われわれリハビリテーション専門職は,患者さんの動作を改善するためにいくつかの手段を用います。「筋力増強」もその一つです。ここでは,基本的な知識として筋力増強の3大原理について説明して,原理に基づいた筋力増強トレーニングについて考えてみます。
筋力増強の3大原理
過負荷の原理
筋力増強を図るなら,負荷は日常生活よりも大きくしなければなりません。例えば,普段歩いている速度で歩いても,調理に使うフライパンより軽い物を持っても,筋力増強は起こらないということです。筋力を増強させたいなら,普段よりも速い速度で歩いたり(あるいは走ったり),普段から頻繁に持つものより重いものを持ち上げたりする必要があります。
特異性の原理
筋力はトレーニングで使った筋や,使い方に応じて特異的に増強します。つまり,上肢の筋力増強トレーニングを行なったのに,下肢の筋力が増強することはありえないということです。また,等尺性筋収縮でトレーニングを行なって,等張性筋収縮の筋力増強が起こるのも考えにくいということです(等尺性,等張性筋収縮については後で説明します)。
可逆性の原理
筋力増強トレーニングによって筋力が増強しても,トレーニングを終えるとその効果は徐々になくなっていきます。どのくらいの期間でなくなるかは,トレーニングの期間や内容によって変わります。いずれにせよ,トレーニングの効果を維持するためにはトレーニングを続けなければなりません。
原理に基づく筋力増強の考え方
筋力増強は上記の原理に従います。つまり,筋力の増強を図ろうと思うのであれば,鍛える必要のある筋に対して(特異性の原理),その人の日常生活以上の負荷を与えて(過負荷の原理),かつある程度の頻度でトレーニングを続けさせなければなりません(可逆性の原理)。
例えば,ある入院患者さんが中殿筋の筋力低下を起こしているとします。われわれは歩行能力の向上を目的に中殿筋の筋力増強を考えます。その場合,中殿筋に対してトレーニングを行い,少なくとも歩行で使用している以上の負荷を与える必要があります。そして,その効果を維持するためにトレーニング継続させるだけではなく,様々なアプローチを考えます。
可逆性の原理に注意
入院患者さんにトレーニングした場合,可逆性の原理に注意して下さい。入院期間中は頻回にトレーニングしているため効果がなくなることはありませんが,退院してしまうとトレーニングを継続できないため効果の消失がはじまります。下にいくつか解決策を示します。
自主練習(ホームエクササイズ)
自主練習指導は解決策の一つです。もし,ご自宅でも継続してトレーニングを行えるのであれば,資料を作成の上で行なってもらいます。ただし,生活期ではご本人の性格や生活環境から自主練習を継続できないことが往々にしてあります。
外来,通所,訪問リハビリの継続
もし,自主練習を継続できない方であれば,外来,通所や訪問リハビリなど生活期でリハビリを継続してもらうことも可能です。リハビリが生活の一部になってしまうのは残念ですが,筋力が低下してまた歩行が困難になるよりは良いと思います。
日常生活の活動量を上げる
日常生活の活動量を上げ,歩行に必要な筋力を維持できるのが理想です。つまり,自宅内で短距離を歩くだけで退院させずに,外でガーデニングしたり,どこかに散歩したり,出かけたりできるように社会環境調整をして退院してもらうということです。
まとめ
筋力増強には3つの原理があって,筋力増強トレーニングはそれらの原理に基いて行なう必要があります。リハビリテーションでは筋力に働きかけるアプローチが基本になります。そのため,筋力増強の原理を考慮して,患者さんの生活にとって無駄なトレーニングにならないように退院計画に準じたトレーニングを行いましょう。
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