引用文献の書き方:読者が原典をたどれるように

引用文献の書き方:読者が原典をたどれるように

1980年1月、米国の医学雑誌『New England Journal of Medicine』の投稿欄に、わずか5文の手紙が載りました。病院で継続して追跡した入院患者39,946人のうち、麻薬性鎮痛薬(オピオイド)を1回以上使った11,882人を調べたところ、依存とみなせる例は4人だけだった、という報告です。

この短い手紙は、その後の37年間で608回引用されました。2017年、カナダ・トロントの研究者たちが引用した文献を1つずつ調べると、72.2%がこの手紙を「オピオイドを長く使っても依存はまれ」という主張の根拠に挙げ、80.8%は、データが入院中の患者に限られていたことに触れていませんでした。引用が重なるうちに、元の報告にはない主張が「文献に裏づけられた事実」になっていたのです。同じ年、雑誌はこの手紙に「十分な吟味なしに大量に引用されてきた」という注記を付けました。

引用文献は、文章の最後に添える飾りではありません。読者が主張の出どころをたどり、自分の目で確かめるための記録です。決まった形で書くのも、正確に書くのも、そのためです。

引用文献の書き方の要点

  • 何のために書くか:主張の根拠を示し、読者が原典を探して確かめられるようにするため
  • 2つの方式:本文に出てきた順に番号をつける番号方式(バンクーバー方式。医学系の雑誌に多い)と、本文に(著者, 年)を書いて文献を著者名の順に並べる著者・年方式(APA方式など)
  • 1件の書き方(番号方式):著者. 題名. 雑誌名. 発行年;巻(号):ページ. の順に書き、DOIがあれば最後に加える
  • 著者名:姓と名の頭文字で書く。何人まで書くかは規定で違う(ICMJEの例は6人、APAは20人、2人までとする和文誌もある)
  • 雑誌名:略すときは公式の略称を使う。英文誌はMEDLINE(PubMed)の略称が基準になる
  • いちばん大事なこと:投稿先の規定に従い、引用する主張が原典に本当に書かれているかを自分で確かめる。医学論文の引用のおよそ4件に1件に誤りがあったという分析もある

5文の手紙に起きたこと

図1は、手紙が報告した内容と、それがどう引用されたかを並べたものです。手紙が扱ったのは入院中に鎮痛薬を使った患者で、退院してから長く使い続けた人の依存は調べていません。それでも引用が引用を呼び、長期のオピオイド治療でも依存はまれだという主張の根拠として使われるようになりました。2017年に引用を分析した研究者たちは、引用の中には手紙の結論を大きくゆがめて伝えるものがあったと指摘しています。

1980年の手紙は、入院患者39,946人のうち麻薬性鎮痛薬を使った11,882人で依存とみなせる例が4人だったと報告した。この手紙を引用した文献608件のうち439件(72.2%)が依存はまれという根拠として引用し、80.8%は入院患者だけのデータだと触れていなかったことを示す図。2017年、雑誌は十分な吟味なしに大量に引用されてきたという注記を付けた

図1 5文の手紙と、その引用のされ方(1980〜2017年。Leungら 2017をもとに作成)

引用した人の多くは、原典の5文を読み直せば気づけたはずの条件を落としていました。引用文献を正しい形で書いておけば、読者は原典にたどり着き、その主張が本当に書かれているかを確かめられます。形式の決まりは、この確かめる作業を誰でもできるようにするためのものです。

引用の誤りは、どれくらいあるのか

5文の手紙は極端な例でしょうか。2015年、ドイツ・ケルン大学のイェルガスとベートゲは、医学雑誌の論文で、引用された文献が本文の主張を本当に支えているかを調べた研究を集め、28件をまとめて分析しました。主張と文献が大きく食い違う重大な誤りは11.9%、細部の食い違いなどの軽い誤りは11.5%で、合わせると引用の25.4%、およそ4件に1件に誤りがありました。

意外なのは、孫引き、つまり原典を読まずにほかの論文の引用を写したことが問題だった例が、誤り全体の6分の1に満たなかったことです。残りの多くは、原典を読める状態でも起こりうる誤りです。数字や対象の条件の記憶違い、要旨だけを読んだ一般化、引用番号を付ける位置のずれなどが考えられます。著者らは対策として、編集者や査読者による抜き取りの確認、本文の正しい位置への引用、そして著者が引用文献を確かめたことの宣言を挙げています。

番号方式は、バンクーバーで決まった

医学系の雑誌で広く使われている番号方式は、バンクーバー方式とも呼ばれます。1978年、一般医学雑誌の編集者たちがカナダのバンクーバーに集まり、投稿原稿の形式をそろえる指針を決めたことに由来します。この集まりはバンクーバー・グループと呼ばれ、のちに医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE)へと発展しました。文献の書き方には、米国国立医学図書館(NLM)がつくった形式が採用されています。

現在のICMJEの推奨では、文献は本文に初めて出てきた順に番号をつけ、書き方はNLMの見本(Sample References)と、その詳細を定めた『Citing Medicine』に従うとされています。雑誌名はMEDLINEで使われる形に略し、文献はPubMedなどの書誌データベースか原典で確かめることも求めています(図2)。

本文の引用番号1)と、文献リストの1行を部品に分けた図。Leung PTM, Macdonald EM, Stanbrook MB, Dhalla IA, Juurlink DN.が著者、A 1980 letter on the risk of opioid addiction.が論文の題名、N Engl J Med.が雑誌名の略称、2017が発行年、376(22)が巻と号、2194-5がページ、doi: 10.1056/NEJMc1700150がDOI。番号は本文に初めて出てきた順につけ、著者はICMJEの例では6人まで書くことを示す

図2 文献リストの1行を分解する(ICMJEとNLMの方式、いわゆるバンクーバー方式で雑誌論文を書いた例)

同じ論文でも、規定によって書き方が変わる

文献の書き方には大きく2つの系統があります。番号方式では、本文の引用箇所に番号をつけ、文献リストをその番号順に並べます。同じ文献をもう一度引くときは、最初につけた番号を使います。著者・年方式では、本文に(著者, 年)を書き、文献リストを著者名のアルファベット順に並べます。心理学や看護学で使われるAPA方式がその代表で、ハーバード方式とも呼ばれる系統です。著者名順に並べたうえで番号を振る方式を使う雑誌もあります。

同じ論文を、3つの規定で書いてみます。

ICMJEとNLMの方式(バンクーバー方式)
本文:この手紙は、依存はまれだという根拠として広く引用された1)。
文献:1) Leung PTM, Macdonald EM, Stanbrook MB, Dhalla IA, Juurlink DN. A 1980 letter on the risk of opioid addiction. N Engl J Med. 2017;376(22):2194-5. doi: 10.1056/NEJMc1700150

APA方式(第7版)
本文:この手紙は、依存はまれだという根拠として広く引用された(Leung et al., 2017)。
文献:Leung, P. T. M., Macdonald, E. M., Stanbrook, M. B., Dhalla, I. A., & Juurlink, D. N. (2017). A 1980 letter on the risk of opioid addiction. The New England Journal of Medicine, 376(22), 2194–2195. https://doi.org/10.1056/NEJMc1700150

和文誌の例(『東北理学療法学』の投稿規定)
本文:この手紙は、依存はまれだという根拠として広く引用された1)。
文献:1) Leung PTM, Macdonald EM, et al.: A 1980 letter on the risk of opioid addiction. N Engl J Med. 2017; 376: 2194-2195.

違いは細部に出ます。APA方式は著者を20人まで書き、本文では著者が3人以上なら最初の著者名に「et al.」をつけます。雑誌名は略さず、巻とともに斜体にし、DOIは「https://doi.org/」で始まるリンクの形で書きます。『東北理学療法学』の規定では、著者は2人まで書いて3人目以降は「他」や「et al.」とし、号は必要なとき以外は省きます。どの方式を使うかは書き手が選ぶのではなく、投稿先や提出先の規定で決まります。

なお、ICMJEの方式で文献リストに載るのは、本文中で引用した文献です。授業のレポートなどでは、本文では直接引いていないが参考にした本を「参考文献」として別に挙げることもあります。

著者名と雑誌名の書き方

欧文の著者名は、姓をそのまま書き、名とミドルネームは頭文字だけにして、姓、名の順に並べます。「Pamela T. M. Leung」は「Leung PTM」になります。日本人の著者を英文で書くときも同じで、「山田太郎」なら「Yamada T」です。何人まで書くかは規定によって違い、ICMJEの見本では最初の6人を書いて、7人以上なら「et al.」をつけます(NLMのデータベース自体は全員を収録しています)。

雑誌名を略すときは、自分で略さず、公式の略称を使います。英文誌は、ICMJEが求めるとおりMEDLINEの略称が基準で、PubMedで論文を表示すると「N Engl J Med」のような略称が確かめられます。かつては印刷版の『Index Medicus』の誌名リストで調べましたが、Index Medicusの印刷版は2004年末で終わっています。和文誌の略し方は雑誌ごとに決まっていて、たとえば『東北理学療法学』の規定では「総合リハビリテーション」を「総合リハ」と略す例が示されています。迷ったら、投稿先の規定と、引用する雑誌自身が示す略称を確かめます。

本やウェブページを引用するとき

書籍や、ウェブ上の資料にも決まった形があります。NLMの見本では、書籍は「著者. 書名. 版. 出版地: 出版社; 発行年.」、書籍の1章は「章の著者. 章の題名. In: 編者, editors. 書名. 出版地: 出版社; 発行年. p. 最初のページ-最後のページ.」の形で書きます。

ウェブページは、内容が後から変わったり消えたりすることがあるため、いつ見たかを書き添えます。NLMの見本では「[cited 2016 Dec 27]. Available from: URL」のように閲覧した日とURLを書きます。和文誌でも、『東北理学療法学』の規定のように、URLと閲覧日を書き添える形が示されています。論文にDOIがあれば書いておくと、URLが変わっても論文にたどり着けます。DOIは論文などに付けられる固有の番号で、「https://doi.org/」に続けると論文のページが開きます。

引用する文献の選び方と確かめ方

研究を始めるときは、テーマに関連する文献を広く読み、何がわかっていて何がわかっていないかを確かめます。ただし、読んだ文献をすべて引用する必要はありません。引用するのは、自分の主張や考察を直接支える文献です。数を並べても、主張が強くなるわけではありません。

選んだ文献は、次の点を確かめてから引用します。

  • 原典を読む:ほかの論文や教科書の記述を写さず、原典で、対象者、条件、数値、結論を確かめる。要旨だけでなく、方法と結果まで読む
  • 学会抄録より論文:ICMJEは、できるかぎり抄録ではなく出版された論文を引用するよう求めている。「私信」は、ほかに公開された情報源がない場合に限る
  • 撤回されていないか:ICMJEは、撤回された論文を引用していないかを著者が確かめるよう求めている。PubMedでは撤回された論文にその旨が表示される
  • 書誌情報を照合する:著者名、年、巻、ページ、DOIを、PubMedなどの書誌データベースか原典と突き合わせる
  • 文献管理ソフトの出力を見直す:Zotero、EndNote、Mendeleyなどのソフトは便利だが、取り込んだ書誌情報に誤りがあれば、そのまま文献リストに出る

たとえば、卒業研究の考察で「高齢者の転倒の主な原因は筋力低下である」と書き、教科書の記述を手がかりに論文を1本引用したとします。原典を開くと、その論文が調べていたのは介護施設の入所者だけで、筋力低下は転倒の危険因子の一つとして挙げられているにすぎませんでした。この場合は、主張を原典の内容に合わせて書き直すか、主張を支える別の文献を探します。原典を開くひと手間が、5文の手紙で起きたことを防ぎます。

研究の計画の立て方は「研究計画書の書き方」にまとめています。

まとめ

引用文献は、主張の根拠を示し、読者が原典をたどって確かめられるようにするための記録です。医学系では、本文に出てきた順に番号をつける番号方式(バンクーバー方式)が多く、ICMJEはNLMの形式に従うよう求めています。心理学や看護学では、本文に(著者, 年)を書くAPA方式が使われます。著者を何人まで書くか、雑誌名をどう略すかは規定ごとに違うので、投稿先の規定に合わせます。そして形式以上に大切なのは、引用する主張が原典に本当に書かれているかを自分で確かめることです。

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参考文献

  1. Porter J, Jick H. Addiction rare in patients treated with narcotics. N Engl J Med. 1980;302(2):123. doi:10.1056/NEJM198001103020221
  2. Leung PTM, Macdonald EM, Stanbrook MB, Dhalla IA, Juurlink DN. A 1980 letter on the risk of opioid addiction. N Engl J Med. 2017;376(22):2194-2195. doi:10.1056/NEJMc1700150
  3. Jergas H, Baethge C. Quotation accuracy in medical journal articles—a systematic review and meta-analysis. PeerJ. 2015;3:e1364. doi:10.7717/peerj.1364
  4. International Committee of Medical Journal Editors. Uniform requirements for manuscripts submitted to biomedical journals (updated October 2001). https://www.people.vcu.edu/~albest/Guidance/uniform_requirements_for_manuscripts.htm(2026年10月16日閲覧)
  5. International Committee of Medical Journal Editors. Recommendations: Preparing a manuscript for submission to a medical journal. https://www.icmje.org/recommendations/browse/manuscript-preparation/preparing-for-submission.html(2026年10月16日閲覧)
  6. National Library of Medicine. Samples of formatted references for authors of journal articles. https://www.nlm.nih.gov/bsd/uniform_requirements.html(2026年10月16日閲覧)
  7. American Psychological Association. Elements of reference list entries. APA Style. https://apastyle.apa.org/style-grammar-guidelines/references/elements-list-entry(2026年10月16日閲覧)
  8. National Library of Medicine. Index Medicus to cease as print publication. NLM Tech Bull. 2004 May-Jun;(338):e2. https://www.nlm.nih.gov/pubs/techbull/mj04/mj04_im.html(2026年10月16日閲覧)
  9. 東北理学療法学 投稿規定. https://assets.flips.jp/files/users/pt-tohoku-block/toukoukitei38_v01_20250621.pdf(2026年10月16日閲覧)

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