腕を上げるとき、上腕骨と肩甲骨のあいだの肩甲上腕関節と、胸郭の上で回る肩甲骨は、どの角度でも2対1の割合で動きを分け合っているのでしょうか。ScibekとCarcia(2012)が、健康な大学生年代の13人に腕を上げて止めてもらい、止めた位置ごとに肩甲骨の回り方を測って30°ごとに区切ると、最初の30°は40対1、90°から120°は0.9対1でした。0°から120°までをまとめた比は2.34対1で、2対1に近い値です。
臨床実習で、右肩に痛みのある患者さんが腕を横から上げるのを、後ろから見ているとしましょう。左に比べて右の肩甲骨は早くから大きく回り、腕を下ろす途中では、肩甲骨の内側の縁が少し浮き上がって見えます。教科書には、腕を上げる角度は肩甲上腕関節と肩甲骨が2対1で分け合うと書かれていました。右の肩甲骨の動きは、この2対1から外れた異常なのでしょうか。
肩甲上腕リズムの要点
- 定義:腕を体幹に対して上げた角度を、肩甲上腕関節の動きと肩甲骨の上方回旋に分けたときの割合。多くは、肩甲上腕関節の角度を肩甲骨の角度で割った比で表す
- 2対1の出どころ:1944年にInmanらが、外転では30°、屈曲では60°を過ぎてから170°までの挙上について、腕が15°上がるごとに肩甲上腕関節が10°、肩甲骨が5°動き、この関係はきわめて一定だと報告した値。それより前の準備相は動き方の個人差が大きいとして、比を示していない
- 3次元の動き:骨にピンを刺して測ると、肩甲骨は上方回旋のほかに後傾と外旋もしていた。鎖骨も胸鎖関節で回り、肩甲骨の上方回旋の多くは鎖骨の動きを通して生じていた
- 比は一定ではない:骨ピンで測った健康な成人の平均は1.7〜2.7対1。傾斜計で区間ごとに測った研究では、比は40対1から0.9対1まで変わった。上げるか下ろすか、負荷、年齢、測り方でも比は変わり、疲労では肩甲骨の動き方が変わる
- 臨床での読み方:2対1から外れていることも、左右で違うことも、それだけでは異常の証拠にならない。肩甲骨の動きの乱れは痛みのない人にも多く見られ、診断ではなく、肩の機能を妨げるかもしれない要因として、症状とあわせて評価する
肩甲上腕リズムとは:腕を上げた角度の内訳
腕を上げる動きは、肩甲上腕関節だけで起きているわけではありません。肩甲上腕関節は、上腕骨の丸い頭と、肩甲骨の関節窩と呼ばれる浅いくぼみがつくる関節です(くわしくは「肩甲上腕関節の支持機構」)。腕を上げると、この関節で上腕骨が動くのと同時に、肩甲骨そのものも胸郭の上で回ります。肩甲骨が胸郭の上を動く部分は肩甲胸郭関節と呼ばれますが、骨どうしが直接つながる関節ではなく、肩甲骨が筋を間にはさんで胸郭の上を滑る部分です。肩甲骨の回り方のうち、関節窩が上を向くように回る動きを上方回旋といいます。
肩甲上腕リズムは、腕を体幹に対して上げた角度のうち、肩甲上腕関節の動きと肩甲骨の上方回旋がそれぞれどれだけを占めるかを表す言葉です。この記事で紹介する研究の多くは、肩甲上腕関節の角度を肩甲骨の上方回旋の角度で割った比で表しています。2対1なら、腕が30°上がるあいだに、肩甲上腕関節が20°、肩甲骨が10°動いたという意味です。関節可動域測定で肩の屈曲や外転を測るときは、基本軸を床への垂直線にするので、測った角度には肩甲骨の動きも入っています(くわしくは「上肢の関節可動域測定」)。
1934年:Codmanが見た「協調」
教科書に書かれた2対1が、いつ、誰が、どんな方法で測った値なのかをたどると、出発点にあるのは数字ではなく、背中を見る外科医の目でした。肩甲上腕リズムという言葉を広めたのは、米国ボストンの外科医Ernest A. Codmanです。Codmanは1934年の著書『The Shoulder』で、肩の正常な動きを知るには、やせた人の裸の背中を見て、肩甲骨の内側の縁の動きに注意を向けるよう勧めています(Codman 1934)。リズムをとらえる方法としてCodmanが勧めたのは、X線写真ではなく、目と手でした。同じ章でCodmanは、X線写真は投影なので角度を見誤りやすいとも注意しています。
Codmanは、腕を上げるときに肩のすべての構造が協調して動くことを、肩甲上腕リズムと呼びました。当時は、まず上腕骨が肩甲骨の上で動き、その後に肩甲骨が胸壁の上で動く、と順番に分けて考える説明がありました。Codmanはこれを退け、正常に腕を上げるときには、それぞれの動きがいつ起きるのかを誰も言い当てられない、すべてが同時に起きるからだ、と書いています。動きは協調したもので、関わる3つの関節にきちんと分けることはできない、とも述べ、比は示しませんでした。上腕骨が関節窩の上で動く範囲を約140°と見積もりながら、関節ごとの見積もりを足すと180°を超えてしまうことにも触れています。
Codmanにとって、このリズムは診察の手がかりでした。肩の関節や滑液包の病変のほとんどが「肩甲上腕リズムの喪失」という徴候を示すと述べ、止まったり左右で違ったりする肩甲骨を見たら、その肩は異常である可能性が高いと書いています。滑液包は、骨と腱や筋などのあいだで摩擦を減らす、液の入った袋です。Codmanにとってリズムは、数えるより先に、目で見て左右を比べるものでした。
1944年:Inmanらの2対1と準備相
このリズムをX線写真で測り、比として示したのが、米国のVerne T. Inmanらが1944年に発表した論文です(Inmanら 1944)。ScibekとCarcia(2012)は、Inmanらを、X線写真で肩甲上腕リズムを測った最初の研究者として紹介しています。Inmanらは、X線写真に加えて、生きている人の骨に直接ピンを刺して動きを調べ、筋が活動するときに生じる電気、つまり筋電図も記録しました。
Inmanらはまず、腕を上げはじめる時期を別に扱いました。外転では最初の30°、屈曲では最初の60°までのあいだ、肩甲骨の動き方は人によって大きく違うとして、この時期を準備相(setting phase)と呼び、比を示していません(Bramanら 2009)。そして、外転で30°、屈曲で60°を過ぎると、肩甲骨と上腕骨の動きの関係はきわめて一定になると書きました。30°から170°までの挙上では、腕が15°上がるごとに10°が肩甲上腕関節、5°が肩甲骨の回旋で生じ、肩甲骨が動く範囲は全部で60°を超えない、と述べています。
腕を180°上げると肩甲上腕関節が120°、肩甲骨が60°という内訳は、この2対1を挙上の最初から最後まで当てはめると出てくる計算です。Inmanら自身は、準備相を2対1から外していました。
2対1が「一定の比」になるまで
Bramanら(2009)は、Inmanらの論文について、対象が1人だったのか複数だったのか、データをどう集めたのかがはっきりしないと指摘しています。そのうえで、その後の研究が運動の面ごとに違う結果を出したにもかかわらず、この2対1が広く受け入れられてきたと述べています。
当時の測り方には、2つの限界がありました。1つは、平面の写真で3次元の動きを測っていたことです。X線写真は立体の骨を1枚の平面に写すので、写す面に対して斜めに向いた骨の角度は、実際とは違って写ります。Bramanら(2009)は、X線写真を使った初期の研究が、肩甲骨面で腕を止めたいくつかの位置で肩を撮影したもので、止まった姿勢でしか測れないという限界があったと述べています。肩甲骨面とは、胸郭に沿った肩甲骨の向きに合わせて、前額面から斜め前に開いた面のことです。もう1つは、肩甲骨の動きを上方回旋だけでとらえていたことです。肩甲骨は胸郭の丸みに沿って前後に傾いたり、縦の軸のまわりで回ったりもしますが、平面の写真ではその動きを分けて測れませんでした。
X線写真の時代にも、比は研究によって違っていました(表1)。FreedmanとMunro(1966)は肩甲骨面での外転をX線写真で調べた研究で、HallströmとKärrholm(2009)は、この研究とDoodyら(1970)の研究が比を3対2と求めたと紹介しています。PoppenとWalker(1976)は健康な12人と患者15人をX線写真で調べ、外転30°あたりから後の比を5対4としています。BaggとForrest(1988)は健康な若い男性20人を調べ、リズムが3つの相に分かれる型が最も多く、肩甲骨の回旋が相対的に最も大きいのは外転80°から140°のあいだだったと報告しました。Bramanら(2009)によれば、FreedmanとMunroの研究も、比が範囲の途中で変わることを示していました。比が一定ではないことには、この時代から気づかれていたのです。
| 研究 | 測り方と対象 | 報告された比と |
|---|---|---|
| Codman | 背中を見て、 | 関節が同時に |
| Inmanら | X線写真、 | 挙上30〜170°で |
| Freedmanと | 肩甲骨面での | 3対2。 |
| Poppenと | X線写真。 | 外転30°以降で |
| Baggと | 肩甲骨面での | 3つの相に |
| McClureら | 骨ピンと | 1.7対1。 |
| Ludewigら | 鎖骨、肩甲骨、 | 屈曲2.4、 |
| Bramanら | 骨ピン。 | 30°以降で、 |
| Scibekと | 傾斜計。 | 全体で |
表1 肩甲上腕リズムを調べた主な研究。比は肩甲上腕関節の角度:肩甲骨の上方回旋の角度。FreedmanとMunroの比は、Doodyらとあわせて紹介したHallströmとKärrholm(2009)による。Inmanらの対象の記載と、FreedmanとMunroで比が変わることはBramanら(2009)による。BaggとForrestの測定器具は、確認できた資料に記載がない
骨にピンを刺して見えた3次元の動き
肩甲骨は皮膚の下で大きく動くので、皮膚の上に貼った目印やセンサーでは、皮膚と骨のずれがそのまま誤差になります。この問題を避けるために、2000年代には、骨に細いピンを刺してセンサーを固定し、骨そのものの動きを3次元で記録する研究が行われました。
McClureら(2001)は、健康な8人(男性5人、女性3人)の肩甲棘に直径1.6 mmのピンを2本刺し、3次元の動きを測る小さなセンサーを固定しました。肩甲棘は、肩甲骨の背面を斜めに横切る骨の隆起です。肩甲骨面で腕を上げると、肩甲骨は平均で50°上方回旋し、30°後傾し、24°外旋していました(図1)。後傾は肩甲骨の上の端が後ろへ倒れる動き、外旋は、上から見て肩甲骨の外側の端が後ろへ回り、内側の縁が胸郭に近づく動きです。比は1.7対1でした。McClureらは、正常な肩甲骨の動きは上方回旋だけでなく、3つの軸のまわりの大きな回旋からなると結論しています。腕を下ろすときには、これらの動きが少し違う型で逆にたどられていました。

図1 腕を肩甲骨面で上げたときの肩甲骨の3つの回旋(模式図、角度はMcClureら 2001の平均)。Aは右の肩甲骨を後ろから、Bは右から、Cは上から見た図。破線は腕を下ろしているとき、実線は腕を上げたときの位置。健康な8人の肩甲棘に刺したピンで測った値で、標準偏差は上方回旋4.8°、後傾13.0°、外旋12.8°。回転の中心と骨の形は説明のために単純化した
このうち縦の軸のまわりの回旋は、研究によって結果が違います。Ludewigら(2009)の12人では、胸郭に対する肩甲骨の内旋が腕を上げてもわずかに減っただけで、Bramanら(2009)では、肩甲骨は挙上の途中まで内旋し、その先で外旋に転じていました。上方回旋と後傾が腕を上げるにつれて大きくなる点は、これらの研究で共通しています。
同じ研究グループのKardunaら(2001)は、骨ピンと皮膚の上からの方法で同時に測って比べました。肩峰に直接センサーを貼る方法も、肩甲棘と肩峰にかぶせる器具にセンサーを付ける方法も、骨ピンとよく似た動きを示し、とくに挙上120°より下でよく一致しました。120°より下であれば、ピンを刺さなくても肩甲骨の3次元の動きをおおむね追えるということです。
Ludewigら(2009)は、健康な12人(男性7人、女性5人)の鎖骨、肩甲骨、上腕骨にピンを刺し、屈曲、肩甲骨面での外転、外転の3つの方向で腕を上げ下ろししてもらいました。腕を上げると、鎖骨は胸鎖関節で持ち上がり、後ろへ引かれ、長い軸のまわりで後ろへ回りました。鎖骨のこの回旋は、Inmanらが1人の測定で報告していたもので、Ludewigらはそれを12人で確かめたことになります。胸鎖関節は胸骨と鎖骨がつくる関節で、肩鎖関節は鎖骨と肩甲骨の肩峰がつくる関節です。胸鎖関節では鎖骨の後方回旋が平均31°と最も大きく、肩鎖関節では肩甲骨の後傾が平均19°と最も大きい動きでした。
肩甲骨の上方回旋は、その多くが胸鎖関節での鎖骨の動きを通して生じていました(Ludewigら 2009)。肩甲骨は肩鎖関節で鎖骨につながっているので、鎖骨が胸骨との関節で持ち上がり、回ると、肩甲骨もそれに運ばれて回るからです。Codmanが3つの関節の協調と書いた動きは、4つの関節それぞれの3次元の回旋として測れるようになりました。上方回旋を生む筋の働きは「僧帽筋の機能と役割」で扱っています。
比は、腕を上げる方向によって少しずつ違う値になりました。Ludewigらの12人では、外転で2.1対1、屈曲で2.4対1、肩甲骨面での外転で2.2対1でした。ただし、方向による違いを統計的に検定した結果は示されていません。同じ12人で、棚の上の物を取るように頭上へ手を伸ばす動作を測ったBramanら(2009)では、30°から最大まで上げたときの比は、上げるときに2.3対1、下ろすときに2.7対1で、下ろすときのほうが肩甲上腕関節の割合が大きくなっていました。骨ピンで測った健康な成人の平均は1.7〜2.7対1の範囲にあり、Inmanらの2対1は、平均としては大きく外れていません。ただし、Inmanらが「きわめて一定」とした30°以降の範囲でも、比は区間によって変わります。これらの研究を並べた図は「上肢の関節可動域測定」にあります。
比は腕を上げる途中で変わる
平均の比が2対1に近くても、その内訳は区間ごとに違います。ScibekとCarcia(2012)は、健康な大学生年代の13人に、肩甲骨面で腕を30°、45°、60°、75°、90°、120°まで上げて止めてもらい、それぞれの位置で肩甲骨の上方回旋を傾斜計で測りました。傾斜計は、重力の向きを基準に傾きの角度を測る器具です。0°から120°まで全体の比は2.34対1でしたが、30°ごとに区切ると、0〜30°は40対1、30〜60°は1.7対1、60〜90°は2.6対1、90〜120°は0.9対1でした(図2)。最初の30°ではほとんど肩甲上腕関節だけが動き、90°を超えると肩甲骨の動きのほうが大きくなっていたのです。ScibekとCarciaは、2対1は平均であり、範囲の中の大きなばらつきを表していないと述べています。

図2 腕を上げる区間ごとの、肩甲上腕関節と肩甲骨の上方回旋の内訳(ScibekとCarcia 2012をもとに作成)。健康な大学生年代の13人が肩甲骨面で腕を止めた位置で肩甲骨の上方回旋を傾斜計で測り、各区間の30°から差し引いた値を肩甲上腕関節の動きとした。肩甲骨の上方回旋の標準偏差は区間によって4.9〜7.2°で、人による違いも大きい。比は論文の表の値を丸めた
骨ピンの研究でも、上げはじめの区間で比が大きくなっていました。Bramanら(2009)でも、比は上げはじめの区間で最も大きく、その区間のばらつきも最も大きいものでした。Inmanらが準備相として比を示さなかった時期は、骨ピンを使ったBramanらの測定でも、比のばらつきが最も大きい区間だったことになります。
負荷、疲労、年齢による違い
比の変わり方そのものも、条件によって違います。McQuadeとSmidt(1998)は、健康な25人で、肩甲骨面での挙上を3つの条件で比べました。腕の重さがかからないように他動的に持ち上げると、比は腕が上がるにつれて7.9対1から2.1対1へ下がりました。ところが、自分の腕の重さに逆らって上げると3.1対1から4.3対1へ、最大の抵抗に逆らって上げると1.9対1から4.5対1へと、逆に上がっていきました。上げはじめは肩甲上腕関節、後半は肩甲骨という変わり方は、負荷によっては逆向きになるということです。2人は、2対1という単純な比を前提にするのは単純すぎるかもしれないと述べています。
この結果は、自分で腕を上げても、最後の区間(90〜120°)で肩甲骨の割合が最も大きくなったScibekとCarciaの結果とは、向きが逆です。止めた位置で測るか動いている途中で測るか、区間をどう区切るかといった測り方の違いが関わっている可能性がありますが、2つの研究からはどちらが正しいかを決められません。
疲労でも動きは変わります。肩の外旋筋を疲れさせた後では、腕を上げはじめるときの肩甲骨の後傾が小さくなり、中間の範囲では上方回旋と鎖骨の後退が大きくなりました(Ebaughら 2006)。外旋筋は上腕骨を外側へひねる筋で、主な外旋筋である棘下筋と小円筋は腱板の一部です(くわしくは「回旋筋腱板の機能と役割」)。年齢による違いもあります。4〜9歳の子ども14人と25〜37歳の成人15人を比べた研究では、肩甲骨面での比は成人で2.4対1、子どもで1.3対1で、子どもでは肩甲骨の上方回旋の割合が大きくなっていました(Dayanidhiら 2005)。
測り方と比の定義も、数字を変えます。HallströmとKärrholm(2009)は、骨に埋めた小さな金属球を2方向から同時に撮ったX線写真で立体的に追う、放射線立体写真測量という方法で、肩の挟み込みと呼ばれる肩の痛みのある患者30人と健康な11人の外転を測りました。肩甲上腕関節の動きと、肩甲骨と体幹を合わせた動きの比は、どちらの群でも1対1以下でした。体幹の動きまで含めて比べているので、ほかの研究の比とそのままは比べられません。表2に、比を変える条件をまとめました。
| 条件 | 報告された違い | 文献 |
|---|---|---|
| 腕を上げる | 外転2.1、 | Ludewigら |
| 上げるか | 30°以降で、 | Bramanら |
| 区間 | 0〜30°で40対1、 | Scibekと |
| 負荷 | 他動運動では | McQuadeと |
| 疲労 | 外旋筋の疲労後、 | Ebaughら |
| 年齢 | 成人2.4、 | Dayanidhiら |
| 測り方と | 肩甲骨と体幹を | Hallströmと |
表2 肩甲上腕リズムの比を変える条件。比は肩甲上腕関節:肩甲骨で、HallströmとKärrholmだけは肩甲骨と体幹を合わせた動きと比べている。区間と負荷の値は、腕を上げはじめた区間から終わりの区間への変化。疲労の研究は比ではなく、肩甲骨の角度の変化を報告している。方向による違いは統計的に検定されていない
臨床実習で後ろから見ていた患者さんの右の肩甲骨が、左より早くから大きく回っていたとしても、2対1から外れているというだけでは異常とは言えません。健康な人でも、比は区間や方向、負荷でこれだけ変わるからです。左右を比べるときは、腕を上げる方向、上げるか下ろすか、物を持つかどうかをそろえ、そのうえで、痛みが出る角度と、肩甲骨の動きが左右で違ってくる角度が重なるかを見ます。
「リズムの乱れ」は異常のしるしか
肩甲上腕リズムが臨床で関心を集めてきたのは、Codmanのころから、リズムの乱れが肩の病気の手がかりと考えられてきたからです。PoppenとWalker(1976)も、比の異常が肩の強い痛みと関連していたと報告しています。
3次元の測定が広まると、症状のある人の肩甲骨の動きも詳しく調べられるようになりました。LudewigとCook(2000)は、頭上で作業することの多い建設作業員52人を、肩の挟み込みの症状がある人とない人に分けて比べました。肩の挟み込みは肩インピンジメントとも呼ばれ、腕を上げたときに、肩峰などの下で腱板や滑液包が挟まれて痛むと考えられている状態です。症状のある人では、腕を60°上げたところでの上方回旋が小さく、120°での前傾、つまり肩甲骨の上の端が前に倒れる動きが大きく、前鋸筋の筋活動はすべての負荷と範囲で低下していました。
ただし、こうした違いが痛みの原因なのか、障害や痛みに対する代償なのかは、まだわかっていません。LudewigとReynolds(2009)は、肩の挟み込みや腱板の障害、肩関節の不安定性などで肩甲骨の動きの変化が報告されていること、小胸筋が短い人や、胸椎の後弯、つまり背中の丸みが強い人でも似た変化が見られることをまとめています。そのうえで、こうした変化が原因なのか代償なのかは、推測の域を出ないと述べています。
2013年に肩甲骨の専門家が集まってまとめた合意声明は、肩甲骨の位置や動きが正常から外れた状態を肩甲骨ジスキネジア(scapular dyskinesis)と呼び、多くの肩の障害で高い割合に見られる一方、それが肩の機能障害を生む、あるいは悪化させる役割ははっきりしないとしました(Kiblerら 2013)。そして、ジスキネジアはそれだけでは損傷でも診断でもなく、肩の機能を妨げるかもしれない要因として見るのが最も適切だと述べています。同じ声明は、肩甲骨の左右差は健康な人にもよく見られるとも書いています。
Plummerら(2017)は、肩に痛みのある67人と痛みのない68人に、肩甲骨ジスキネジアの検査を行いました。腕の屈曲と外転を5回ずつくり返してもらい、理学療法士が肩甲骨の浮き上がりやリズムの乱れを見て判定する検査です。ジスキネジアと判定された人の割合は、痛みのある群で67.2%、痛みのない群でも外転で52.9%、屈曲で61.8%で、統計的に意味のある差はありませんでした(図3)。また、痛みがあることを知っている検者は、知らない検者よりも多くジスキネジアと判定していました。Plummerらは、肩甲骨ジスキネジアは正常な動きのばらつきを表しているのかもしれないと述べています。

図3 肩甲骨ジスキネジアと判定された人の割合(Plummerら 2017をもとに作成)。横の線は95%信頼区間。Aは肩に痛みのある67人と痛みのない68人の比較で、差は統計的に意味のある大きさではなかった。Bは痛みのある群の痛む肩を、痛みの有無を知っている検者と知らされていない検者が判定した結果で、差は統計的に意味のある大きさだった
一方で、痛みのない運動選手を追った5つの研究、419人をまとめたメタ分析では、ジスキネジアのある選手の35%、ない選手の25%が、9〜24か月のあいだに肩の痛みを経験していました。リスク比は1.43(95%信頼区間1.05〜1.93)です(Hickeyら 2018)。ジスキネジアは痛みのない人にもよく見られますが、運動選手では、将来の痛みの危険をいくらか高める要因になりうるということです。
下ろす途中で肩甲骨の内側の縁が浮いて見えることも、痛みのない人でも半数以上がジスキネジアと判定された以上、それだけでは異常の証拠になりません。右肩が痛むと知ったうえで後ろから見ていれば、Plummerらの検者のように、乱れを多めに判定してしまうおそれもあります。肩甲骨の動きの変化は、痛みの原因ではなく、痛みを避けるための反応かもしれません。その可能性を残したまま、肩の機能を妨げる要因の1つとして評価するのが、Kiblerら(2013)の合意声明に沿った読み方です。
まとめ
肩甲上腕リズムは、腕を上げた角度を肩甲上腕関節と肩甲骨が分け合う割合のことです。2対1は、Inmanらが1944年に、上げはじめの準備相を除いた30°から170°について報告した値です。Inmanらはこの範囲で比はきわめて一定だとしましたが、その後の測定では、比は区間によって変わり、範囲全体に当てはまる一定の比ではありませんでした。骨にピンを刺した研究では、健康な成人の平均の比は1.7〜2.7対1で、肩甲骨は上方回旋のほかに後傾と外旋もしており、鎖骨も胸鎖関節で回っていました。比は区間、上げ下ろし、負荷、年齢、測り方で変わり、疲労でも肩甲骨の動き方が変わります。臨床では、2対1からのずれや左右差をそれだけで異常とせず、条件をそろえて比べ、症状との結びつきで読みます。
Codmanは裸の背中を目で追い、関節が同時に協調して動くことをとらえましたが、比は示しませんでした。平面のX線写真はその協調を1つの比として数えられるようにした一方で、写す面に対して斜めに動く肩甲骨の後傾や外旋を分けて測ることはできませんでした。骨に刺したピンと3次元のセンサーがその回旋と鎖骨の回旋をとらえ、傾斜計で区間ごとに測ると、比は40対1から0.9対1まで変わりました。2対1という平均が大きく外れていたわけではなく、誤解を生んだのは、どの方法で、どの範囲を見た値なのかを忘れて一定の比と考えたことでした。痛みがあると知っている検者ほど乱れを多く判定したように、見る人が何を知っているかも、肩甲骨の見え方を変えます。
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さらに学びたい人へ:おすすめの本
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参考文献
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