ゴルジ腱器官とIb抑制:「筋を守る安全装置」は本当か

ゴルジ腱器官とIb抑制:「筋を守る安全装置」は本当か

「筋が強く縮みすぎて腱が切れそうになると、ゴルジ腱器官が働いて筋をゆるめる」――多くの教科書は、ゴルジ腱器官の反射(Ib抑制)を、こうした「筋を守る安全装置」として説明してきました。ところが、ゴルジ腱器官を実際に調べた研究者たちは、この説明に収まらない結果に次々と出会います。まず要点を押さえ、そのあとで、140年あまりの研究がこの反射の素顔をどう明らかにしてきたかをたどります。

ゴルジ腱器官の反射(Ib抑制)の要点

  • 何が起こるか:筋が力を出して腱が引っぱられると、筋と腱のつなぎ目にあるゴルジ腱器官がその張力をとらえ、同じ筋と、協力して働く筋の活動を抑える。反対の動きをする筋(拮抗筋)は活動しやすくなるとされる
  • 経路:ゴルジ腱器官 → Ib群線維 → 脊髄の抑制性介在ニューロン → 同じ筋のα運動ニューロン。間に介在ニューロンをはさむので、シナプスを2つ以上経由する
  • 伸張反射との違い:伸張反射は、筋紡錘が筋の「長さ」の変化をとらえて同じ筋を縮める。Ib抑制は、ゴルジ腱器官が筋の「張力」をとらえて同じ筋を抑える
  • 役割:筋が出している力を脊髄や小脳に伝え、力の調節に役立つ。抑制の強さは状況で変わり、歩行中に脚へ体重がかかっているときは弱まって、反対に同じ筋の活動を後押しすることもある
  • 裏づけの乏しい説明:「強すぎる張力から筋を守る安全装置」「ストレッチで筋をゆるめるしくみ」という説明は、研究による裏づけが乏しい

ゴルジは顕微鏡の像だけで働きを言い当てた

カミッロ・ゴルジは、ごく一部の神経細胞だけを枝の先まで黒く染め出す「黒い反応」を1873年ごろに編み出した、イタリアの組織学者です(のちに細胞の中のゴルジ装置にも名を残し、1906年にはスペインのラモン・イ・カハールとともにノーベル生理学・医学賞を受けます)。パヴィア大学で組織学の教授となったゴルジが、1878年から1880年にかけて取り組んだのが、腱の中で神経がどのように終わっているかという問題でした。

ゴルジはヒトや動物の腱を酸で処理して透明にし、金の溶液で神経を染めて顕微鏡でのぞきました。すると、筋と腱のつなぎ目の近くに、紡錘形の構造が見えてきます。片方の端は筋線維に、もう片方の端は腱の線維の束になめらかにつながっていました。そこへ有髄の神経線維が入り込み、髄鞘を失いながら枝分かれをくり返して、網の目のように広がっていたのです。

当時はまだ、感覚神経1本の活動を記録する技術がありません。それでもゴルジは、この構造が筋と腱のあいだという特別な場所にあることから、筋の働きと連動する器官、つまり「筋の張力を測る計器」だろうと推測しました。形と位置だけを手がかりにしたこの推測は、20世紀に入って神経の活動が記録できるようになると、正しかったことが確かめられていきます。

ゴルジが見た紡錘形の構造は、いまでは被膜に包まれた小さな器官として知られています。中を通るコラーゲン線維の束のあいだに、Ib群線維と呼ばれる太い感覚神経1本の終末が入り込んでいます。筋が縮んで腱が引っぱられると、コラーゲン線維がぴんと張って終末を締めつけ、感覚神経が発火します。張力が大きいほど、発火の頻度は高くなります。

筋線維の端からのびるコラーゲン線維の束が被膜に包まれたゴルジ腱器官を通って腱へ続き、そこにIb群線維の終末が入り込んでいる構造と、張力が小さいときは線維がゆるんで発火が少なく、張力が大きいときは線維が張って終末が締めつけられ発火が増えることを示した図

図1 ゴルジ腱器官のつくり(模式図)

筋紡錘は長さを、ゴルジ腱器官は力を測る

筋には、筋紡錘という別のセンサーもあります。どちらも筋の状態を脊髄に伝える受容器ですが、とらえているものが違います。違いを生むのは、筋線維に対する並び方です。

筋紡錘は、力を出す筋線維と並んで(並列に)配置されています。筋全体が伸びれば筋紡錘も伸び、筋が縮めば筋紡錘もゆるむので、筋の長さを測るのに向いています。一方、ゴルジ腱器官は筋線維と腱のあいだに一列に(直列に)つながっていて、そこにつながる筋線維が出した力は、そのままゴルジ腱器官を通って腱に伝わります。荷物と手のあいだにばねばかりをはさむと、目盛りが荷物を引き上げる力を示すのと同じように、ゴルジ腱器官は筋が引っぱる力を読み取ります。

この並び方の違いは、筋を外から引き伸ばしたときと、筋が自分で縮んだときの反応にはっきり表れます。力を抜いた筋を引き伸ばすと、伸びの大部分は腱より伸びやすい筋線維が引き受け、ゴルジ腱器官のコラーゲン線維はあまり引っぱられないので、発火はわずかです。並んでいる筋紡錘は一緒に引き伸ばされて、盛んに発火します。反対に、筋が自分で縮むと、その力がそのまま腱に伝わってゴルジ腱器官の発火が増え、ゆるんだ筋紡錘の発火は止まります。

力を抜いた筋を外から引き伸ばすと筋紡錘のIa群線維は盛んに発火しゴルジ腱器官のIb群線維はわずかに発火する一方、筋が縮んで力を出すと筋紡錘の発火は止まりゴルジ腱器官の発火が増えることを示した図

図2 筋紡錘とゴルジ腱器官の反応の違い(模式図。②で筋紡錘の発火が止まるのは、γ運動ニューロンが働かない場合)

ふだんの動作では、γ運動ニューロンが筋紡錘の感度を保つので、筋が縮んでいる最中も筋紡錘は働き続けます。筋紡錘のしくみは「伸張反射:基本原理と生理的役割」で、γ運動ニューロンの働きは「運動神経細胞とα-γ連関」で解説しています。2つのセンサーの違いをまとめておきます。

筋紡錘ゴルジ腱器官
ある場所と並び方筋の中。筋線維と並列筋と腱のつなぎ目。筋線維と直列
とらえるもの筋の長さと、伸びる速さ筋が出している力(張力)
感覚神経Ia群線維、II群線維Ib群線維
同じ筋への反射縮ませる(伸張反射)抑える(Ib抑制)

張力の信号が同じ筋を抑える:Ib抑制の経路

ゴルジ腱器官からのIb群線維は、脊髄に入ると抑制性介在ニューロンにつながります。この介在ニューロンが、同じ筋と、同じ向きに働く協力筋のα運動ニューロンの活動を抑えます。筋が、自分の出した力の信号で自分の活動を抑えることから、自原抑制とも呼ばれます。Ia群線維がα運動ニューロンに直接つながる伸張反射(単シナプス反射)と違い、間に介在ニューロンをはさむので、シナプスを少なくとも2つ経由します。古典的には、反対の動きをする拮抗筋のα運動ニューロンは、興奮性介在ニューロンを介して促通されるとされています。

大腿四頭筋がおもりを持ち上げる力を出すと、筋と腱のつなぎ目のゴルジ腱器官が張力をとらえてIb群線維で脊髄へ伝え、抑制性介在ニューロンを介して大腿四頭筋のα運動ニューロンが抑えられ、興奮性介在ニューロンを介してハムストリングスのα運動ニューロンが活動しやすくなる経路を示した図

図3 Ib抑制の経路(大腿四頭筋の例):大腿四頭筋が力を出すと、ゴルジ腱器官の信号が抑制性介在ニューロンを介して大腿四頭筋を抑え、興奮性介在ニューロンを介してハムストリングスを促す

Ib抑制はヒトでも確かめられています。ふくらはぎの腓腹筋につながる神経を弱い電流で刺激し、その数ミリ秒後にヒラメ筋のH反射(神経を電気で刺激して起こす、伸張反射に似た反射)を起こすと、反射が小さくなります。この方法は、あとで紹介する歩行や痙縮の研究でも使われています。

ただし、この抑制を伝える介在ニューロンは、ゴルジ腱器官だけの専用回路ではありません。筋紡錘、皮膚、関節からの感覚神経や、脳から下りてくる経路からも入力を受けています。そのため、ヒトの研究ではIa群とIb群をまとめて「非相反性I群抑制」と呼ぶこともあります。たくさんの入力が集まる場所にあるので、Ib抑制の強さは、筋がどんな状況で働いているかによって大きく変わります。この性質が、あとで見る意外な現象につながります。

「筋を守る安全装置」は本当か

この経路があることから、ゴルジ腱器官の反射は、筋が危険なほど強い力を出したときに筋を抑え、筋や腱の損傷を防ぐ安全装置だと説明されてきました。安全装置の役目なら、危険なほどの張力にだけ反応する鈍いセンサーでも務まりそうです。ところが実際に測ってみると、ゴルジ腱器官は驚くほど敏感でした。

ネコのヒラメ筋で、運動単位(1つの運動ニューロンと、それが動かす筋線維のまとまり)を1つだけ収縮させた実験では、数百回くり返した収縮のたびに、毎回同じ数の活動電位で反応するゴルジ腱器官が見つかりました。ゴルジ腱器官が反応しはじめる力は4mg(1gの250分の1)ほどしかない可能性があり、筋線維1本が1回の収縮で出す最小の力よりも小さいと見積もられています。この結果から、筋の中のすべての運動単位の収縮が、ゴルジ腱器官の信号として脊髄に届いているはずだと考えられました。

ふつうに歩くネコのふくらはぎで記録したゴルジ腱器官の発火をまとめると、その平均から筋全体の力をよく予測できることもわかっています。ゴルジ腱器官は、危険なときだけ鳴る非常ベルではなく、日常の動きの中で筋の力を刻々と伝え続ける計器だったのです。この情報は脊髄の反射回路だけでなく、脊髄小脳路を通って小脳にも送られ、運動の調節に使われます(「体性感覚の上行性伝導路」)。

では、強い力を出したときに筋を抑える働きは確かめられているのでしょうか。動物とヒトの研究を見直した2002年のレビューによると、動物の後ろ脚の筋のあいだで自原抑制の強さはばらばらで、抑制がみられない筋さえありました。最大の力を出したときに抑制が起こるかを調べたデータはなく、ヒトが中くらいの力を出しているときに調べた唯一の研究では、自原抑制はむしろ弱まっていました。筋力トレーニングで自原抑制が弱まり、より大きな力を出せるようになるという説明にも、実験の裏づけは見つからなかったといいます。安全装置説は否定されたわけではありませんが、それを支える証拠は意外なほど乏しいのです。

歩いているときは、抑えるはずの反射が筋を後押しする

ゴルジ腱器官の反射のいちばん意外な姿は、歩いているときに現れます。

1987年、デンマークの研究チームは、脊髄を切断したネコに薬を与え、脚の神経に歩くときと同じリズムの活動を起こさせました。伸筋(膝や足首を伸ばす筋)が活動している最中に、伸筋からのI群線維(Ia群とIb群の総称)を電気で刺激すると、伸筋の活動が長引き、脚を前に振り出す屈筋の活動の始まりが遅れました。電気ではなく筋の受容器を自然に刺激した実験から、この作用を担っているのは主にゴルジ腱器官のIb群線維であることも示されています。

1993年には、カナダの研究チームが、やはり脊髄を切断したネコで伸筋のIb群線維を刺激しました。歩くリズムが出ているときは伸筋の活動が強まり、リズムがないときは同じ刺激で反対に弱まりました。同じ入力が、状況によって抑制にも促通にもなるこの現象は、反射の逆転と呼ばれます。

脳との連絡を断ったネコでも起こることから、この切り替えに脳からの指令は必ずしも必要なく、脊髄の中にある、歩行のリズムをつくる神経回路が担っていると考えられています。安静時のIb入力は抑制性介在ニューロンを介して伸筋を抑えますが、歩行中はリズムをつくる回路を介して、伸筋の側を後押しするのです。

安静時には伸筋のゴルジ腱器官からのIb入力が抑制性介在ニューロンを介して伸筋の運動ニューロンを抑えるが、歩行中に脚へ体重がかかっているときは歩行のリズムをつくる回路を介して伸筋の運動ニューロンを後押しし、屈筋を抑えて振り出しを遅らせることを示した図

図4 安静時と歩行中で逆になるIb反射(ネコの実験をもとにした模式図)

この逆転が何の役に立つのかは、伸筋に負荷がかかった脚では振り出しが始まらないことを示した実験から見えてきます。除脳したネコ(脳の一部を切り離したネコ)をトレッドミルの上で歩かせ、固定した片脚の足首の伸筋を引き伸ばして収縮の力を4kgより大きくすると、その脚で続いていた伸筋と屈筋の交互の収縮が止まりました。伸ばしたままにしておくと力は徐々に下がり、約4kgを下回ったところで交互の収縮が戻りました。脚を振り出すには、まずその脚の伸筋から負荷が抜ける必要があるらしいのです。

ヒトでも、この切り替えを示す結果が得られています。座って安静にしているときにみられたIb抑制は、トレッドミル歩行の立脚期(脚に体重がかかっている時期)には小さくなり、安静時に抑制がみられた10人のうち4人では、むしろ促通に変わっていました。別の研究では、抑制が弱まるには脚に荷重がかかればよく(あお向けで足の裏を押すだけでも弱まりました)、促通が現れるには、簡単なものでも歩く動きが必要でした。

ネコとヒトの研究から考えられるしくみを、ふだんの歩行に当てはめてみます。たとえば、横断歩道を渡ろうとして右足を踏み出し、その右足に体重が乗ったとします。右脚の伸筋は体重を支えて大きな力を出し、ゴルジ腱器官が盛んに発火します。この信号は伸筋を後押しし、体重がかかっているあいだ膝が折れないように働くと考えられます。同じ信号は振り出しの始まりを遅らせるので、体重が乗っている脚を不用意に前へ出してしまうこともありません。体重が左足に移って右脚の伸筋から負荷が抜けると信号が弱まり、右脚はようやく振り出しに移れます。

ストレッチの説明は書き換えられた

リハビリテーションやスポーツの現場では、PNFストレッチのホールド・リラックスという方法がよく使われます。伸ばしたい筋を数秒間縮めてもらい、力を抜いた直後にさらに伸ばす方法です。この方法で可動域が広がりやすい理由は、筋を縮めるとゴルジ腱器官が発火し、Ib抑制で筋がゆるむからだと説明されてきました。

しかし、筋を縮めた直後に伸張反射が弱まるのは1秒ほどしか続かず、その原因もゴルジ腱器官ではなく、筋紡錘からの信号が脊髄の入り口で抑えられること(シナプス前抑制)にあるらしいことが、2004年のレビューで指摘されました。2006年のレビューも、自原抑制や相反抑制でPNFストレッチの効果を説明する考えは研究で支持されていないと結論しています。代わりに有力なのは、伸ばされる感覚にどこまで耐えられるか(伸張への耐性)が変わるという説明です。

力を抜いた筋をゆっくり伸ばす静的ストレッチでは、図2のとおり、ゴルジ腱器官の発火は筋紡錘よりずっと少なくなります。3週間ストレッチを続けた人のハムストリングスを調べた研究では、同じ角度まで伸ばしたときの筋の硬さは変わらず、筋電図に表れる筋の活動ももともと小さいままでした。広がったのは、痛みを感じるところまで伸ばせる角度です。体が柔らかくなったのは、筋がゆるんだからではなく、強い伸びに耐えられるようになったためと考えられています。

それでも、PNFストレッチが可動域を広げる方法として有効であることに変わりはありません。先の2006年のレビューは、伸ばしたい筋の収縮は最大の20%以下の力で3秒ほど保てば十分としています。書き換えられたのは効果ではなく、なぜ伸びるのかという説明のほうです。

痙縮では、抑制が促通に変わる

安全装置という説明は、痙縮の「折りたたみナイフ現象」にも使われてきました。痙縮のある膝や肘を検査者が他動的に動かすと、はじめは強い抵抗があるのに、途中で急に抵抗が抜けることがあります。折りたたみナイフの刃を閉じるときの手ごたえに似ていることからついた名前で、抵抗が抜けるのはゴルジ腱器官のIb抑制のためと説明されることがあります。しかし、ネコでこの現象を再現して感覚神経の活動を記録した研究では、抵抗が抜けるときの抑制は、ゴルジ腱器官の発火とうまく対応しませんでした。抑制を起こしているのは、筋が伸ばされたり縮んだりすると活動する、より細い感覚神経(筋紡錘以外のII群線維や、III群・IV群線維)ではないかと考えられています。

それどころか、痙縮のある筋では、Ib抑制そのものが消えていたという報告があります。片麻痺のある6人の両脚で、H反射を使ってIb抑制を調べた研究では、麻痺のない側では全員に10ミリ秒ほど続く約15%の抑制がみられました。ところが痙縮のある側では、同じ刺激で同じくらいの長さの促通が起こり、その大きさは最大15%に達しました。筋の活動を抑えるはずの信号が、反対に活動を強めていたのです。研究者たちは、Ib抑制が失われることも、痙縮が起こるしくみの一つとして考えるべきだとしています。

痙縮の評価は「Modified Ashworth Scale」で、筋を伸ばす速さと痙縮の関係は「伸張反射:基本原理と生理的役割」で解説しています。

まとめ

ゴルジ腱器官は、ゴルジが顕微鏡の像から推測したとおり筋の張力を測るセンサーで、運動単位1つの収縮にも反応するほど敏感です。その信号は脊髄で筋紡錘や皮膚、脳からの情報と合わさり、安静時には同じ筋を抑え、歩行中に脚へ体重がかかると逆に伸筋を後押しします。「筋を守る安全装置」や「ストレッチで筋をゆるめるしくみ」としてではなく、筋の力を状況に合わせて調節するしくみとしてとらえると、歩行や痙縮で起こる変化まで筋道を立てて説明できます。脊髄反射には、痛みの刺激で手足を引っこめる屈曲反射もあり、「屈曲反射と交差性伸筋反射の特徴と役割」で紹介しています。

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参考文献

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