸足回転(歩行中に逆を向いて止まる)
  6. 障害物を越える(歩行中に靴箱を越える)
  7. 円錐の周りを回る(一つ目右に一回り→二つめ左に一回り)
  8. 階段(階段昇降:必要に応じて手すり使用)

 対象者は歩行補助具を使用することもできます。いずれの課題も0〜3点の4段階(3が最も良好)で評価して,最大得点は24点になります。得点の詳細は以下のようになります。

 0 = 重度の障害(Severe impairment )
 1 = 中等度の障害(Moderate impairment)
 2 = 最小限の障害(Minimal impairment)
 3 = 歩行能力障害なし(No gait dysfunction)

使用する物品と環境

 靴箱,障害物2つ(同じサイズのもの)が必要です。また,少なくとも歩行距離である20フィート(6.1m)以上のスーペースが必要で,階段の評価があるため階段のある環境が必要になります。

評価にかかる時間

 10分程度で評価できます(患者さんの能力に応じて変わります)。
 

評価の特性

床・天井効果

 高齢者(Pardasaney et al., 2012),多発性硬化症患者(Cattaneo et al., 2006),急性期および慢性期の脳卒中患者(Lin et al., 2010)で天井効果が認められています。

カットオフ値

  • 高齢者では19点以下で転倒リスクが増加(感度59%,特異度64%,Shumway-Cook et al., 1997)。
  • 多発性硬化症患者では12点以下で転倒リスクが増加(感度45%,特異度80%,Cattaneo et al, 2006)。
  • パーキンソン病では転倒群と非転倒群のカットオフ値は19点以下(感度64%,特異度85%,Dibble et al, 2008)。

信頼性

(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 多発性硬化症患者 (Cattaneo et al., 2007),パーキンソン病患者 (Huang et al., 2010),脳卒中患者 (Lin et al,, 2010),前庭障害患者 (Hall et al., 2006) で確認されています。

(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者 (Jønsson et al., 2011),多発性硬化症患者 (McConvey and Bennett, 2005) ,慢性期脳卒中患者 (Jonsdottir & Cattaneo, 2007),前庭障害患者 (Wrisley et al., 2003) で確認されています。

(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)

 高齢者 (Jønsson et al., 2011),多発性硬化症患者 (McConvey and Bennett, 2005) で確認されています。

(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)

 渉猟した限り確認されていません。

妥当性

(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)

 高齢者 (Shumway-Cook et al., 1997),脳損傷患者 (Medley, A. et al., 2006),慢性期脳卒中患者 (Jonsdottir and Cattaneo, 2007),多発性硬化症患者 (Cattaneo et al., 2006, 2007),パーキンソン病患者 (Cakit et al., 2007)および前庭障害患者 (Hall & Herdman, 2006)で確認されています。

(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)

 急性期および慢性期脳卒中患者 (Lin et al., 2010),多発性硬化症患者 (Cattaneo et al., 2006),パーキンソン病患者 (Landers et al., 2008) で確認されています。

(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)

 男性高齢者で確認されています (Chiu et al., 2006)。

(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)

 渉猟した限り確認されていません。

まとめ

 Dynamic Gait Indexは動的な歩行能力の評価指標として様々な疾患の患者さんに対して使われています。この評価指標は少ない物品で簡便に評価できる点が魅力です。一方で評価の信頼性や妥当性の調査は疾患ごとに偏りがあり,転倒リスクを示すカットオフ値はどの疾患でも感度が若干低めです。利点や問題点を把握した上で患者さんに適用して下さい。

評価の特徴や方法(評価指標一覧)