
Trail Making Test (トレイルメイキングテスト,TMT)は,注意機能や遂行機能を検査するための机上評価指標です。以下にその目的,方法および特性(信頼性や妥当性など)について説明します。
評価の目的と対象
TMTは,脳卒中や脳損傷の患者さんに対して,注意の持続と選択,視覚的な探索,視覚的運動協調性などを調べる目的で行われます。この検査は,複合的な精神機能評価の要素をあわせ持っていて,前頭葉障害による遂行機能の低下に敏感に反応します。
評価の方法
評価の手順
TMTは以下のパートAとパートBの2つの課題に分かれています。
(1) パートA
患者さんは,レターサイズの用紙上にランダムに散りばめられた1から25までの数字を1から順に可能な限り速く鉛筆で結んでいきます。
(2) パートB
患者さんは,レターサイズの用紙上にランダムに散りばめられた1から13までの数字と「あ」から「し」までの50音を,「1→あ→2→い…」というように交互に可能な限り速く鉛筆で結んでいきます。
(3) パートA,Bの評価用紙(広田ら,2008)

対象の患者さんが鉛筆を持ったり,鉛筆で線を引いたりする運動能力を持っていない場合は適応外となります。また,言語能力が低下している場合や文化教育レベルが低い場合はテストの結果に大きな影響を与えるため注意が必要です。
評価項目とその解釈
TMTのパートA,パートBいずれの課題も課題開始から終了までにかかった時間を秒単位で計測します。また,課題中に線の結び間違いがあった場合はその数を記録します。パートBに関しては最大5分の制限時間が設けられており,時間内に達成できなかった場合は評価不能となります。
評価結果の解釈については健常者の標準的な時間と比較することで行われます。広田ら(老年医学,2008)は日本で一般高齢者を対象にTMTの平均値を報告しています(以下に表を引用します)。
評価結果の解釈については健常者の標準的な時間と比較することで行われます。広田ら(老年医学,2008)は日本で一般高齢者を対象にTMTの平均値を報告しています(以下に表を引用します)。

評価にかかる時間
5〜10分程度かかります。
評価の特性
床・天井効果
脳卒中患者では特にパートAで有意な天井効果があることが分かっています(Mazer et al., 1989)。
信頼性
(1) 再試験信頼性(いつ評価しても同じ結果が得られるかどうか)
パートA,Bいずれの課題でもびまん性脳血管疾患患者で確認されています (Matarazzo et al., 1974)。
(2) 検者間信頼性(誰が評価しても同じ結果が得られるかどうか)
渉猟した限り確認されていません。
(3) 検者内信頼性(同じ人が数回評価しても同じ結果が得られるかどうか)
渉猟した限り確認されていません。
(4) 内的整合性(評価したいことが評価できているかどうか)
渉猟した限り確認されていません。
妥当性
(1) 基準関連妥当性(他の似たような評価指標と関連するかどうか)
予測妥当性としていくつかの研究が自動車運転の予測因子として有効であると報告しています (Mazer et al., 1998; Mazer et al., 2003; Marshall et al., 2007) 。
(2) 構成概念妥当性(評価内因子を合わせて評価したいものを評価できているか)
渉猟した限り確認されていません。
(3) 内容的妥当性(項目に評価したい内容を含んでいるか)
渉猟した限り確認されていません。
(4) 表面的妥当性(その道の専門家からみて妥当かどうか)
確認されています (O'Donnell et al., 1994).
まとめ
Trail Making Test (トレイルメイキングテスト,TMT)は,脳卒中や脳損傷患者さんに対して行われる机上検査です。この検査で注意障害,視覚的遂行機能を評価して,主に自動車運転の可否や,より詳細な注意機能評価をする前のスクリーニングを目的に行われています。残念ながら信頼性や妥当性の検討は充分ではありません。また,高次脳機能の評価指標ということもあり,実際にどのような能力を評価しているのかを見失なう可能性があります。そうならないためにも課題中の患者さんを注意深く観察して検査を実施する必要があります。
評価の特徴や方法(評価指標一覧)
評価の特徴や方法(評価指標一覧)