パーキンソン病の主な症状


 パーキンソン病は有病率10万人あたり100人以上といわれる一般的な病気です。主に老年期に発症して徐々に進行します。生命予後は良好といわれています。その症状には運動症状と非運動症状とがあって,症状に対してリハビリテーション介入が適応となることもあります。ここではパーキンソン病の主な症状について説明します。

運動症状(4大症状 + α)

 パーキンソン病には古典的に振戦,筋固縮,無動(寡動),姿勢反射障害という4つの運動症状がみとめられます。これらの症状は4大症状や4主徴とよばれています。また,4大症状とは別に,奇異性運動反応(矛盾運動)や嚥下機能障害などの運動症状もみられます。

安静時振戦

 安静時振戦は,安静にしている時に4〜6Hzの周波数で手足が震えることです。暗算などの精神的負荷で誘発されます。また,力を入れると軽減して,緊張すると増強します。安静時振戦の原因は明らかになっていません。この振戦は,身体部位(手,足,下顎や口唇)によってその周波数が違うようです (Bergman & Deuschl, 2002)。つまり,身体部位ごとに振戦を起こす要因が違うのかもしれません。

筋固縮

 筋固縮は,筋がこわばって手足や身体が動きにくくなり,他動的に関節を動かした時に全可動域に対して歯車のようにカクカクと抵抗感を感じる症状です。筋固縮は,ストレス,不安,姿勢の変化(座位から立位)などで強くなります。筋固縮の主な原因は,大脳皮質を経由する長ループ反射経路の過活動と考えられています (Delwaide et al., 1991)。

無動(寡動)

 無動(寡動)は,運動の開始が遅れたり,運動のスピードが遅くなったり,運動の量が少なくなったりする現象です。この影響によって,仮面様顔貌(表情がなくなる)になったり,声が小さくなったり,歩く時に歩幅が小さく腕の振りがなくなったりします。無動(寡動)の原因はまだよく分かっていません。大脳基底核(特に大脳皮質と連絡して運動を準備して遂行する機能)の障害だと考えられています (Berardelli et al., 2001)。

姿勢反射障害

 姿勢反射障害は,パーキンソン病患者さんを前後に急に押した時に足が踏み出せずにそのまま倒れてしまう現象です。凍結したように動けなくなることから,フリージングとも呼ばれます。急に歩くスピードが早くなる突進現象は,フリージングの前に起こるといわれています。姿勢反射障害は原因不明です。一見すると無動(寡動)の延長線にありそうな症状ですが,別のメカニズムだと考えられています。

奇異性運動反応

 奇異性運動反応とは,歩行などの動作がほとんどできない患者が,何らかのきっかけで動くことができるようになる現象です。例えば,床に縞模様があるとそれをまたぐように歩けたり,自発的に全く動けないパーキンソン患者さんが,ボールをなげるとキャッチできたりします。これは,パーキンソン病になると自発運動が困難になるが感覚刺激で運動が誘発できることを示しています。

嚥下機能障害

 嚥下機能障害は,食べ物や飲み物の飲み込みの能力が低下してしまう障害です。パーキンソン病患者の約半分に嚥下機能障害があるといわれています。はっきりとした原因は不明ですが,嚥下に関わる筋の固縮や,寡動などによって起こるといわれています。発症してから徐々に進行するため,食べ物や飲み物が気道に入ってもムセないし気づかない(これを不顕性誤嚥といいます)といわれています。

非運動症状

 パーキンソン病では,非運動症状として自律神経症状,精神症状,睡眠障害,感覚障害および認知機能障害がみとめられます。これらは必ず現れるわけではなく,患者さんごとに個人差があります。

自律神経症状

 パーキンソン病では自律神経の機能が低下して,便秘,頻尿,体温調節障害,起立性低血圧,頻脈,末梢性浮腫および勃起障害がみとめられることがあります。特に,便秘,頻尿などはパーキンソン病患者に頻繁にみとめられる症状で,症状が進行すると立ちくらみ(起立性低血圧)が日常生活動作やリハビリテーションの阻害因子になったりします。

精神症状

 うつ状態,不安,強迫的行為,妄想,せん妄およびpundingなどの精神症状も,パーキンソン病にみられる症状の一つです。まれに病的に賭博行為にはしったり,買いあさりをしたりと生活に支障をきたす症状をみとめる場合もあります。これらは脳内の神経伝達物質の異常によって起こるといわれています。

睡眠障害

 パーキンソン病患者は不眠や過眠に悩まされることがあります。また,レム睡眠(身体は眠っているのに脳が活動している状態)の時に,無意識に行動してしまうこともあります(これをレム睡眠行動障害といいます)。その他にも下肢静止不能症候群によって身体の動きが止まらずに眠れなくなることもあります。

感覚障害

 感覚障害もパーキンソン病にみられる症状の一つです。特に痛みや異常感覚を訴える患者さんは少なくありません。また,匂いが分からなくなったり,違う匂いを感じてしまう嗅覚障害がみとめられることがあります。

認知機能障害

 パーキンソン病患者には,軽度認知障害(MCI)やパーキンソン病性認知症がみられる場合があります。レビー小体型認知症と混同されている場合も少なくありませんが,パーキンソン病でも症状が進行すると認知機能の低下がみとめられることが指摘されています。その割合は新しくパーキンソン病と診断された患者さんの25%にも及ぶといわれています (Muslimovic et al., 2005)。

まとめ

 パーキンソン病はリハビリ専門職が関わることの多い疾患です。その症状には運動症状と非運動症状があって,人によって様々なパターンで出現します。また,それらの症状は薬剤の効き具合や,その日の体調によっても変化するので注意が必要です。一方で,奇異性運動反応などは,リハビリテーション介入のきっかけとなる症状でもあります。パーキンソン病患者の主たる症状を理解し,それぞれの症状に対して個別に対応する必要があります。