感度と特異度


 この記事では,評価や診断方法を使用(開発)するにあたって必ず知っておく必要がある知識,感度 sensitivity特異度 specificityについて説明したいと思います。

その検査が陽性か陰性かを考える

 例えば肩関節の挙上制限がある人に対して,SLAP(損傷肩関節上方関節唇)損傷がその要因であるかどうか調べるために受動圧迫テスト passive compression test という検査を行うとします。その結果は以下の4パターンに分けられます。

a:挙上制限の要因がSLAP損傷であって,検査でも陽性と判断された人数
b:挙上制限の要因がSLAP損傷ではなくて,検査で陽性と判断された人数
c:挙上制限の要因がSLAP損傷であって,検査でも陰性と判断された人数
d:挙上制限の要因がSLAP損傷ではなくて,検査で陰性と判断された人数

 下の表はこの4パターンを2×2の表にしたものです。

検査
損傷あり
損傷なし
(合計)
陽性
a
b
a + b
陰性
c
d
c + d
(合計)
a + c
b + d



 実際に損傷がある人の合計がa + cとなり,損傷がない人の合計がb + dとなります。また,陽性と判断された人の合計はa + bとなり,陰性と判断された人の合計がb + dとなります。感度と特異度はa,b,c,dの人数と,それらを要因あり・なしで分けた合計と,陽性・陰性で分けた合計から求めていきます。

感度は「a / a + c」で求める

 感度は,a / a + c で求められ,SLAP 損傷のある人のうち受動圧迫テストの結果が陽性となった人の割合 (真陽性率) を意味します。感度が高いと,要因が SLAP 損傷なのに,誤って陰性 (SLAP 損傷ではない) とすることが少なくなります。

 つまり,感度が高い検査は,SLAP 損傷が要因の方をもれなく陽性にできるため,スクリーニング検査に最適ということになります。一方で,感度が高い検査は SLAP 損傷のない人も陽性にしてしまいます。

 しかしこれは,別な見方をすると感度の高い検査で陽性にならなかった人は,確実に陰性であると考えることができます。そのため,このようなテストは確実にその要因ではないと除外するために用いることもできるのです (医師は感度の高い検査を除外診断のために用います) 。

特異度は「d / b + d」で求める

 特異度は,d / b + d で求められ,SLAP 損傷がない人のうち受動圧迫テストの結果が陰性となった人の割合 (真陰性率) をいいます。特異度が高ければ,SLAP 損傷が要因ではない人を,陽性 (SLAP 損傷である) とすることが少なくなります。

 つまり,特異度が高い検査は,その要因があると確定するのに向いているといえます。ただし,特異度の高い検査であっても,実際にSLAP損傷がある人を陰性にしてしまう可能性は残されているので注意が必要です。

まとめ

 優れた検査方法は感度と特異度の両方が高いものです。しかし,実際は感度が高ければ特異度が低くなる,あるいはその逆になることが良くあります。そのため,その検査が感度と特異度のどちらが高いのかを知り,要因を除外する場合は感度の高い検査を行い,要因を確定する場合は特異度の高い検査を行うなどの工夫が必要です。ちなみに,今回例に上げた SLAP 損傷に対する受動圧迫テストは,感度と特異度の両方が高い検査方法だといわれています。

コメント

 われわれ医療専門職は,自分たちの評価手技について感度や特異度を理解した上で用いることが大切です。医療専門職は,患者さんの疾病を診断することができません。医療専門職に認められているのは,機能,形態あるいは ADL 能力等の評価です。

 しかし,実際のところ,これらの評価結果から患者さんの機能低下ひいては能力低下の要因を探索することがあります。医師のつけた診断名だけではその患者さんが持つ多様な機能障害 (あるいは能力障害) を説明することができないからです。そのため,リハビリテーション専門職もまた医師の診断と同じように,その要因を正確に突き止めるための評価方法を確立しなけらばなりません。