THA術後にどのような運動療法が効果的か?


今回紹介する文献
Which type of exercise therapy is effective after hip arthroplasty? A systematic review of randomized controlled trials
(M. Di Monaco, C. Castiglioni, EUR J PHYS REHABIL MED 2013; 49; 1-15)

 今回は,Total hip arthroplasty (以下,THA) 後の運動療法の効果について調査されたランダム化比較試験 (以下, RCT) をあつめたシステマティックレビューを紹介します。このレビューでは,THA後の運動療法としてどんなものが効果的で,またその適切な介入時期はいつかについて考察しています。

最終的に9RCT(11論文)を選出

 このレビューでは,Medline,PEDro,Cochrane Library,Cinahlの文献データベースから,2008年1月~2012年12月の期間内に発表された文献を,まず「“hip arthroplasty rehabilitation,”」というキーワードで検索を行い,その後 arthroplasty を“prosthesis”あるいは“replacement”に,rehabilitation を“exercise”に置き換えて再検索しています。このような検索によって見つかった文献をさらに,QOLや入院期間について評価しているか,英語文献であるか,明確な運動期間や種類を記載しているかなどの条件に基づいて選抜し,最終的に9つのRCT (11論文) を選出しています。

9RCTはそれぞれ時期や割付が異なる

 以下の表に,各RCTにおいて効果を比較した運動療法とその実施時期についてまとめました。

研究 時期 コントロール群 介入群
Liebs et.al. 術後早期 従来の運動療法のみ実施 エルゴメーターエクササイズの追加
Husby et.al. 伝統的理学療法のみ実施

股関節外転最大負荷トレーニング,レッグプレスを追加
Mikkelsen et.al. 12回の反復運動,自転車走行,歩行を実施 ラダーバンドの外的負荷,段差エクササイズの追加
Smith et.al. 正常歩行の再教育の実施 ベッド上エクササイズの追加
Giaquinto et.al. 水治療法でない(陸上での)理学療法の実施 水治療法(特別に泳ぐことなのない)の追加
Rahmann et.al. 陸上での理学療法を継続して実施 ①体力と機能を最大にする水中で行う理学療法
②一般的な水中運動
Liebs et.al.

陸上での理学療法と水中での理学療法を双方実施
①術後6日目から水中での理学療法を開始
②術後14日目から水中での理学療法を開始
Stockton et.al. モビライゼーション,運動,移乗練習の11回の理学療法を実施 bed上動作を中心とした理学療法の追加(12回の理学療法)
Heiberg et.al. 術後後期 術後教わった運動を継続して実施 術後3カ月から,神経筋機能のトレーニングを目的として,免荷エクササイズを含む歩行課題と活動(段差昇降や片脚立位など)を反復して行う(週2回実施)
*術後早期=術後8週間以内  *術後後期=術後8週間以降

9RCTについて考察

 著者らは今回の結果だけではTHA後にどのような運動療法をいつ実施することで効果的に身体機能向上やQOL向上を図れるのかを結論付けることはできないとしています。その理由の1つに,症例の選択方法の問題があげられています。9つのRCTでは,術後合併症や併存疾患を持たない患者さんを意図的に選択しています。患者さんが術後合併症(例えば神経損傷や脚長差、骨転位などのような),あるいは併存疾患(例えば神経障害,リウマチ関節炎,糖尿病など)を伴っている場合,運動療法を実施してもその有効性に影響を与える可能性があります。したがって,今回得られたエビデンスは術後合併症,併存疾患を持たない対象に限局されるものとなります。一方で,これらの研究では,患者選択の際に骨折の種類や手術方法を特別考慮していないため,骨折の種類や術式が異なる患者が混合しています。骨折の状況や手術方法もまた運動療法の効果に影響を与える要因となるため,これらの要因が運動療法にどの程度影響するかについて9つのRCTから判断できません。このような症例選択の問題に加えて,サンプルサイズの不十分さ,患者の平均年齢や治療時間,環境,設定負荷量などの不均衡,基準値の曖昧さなどの問題もあり,レビューの著者らは,各研究の根拠は弱いと結論しています。

 その一方で,レビューの著者らは9つのRCTの中でも比較的にTHA後の運動療法の有効性として信頼できる根拠を示したものは,Liebsらの研究で実施された「術後早期のエルゴメーターサイクリングと抵抗運動の併用」と Heibergらの研究で実施された術後後期の「免荷エクササイズ」を含む運動療法だと述べています。Liebsらの研究については,2年間という長いフォローアップ期間中に身体機能やQOLの面で良い結果を示していることや,サンプルサイズが大きいことが説得力のある根拠につながるとしています。また,この研究では症例に有害事象が生じておらず,3ヶ月のフォローアップにおける再入院の数はコントロール群と差がなかったそうです。しかし,膝関節全置換術を受けたことのある患者では受けなかった患者と同様の効果が得られなかったことへの説明が不十分であることや,目的の違いなどからエルゴメーターを使用した以前の研究とは比較できないことから,今回の研究結果の説明や過去の文献との比較の点で不十分な部分があるとも述べています。Heibergらの研究については,術後後期の歩行練習が身体技能の回復,特に歩行能力の向上に対して,統計学的な支持性(信頼性)や臨床的な効果も含めて説得力のある根拠を示したとしています。また,Heibergらの研究と術後後期の運動療法の有効性を示した過去の文献とを比較すると,Heibergらの研究を含めいずれの文献でも,運動療法(あるいは歩行練習)に免荷エクササイズを取り入れていました。この免荷エクササイズの効果について,免荷エクササイズのみを実施した群でも良い評価結果を出した文献があることから,レビューの著者らは免荷エクササイズの効果を一貫性があるものと支持しており,運動療法の重要な構成要素であったと推測しています。この免荷エクササイズは,術後安静のための免荷とは区別されます。術直後からの長い免荷期間はこれまでのいくつかのRCTの中で支持されない結果となっており,レビューの著者は,機能回復の妨げになるかも知れないとしています。

自転車エルゴメーターや免荷エクササイズが効果的?

 レビューの著者は,今回の9つのRCTの調査結果から,有効性に確かな根拠があるTHA術後の運動療法について結論付けることはできないとしています。しかし,その中でも「自転車エルゴメーターと抵抗運動の併用」と「術後後期の免荷エクササイズ」は,他の運動療法に比較して有効性が高いとしています。このレビューで調査された9つの各研究では,合併症や併存疾患をもった患者は選択しておらず,骨折の種類や術式の考慮もされていませんでした。また,運動の種類や実施時期以外の因子(例えば管理方法や患者個人の生活歴など)は今回のレビューの中で考察していません。そのため,それらの条件が運動療法の効果にどのように影響するかはわかりませんでした。今後の新しい研究では,対象者の選択において上記の因子も考慮するべきとしています。

コメント

 このレビューでは残念ながらTHA術後にどのような運動療法を行うと患者さんの身体機能やQOLが効果的に向上するのかについて,はっきりとした解答を得ることができませんでした。このように,臨床家であれば誰しもが抱えてるだろう疑問について答えがでない点が,リハビリテーション分野の問題点なのかもしれません。ただ,著者らは術後早期からのエルゴメーター実施や術後後期では免荷エクササイズを含む運動療法が機能・QOL向上に効果的である可能性を示唆しています。このような可能性を明確に推奨できるレベルにまで押し上げるためにも,さらなる質の高い研究が必要だと思われます。

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