等尺性筋収縮による筋力増強トレーニング


 等尺性筋収縮(等尺性収縮,等尺性運動)は筋の収縮様式の一つで,関節運動を伴わない筋収縮です。関節固定時や関節炎で関節を動かすことを控えたい場合に,この収縮様式で筋力増強トレーニングを行います。ここでは,等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングの詳細を説明します。

どんな人に適用があるか

 等尺性筋収縮は関節運動を伴いません。そのため,ギブスやシーネで関節が固定されている人や,関節炎などで関節運動によって痛みを生じてしまう人に対して等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングを選択します。こういう人たちは,関節を動かさないことによって廃用性の筋力低下や筋萎縮を起こしやすくなります。したがって,等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングは,動作改善のための筋力増強というよりは,廃用性の機能低下を起こさないことを目的に行います。

適切な負荷量(抵抗量)

 等尺性筋収縮を最大筋力で行う場合は2〜3秒ほど収縮を持続させる必要があると言われています。しかし,対象となる患者さんは関節や周辺組織に痛みがあることが多いため,最大筋力を出させることは困難です。現実的に最大筋力の40〜50%の負荷が適切だと思います。この負荷量であれば15〜20秒ほど収縮を持続させる必要があると言われています。下に負荷の強さと収縮持続時間の表を示します(Hettinger, 1952より改変)。

負荷量:
最大筋力に対する割合(%)
収縮持続時間(秒)
最低限度
適正限度
40〜50
15〜20
45〜60
60〜70
6〜10
18〜30
80〜90
4〜6
12〜18
100
2〜3
6〜10

長所と短所

 筋力増強トレーニングでは筋の収縮様式によって長所と短所があります。等尺性筋収縮の長所と短所には以下のようなものがあります。

長所

 等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングの最大の長所は,関節運動を行えない患者さんに対しても筋力増強を行えることです。また,トレーニングに特別な道具を必要とせずに,短時間で筋力増強を図ることができる点も長所の一つです。

短所

 運動の強度を規定しにくいことが短所となります。上の例でいえば,最大筋力で2〜3秒間の持続収縮は分かりやすいですが,最大筋力40〜50%の筋収縮を15〜20秒となると途端に定量化が困難になります。臨床現場で最大筋力の〇〇%を定量的に図るためには,ハンドダイナモメータのような計測器を使う必要があります。現実的には患者さんの主観やセラピストの感覚に頼ることになると思います。

まとめ

 等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングは,負荷量の定量化が難しく,動作に直結した筋の収縮様式ではないため,一般的に用いられるものではありません。しかし,関節を動かすことが困難な患者さんにとっては,等尺性筋収縮による筋力増強トレーニングが唯一の選択肢となります。筋の収縮様式の種類や適用対象,その長所や短所を理解した上で,適切な筋力増強トレーニングを選択して下さい。

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