
脳卒中のあとに肘を伸ばそうとすると、途中でぐっと引っかかる。この抵抗を0から4までの6段階で表すのが、Modified Ashworth Scale(MAS、修正アシュワース尺度)です。道具がいらず、ベッドの上ですぐに評価でき、筋緊張の亢進を測る臨床尺度として最も広く使われています。
けれども、MASで「2」がついたからといって、痙縮が強いとは限りません。点数が表しているのは何なのか。その答えは、この尺度の生い立ちと、痙縮の定義の中にあります。
Modified Ashworth Scale(MAS)の要点
- 何を評価するか:関節を他動的に動かしたときの抵抗を、0、1、1+、2、3、4の6段階で判定する
- 手順:背臥位で力を抜いてもらい、屈筋なら最大屈曲位から最大伸展位まで(伸筋なら逆向きに)約1秒で動かす
- 点数の意味:抵抗には伸張反射の亢進(痙縮)だけでなく、筋や腱の硬さや拘縮も加わる。MASだけでは両者を区別できない
- 信頼性:上肢のほうが下肢より安定し、同じ検者のほうが一致しやすい
- 補い方:ゆっくりと速くの2つの速さで動かすTardieu Scaleを併用すると、反射の成分と拘縮を分けやすい
- 結果の扱い:順序尺度なので、平均値ではなく中央値や段階ごとの人数で示す
筋弛緩薬の試験から生まれた尺度
もとになったアシュワース尺度は、1964年、英国の医師アシュワースが、多発性硬化症の患者に筋弛緩薬カリソプロドールを試した報告の中で使ったものです。3ページの短い報告で、薬で手足のこわばりが和らいだかを判定するため、関節を動かしたときの抵抗を5段階で表しました。
1987年、米国の理学療法士ボハノンらは、軽い段階の違いをとらえるため、1と2のあいだに「1+」を加えた6段階の尺度を提案しました。頭蓋内に病変のある患者30人の肘屈筋を2人が別々に評価したところ、86.7%で判定が一致し、2人の評価の相関(ケンドールの順位相関係数)は0.847でした。2ページの短い報告でしたが、この修正版はその後広く使われるようになり、2018年の系統的レビューは、筋緊張の亢進を測る臨床尺度として最も広く使われていると述べています。

図1 MASの6段階:関節を約1秒で端から端まで動かしたときに、抵抗を感じる範囲と強さ(Bohannon・Smith 1987の判定基準をもとに作成)
| 段階 | 判定の基準 |
|---|---|
| 0 | 筋緊張の亢進はない |
| 1 | 軽度の亢進がある。屈曲または伸展で動かしたとき、引っかかりとその消失、または可動域の終わりにわずかな抵抗がある |
| 1+ | 軽度の亢進がある。引っかかりのあと、残りの可動域(半分未満)にわずかな抵抗が続く |
| 2 | 可動域のほぼ全体で、よりはっきりした亢進があるが、容易に動かせる |
| 3 | かなりの亢進があり、他動運動が難しい |
| 4 | 屈曲位または伸展位で固まっている |
表1 MASの判定基準(Bohannon・Smith 1987)
測り方:約1秒で端から端まで動かす
手順は単純です。対象者には背臥位で力を抜いてもらいます。屈筋を調べるときは関節を最大屈曲位に置き、約1秒かけて最大伸展位まで動かします。伸筋を調べるときは、最大伸展位から最大屈曲位へ、逆向きに動かします。そのとき手に感じた抵抗を、表1の基準で判定します。
抵抗は、姿勢や緊張、直前に動かしたかどうかでも変わります。あとで比べられるように、姿勢、動かす速さ、ストレッチや運動の前か後か、評価した検者を記録し、次の評価でもそろえます。
痙縮は「速さ」に反応する
痙縮の定義として広く使われているのは、1980年にオーストラリアの神経内科医ランスが示したものです。痙縮は上位運動ニューロン障害の症状の一つで、伸張反射の興奮性が高まることにより、筋を伸ばす速さに応じて筋緊張が高まり、腱反射も亢進する状態とされます。速く伸ばすほど筋紡錘からの信号が強くなり、反射による抵抗も大きくなるからです。このしくみは「伸張反射」の記事で詳しく説明しています。
ところがMASは、約1秒という一つの速さで関節を動かし、そのときの抵抗の大きさを判定します。他動運動に対する抵抗には、反射による筋の収縮だけでなく、筋や腱、関節のまわりの組織そのものの硬さも加わります。長く動かさずにいた筋は短く硬くなり、拘縮が起これば、反射がなくても抵抗は大きくなります。一つの速さで動かすだけでは、この2つを区別できません。
1999年、英国のパンディヤンらはそれまでの研究を検討し、他動運動への抵抗は多くの要因に左右され、痙縮はその一つにすぎないと指摘しました。アシュワース尺度は他動運動への抵抗を表す順序尺度としては使えても、痙縮の尺度ではない。MASについては、1と1+の区別があいまいなままなら、段階に順序をつけない名義尺度として扱うべきだとまで述べています。
「アシュワース尺度を使うのはやめよう」
2010年、オランダのフルーレンらは、「痙縮の評価にアシュワース尺度を使うのはやめよう」という題名の論文を発表しました。上位運動ニューロン障害のある患者30人で、アシュワース尺度の評価と同時に、筋電図で筋活動を、装置で抵抗を記録しています。肘屈筋では、点数と筋活動のあいだにはっきりした関連が見られたのは3人の検者のうち1人だけで、抵抗とは中程度の関連でした。膝の伸筋では、筋活動とも抵抗とも中程度の関連がありました。3人の評価の一致度を表す級内相関係数は、肘で0.58、膝で0.63にとどまり、点数は誰が評価したかに大きく左右されていました。
同じ問題は、別の研究からも見えてきます。2006年にオーストラリアで行われた研究では、脳卒中から3年たった16人で、アシュワース尺度と、後で説明するTardieu Scaleを、筋電図で測った痙縮と比べました。肘屈筋と足関節の底屈筋のどちらでも、Tardieu Scaleの判定は筋電図の判定と100%一致したのに対し、アシュワース尺度の一致は63%でした。アシュワース尺度が痙縮を多く見積もった人には、全員に拘縮がありました。
信頼性:上肢は安定し、下肢は揺れる
MASの信頼性は、研究によって大きく異なります。急性期の脳卒中患者32人の研究では、検者間のκ係数が0.84と高い値でした。一方、脳卒中患者の下肢(腓腹筋、ヒラメ筋、大腿四頭筋)を調べた研究では、2人の検者の評価の相関はほぼゼロ(ケンドールの順位相関係数0.062)で、同じ検者が2回評価した場合でも0.567でした。一致したのは、ほとんどが「0」の判定でした。
33の研究、合わせて1,065人のデータをまとめた2018年のメタ分析の結果が表2です。上肢のほうが一致しやすく、下肢の検者間のκ係数は0.36にとどまります。同じ患者を追うときは、できるだけ同じ検者が同じ条件で評価することが大切です。
| 検者間 級内相関係数 | 検者間 κ係数 | 検者内 級内相関係数 | 検者内 κ係数 | |
|---|---|---|---|---|
| 上肢 | 0.78 | 0.63 | 0.75 | 0.59 |
| 下肢 | 0.69 | 0.36 | 0.64 | 0.49 |
表2 MASの信頼性(33研究のメタ分析、Meseguer-Henarejosら 2018)
点数の変化をどう読むか
MASの段階には順序がありますが、段階のあいだの差が等しいとは限りません。とくに1+は、1と2のあいだに後から加えられた段階です。1+を1.5点として平均を求めるような扱いには注意が必要で、結果は段階ごとの人数や中央値で示します。2つの時点を比べるときは「Wilcoxonの符号付順位検定」、2群を比べるときは「Mann-WhitneyのU検定」のように、順位を使う検定を選びます(尺度の種類は「統計データの尺度水準」を参照)。
意味のある変化の目安として、脳卒中患者115人を6か月追った研究は、複数の筋の平均点で、上肢0.48〜0.76段階、下肢0.45〜0.73段階という値を示しています。ただし、これは点数のばらつき(標準偏差)から計算した値で、本人が改善を実感したかどうかを基準にしたものではありません。検者や条件が変われば1段階のずれは起こりうるので、変化は同じ検者・同じ条件で確かめましょう。
Tardieu Scaleで「速さ」を足す
MASの弱点を補う方法として使われるのが、Tardieu Scaleです。同じ関節を、できるだけゆっくり(V1)と、できるだけ速く(V3)の2つの速さで動かします。ゆっくり動かしたときに動かせる最大の角度をR2、速く動かしたときに引っかかる角度をR1として、角度計で測ります(もとの尺度には、重力で落ちる程度の速さ(V2)や、筋の反応の質を判定する項目もあります)。
反射は速さに反応するので、速く動かすと早い段階で引っかかります。R2とR1の差が大きければ、速さに反応する反射の成分が大きいと考えられます。差が小さく、R2そのものが小さければ、速さによらない制限、つまり拘縮が主体と考えられます。図2のように、MASが同じ2でも、中身が違うことがあるのです。

図2 同じMAS 2でも、中身は違う(足首の背屈を2つの速さで動かした架空の2人。R1は速く動かしたときに引っかかる角度、R2はゆっくり動かしたときに動かせる最大の角度)
2006年の系統的レビューは、Tardieu Scaleは2つの速さで抵抗を比べるため、ランスの痙縮の定義により近い評価だとしています。一方で、成人の神経疾患で信頼性や妥当性を調べた研究はまだ少ないとも指摘しています。角度の測り方は「下肢の関節可動域測定」「上肢の関節可動域測定」で説明しています。
まとめ
MASは、関節を約1秒で動かしたときの抵抗を6段階で表す、手軽で広く使われている尺度です。ただし点数が表すのは他動運動への抵抗で、そこには痙縮だけでなく、筋や腱の硬さや拘縮も含まれます。同じ検者・同じ条件で評価し、順序尺度として扱い、必要に応じてTardieu Scaleで速さによる違いを確かめると、点数の意味をより正確に読めます。ほかの評価は「評価の特徴や方法(評価指標一覧)」にまとめています。
さらに学びたい人へ:おすすめの本と道具
- 藤原俊之『痙縮治療ポケットマニュアル:ボツリヌス療法・ITB療法・リハビリテーション』(医歯薬出版):痙縮の評価から、ボツリヌス療法、髄腔内バクロフェン投与(ITB)療法、リハビリテーションまでを、写真やイラストで新書判にまとめた本です。痙縮による障害の原因となっている筋を見極める章もあります(2018年刊行)。
- 松吉医科器械 角度計(東大式)200mm:Tardieu ScaleのR1・R2など、関節の角度を測るための角度計です。日本製の真鍮製で、長さは200mmです(一般医療機器)。
参考文献
- Ashworth B. Preliminary trial of carisoprodol in multiple sclerosis. Practitioner. 1964;192:540-542.
- Bohannon RW, Smith MB. Interrater reliability of a modified Ashworth scale of muscle spasticity. Phys Ther. 1987;67(2):206-207. doi:10.1093/ptj/67.2.206
- Meseguer-Henarejos AB, Sánchez-Meca J, López-Pina JA, Carles-Hernández R. Inter- and intra-rater reliability of the Modified Ashworth Scale: a systematic review and meta-analysis. Eur J Phys Rehabil Med. 2018;54(4):576-590. doi:10.23736/S1973-9087.17.04796-7
- Shirley Ryan AbilityLab. Modified Ashworth Scale instructions. https://www.sralab.org/sites/default/files/2017-06/Modified%20Ashworth%20Scale%20Instructions.pdf(2026年10月16日閲覧)
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- Patrick E, Ada L. The Tardieu Scale differentiates contracture from spasticity whereas the Ashworth Scale is confounded by it. Clin Rehabil. 2006;20(2):173-182. doi:10.1191/0269215506cr922oa
- Gregson JM, Leathley M, Moore AP, et al. Reliability of the Tone Assessment Scale and the modified Ashworth scale as clinical tools for assessing poststroke spasticity. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80(9):1013-1016. doi:10.1016/s0003-9993(99)90053-9
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