筋の収縮様式



 筋収縮には様々な種類があって,その特徴に合わせて分類されています。この筋収縮の種類を「筋の収縮様式」と呼びます。筋の収縮様式は,筋力増強を考える上で特に重要になります。特定の収縮様式で行なったトレーニングはその収縮様式の筋力しか増強させないと言われているからです(これを特異性の原理といいます)。ここでは筋の収縮様式の種類や特徴について説明します。

関節運動の有無による分類

静的収縮 static contraction

 静的収縮は関節運動を伴わない筋収縮です。静的収縮には等尺性収縮や同時性収縮が含まれます。例えば,手に鉄アレイを持って肘関節を一定の角度に保っている場合,上腕二頭筋の収縮様式は静的収縮です。

動的収縮 kinetic contraction

 動的収縮は関節運動を伴う筋収縮です。動的収縮には等張性収縮や等速性収縮が含まれます。例えば,手に鉄アレイを持って肘関節を完全伸展位から90°屈曲させてきた場合,上腕二頭筋の収縮様式は動的収縮です。

筋長の変化による分類

等尺性収縮 isometric contraction

 等尺性収縮は筋の長さを変化させない筋収縮です。当然,関節運動も生じないため静的収縮に分類されます。例えば,動かない壁や床を肘関節を一定の角度で押した場合は上腕三頭筋の収縮様式は等尺性収縮,あるいは鉄アレイを肘関節を一定の角度に保っている場合は上腕二頭筋の収縮様式は等尺性収縮です。ギブスやシーネ固定中など,関節運動を起こせない場合はこの筋収縮を行わせることがあります。

同時性収縮 co-contraction

 同時性収縮は筋の長さを変化させず,かつ主動作筋と拮抗筋が同時に活動する筋収縮です.これも関節運動を生じないため静的収縮に分類されます。同時性収縮は開放性運動連鎖 open kinetic chain(近位部を固定して遠位部に負荷を与える運動様式)より,閉鎖性運動連鎖 closed kinetic chain(遠位部を固定して近位部に負荷を与える運動様式)で起こりやすいと言われています。例えば,股関節,膝関節を軽度屈曲位にして一定の角度を保っている場合,膝関節伸展筋群と屈曲筋群の収縮様式は同時性収縮です。

等張性収縮 isotonic contraction

 等張性収縮は筋の張力を変化させない筋収縮です。関節運動を伴うので動的収縮に分類されます。ただし,人においては関節角度よって筋の張力は変化してしまうので,厳密な意味での等張性収縮は起こりません。一般的な筋力増強はこの筋収縮で行われます。等張性収縮は以下のように2つの収縮様式に細分類できます。

(1) 短縮性収縮 concentric contraction

 短縮性収縮は筋の長さが短縮する筋収縮です。過去にはconcentricの誤訳により求心性収縮と呼ばれることもありました。例えば,手に鉄アレイを持って肘関節を完全伸展位から90°屈曲させてきた場合,上腕二頭筋の収縮様式は短縮性収縮です。

(2) 伸張性収縮 eccentric contraction

 伸張性収縮は筋の長さが伸びる筋収縮です。過去にはeccentricの誤訳により遠心性収縮と呼ばれることもありました。例えば階段を降りる時の支持側の大腿四頭筋の収縮様式は伸張性収縮です。

関節運動の角速度による分類

等速性収縮 isokinetic contraction

 等速性収縮は関節運動が一定の速度で生じる筋収縮です。関節運動を伴うので動的収縮に分類されます。通常,関節運動を伴う筋収縮では加速度が発生するので,一定の運動速度を維持することは困難です。そのため等速性収縮を行うためには特殊な機器を使わなければなりません。機器によっては短縮性収縮だけではなく,伸張性収縮も可能です。過剰な負荷にならず,筋損傷を少なくして筋力増強を図れる利点があります。一方で,日常生活動作でこの収縮様式を行うことはないため,実践的な筋力増強方法ではありません。

まとめ

 筋の収縮様式には,大分類として静的収縮と動的収縮があり,細分類で筋長の変化による分類や関節角速度による分類があります。日常生活では様々な収縮様式を活用して動作を行なっています。また,筋力増強の特異性の原理によって,特定の収縮様式でのトレーニングは,その収縮様式のパフォーマンスしか向上させません。そのため,今担当している患者さんの動作でどのような筋の収縮様式が不十分なのかを見分け,それと同じ筋の収縮様式でアプローチすることが大切です。

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