心筋の収縮と弛緩:心臓はなぜ強縮しないのか

心筋の収縮と弛緩:心臓はなぜ強縮しないのか

心筋も、条件によっては強縮、つまり収縮が積み重なって縮んだまま続く状態になります。リアノジンという薬を使った実験条件では、フェレットの心臓の乳頭筋でも強縮を起こせることが報告されています(Yueら 1986)。一方、ふつうの条件の心臓は強縮せず、1拍ごとにゆるみます。心臓が強縮しないのは、収縮の装置にその能力がないからではないのです。

生理学の実習で、カエルのふくらはぎの筋に電気刺激を速く繰り返し与えると、1回ずつの収縮である単収縮が重なって、大きく持続する強縮になるのが観察できます。では、心臓に同じように速い刺激を与え続けたら、心臓も縮んだまま止まってしまうのでしょうか。

心筋の収縮と弛緩の要点

  • 骨格筋と共通の仕組み:横紋(サルコメア)があり、Ca2+がトロポニンCに結合するとアクチンとミオシンが結合して縮む
  • つながり:心筋細胞どうしは介在板のギャップ結合で電気的につながり、興奮が細胞から細胞へ広がる。刺激伝導系の働きもあって、心室全体がほぼ一斉に縮む
  • 引き金:細胞の外から入るわずかなCa2+が筋小胞体のリアノジン受容体を開き、より多くのCa2+を放出させる(Ca2+誘発性Ca2+放出)
  • 強縮しない理由:ヒトの心室筋の活動電位は約0.2〜0.3秒続き、その大部分の間は次の刺激に反応しない(不応期)。そのため、ふつうの条件では収縮が積み重なって持続することがない
  • 弛緩:Ca2+をSERCAで筋小胞体へ戻し、NCXで細胞の外へ出すことでゆるむ。ゆるむためにもエネルギーが要る
  • 調節:伸ばされるほど強く縮む(Frank–Starlingの法則)。交感神経はCa2+の流入とSERCAの働きを強める

仕組みは骨格筋と共通、つながり方が違う

心筋細胞にも、骨格筋と同じように横紋があります。太いフィラメント(ミオシン)と細いフィラメント(アクチン)が規則正しく並んだサルコメアが連なり、Ca2+がトロポニンCに結合すると、アクチンとミオシンが結合してフィラメントが滑り込みます。ここで働くトロポニンやミオシンは、骨格筋のものとよく似た心筋型のタンパク質です(心筋トロポニンが心筋の傷害を調べる血液検査に使えるのは、骨格筋のものと区別できるからです)。この共通の仕組みは「骨格筋の収縮と弛緩」でくわしく紹介しています。

違うのは、細胞の形とつながり方です。骨格筋の線維は長い円柱形で、1本に多数の核をもちます。これに対して心筋細胞は枝分かれした形をしていて、核は1〜2個です。隣り合う心筋細胞は、端どうしが介在板と呼ばれる構造でつながっています(図1)。介在板には、隣の細胞の細胞質を電気的・代謝的につなぐギャップ結合、細胞どうしのアクチンの骨組みをつなぐ接着結合、中間径フィラメントをつなぐデスモソームがあります(Vermijら 2017)。

枝分かれした心筋細胞が、端どうしの介在板でつながっている模式図。介在板を拡大すると、イオンが隣の細胞へ流れるギャップ結合と、細胞どうしをつなぎとめるデスモソーム・接着結合がある

図1 心筋細胞のつながりと介在板(模式図)

ギャップ結合を通ってイオンが隣の細胞へ流れるので、1つの細胞で起きた興奮は次々に隣へ伝わります。さらに刺激伝導系(ヒス束やプルキンエ線維)が興奮をすばやく心室全体に配るので、心室の細胞はほぼ一斉に縮みます。ここに、心臓と骨格筋の大きな違いがあります。骨格筋では、それぞれの筋線維に運動神経がつながっていて、神経系は働かせる運動単位の数と、神経が興奮する頻度を変えて力を調節します。心臓では、1拍ごとに興奮がほぼすべての細胞に広がるので、働かせる細胞の数で力を変えることはできません。そのかわりに、1つ1つの細胞の中で放出されるCa2+の量や、細胞が伸ばされる程度によって力を変えます。

ギャップ結合は、心筋と平滑筋だけにある構造ではありません。神経や筋だけでなく、血液の細胞などを除く、ほとんどの組織の細胞どうしをつないでいます(GoodenoughとPaul 2009)。一方、健康な成人の骨格筋線維には、ギャップ結合をつくるタンパク質(コネキシン)がありません。コネキシンが見られるのは、発生途中の筋芽細胞と、損傷を受けた成人の筋です(MerrifieldとLaird 2016)。

外から入るカルシウムが引き金になる

収縮の合図はCa2+です。細胞膜の興奮を収縮に結びつけるこの過程を、興奮収縮連関と呼びます。骨格筋では、T管の膜にある電位センサーが膜の電位の変化を感じ取り、筋小胞体のCa2+放出チャネル(リアノジン受容体)を開きます。RiosとBrumは1987年、この電位センサーの正体が、Ca2+チャネルを遮断する薬の結合部位として知られていたジヒドロピリジン受容体であると提案しました(RiosとBrum 1987)。電位センサーが放出チャネルを直接開くので、骨格筋は、細胞の外のCa2+をキレート剤(EGTA)で取り除いた液の中でも単収縮を起こせます(Armstrongら 1972)。

心筋では事情が違います。骨格筋の電位センサーもゆっくりとCa2+を通しますが、その流入は収縮の引き金には要りません(Tanabeら 1988)。心筋のT管の膜にある同じ仲間のタンパク質はL型Ca2+チャネルとして働き、入ってくるCa2+そのものが引き金になります。活動電位が来るとこのチャネルからわずかなCa2+が細胞の中に入り、そのCa2+がすぐ近くの筋小胞体のリアノジン受容体を開いて、より多くのCa2+を放出させます(図2)。これをCa2+誘発性Ca2+放出と呼びます。Fabiatoは、細胞膜を取り除いた心筋細胞を使った実験と計算から、細胞の外から入るCa2+だけでは筋フィラメントを十分に働かせるには足りず、筋小胞体からの放出を引き起こすことで収縮を起こすと論じました(Fabiato 1983)。

骨格筋と心筋の興奮収縮連関の比較。骨格筋ではT管の電位センサーがリアノジン受容体を直接開き、外のCa2+は要らない。心筋では、1 L型Ca2+チャネルからCa2+が入り、2 リアノジン受容体からCa2+が放出されて収縮が起こり、3 SERCAが筋小胞体へCa2+を戻し、4 NCXが細胞の外へCa2+を出す

図2 骨格筋と心筋で、カルシウムの合図の出し方が違う。心筋では①入ったCa2+が②筋小胞体からの放出を引き起こし、ゆるむときは③SERCAで筋小胞体へ戻し、④NCXで細胞の外へ出す(模式図)

同じ仲間のタンパク質なのに、なぜ骨格筋と心筋でこれほど働き方が違うのでしょうか。京都大学の田辺勉、沼正作らは、アメリカのBeamらとの共同研究でこの問いに取り組みました。骨格筋の電位センサーを生まれつきもたないマウス(筋形成不全マウス)の筋細胞は、電気刺激を与えても縮みません。この細胞に骨格筋型の電位センサーの遺伝子を入れると、興奮から収縮へのつながりがよみがえりました(Tanabeら 1988)。よみがえったつながりは、ふつうの骨格筋と同じく細胞の外からのCa2+の流入を必要としませんでした。一方、心筋型の遺伝子を入れると、外からのCa2+の流入を必要とする心筋型のつながりが現れました(Tanabeら 1990a)。さらに2つの型をつなぎ合わせた遺伝子を調べた結果、細胞の内側にある1つのループ(II–III間の部分)が、骨格筋型のつながりを決める重要な部分であることがわかりました(Tanabeら 1990b)。

1993年には、静止している心筋細胞の中で、ごく狭い範囲だけCa2+濃度が一瞬上がる現象が見つかり、「カルシウムスパーク」と名づけられました(Chengら 1993)。1つの放出部位から出たCa2+は、ふつうはその場にとどまり、ほかの放出部位を次々に開いてはいきません。こうした局所的な制御のもとで、筋小胞体は1拍ごとに中のCa2+を出し切るわけではなく、放出するのは約半分にとどまり、L型Ca2+チャネルから入るCa2+の量に応じて放出量が段階的に変わります(Eisnerら 2017)。前の節で、心臓は細胞の中で放出されるCa2+の量で力を変えると書いたのは、この仕組みのことです。

心臓の収縮に細胞の外のCa2+が欠かせないことを最初に示したのは、1883年のRingerの観察です。摘出したカエルの心臓は、灌流液にカルシウムがないと拍動を続けられませんでした(Ringer 1883)。ただし、カエルの心室筋は筋小胞体が乏しく、外から入るCa2+がより直接に収縮を支えています。哺乳類の心室筋では、Ca2+はT管の膜にあるL型Ca2+チャネルを通って細胞の中に入り、そのすぐ近くのリアノジン受容体を開きます。

心臓が強縮しない理由:長い活動電位と不応期

速い刺激を与え続けると心臓も縮んだまま止まるのかを考えるために、まず骨格筋の強縮を見直します。骨格筋の活動電位は数ミリ秒で終わりますが、そのあとの収縮はそれより長く続きます。そのため、収縮が終わる前に次の活動電位が来ると、Ca2+が重ねて放出され、収縮が積み重なって強縮になります(図3の上)。

心室筋の活動電位は、立ち上がったあと、電位が高いまま保たれる「プラトー(高原)相」をもち、ヒトでは全体で約0.2〜0.3秒続きます。プラトーは、L型Ca2+チャネルから入る内向きの電流と、K+チャネルから出る外向きの電流がつり合うことで保たれます(Aminら 2010)。この間、活動電位の立ち上がりを担うNa+チャネルの多くは不活性化したままなので、新しい刺激が来ても次の活動電位を起こせません。この期間を不応期と呼びます。不応期は再分極がかなり進むまで続き、そのあとしばらくは、強い刺激でないと反応しない相対不応期が続きます。

骨格筋では短い活動電位を繰り返すと張力が重なって強縮になる。心室筋では活動電位が長く、不応期のあいだは刺激しても反応せず、張力がゆるんでから次の収縮が起こる

図3 活動電位・不応期・張力の時間経過(模式図。横軸は上が0〜300ミリ秒、下が0〜800ミリ秒)

心筋では、不応期が収縮の前半、張力がピークを少し過ぎるころまでをおおいます。次の活動電位を起こせるのは、前の収縮がゆるみ始めてからです。そのため、ふつうの条件では張力が積み重なって持続する強縮にはならず、心臓は1拍ごとにゆるみます(図3の下)。ゆるむ間に心室へ血液が流れ込み、次の拍出に備えることができます。なお、筋小胞体に作用する薬(リアノジン)を使った実験条件では、フェレットの心筋(乳頭筋)でも強縮を起こせることが報告されています(Yueら 1986)。強縮しないのは、心筋の収縮装置にその能力がないからではなく、活動電位と不応期の長さがそれを防いでいるからです。

ゆるむのにも仕事が要る

心臓は1分間に60〜70回、1日に約9万〜10万回(筆者の計算)、縮んではゆるむことを繰り返しています。心臓にとって、ゆるむことは縮むことと同じくらい大切です。Eisnerらは、収縮のあとに力とCa2+濃度がすばやく十分に下がらなければ、心臓は次の拍動に向けて血液で満たされないと述べています(Eisnerら 2017)。

ゆるむには、細胞質に放出されたCa2+を取り除かなければなりません。リアノジン受容体が閉じたあと、Ca2+は主に2つの経路で取り除かれます(図2)。1つは筋小胞体の膜にあるCa2+ポンプ(SERCA)で、ATPのエネルギーを使ってCa2+を筋小胞体にくみ戻します。もう1つは細胞膜にあるNa+/Ca2+交換輸送体(NCX)で、細胞の外から中へ入るNa+の流れを利用して、Ca2+を細胞の外へくみ出します(Eisnerら 2017)。筋小胞体へのくみ戻しだけでなく、細胞の外へ出すNCXの経路も欠かせません。

なぜ細胞の外へ出す経路が必要なのでしょうか。L型Ca2+チャネルからは1拍ごとにCa2+が入ってきます。入った分を外へ出さなければ、Ca2+は拍動のたびに細胞の中にたまっていきます。実際の心筋細胞では、定常状態で、1拍ごとに細胞に入るCa2+と出ていくCa2+の量がつり合っています(Eisnerら 2017)。

SERCAの働きは、ホスホランバンというタンパク質によって抑えられています(MacLennanとKranias 2003)。運動などで交感神経が働くと、β受容体を介してホスホランバンがリン酸化され、SERCAへの抑制が弱まります。するとCa2+がすばやく筋小胞体に戻ってゆるみが速くなり、筋小胞体にためられるCa2+が増えるので、次の収縮も強くなります。交感神経は、L型Ca2+チャネルから入るCa2+も増やし、トロポニンのリン酸化を通してトロポニンがCa2+を離しやすくもします(Eisnerら 2017)。心拍数が上がると1拍の時間が短くなり、とくに心臓がゆるんで血液を受け入れる拡張期が短くなります。ゆるみが速くなることは、短い拡張期のうちに心室を血液で満たすのに役立ちます。

伸ばされるほど強く縮む:Frank–Starlingの法則

心臓には、神経やホルモンの指令を待たずに、1拍ごとに働く調節もあります。19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて、ドイツのOtto Frankはカエルの心臓で、イギリスのStarlingらは心臓と肺だけを体のほかの部分の循環から切り離し、人工の回路で血液を循環させる標本(心肺標本)で、拡張期に心臓へ流れ込む血液が増えて心筋が伸ばされるほど、次の収縮が強くなることを示しました(Katz 2002、Pattersonら 1914)。この関係を、Frank–Starlingの法則と呼びます。

細胞のレベルでは、サルコメアが長いほど筋フィラメントがCa2+に反応しやすくなることが主な仕組みで、これを長さ依存性活性化と呼びます。de Tombeらは、この性質がFrank–Starlingの法則の中心にあるとしつつ、収縮装置がサルコメアの長さの情報をどのようにして力の変化に変えているのかは、まだわかっていないと述べています(de Tombeら 2010)。タイチン(コネクチン)の関わりを含めて、分子のレベルの仕組みは今も議論が続いています(Sequeiraとvan der Velden 2017)。

この性質のおかげで、右心室と左心室が送り出す血液の量は、数拍のうちにそろいます。たとえば右心室の拍出が一時的に増えると、肺を通って左心室に戻る血液が増え、左心室が伸ばされて強く縮むので、左右の拍出量のずれが自動的に小さくなります。

骨格筋と心筋の比較

項目骨格筋心筋
横紋ありあり
細胞の形長い円柱形、核は多数枝分かれ、核は1〜2個
細胞間の電気的つながりなし(成熟した線維)介在板のギャップ結合
Ca2+放出の引き金電位センサーが直接開く外から入るCa2+
活動電位の長さ数ミリ秒約0.2〜0.3秒(ヒトの心室筋)
強縮起こるふつうは起こらない
力の調節運動単位の数と発火頻度Ca2+の量と心筋の長さ

表1 骨格筋と心筋の主な違い

平滑筋には横紋がなく、Ca2+はトロポニンではなくカルモジュリンに結合し、ミオシン軽鎖キナーゼを介して収縮を起こします。平滑筋の仕組みは「平滑筋の収縮と弛緩」で紹介しています。

まとめ

心筋は、サルコメアとトロポニンという骨格筋と共通の仕組みで縮みます。違うのは、細胞どうしがギャップ結合でつながって一斉に縮むこと、細胞の外から入るCa2+が筋小胞体からの放出を引き起こすこと、そして活動電位と不応期が長いことです。次の活動電位は前の収縮がゆるみ始めるまで起こせないので、ふつうの条件では心臓は強縮せず、1拍ごとにゆるみます。ゆるむためには、SERCAとNCXがCa2+を取り除く仕事が欠かせません。心臓は、働かせる細胞の数ではなく、1拍ごとのCa2+の量と、伸ばされる程度によって力を調節しています。

ほかの解剖生理学の記事は「解剖生理学(関連記事一覧)」で紹介しています。

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参考文献

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