
紙の上に散らばった25個の丸を、1から順に、できるだけ速く鉛筆で結ぶ。Trail Making Test(TMT)は、それだけの検査です。ところが、数字とひらがなを「1→あ→2→い」と交互に結ぶ課題に変えると、かかる時間は大きく延びます。東京都板橋区に住む70歳以上の約1,900人を調べた研究では、数字だけを結ぶ課題はほぼ全員が終えられ、平均は53秒でした。数字とかなを交互に結ぶ課題は、終えられた人でも平均137秒かかり、およそ6人に1人は制限時間の5分以内に終えられませんでした。
線を結ぶだけの検査で、何がわかるのでしょうか。手がかりは、2つの課題の「差」にあります。
Trail Making Test(TMT)の要点
- 何をするか:Part Aでは1〜25の数字を順に、Part Bでは数字とかな(日本の版は1〜13と「あ」〜「し」)を交互に、できるだけ速く線で結び、かかった時間を秒単位で測る
- 何がわかるか:Part Aは主に目で探す力と手を動かす速さ、Part Bはそれに加えて作業記憶と切り替えの力を反映する。BからAを引いた値(B−A)は、遂行機能をより純粋に映す
- 誤りの扱い:間違えたらその場で指摘し、正しいところから続けてもらう。訂正にかかった時間も所要時間に含める
- 基準値:年齢と教育年数で大きく変わる。日本では、20〜89歳の年代別に判定できるTrail Making Test日本版(TMT-J、2019年)がある
- 使われる場面:脳卒中や頭部外傷のあとの注意障害や遂行機能障害の評価、認知機能の低下のスクリーニング、自動車運転の再開を考えるときの評価など。ただし運転の可否はTMTだけでは決めない
陸軍の検査から、脳損傷の検査へ
TMTの原型は、1938年にパーティントンが考えた検査です。1944年、第二次世界大戦のさなかに、米国陸軍が兵士に行う個別検査のバッテリーに組み込まれました。1949年には、パーティントンとライターの共同の仕事として、あらためて発表されています。
この検査が脳の損傷に敏感なことに目をつけたのが、米国の神経心理学者ライタンです。1955年、ライタンはTMTの成績と脳の器質的な損傷との関係を報告しました。TMTはのちに、ライタンが整えたハルステッド・ライタン神経心理学検査バッテリーの一部となり、いまも注意と遂行機能をみる代表的な検査として、世界中で使われています。
検査の手順:時計は最後まで止めない
TMTは、Part AとPart Bの2つの課題からなります(図1)。Part Aでは、紙の上に散らばった1から25までの数字を、小さい順に線で結びます。Part Bでは、数字と文字を交互に、それぞれ小さい順に結びます。英語圏の原版は数字とアルファベット(1→A→2→B…)を使い、日本で使われている版は1〜13の数字と、「あ」から「し」までの12文字のひらがなを使います。どちらも丸は25個です。

図1 Part AとPart B(8個の丸で示した模式図。実際の検査では、どちらも25個の丸を結ぶ。日本版のPart Bは、1〜13の数字と「あ」〜「し」の12文字を交互に結ぶ。丸の配置は説明用で、実際の検査用紙とは違う)
本番の前に、8個ほどの丸を結ぶ練習をして、課題を理解できたことを確かめます。本番では、できるだけ速く結ぶように伝え、始めの合図から最後の丸に届くまでの時間を秒単位で測ります。間違えたら検者がその場で指摘し、正しいところから続けてもらいます。訂正しているあいだも時間は進むので、間違いが多いほど所要時間は延びます。
どこで打ち切るかは、使う手順によって違います。東京都板橋区に住む70歳以上の約1,900人を調べた研究では、Part Aを240秒、Part Bを300秒で打ち切っていました。日本高次脳機能障害学会が2019年に出したTMT-Jは、20〜89歳を対象に年代別の判定方法を定めて標準化した日本版で、検査用紙が2セットあります。続けて測り直すときに別のセットを使えるので、丸の配置を覚えてしまう影響を減らせます。
Part Bはなぜ遅いのか
Part BがPart Aより時間がかかるのは、数字とかなを行き来する「切り替え」が難しいからだ、と考えるのが自然です。ところが、話はそれほど単純ではありません。1995年、米国のGaudinoらは大学生40人に、標準のPart AとPart Bに加えて、Part Bの配置のまま数字だけを結ぶ課題など、4種類の課題を行ってもらいました。すると、Part Bの配置で数字だけを結ぶ課題でも、標準のPart Aより時間がかかりました。米国の原版のPart Bは、結ぶ線がPart Aより56 cm長く、目をまどわせる丸も多かったのです。Part Bが難しいのは、課題そのものが難しいからだけでなく、手を動かす量と目で探す負担が増えるからでもありました。
では、Part Bの時間から何を読み取ればよいのでしょうか。2009年、Sánchez-Cubilloらは健康な高齢者41人に、TMTとあわせて、作業記憶、抑制、切り替え、手を動かす速さなどをみる検査を行い、どの力がTMTの成績を説明するかを調べました。その結果、Part Aは主に目で見て探す力を、Part Bは主に作業記憶を、次いで切り替えの力を反映していました。そしてB−Aは、見る力や作業記憶の影響が小さく、遂行機能を比較的純粋に映す指標になっていました(図2)。

図2 Part Bに余分にかかる時間の中身(長さは模式的):切り替えの難しさのほかに、線の長さや紛らわしさの影響も混ざる
B−Aは、Part Aの時間を基準にする考え方です。手の動きが遅い人や、目で探すのが遅い人は、AもBも遅くなります。Bの時間だけを見ると、その遅さまで切り替えの問題に見えてしまいます。Aを引けば、AとBに共通する遅さを差し引いて、Bに特有の難しさを取り出せます。BをAで割った比(B/A)が使われるのも、同じ理由です。
年齢と教育年数で、基準は大きく変わる
TMTの時間は、年齢とともに延び、教育年数が短いほど延びます。カナダのTombaughが18〜89歳の911人から作った基準値も、年齢(11群)と教育年数(2段階)で分けて示されています。
日本の高齢者については、Part Bを制限時間内に終えられない人がおよそ6人に1人いた、東京都板橋区の研究が参考になります(表1)。2016〜2017年に、70歳以上の地域住民に看護師や心理職がTMTを行ったものです。所要時間は年齢、教育年数、認知機能の全般的な検査であるMMSEの日本版(MMSE-J)の得点と関連していました。MMSE-Jが24点以上の人では90.2%がPart Bを終えられたのに対し、23点以下の人では41.8%でした。
| Part A | Part B | |
|---|---|---|
| 課題を理解できた人 | 99.5% | 95.9% |
| 制限時間内に終えた人 | 99.1% (240秒以内) | 82.6% (300秒以内) |
| 所要時間の平均(標準偏差) | 52.7秒 (25.7秒) | 137.4秒 (53.4秒) |
| 所要時間の中央値 | 46秒 | 126.5秒 |
| 誤りのあった人 | 6.7% | 48.2% |
表1 東京都板橋区の70歳以上の地域住民のTMT(Suzukiら 2022。所要時間は時間内に終えた人の値)
この研究で、日本の結果をドイツの同じような調査と比べると、所要時間の差はおおむね数秒にとどまっていました。日本の版はアルファベットのかわりにひらがなを使いますが、文化の違いによる影響は小さいと著者らは考えています。臨床で一人ひとりの結果を判定するときは、年代別の判定方法が定められたTMT-Jのマニュアルに従います。
脳卒中のあと、運転を再開するとき
TMTがよく使われる場面の一つが、脳卒中のあとの自動車運転の評価です。2011年のDevosらのメタ分析は30件の研究を集め、実車での運転評価に合格した人と不合格だった人を比べました。机上でできる検査のうち合否を最もよく分けたのは、道路標識の理解をみる検査、コンパス検査、そしてTMTのPart Bでした。Part Bでは、90秒を境にすると、運転が危うい人を80%の精度で見分けられました。
日本では、日本高次脳機能障害学会の委員会が2022年に、加齢などで認知機能の低下が疑われる人の運転について、神経心理学的検査の使い方と判断をまとめています。最初の段階でTMT-JのPart AとBを行い、20〜60歳代では両方の総合判定が「正常」か「境界」、70歳以上では「正常」であれば、この段階の基準内とします。基準に届かなければ、別のセットで「できるだけ速く」と伝えて測り直し、それでも届かなければWAISの「符号」などの検査を加えて判断します。TMTは段階的な評価の入口の一つで、その結果だけで運転の可否を決めるものではありません。
結果を読むときに気をつけたいこと
- 手が使えるか:TMTは鉛筆で線を引く検査です。利き手に麻痺がある人は反対の手で行うことになり、時間が延びます。手の動きの遅さはAにもBにも表れるので、Bの時間だけでなくB−Aも見ます。
- 見えているか:視野が欠けていたり、半側空間無視があったりすると、丸を見落として時間が延びます。見落としが、切り替えとは別の理由で起きていないかを確かめます。
- 文字の順番を知っているか:Part Bは、数字とかなの順番を知っていることが前提です。
- 測り直しの影響:同じ用紙を続けて使うと、配置を覚えて速くなります。測り直すときは別のセットを使います。
- 時間以外も記録する:東京の研究では、Part Bを終えた高齢者の約半数に誤りがありました。誤りの数と、どこで迷ったかも記録しておくと、結果を読み解く手がかりになります。
脳卒中のあとのほかの評価は「脳卒中リハビリテーションに用いる評価指標」にまとめています。
まとめ
TMTは、数字を順に結ぶPart Aと、数字とかなを交互に結ぶPart Bの時間を測る検査です。Part Aは主に目で探す力と手を動かす速さを、Part Bはそれに加えて作業記憶と切り替えの力を反映し、その差(B−A)は遂行機能をより純粋に映します。ただしPart Bの遅さには、線の長さや紛らわしさの影響も混ざります。時間は年齢や教育年数で大きく変わるので、日本ではTMT-Jの年代別の判定を使い、運転の評価ではほかの検査と組み合わせて段階的に判断します。
さらに学びたい人へ:おすすめの本と道具
- 早川裕子・鈴木孝治 編『高次脳機能障害マエストロシリーズ リハビリテーション評価 第2版』(医歯薬出版):高次脳機能障害の評価を、「二つのことを同時にできない」「気が散って集中できない」といった困りごとごとに解説した本です。検査に頼りすぎない評価のポイントも扱っています(2026年刊行)。
- 原寛美 監修『高次脳機能障害ポケットマニュアル 第4版』(医歯薬出版):高次脳機能障害の病態、評価、リハビリテーションから社会福祉制度の活用までを、図表を使って新書判にまとめた本です(2023年刊行)。
- セイコー アルバピコ ストップウォッチ スタンダード ADMD008:1/100秒単位で、100時間まで計れるストップウォッチです。TMTの時間は秒単位で記録するので、精度は十分です。操作音を消すこともできます(日常生活用防水、約70g)。
参考文献
- Sedó MA. "Trazados orales": un test neurológico multicultural con bajos requerimientos académicos. Int J Psychol Res. 2008;1(1):20-26.
- Reitan RM. The relation of the trail making test to organic brain damage. J Consult Psychol. 1955;19(5):393-394. doi:10.1037/h0044509
- Gaudino EA, Geisler MW, Squires NK. Construct validity in the Trail Making Test: what makes Part B harder? J Clin Exp Neuropsychol. 1995;17(4):529-535. doi:10.1080/01688639508405143
- Sánchez-Cubillo I, Periáñez JA, Adrover-Roig D, et al. Construct validity of the Trail Making Test: role of task-switching, working memory, inhibition/interference control, and visuomotor abilities. J Int Neuropsychol Soc. 2009;15(3):438-450. doi:10.1017/S1355617709090626
- Tombaugh TN. Trail Making Test A and B: normative data stratified by age and education. Arch Clin Neuropsychol. 2004;19(2):203-214. doi:10.1016/S0887-6177(03)00039-8
- Suzuki H, Sakuma N, Kobayashi M, et al. Normative data of the Trail Making Test among urban community-dwelling older adults in Japan. Front Aging Neurosci. 2022;14:832158. doi:10.3389/fnagi.2022.832158
- 日本高次脳機能障害学会 Brain Function Test委員会. Trail Making Test日本版(TMT-J). 新興医学出版社; 2019. https://www.higherbrain.or.jp/publication/test/tmt-j/(2026年10月16日閲覧)
- Devos H, Akinwuntan AE, Nieuwboer A, et al. Screening for fitness to drive after stroke: a systematic review and meta-analysis. Neurology. 2011;76(8):747-756. doi:10.1212/WNL.0b013e31820d6300
- 日本高次脳機能障害学会 BFT委員会 運転に関する神経心理学的評価法検討小委員会. 加齢等により認知機能低下が疑われる場合の自動車運転に関する神経心理学的検査法の適応と判断(2022年10月1日版). https://www.higherbrain.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/10/9fcc42a5fe8bd48dd1a9a0af2e000b98-1.pdf(2026年10月16日閲覧)

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