関節可動域制限の定義と原因


 関節可動域制限(ROM制限)は,リハビリ対象者の多くにみられる障害です。その発生頻度は高く,理学療法士,作業療法士,看護師などが日々その予防や改善に取り組んでいます。この記事では,関節可動域制限の定義や,関節可動域制限を引き起こす原因について説明します。

関節可動域制限の定義

 関節可動域制限を明確に定義している文献を見つけることはできませんでした。そのため,以下に関節可動域制限に対する一般的な理解,関節可動域制限と似たように用いられている拘縮,関節可動域制限に対する私見について述べます。

関節可動域制限の一般的な理解

 関節可動域にはそれぞれの関節で他動運動時(他者が動かした時の)の参考可動域が定められています(関節可動域表示ならびに測定法,日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会)。われわれリハビリ専門職は,一般的に他動的な関節可動域が,各関節の参考可動域に満たない時に関節可動域制限があると考えます。つまり,関節可動域制限とは何らかの原因で他動運動時の可動域が制限されている状態といえます。

拘縮:狭義の関節可動域制限

 関節可動域制限と同じような意味で用いられる用語に拘縮があります。拘縮は,皮膚や骨格筋,腱,靭帯,関節包などの関節周囲軟部組織の器質的変化に由来した関節可動域制限を意味します。拘縮には大きく先天性拘縮と後天性拘縮に分けられ,後者の分類としてHoffaの分類が有名です。この分類の概要について以下に表に示しました。

表1 Hoffaの分類とその概要

分類
概要
皮膚性拘縮 皮膚に起こる拘縮。熱傷や皮膚挫創による皮膚の瘢痕治癒後に生じやすい(熱傷ではⅡ度あるいはⅢ度の真皮深層熱傷で多い)。強皮症(膠原病)でも皮下組織の線維化が起こり皮膚性拘縮につながる。
結合組織性拘縮 靱帯,腱,腱膜など,主に結合組織によって構成される組織に起因するもの。Dupuytren拘縮(手掌腱膜が癒着,瘢痕化して起こる手指の屈曲拘縮)がこれに相当する。
筋性拘縮 骨格筋(筋線維)の短縮や萎縮が原因で起こる拘縮。Volkmann拘縮(ギプス固定などで関節が特定の肢位で長期間固定され,骨格筋が阻血して生じる拘縮)がこれに相当する。
神経性拘縮 神経疾患に由来する拘縮。反射性拘縮(強い疼痛により,反射的に筋スパズムが起こり,疼痛から逃れるため逃避肢位が長期間続く場合に起こる拘縮)や,痙性拘縮(痙性麻痺による筋緊張亢進により生じる拘縮),弛緩性麻痺性拘縮(末梢神経障害に伴う弛緩性麻痺で生じる拘縮)がこれに相当する。
関節性拘縮 関節構成体に属する滑膜や関節包,関節内靭帯などに由来する拘縮。

 Hoffaの分類は,結合組織性拘縮が他の項目と重複してしまう点に問題があります。筋性拘縮には筋膜の変化が伴いますし,関節性拘縮も,関節を構成する組織はほぼ全て結合組織です。拘縮は「軟部組織の器質的な変化が生じて起こる関節可動域制限」であるため,神経性拘縮の痙性拘縮でさえ,筋緊張亢進のみで関節可動域が制限されている間は,拘縮ではないと考えられるはずです。

関節可動域制限とは何か

 結局,関節可動域制限を定義するとすれば「どのような原因であっても,また,他動,自動運動に関わりなく,参考可動域に満たない関節可動域が生じた状態」とすれば良いでしょうか。リハビリテーション介入の多くが日常生活動作能力の改善を目的に行われていることを考えれば,他動運動だけで関節可動域制限を捉えるのは不十分です。患者さん自身で動かせる可動域にも配慮しなくてはなりません。ただし,関節可動域制限の原因を考え,整理することは治療アプローチを考える上で大切になると思います。

関節可動域制限の原因

 関節可動域制限を引き起こす原因については結合組織や筋線維など関節周囲軟部組織(下図参照)の変化,あるいは持続的筋緊張,痛みの影響など,いくつか考えられます。以下にそれぞれについて説明します。

図 滑膜関節の関節周囲軟部組織


結合組織の変化

 結合組織は,皮膚,軟骨,筋膜,腱,靭帯,骨,歯など,人体の様々な組織にみられます。特に関節可動域制限の要因となりうる関節周囲軟部組織のほとんどは結合組織によって構成されています。

 結合組織の線維成分にはコラーゲンやエラスチン(弾性繊維)などがあります。コラーゲン線維は,健や靭帯を構成しているものは元々伸び縮みしにくい(伸張性が乏しい)一方で,その他の関節周囲軟部組織では,伸張性に富み,良く伸び縮みします。

 このコラーゲン線維は不動(関節を動かさないこと)により器質的な変化を起こすといわれいます。そのため,不動により皮下組織,滑膜,筋膜などのコラーゲン線維の伸張性が低下することによって,関節可動域制限につながる可能性があります。

筋線維の変化

 筋線維は,関節周囲軟部組織の中で,ほぼ唯一結合組織で構成されていません。関節可動域制限を起こしうる筋線維の器質的な変化としては,筋節長の短縮,筋原線維の配列が乱れ,Z帯の断裂などが考えられています(沖田ら,理学療法,2003)。

持続的筋緊張

 中枢神経系疾患の痙性麻痺や,局所循環不全に起因する筋スパズムで生じる異常な筋緊張亢進状態によっても関節可動域制限は起こります。筋緊張亢進そのものが関節可動域を制限するとともに,この異常筋緊張によって筋が短縮位に保持されると上述した結合組織や筋線維の変化につながります。

痛みの影響

 痛みは主に自動運動時の関節可動域を制限する原因となります。特に痛みが長期に及ぶ慢性疼痛は,関節の不動を引き起こして,結果として上記の結合組織の器質的変化につながります。痛みそのものも原因としては重要ですが,その後の二次障害を引き起こしかねない点に注意が必要です。

まとめ

 関節可動域制限は機能障害であるだけでなく,能力低下にもつながり,生活の質を低下させます。関節可動域制限は,広義に参考可動域に満たない可動域が生じた状態と解釈して良いのだと思います。また,その原因には様々なことが考えられますが,どのような原因でも,関節の不動を引き起こし,最終的に結合組織の器質的変化につながってしまうことがあります。われわれリハビリ専門職は,目の前の対象の方が今どのような原因で関節可動域に制限を引き起こしているのかを注意深く評価する,考察する必要があるのだと思います。

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