回旋筋腱板の機能と役割:腱板断裂でも腕が上がるのはなぜか

回旋筋腱板の機能と役割:腱板断裂でも腕が上がるのはなぜか

上腕骨頭を包む回旋筋腱板のうち、主に棘上筋に5 cmを超える断裂がありながら、1人を除いて手術前から肩の動きと筋力が正常だった10人がいました。Burkhart(1991)は、この人たちの腱板を修復しないまま関節鏡で肩峰の形成などを行い、痛みがとれた後も動きと筋力が保たれたことを報告しています。修復されていない大きな断裂があっても、肩が正常に働くことはありうると、Burkhartは述べました。

右肩の痛みで受診した70代の患者さんの超音波検査で、痛みのない左肩にも腱板の断裂が見つかりました。本人は「左は何ともないし、腕も上がる」と言います。回旋筋腱板は肩関節を安定させる大切な筋だと習ったのに、切れていても腕が上がるのは、なぜでしょうか。

回旋筋腱板の要点

  • 4つの筋:棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋。いずれも肩甲骨から起こり、腱が上腕骨頭を囲むように大結節と小結節に付く
  • 神経:棘上筋と棘下筋は肩甲上神経、小円筋は腋窩神経、肩甲下筋は上・下肩甲下神経
  • 力の大きさ:生み出せるモーメントは肩甲下筋が最も大きく(腱板全体の約半分)、棘下筋、棘上筋、小円筋の順
  • 安定させるしくみ:骨頭を関節窩に押しつける(凹面への圧迫)ことと、前後・上下の引く力を釣り合わせる(force couple)こと
  • 棘上筋がなくても:腕を上げるトルクは三角筋と分担しており、棘上筋が働かなくても腕を上げられることがある
  • 切れても上がる理由:大きな断裂があっても肩がよく動くには、前(肩甲下筋)と後ろ(棘下筋・小円筋)の力の釣り合いが保たれていることが必要だと考えられている
  • 治療:55歳以上の、外傷によらない小さな棘上筋単独の断裂では、理学療法と手術で1年・2年・平均6年後の成績に差がなかったランダム化比較試験がある

4つの筋と「腱板」

回旋筋腱板(ローテーターカフ)は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋からなります(図1、表1)。棘上筋は肩甲棘の上の棘上窩から、棘下筋は肩甲棘の下の棘下窩から、小円筋は肩甲骨の外側縁から起こり、いずれも上腕骨の大結節に付きます。肩甲下筋だけは肩甲骨の肋骨側の面から起こり、前から回り込んで小結節に付きます。4つの腱は付着部の近くで互いに合わさり、上腕骨頭を上、後ろ、前から包みます。英語ではこの形を袖口(cuff)にたとえてrotator cuffと呼び、日本語の「腱板」は、腱が合わさって板のようになったものという意味です。

右の肩を後ろから見た図と前から見た図。後ろでは棘上筋が大結節の上部に、棘下筋が中部に、小円筋が下部に付く。前では肩甲下筋が小結節に付く。棘上筋と棘下筋は肩甲上神経、小円筋は腋窩神経、肩甲下筋は上・下肩甲下神経が支配する

図1 回旋筋腱板の4つの筋(模式図)。棘上筋、棘下筋、小円筋は大結節に、肩甲下筋は小結節に付く

筋付着神経
棘上筋棘上窩→大結節の上部肩甲上神経
棘下筋棘下窩→大結節の中部(上部の前外側にも及ぶ)肩甲上神経
小円筋肩甲骨の外側縁→大結節の下部腋窩神経
肩甲下筋肩甲下窩→小結節上・下肩甲下神経

表1 回旋筋腱板の付着と神経(Bachassonら 2015、Kallioら 2011、Choら 2023、Curtisら 2006、Mochizukiら 2008をもとに作成)

付着部についての従来の理解は、2008年に東京医科歯科大学のMochizukiらによって見直しを迫られました。64体113肩の遺体を調べたところ、棘上筋が大結節に付く範囲は、大結節の最も高い部分の前のほうに限られ、内外に6.9 mm、前後に12.6 mmの小さな三角形でした。21%では小結節の最上部にも付いていました。一方、棘下筋は前方へ回り込んで大結節の最上部の前外側にまで達し、内外に10.2 mm、前後に32.7 mmの広い台形の付着部をもっていました。著者らは、棘上筋の付着部は、それまで考えられていたよりずっと小さいと述べています(Mochizukiら 2008)。この結果からは、棘上筋の断裂と考えられてきたもののなかに、棘下筋の腱にかかる断裂が含まれていた可能性も考えられます。

4つの筋が出せる力も同じではありません。Keatingら(1993)は、遺体の5肩で、筋線維の長さと体積から各筋の生理学的断面積を求め、てこの長さを測って、生み出せるモーメントの割合を推定しました。最も大きかったのは肩甲下筋で、腱板全体の53%を占め、棘下筋が22%、棘上筋が14%、小円筋が10%でした(図2)。肩甲下筋1つで、ほかの3つを合わせたのと同じくらいの力を出せることになります。10の遺体標本で筋の構造を調べたWardら(2006)も、力を出す能力は肩甲下筋、棘下筋、棘上筋、小円筋の順に大きいと推定しています。

腱板の4つの筋が生み出せるモーメントの割合の棒グラフ。肩甲下筋53%、棘下筋22%、棘上筋14%、小円筋10%

図2 腱板の4つの筋が生み出せるモーメントの割合。最も大きいのは肩甲下筋(Keatingら 1993をもとに作成)

棘上筋が働かなくても、腕は上がるか

棘上筋は外転の筋として知られていますが、腕を上げる力をどれだけ担っているのでしょうか。Howellら(1986)は、10人の健康な人で、棘上筋と棘下筋を支配する肩甲上神経と、三角筋を支配する腋窩神経を、それぞれ神経ブロックで一時的に麻痺させ、腕を前や肩甲骨面に上げるときのトルクを測りました。その結果、これらの面で腕を上げるトルクは、棘上筋と三角筋がほぼ同じだけ分担していると結論しました。ただし、肩甲上神経のブロックでは棘下筋も止まる点に注意が必要です。同じように肩甲上神経をブロックしたKuhlmanら(1992)の研究では、ブロックの前後を詳しく測った4人で、棘上筋と棘下筋が担う割合は、外転の筋力の25〜50%、外旋の筋力の50〜75%でした。

裏返せば、棘上筋が働かなくても、ほかの筋が残りの力を出せるということです。遺体でモーメントアームを測ったOtisら(1994)は、棘下筋や肩甲下筋も肩甲骨面での挙上に働きうることを示し、棘上筋が機能しなくても、腕をよく上げられる可能性があると述べています。外転のトルクの分担を推定した研究をまとめたEscamillaら(2009)のレビューでは、最大で、三角筋の中部が35〜65%、肩甲下筋が30%、棘上筋が25%、棘下筋が10%を担いうると推定されています(研究ごとの推定値なので、合計は100%になりません)。このレビューは、腕を高く上げるほど三角筋が、低い角度では腱板が有利に働くとも述べています。

「安定させる」とは、どういうことか

では、腱板が肩関節を「安定させる」とは、具体的に何をしているのでしょうか。肩甲上腕関節では、大きな上腕骨頭が、小さく浅い関節窩に接しているだけです(くわしくは「肩甲上腕関節の支持機構」)。この関節を安定させるしくみとして、LippittとMatsen(1993)が示したのが、凹面への圧迫(concavity-compression)です。骨頭を凹んだ関節窩に押しつけると、骨頭は横へずれにくくなります。お椀の中のボールを上から押さえると、横から押しても転がり出にくいのと同じです。このしくみは、関節包や靱帯がゆるんでいる中間の角度で、とくに大切になると考えられています。

Lippittら(1993)は、遺体の10肩で、骨頭を50 Nまたは100 Nの力で関節窩に押しつけたまま、8つの方向に骨頭を押し出すのに必要な力を測りました。関節唇がある状態では、骨頭は押しつける力の最大60%の横向きの力に耐えました。関節唇を取り除くと、この効果は約20%小さくなりました(図3A)。この実験では押しつける力を外から加えましたが、腱板の筋はいずれも骨頭を関節窩に押しつける向きの力の成分をもつため、生体ではこの圧迫を生み出していると考えられています。

上は凹面への圧迫の模式図。上腕骨頭を関節窩に押しつけると、遺体の実験では、押しつける力の最大60%の横向きの力に耐えた。下は2組の力の釣り合いの模式図。前から見ると、三角筋が骨頭を上へ引き、下方の腱板が下内側へ引く。上から見ると、前の肩甲下筋と後ろの棘下筋・小円筋が釣り合う

図3 肩甲上腕関節を安定させる2つのしくみ(Lippittら 1993、Burkhart 1991をもとに作成した模式図)。Aは遺体で骨頭を押しつけた実験の結果。Bの矢印の向きと長さは模式的

もう一つは、力の釣り合いです。腕を上げるとき、三角筋は骨頭を関節窩に対して上へずらす向きにも働きます。とくに挙上の初めの低い角度では、これを棘下筋、小円筋、肩甲下筋の下の部分が、骨頭を下内側へ引くことで打ち消します(Escamillaら 2009)。上下の成分は打ち消し合い、腕を外転させる回転の向きはそろいます。上から見ると、前の肩甲下筋と後ろの棘下筋・小円筋が、骨頭を前後から引き合っています。運動学では、このように向きの違う力が組み合わさって関節を回転させたり保ったりする関係を、広い意味でforce couple(偶力)と呼びます(図3B)。

腱板が切れても、腕が上がる人がいる

力の釣り合いという考え方は、痛みのない左肩に断裂が見つかった70代の患者さんが「腕も上がる」と言う理由に、一つの答えを与えます。腱板を修復せず、関節鏡で肩峰の形成と腱板のデブリドマンだけを行った10人で動きと筋力が保たれたことから、Burkhart(1991)は、大きな断裂があっても肩が正常に働けるのは前額面と水平面の2組の力の釣り合いが保たれている場合だけであり、それは前の腱板、後ろの腱板、三角筋が機能しているかどうかで決まると考えました。

Burkhart(1992)はさらに、大きな断裂のある12肩の動きをX線透視で観察し、3つの型に分けました。断裂が上の腱板(棘上筋と棘下筋の一部)にとどまる型では、支点が安定していました(stable fulcrum)。上と後ろの腱板がほぼすべて切れた型では、支点が不安定になりました(unstable fulcrum)。肩甲下筋も大きく切れた型では、肩峰がひさしのように働いて骨頭を受け止め、そこを支点に動いていました(captured fulcrum)。Burkhartは、腱板の断裂をつり橋になぞらえるモデルを考えました(Burkhart 1992)。翌年には遺体の20肩で、腱板の付着部の近くに、腱の中を弓状に走る厚い線維の束があることを示し、これをrotator cable(ローテーターケーブル)と名づけました。ケーブルは、それに囲まれた薄い部分(rotator crescent)の平均2.59倍の厚さがありました。著者らは、この結果は、太いケーブルが薄い部分を負担から守る(stress-shielding)という考えを支持すると述べています(Burkhartら 1993)。つり橋のケーブルが残っていれば、橋の床板の一部が抜けても荷重を支えられる、というたとえです。

実際、症状のない腱板断裂は珍しくありません。1911年にボストンの外科医Codmanが報告したのは、棘上筋の腱が完全に切れた患者を手術で治した2例でしたが、それからおよそ100年後、Minagawaら(2013)は、ある村の住民664人の肩を超音波で調べ、22.1%に全層断裂を見つけました。断裂のある人の割合は、20〜40代では0%でしたが、50代で10.7%、60代で15.2%、70代で26.5%、80代で36.6%と、年齢とともに増えました(図4)。断裂のあった人のうち症状があったのは34.7%で、65.3%には症状がありませんでした。群馬大学のYamamotoら(2010)も、ある山村の住民683人の1,366肩を超音波で調べ、20.7%の肩に全層断裂を見つけています。症状のない人でも16.9%に断裂がありました。

年代別の腱板の全層断裂のある人の割合の棒グラフ。20〜40代0%、50代10.7%、60代15.2%、70代26.5%、80代36.6%

図4 年代別の、腱板の全層断裂のある人の割合(ある村の住民664人、Minagawaら 2013をもとに作成)

残った筋が、失われた働きを補うこともあります。棘下筋がやせた後上方の腱板断裂の患者35人を調べた研究では、小円筋が太くなっていた人では、外旋の筋力が健康な側の約60%保たれていたのに対し、小円筋が正常な人では約3分の1、小円筋も損なわれていた人では5〜7%にすぎませんでした(Kikukawaら 2016)。逆に、大きな腱板断裂があり、自分では腕を90°まで上げられない状態を偽性麻痺と呼びます。これが研究のあいだで最も共通する定義ですが、関節のこわばりや神経の麻痺を除くかどうかなどは、研究によって異なります(Tokishら 2017)。こわばりで動かない肩や、神経の麻痺とは区別して考える必要があります。修復できない大きな断裂があり、腕を前に上げられる角度が平均40°(30〜60°)だった平均80歳の17人では、三角筋の前部を鍛える運動で、その角度が平均160°まで改善しました(Levyら 2008)。一方、修復できない断裂のある高齢者30人に同じ運動を行った研究では、途中でやめず、肩の機能の点数(ASESスコア)が20点以上改善した人は40%でした(Yianら 2017)。

筋電図で、腱板の役割を見分けられるか

腱板の4つの筋は、それぞれどんな役割を分担しているのでしょうか。Tardoら(2013)は、14人の健康な人で、肩を90°外転した位置から外旋する運動を、腕を完全に支えた条件、部分的に支えた条件、支えない条件で行ってもらい、腱板を含む7つの筋の活動を、表面電極と、筋の中に刺入する電極を使って記録しました。腕を支える負担と筋の活動の関係を分析すると、棘下筋は主に回旋に、棘上筋、三角筋、僧帽筋上部、前鋸筋は主に腕の支持と関節の安定に働いていました。著者らは、棘下筋は外旋のトルクを生み出し、棘上筋は関節を安定させる役割を大きく担い、肩甲下筋は関節の安定にほとんど関わっていないと解釈しています。

ただし、筋電図が示すのは筋が活動しているかどうかで、骨頭がどの向きに、どれだけの力で引かれているかではありません。腱板の筋が関節の安定にどう分担して働いているかを確かめるには、骨頭の位置の変化などを合わせて調べる必要があります。

断裂は進むのか、どう治療するのか

症状のない断裂が、いずれ症状を起こすこともあります。片側に症状のある断裂、反対側に症状のない断裂がある45人を追跡した研究では、平均2.8年のあいだに、症状のなかった側の51%で症状が出ました。超音波で再検査できた23人のうち9人で断裂が広がっており、断裂が小さくなった人はいませんでした(Yamaguchiら 2001)。症状のない断裂のある195人を追った研究では、痛みが出た44人のうち、全層断裂の18%で断裂が5 mmを超えて広がり、部分断裂の40%が全層断裂になっていました。大きい断裂ほど、短い期間で痛みが出やすいとされています(Mallら 2010)。

治療では、理学療法がまず検討されます。フィンランドで、外傷によらない棘上筋の断裂がある55歳以上の患者を、理学療法だけ、肩峰の形成術と理学療法、腱板の修復術と肩峰の形成術と理学療法の3群に分けたランダム化比較試験では、1年後の肩の機能の点数(Constantスコア)に差がありませんでした(Kukkonenら 2014)。2年後にも差はありませんでしたが、断裂の大きさは修復した群のほうが小さくなっていました(Kukkonenら 2015)。平均6.2年の追跡でも3群の差はなく、手術は変形性肩関節症や腱板断裂性関節症の進行を防がなかったと報告されています(Kukkonenら 2021)。アメリカの多施設の研究では、外傷によらない全層断裂の患者が理学療法を受け、2年後に確認できた319人のうち、手術を選んだのは26%でした。手術を選んだ人の多くは12週間以内に決めており、著者らは、手術を選ばなかったことを成功とみなせば、理学療法はおよそ75%の患者で成功すると述べています。そのうえで、痛みよりも筋力の低下や機能の喪失のほうが、手術の目安としてふさわしいかもしれないとしています(Kuhnら 2013)。

治療の群1年後2年後6年後
理学療法だけ17.018.418.5
肩峰の形成術+理学療法17.520.517.9
修復術+形成術+理学療法19.822.620.0

表2 Constantスコア(100点満点)の治療前からの改善(Kukkonenら 2014、2015、2021をもとに作成)。6年後は平均6.2年の追跡。どの時点でも3群の差は統計的に有意ではなかった

まとめ

回旋筋腱板は、棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋の4つの筋からなり、その腱が上腕骨頭を包むように付きます。力を出す能力は前にある肩甲下筋が最も大きく、棘上筋の付着部は思われていたより小さいことが分かっています。腱板は、骨頭を関節窩に押しつけ、前後・上下の引く力を釣り合わせることで、浅い関節を安定させています。棘上筋が働かなくても、三角筋がトルクを分担します。そして、大きな断裂があっても腕がよく上がるには、前と後ろの腱板の釣り合いが保たれていることが必要だと考えられています。腱板の断裂は高齢者では珍しくなく、その多くは症状がありません。断裂があることと、肩が使えないことは同じではないのです。

ほかの筋の働きは「僧帽筋の機能と役割」や「運動学(関連記事一覧)」で紹介しています。

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