Self-regulation(自己統制)介入で脳卒中患者の作業能力が向上


今回紹介する文献
Pilot randomized controlled trial of self-regulation in promoting function in acute poststroke patients.
(Liu KP et al., Arch Phys Med Rehabil. 2014 Jul;95(7):1262-7. )

 Self-regulation(自己統制)介入が急性期脳卒中患者の運動機能や能力を完全させる可能性を示したRCT研究を紹介します。脳卒中後の患者は身体および認知機能低下によって日常生活動作が難しくなります。前頭葉は脳卒中の影響を受けやすい領域であり,この領域の障害は実行機能障害を引きおこし,自己統制(Self-regulation, SR)能力を低下させます。そこで,このパイロット研究ではランダム化デザインを使用し,急性期脳卒中患者の1週間のSR介入が作業パフォーマンス,運動と認知機能を高める上で有効かを調査しました。

Self-regulationとは何か


 Banduraの社会認知理論によると,SRは自己のモニタリングと自己の行動変容に関連するとしています。著者らはSRが情報を識別し,問題を解決し,問題を予想し,解決策を見つけて,内的動機付けを与えて,作業パフォーマンスと経験を積極的に反映する能力と定義しています。

SR群と機能的リハビリ群にランダム割付

 中大脳動脈系の片側性脳卒中患者を対象(57名)として,脳幹や小脳病変,医学的併存疾患,認知問題,コミュニケーションの問題があった場合,対象から除外(11名,計46名)されました。対象は単純ランダム化により,SR群(24名)と機能的リハビリテーション群(22名,内2名は脱落)に分けられました。ランダム化は研究に未関与の担当者が行われました。


SR群と機能的リハビリ群への介入方法

 SR,コントールいずれの介入もそれぞれの介入方法について訓練された作業療法士によって一時間のセッションを5回行われました。

SR群へはSRプログラムを実施

 SR介入群では,患者は衣類をハンガーにかける,洗濯物をたたむ,お茶を準備する,皿を洗う,金融取引を行うの5つの日常生活作業(運動と認知の回復段階として適切)を学びました。患者にはビデオ再生を使用してパフォーマンスについて反省させました。セラピストは患者にパフォーマンスの困難さを理解させ,作業パフォーマンスの改善のための戦略を確認させ,その戦略で課題を行わせ,パフォーマンスの成功を考えさせることで患者を誘導しました。


機能的リハビリ群へは従来の作業療法を実施

 コントール介入は,従来の作業療法(セラピストが患者のパフォーマンスの限界を考慮し,適応する課題戦略をデザインして,そして患者がそれ練習する)構成されていました。


メインアウトカムは作業パフォーマンスの向上

 メインアウトカム指標は各作業パフォーマンスの向上とし,著者らが以前の研究で使用した評価尺度を用いたようです(全介助〜自立までの7段階評価,検者間信頼性は確認済み)。他の指標としては,FIM,Fugl-Meyer Assessment (FMA),Color Trails Test (CTT)を用いられました。全てのアウトカム評価は介入前後にどちらの群に割り当てられたか知らない(盲検化された)作業療法士によって行われました。


 各グループ内のパフォーマンス変化をウィルコクソンの符号付き順位検定を用いました。また,それら評価項目の2群間の差の検定にはマン・ホイットニーU検定を用いました。いずれも棄却域はp < 0.01としました。


SR群では作業パフォーマンスが改善

 2群間の特性に有意差は認められなませんでした(Table 1)。SR介入によって介入後の5つの作業のスコアは有意に増加しました(Fig. 2)。また,FIM (運動下位項目と認知下位項目それぞれで),CTT1,FMAのスコアでも同様の傾向でした(Table2)。一方でコントロール介入の患者はFIM運動下位項目とFMAの上肢運動機能のみ有意に改善しました。群間で比較すると,SR患者は,5つの内4つの作業とFIM運動下位項目でコントロール患者より成績が上回っていました。FIM認知下位項目,CTT,FMAでは有意な差はありませんでした。






この研究の限界

  • 本研究と異なる脳病変,認知,運動機能を有する患者に一般化することはできない。
  • サンプルサイズが小さいことや,フォローアップ評価ができていないことによって研究の解釈が制限される。
  • 対象が脳卒中急性期患者のため,自然回復の可能性を排除できない。
  • アウトカム指標について,患者の自己認識と自己規制の能力は学習の効果を判断するために評価する必要があった。
  • SR介入の期間が1週間であり,長期効果については不明。
  • SR介入のメタ認知入力を強化するために,goal management trainingからメタ認知を高めるためのコンポーネントをSR介入に組み込むことが理想的であった。


コメント

 患者さん自身に動作をふりかえってもらいながら動作を練習する過程は,学習理論にも通じるものがあります。この研究はサンプルサイズも小さく,研究限界も多いですが,私にはこの介入方法が効果的である確信があります。更なる研究成果の発表が待ち遠しく思います。

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