金属支柱付き短下肢装具の特徴と適応


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短下肢装具(AFO)は、中枢神経系の疾患を持つ患者さん、特に脳卒中による片麻痺を抱える方々に広く使用されています。多様な種類が存在する短下肢装具は、素材や構造によってその特性や患者さんへの適用が異なります。本稿では、金属支柱付き短下肢装具(金属支柱付きAFO)にスポットを当て、そのメリット、構造、付属品、そして適応する患者さんについて詳しくご紹介します。

金属支柱付き短下肢装具とは

金属支柱付き短下肢装具(AFO)は、足底から下腿にかけての部分をサポートし、足関節の動きを安定させるための医療用装具です。この装具は、特に歩行時の安定性を必要とする方々にとって重要な役割を果たします。金属支柱付きのAFOは、その構造上、足と下腿にしっかりとフィットし、足関節の不安定性や歩行時の異常な動きを抑制することができます。

金属支柱は、装具の骨格となる部分であり、耐久性と剛性を提供します。これにより、装具は患者さんの足を適切な位置に保持し、足関節の過度な内外反や背屈、底屈を防ぎます。金属支柱の種類には、両側支柱、片側支柱、S型支柱などがあり、それぞれが特定の機能や症状に対応するために設計されています。

装具の他の部分には、カフバンドや足継手、あぶみなどが含まれ、これらは装具のフィット感や機能性を高めるために重要です。例えば、カフバンドは下腿の上部を固定し、足継手は足関節の動きを誘導するために使用されます。あぶみは、足の安定性を高めるために装具の底部に取り付けられます。

金属支柱付きAFOは、そのカスタマイズ性においても優れています。ストラップやパッドなどの付属品を追加することで、患者さんの足の特定の問題点に合わせて、より細かい調整が可能になります。これにより、リハビリテーションの専門家は、患者さん一人ひとりのニーズに合わせた装具を提供することができます。

このように、金属支柱付き短下肢装具は、その強度と調整可能性により、様々な下肢の問題を持つ患者さんにとって、歩行能力の向上と日常生活の質の向上をもたらす重要なツールです。それは、リハビリテーションの分野での進歩を象徴する装具の一つと言えるでしょう。

図 短下肢装具の構成

金属支柱付き短下肢装具の利点と問題点

金属支柱付き短下肢装具は、その構造と機能性から多くの利点を提供しますが、一方でいくつかの問題点も存在します。以下に、それぞれの要点を詳述します。

利点(メリット)

  1. 高い耐久性と強度:金属支柱は、装具に高い耐久性を与え、日常的な使用においても破損しにくいという特性を持っています。これは、特に活動的な患者さんや、より強固なサポートが必要な症状を持つ方にとって重要です。
  2. 関節運動の精密な制御:継手の多様性により、足関節の動きを細かく調整することが可能です。これにより、患者さんの具体的なニーズに合わせた動きの制御が実現されます。
  3. カスタマイズの容易さ:ストラップやパッドなどの加算要素を簡単に追加できるため、患者さんの足の形状や症状に合わせたカスタマイズが容易に行えます。
  4. 修正とメンテナンスの容易さ:仮合わせ後や完成後の修正、破損時の修理、部品の交換が容易に行えるため、長期にわたる使用においても患者さんの快適さを保つことができます。
  5. 通気性:下腿を覆う部分が少ないため、通気性が良く、長時間の使用においても快適です。

問題点(デメリット)

  1. 重量:金属製であるため、装具の重量が増加し、一部の患者さんにとっては負担となることがあります。
  2. 外観:装具らしい外観は、一部の患者さんにとっては抵抗があるかもしれません。特に社会生活において、装具が目立つことは避けたいと考える方にとっては、デザインの面での問題があります。
  3. 金属の劣化:金属は錆びる可能性があり、特に湿気の多い環境や汗をかきやすい方にとっては、時間とともに劣化するリスクがあります。
  4. 継手の摩耗:長期間の使用により、継手部分が摩耗し、可動範囲に変化が生じる可能性があります。これは、定期的なメンテナンスを必要とします。
  5. 使用時の雑音:金属が擦れることによる雑音は、静かな環境での使用時には特に気になることがあります。

金属支柱付き短下肢装具は、これらの利点と問題点を総合的に考慮し、患者さん一人ひとりの状態やライフスタイルに合わせて選択されるべきです。リハビリテーションの専門家は、これらの要因を慎重に評価し、最適な装具の提供を目指します。

金属支柱の構造と耐用年数

金属支柱付き短下肢装具の核心となるのは、その支柱の構造です。支柱は装具の基本的なサポートを提供し、患者さんの足関節の動きを適切に制御するために不可欠な部分です。以下に、主な金属支柱の種類とそれぞれの耐用年数について説明します。

図 金属支柱の構造

両側支柱:

これは最も一般的な支柱のタイプで、装具の両側に金属製の棒があります。このタイプは特に強いサポートが必要な場合に適しており、耐用年数は一般的に3〜5年程度ですが、使用頻度やメンテナンスによって前後します。

片側支柱:

片側にのみ支柱があるタイプで、より軽量でありながら適切なサポートを提供します。耐用年数は両側支柱と同様ですが、片側が開いているため、特定の症状に合わせた調整が可能です。

S型支柱:

S型の曲線を描く支柱は、特定の動きを制限しつつ、他の動きを許容するために設計されています。このタイプの耐用年数は、デザインによって異なりますが、一般的には2〜4年とされています。

銅線支柱:

銅線を使用した支柱は、より柔軟性があり、軽量です。しかし、耐久性は他のタイプに比べて低く、耐用年数は1〜3年程度となります。

板ばね:

板ばねタイプの支柱は、特に歩行時のエネルギーの戻りを利用するために設計されています。耐用年数は3〜5年で、定期的なメンテナンスが必要です。

これらの支柱の耐用年数は、患者さんの活動レベル、体重、装具への負荷、および環境条件に大きく左右されます。湿度の高い環境や海水などの腐食性のある環境では、金属支柱の耐用年数が短くなる可能性があります。また、患者さんが装具をどのように使用するか、どれだけ頻繁にメンテナンスを行うかによっても、耐用年数は変わってきます。

リハビリテーションの専門家は、これらの要素を考慮して、患者さんに最適な支柱のタイプを選択し、定期的な点検とメンテナンスを通じて装具の最適な状態を維持することが推奨されます。

足継手の種類と特徴

足継手は、短下肢装具において足関節の動きを誘導し、サポートするための重要な部分です。様々な種類の足継手があり、それぞれに独自の特徴と用途があります。

クレンザック足継手:

足関節の背屈を助けるために設計されており、歩行時の「かかとからの着地」を促進します。この継手は、特に背屈力が弱い患者さんに適しています。

逆クレンザック足継手:

足関節の底屈を助けるために用いられ、歩行時の「つま先からの離地」をスムーズにします。底屈力が弱い患者さんに推奨されます。

ダブルクレンザック足継手:

背屈と底屈の両方をサポートするための継手で、よりバランスの取れた歩行を可能にします。この継手は、両方の動きに制限がある患者さんに適しています。

ポステリアリーフ足継手:

足関節の過度な底屈を防ぎながら、背屈を許容する設計となっており、膝の安定性を高める効果があります。

アンテリアリーフ足継手:

足関節の過度な背屈を防ぎつつ、底屈を許容することで、歩行時の安定性を向上させます。

これらの足継手は、患者さんの足関節の動きや筋力、歩行パターンに応じて選択され、最適な歩行能力を得るために重要な役割を果たします。

内外反矯正ストラップ

内外反矯正ストラップは、足関節の内反または外反を矯正するために使用される装具の部品です。これらのストラップは、足関節の過度な動きを制限し、足を適切な位置に保持するために重要です。

図 内外反矯正ストラップ

Tストラップ:
Tストラップは、特に足関節の内反を矯正するのに有効です。装具の一方の側から他方の側へと足を引っ張ることで、足を中立の位置に保ちます。

Yストラップ:
Yストラップは、足関節の外反を矯正するために使用されます。これは、足を外側から内側に向けて引くことで、足を中立の位置に保つ役割を果たします。

これらのストラップは、患者さんの足の特定の問題に応じて調整され、装具が正しい位置にフィットするようにすることが重要です。ストラップの適切な調整は、快適さと機能性の両方を向上させ、効果的な歩行を促進します。

金属支柱付き短下肢装具の適応患者

一般的に金属支柱付きの短下肢装具は、足関節が下垂足になるような弛緩性麻痺や、反対に足関節が痙性によって尖足になってしまうような中等度から重度の麻痺を持つ患者さんに対して処方されます。また、内反や外反変形が強い患者さんにも、ストラップによる補助が可能で、固定性も高い金属支柱付き装具が適していると言われています。

金属支柱付き短下肢装具(AFO)は、特定の下肢の問題を持つ患者さんに適応するために設計されています。これらの装具は、患者さんの歩行能力を改善し、日常生活の質を向上させることを目的としています。以下に、この種の装具が適応する可能性のある患者さんの条件を挙げます。

弛緩性麻痺:

脳卒中や脊髄損傷などによる筋力の低下を経験している患者さんには、足関節を安定させ、歩行時の足の位置を支えるために金属支柱付きAFOが推奨されます。

重度痙性麻痺:

重度の筋緊張異常を持つ患者さん、特に脳性麻痺の方には、痙性をコントロールし、足関節の過度な動きを防ぐために、このタイプの装具が有効です。

内外反変形:

足関節の内反や外反などの変形を持つ患者さんには、適切な矯正とサポートを提供するために金属支柱付きAFOが適しています。

膝のコントロールが困難な患者さん:

膝関節の不安定性やコントロールの問題を抱える患者さんには、下肢全体のアライメントを改善し、膝の適切な位置を保つために、この装具が推奨されます。

急性期や回復期の患者さん:

症状が変化する可能性のある急性期や回復期にある患者さんには、調整可能で柔軟性のある金属支柱付きAFOが適応されることが多いです。これにより、治療の進行に合わせて装具を調整することができます。

歩行訓練を必要とする患者さん:

リハビリテーションの一環として歩行訓練を行う患者さんには、安定した歩行を提供し、より効果的な訓練を可能にするために、金属支柱付きAFOが用いられます。

これらの患者さんに対して、金属支柱付き短下肢装具は、足関節の安定性を高め、歩行パターンを改善し、独立した移動能力を促進するための重要なツールとなります。しかし、装具は患者さんの具体的なニーズに合わせて選択されるべきであり、専門家による評価と適切なフィッティングが不可欠です。

金属支柱付き短下肢装具の適合度チェック

金属支柱付き短下肢装具(AFO)の適合度(Box参照)は、装具が患者さんにとって最大の機能性と快適性を提供するために非常に重要です。適合度チェックは、以下のステップで慎重に行われるべきです。

初期評価:
患者さんの足、足首、下腿の形状、筋力、関節の可動域を評価します。また、患者さんの日常生活や活動レベルについても考慮します。

装具のフィッティング:
装具が届いたら、患者さんの足に装具を装着し、正しい位置にあるかどうかを確認します。装具が足にぴったりと合っているか、圧迫点がないかをチェックします。

歩行試験:
患者さんに装具を着用してもらい、歩行を行ってもらいます。この際、装具が適切なサポートを提供しているか、歩行パターンに異常がないかを観察します。

圧迫点の確認:
装具の使用後に、患者さんの足に圧迫痕や痛みがないかを確認します。特に、装具の縁やストラップが皮膚に圧迫を与えていないかをチェックします。

装具の調整:
必要に応じて、装具のストラップの締め具合、パッドの位置、足継手の角度などを調整します。これにより、装具のフィット感を向上させ、機能性を最大限に発揮させます。

長期的なモニタリング:
装具を使用し始めてから数週間後に再評価を行い、装具のフィット感や機能性に変化がないかを確認します。また、患者さんの状態の変化に応じて、装具の調整を定期的に行います。

患者さんのフィードバック:
患者さんからのフィードバックを重視し、装具の快適性や使用時の問題点について聞きます。患者さんの意見は、装具の適合度を高めるための貴重な情報源です。

これらのチェックを通じて、金属支柱付き短下肢装具が患者さんにとって最適なサポートを提供していることを確認します。適合度チェックは、患者さんが装具を安全に、かつ効果的に使用するための基本的なプロセスです。

適合度のチェックポイント

  1. 下腿半月の上縁の位置が腓骨頭から2〜3cm下にあるか
  2. 半月の幅は4cm程度か
  3. 足継手の位置は内果の下端と外果の下端を結ぶ線で,この線が下腿長軸と内側で約80度の角度であるか
  4. 支柱や継手の位置と皮膚との間隔が体重負荷した場合に5〜10mmであるか
  5. 装具着用時に異常歩行がみられないか
  6. 歩行時に足継手が抵抗なく作動しているか,また雑音はないか

まとめ

金属支柱付き短下肢装具は、短下肢装具の中でも強固で、カスタマイズしやすく、優秀な機能を持ち合わせています。一方で、その重さや、外観の悪さで実際に使用する患者さんからの評価はあまり高くありませんでした。最近だと、チタンやカーボン素材の装具も開発されており患者さんにとっての利便性も向上してきました。

弛緩性麻痺から痙性麻痺まで、麻痺を持たれている方の状態は多様です。患者さんの活動量によってもその状態は変化します。われわれリハビリテーション専門職は、患者さん個々の状態に合った装具を選択する必要があります。

それでは皆さまの学習がよりいっそう充実することを願って。

Charcot(@StudyCH)でした。All the best。

参考図書


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